艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

341 / 382
ニンジャ、ニンジャナンデ!?

 そんなこんなではあるものの、霧島のお願いを聞くことになった。
だが、そこにたどり着くまでにも先生の不幸は……?


その9「スタッフルームは危険が一杯?」

「………………」

 

「………………」

 

 不法侵入及び、盗撮疑惑の青葉を連行していった愛宕が消えてからも、俺と霧島は廊下で佇んでいた。

 

 まぁ、正確には妙な疲れを感じたために動けなかったんだけど。

 

 ――とはいえ、現在も未だ授業中。そんな中で愛宕が現れたのはどういうことなのかと気になってしまうが、それを本人に聞く気力も度胸も、俺は持ち合わせていない。しかし、この場で佇み教室へ戻らないというのもダメなので、重い口を開いて霧島に声をかけた。

 

「ま、まぁ……なんだ。

 色々とあったけれど、教室に戻ろうか……」

 

「え、ええ、そうですね……」

 

 非常に重苦しい空気をまといつつ、霧島はゆっくりと首を縦に振ったところで、約束していたことを思い出した。

 

「……あ、そういえば、霧島の話ってなんだったんだ?」

 

「そのことなんですが……」

 

 言って、霧島は目を伏せながら口を閉ざす。

 

 なんだろう……。深刻な悩みでもあるのだろうか。

 

「どうしたんだ?

 困ったことがあったのなら、俺が相談に乗るよ?」

 

「え、ええ……。

 そのつもり……だったんですけど……」

 

「言い難いことだったら時間や場所を変えても良いけど、それほど深刻な……悩みなのか?」

 

「そう……ですね。

 ただ、その悩みの元は私ではなく、比叡姉様ですので……」

 

「比叡が……?」

 

 頷く霧島は小さく息を吐き、口に溜まっていた唾をゴクリと飲み込むような仕種をする。注視してみれば、身体が小刻みに震えているようで、余裕なんてものは微塵も感じられなかった。

 

 ……ううむ。これはちょっと、マズイのかもしれない。

 

 トイレに行く際に指摘を受けた通り、霧島は元、佐世保鎮守府に所属する一端の艦娘だった。ある事情によって身体が子供化してしまったと聞いたけれど、心は元のままなのである。そんな霧島が自分のことではなく、姉の比叡に関して悩みを持ち、さらにここまで怯えるなんてことは、普通ではありえないといえるのではないだろうか。

 

「なるほど、分かった。

 それじゃあ……そうだな、今日の終礼が終わった後にでも相談に乗るけど、時間は大丈夫か?」

 

「はい。

 それでしたら、比叡姉様も大丈夫だと思われますので、よろしくお願いいたします」

 

「ああ」

 

 俺は頷きながら薄く笑みを浮かべ、安心させるために霧島の頭を優しく撫でる。

 

「……あっ」

 

 一瞬、目を大きく見開き驚いた霧島だったが、俺の意図を汲んだのか、ほんの少し口元を吊り上げて緊張していた表情を崩した。

 

「先生は……その、優し……過ぎます……」

 

「そりゃあ、俺も幼稚園の教員だからね」

 

「もぅ……、そうじゃありませんのに……」

 

「……ん、何か言った?」

 

「いいえ、なんでもありません!」

 

 プイッと顔を俺から背けた霧島だったけれど、頭を撫でるのを振り払おうとはしなかったので、そこまで怒っていない……ということだろう。

 

 でもなんで、急に態度が変わったのかなぁ……?

 

 

 

 

 

 それから霧島と一緒に教室に戻り、何食わぬ顔で授業を進めていた愛宕を見て冷や汗をかきつつ授業に復帰した。順調に授業は進み、それほどたいした問題も起きず、サポートの必要性に疑問を感じながらもできることをやり、本日の授業は全て終わり、子供たちの終礼とスタッフルームで教員の打ち合わせを済ませてから、ふと――あることに気づいた。

 

 そういえば時間は決めたけど、霧島にどこで待ち合わせるか、話してなかったよね。

 

 もしかすると幼稚園内部で待っているかもしれないと思った俺は、今日の戸締まりを確認する担当だった愛宕から請け負うことを伝えたところ、

 

「あら~、よろしいんですか~?」

 

「ええ。

 今日の授業でサポートらしいこともできませんでしたし、途中で少し抜けさせてもらいましたから……」

 

「別に気にしなくて良いですのに~」

 

「いやいや、せめてこれくらいのことはやっておかないと」

 

「そうですか~。

 今日はちょっと行きたいところがありましたので、お言葉に甘えさせていただきますね~」

 

「はい……って、何か用事でもあったんですか?」

 

「ちょっと野暮用がありまして~」

 

 ――と、そこまで言って口を閉ざす愛宕。

 

 いつも通りのニコニコ顔だが、これ以上は聞かないでくれといったような雰囲気を醸し出しているので、話を打ちきった方が良いと判断したのだが。

 

 も、もしかして、誰かと会う……なんてことはないよね?

 

 しかもその相手が男性で、俺が佐世保へ出張に行っている間に、いつの間にか『付き合っていました~』なんてことになったとしたら……。

 

 ………………。

 

 悲しすぎて、舞鶴湾に身を沈めたい所存です。

 

 青葉をイヤァァァ! する愛宕はマジで怖かったけれど、それでも俺の思いは変わらない。

 

 俺が居ない間に愛宕を奪うだなんて、盗人猛々しいとはこのことだ!

 

「許さねぇ……。

 絶対に許さねぇぞ……」

 

「はい?

 何が許さないんですか~?」

 

「え、あっ、いえ、な、なんでもないですよ?」

 

「はぁ……、そうですか~」

 

 疑問符を浮かばせるように頭を傾げた愛宕の仕種が可愛すぎる……と心の中で思いつつ、愛想笑いを浮かべて冷や汗を拭う。

 

「ナンダカサッキノ先生ッテ、怒ッテイタ風ニ見エタワネ」

 

「確かに、ちょっと眉間にシワが寄っていましたし……」

 

「もう少しで金髪に染まりそうだったわね」

 

「オラは怒ったぞー、って言いそうね」

 

「あはは、確かに」

 

 カラカラと笑うしおいに、両脇を締めてやや上を向くビスマルク。

 

 いやいや。いきなり怒りに目覚めて超人間みたいにはならないよ?

 

 それにそのネタ、ヲ級が以前にやった気がするし。

 

 ……でもその時って、港湾もしおいもビスマルクもいなかったよなぁ。

 

「『エロ』ヤカナ心ヲ持チナガラ、激シイ『エロ』ニヨッテ目覚メタ伝説ノ先生……」

 

「ぶっ!」

 

「ちょっと、それじゃあエロしかないじゃない。

 でもまぁ、あながち間違いでもなさそうね」

 

 吹き出したしおいは元より、肯定するビスマルク……ってちょっと待て。

 

 なんで港湾が伝説の先生なんて単語を知っているんだ!?

 

 いや、それ以前に、完全にからかっていますよねぇ!

 

「い、いくらなんでもひど過ぎやしませんかね……?」

 

「あら、そうかしら?」

 

「先生ノイメージハ、ソンナ感ジダケドネ」

 

「そうですねぇ~。

 先生って、結構目がエロいですし~」

 

「ちょっ、あ、愛宕先生までっ!?」

 

「私のここばっかり見てますからねぇ~」

 

 そう言って、両手をヘソの下辺りで組む某グラビアアイドルの決めポーズを取る愛宕。

 

 もちろんそれによって、大きな胸部装甲は最大限に誇張される。

 

「………………」

 

 やべぇ、鼻血が出そう。

 

「ほら~。

 間違ってないですよね~」

 

「ガン見、シテルワネ……」

 

「見て……ますね」

 

「……チッ」

 

 ジト目を浮かべる教員勢。

 

 完全に、アウェーな状況です。

 

「は、謀ったな、シ●ア!」

 

「あら~。

 いくら私でも、さすがに普通の3倍速度は出ませんよ~?」

 

 うん。服も青いですし。

 

「先生ハ坊ヤダカラネ……」

 

 グラスを傾けているようなポーズで言われても……って、それじゃあ俺死んじゃってない!?

 

「うぅ……、先生の馬鹿ぁ……」

 

 自分の胸元を押さえながら涙を流すしおいは……、まぁその……がんばれ。

 

「ハートブレイクショーーーット!」

 

「問答無用で心臓打ちをするんじゃねぇ!」

 

 ビスマルクから発せられた殺気を即座に察知した俺は、ギリギリで避けつつ間合いを取る。

 

 つーか、これって以前にも似たようなことをやりましたよね!

 

 数日に1回、お約束のパターンなんですかね!?

 

「2度アルコトハ3度アル」

 

「冷静に心を読みつつ突っ込まないでーーーっ!」

 

「さっさと殴られて、私のストレス発散に貢献しなさい!」

 

「問答無用にもほどがありまくりだぞ!?」

 

「大きいバルジなんて、もげればいいんです……」

 

「夢を砕くようなことを言わないでーーーっ!」

 

「ぱんぱかぱーん!」

 

「さらに強調しちゃってるーーーっ!?」

 

 女性しか居ない島に漂流した主人公の如く鼻血を吹き出してしまった俺は、その隙をついたビスマルクのコークスクリューによって壁に叩きつけられ、しばらく気を失うことになってしまったのであった。

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました、先生」

 

「あー、うん。

 待たせて……ごめんね」

 

 結局のところ、気絶してしまった俺が戸締まりのチェックをできるはずもなく、原因であるビスマルクを手伝わせて愛宕と一緒に済ませたそうだ。その後、2人がスタッフルームに戻ってきたところで気がついた俺は、霧島と比叡が教室で待っていることを聞き、急いでやってきたのであるが……、

 

「………………」

 

「………………」

 

 スタッフルームに引き続き、今度は霧島と比叡からジト目を向けられています。

 

 何なの今日は。完全なる厄日なのか?

 

 あ、でもこれっていつも通りかもだ。毎日が不幸だから仕方がないね……って、納得できる訳がない。

 

「その……、怒って……るかな?」

 

「いいえ。

 先生には明日の打ち合わせという大切なお仕事がありますし、その際にちょっとしたトラブルによって気絶してしまうことなんて良くあることですから、これっぽっちも怒ってなんかいません」

 

 冷静な口調で淡々と並べられたら、それはもう怒っていると同義なんだけど。

 

 つーか、その間ずっとジト目で睨まれ続けたら、いくらなんでも分かるというのに。

 

 ちなみに比叡は未だに無言だけど、霧島に任せたって感じでガン睨みモードを継続中。舞鶴幼稚園に編入してきたときのような視線は懐かしみがあるが、ぶっちゃけると胃に穴が開きそうな勢いなんで止めてくれると嬉しいなぁ……。

 

「ま、まぁ……なんだ。

 色々あって気絶したのは間違いないんだけれど……って、それを知っているってことは……」

 

「……ええ。

 ビスマルクに聞きました」

 

 ああ、そういうことね。

 

 霧島と比叡はここにくる前からビスマルクと佐世保で一緒だったってことで付き合いがあるだろうし、戸締まりのチェックをしていたときに会ったのならば話を聞いているだろう。

 

「あろうことか、『あの』ビスマルクを手籠めにしようとするなんて……」

 

「……はい?」

 

「噂では聞いていましたが、先生のことだから有り得ないと思っていました。

 しかし、当の本人から聞いてしまった以上、もうこれは疑いようもない事実ですね」

 

「いやいや、ちょっと待ってくれるかな」

 

 何がどう伝わってそうなったのか分からないけれど、いくらなんでも信憑性が薄すぎやしないだろうかと、小1時間くらい問い詰めたい。

 

「一体全体、ビスマルクとどんな話をしていたんだ?」

 

「それは……」

 

 霧島が口を開いたところで、比叡がズイッと手を伸ばしながら俺との間に割り込み、殺意を込めたような目で見上げてくる。

 

「スタッフルームで明日の打ち合わせを済ませた後、今日の戸締まりチェックを担当するビスマルクに先生が背後から襲い掛かったんでしょう!?」

 

「………………」

 

「色々と噂が絶えない先生ですが、ライバルが多いことから罠だと分かっていましたけれど、いくらなんでも今回の件は見逃すことができません!

 両者同意ならまだしも、まさか女性であるビスマルクに対して背後から『お前がママになるんだよ!』なんて台詞を吐きながら襲いかかるなんて、どう考えても変態のやることです!

 金剛お姉様から初めて先生を紹介されたときは言いくるめられてしまいましたけれど、今度はぜーーーったいに許しませんからっ!」

 

 一気に喋りまくった比叡が銃を模した手でビシッと俺を指差すと、霧島は両腕を組みながらウンウンと何度も頷く。

 

 どうやら完全に勘違いをしているらしいが、原因は間違いなくビスマルクだろうなぁ。

 

 俺を殴っただけじゃ飽きたらず、根も葉も無い話をでっちあげて比叡と霧島に聞かせるとは何たる所業。

 

 これじゃあ青葉と一緒じゃないか。

 

 1度、本格的に言い聞かせないといけないんだけれど、下手をすれば腕っ節で反抗してくるからなぁ……。

 

「ですから、今ここで先生をギャフンと言わせ、悔い改めていただきます!」

 

「不肖霧島も、涙を飲んでやらせていただきますね!」

 

 左側に立った比叡が右手を、右側に立った霧島が左手を前に構え、まるで双子が同時に襲い掛かってくるかのように重心を落とした。

 

「……ちなみに1つ質問を良いかな?」

 

「いまさら言い訳なんて、女々しいです!」

 

「言い訳というか、事実を伝えたいだけなんだけど」

 

「そうやって、他の子供たちを洗脳しようとするのはさすが……というところでしょうが、残念ながら幼稚園の頭脳と呼ばれた霧島には効きませんよ?」

 

 いや、それはどちらかといえば時雨だと思うんだけど、洗脳は言い過ぎじゃないかなぁ。

 

「相手の言い分も聞かずに問答無用で攻撃するってことは、それ相応の証拠があるってことだよね?」

 

「襲われたビスマルク本人から聞いたのが、何よりの証拠です!」

 

「その……ビスマルクがどうして無事で、襲ったはずの俺が気絶していたのかな?」

 

「それはビスマルクが反撃したからに決まっています!」

 

「じゃあその後、どうして俺は憲兵に突き出されなかったんだろう?」

 

「それは………………えっと、その……」

 

 俺の問いに答えられない比叡は、慌てながら霧島を見る。

 

「体裁を考えてのことではないでしょうか。

 幼稚園から犯罪者を出すと設立者である元帥の沽券に関わりますし、まずはお伺いを立ててから……と考えたのでしょう」

 

「そ、そうです!

 その通りです!」

 

 キラーンと眼鏡を光らせた霧島の言葉に、比叡は水を得た魚のように大声を上げた。

 

「続けて聞くけど、それじゃあどうして元帥に確認を取るまで俺を拘束していなかったのかな?」

 

「むむっ、それは……」

 

「その結果、俺は比叡と霧島の前にいる。

 もし俺がそのような悪人だったのならば、どちらかを人質にして脱出しようと考えるかもしれないよね?」

 

「……なっ!

 そ、そんなことを考えていたんですか!?」

 

「いや、ものの例えだよ。

 でも実際に、可能性としては十分に考えられるだろう?」

 

「た、確かに……」

 

 驚く比叡はさらに顔を険悪にし、霧島は少し身を引きながら考え込む。

 

「まぁ、あくまでそれはビスマルクの話が本当だったのならばだけど、ハッキリと言わしてもらうと全部嘘だから」

 

「そ、そんな戯言を信じると……」

 

「比叡はそうかもしれないけれど、霧島はどうかな?」

 

「……え?」

 

 驚いた比叡が横を向く。すでに構えを解いていた霧島は、顎に手を添えてブツブツと何かを呟いていた。

 

「確かにビスマルクの身体に異変や襲われたような形跡もありませんでした……。

 先生が言うように拘束していないのも腑に落ちませんし、直後に戸締まりのチェックをするのも考えてみれば違和感が丸出しですね……」

 

「き、霧島……?」

 

「そもそも良く考えてみれば、チキンで根性無しと定評がある先生がビスマルクを襲う度胸なんてあるはずもありません。

 それをすっかりと忘れ、ビスマルクの言葉に踊らされてしまうとは……」

 

 ………………。

 

 何気じゃないレベルで酷いよ霧島……。

 

 あまりの言葉に、両肩がもげそうなくらい肩を落としちゃったんですが。

 

「……なるほど、良く分かりました。

 どうやら私たちは、ビスマルクの嘘に騙されていたということみたいですね」

 

「わ、分かってくれて……嬉しいよ……」

 

 あれ、なんだか目から水が流れているんだけれど、気のせいにしておこう……。

 

 その方が、ちょっとは心が耐えられそうだから……ね。

 




次回予告

 なんとか誤解が解けたので本題へ。
比叡のこととはなんなのか。それは、ある意味予想できたことかもしれない。

 ただし、すんなりと解決できるかどうかはさておくが。

 艦娘幼稚園 第三部
 ~幼稚園が合併しました~ その10「比叡の悩み」

 乞うご期待!

 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。