艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 しおいのターン……ではなく、サポートは終わりました。

 ということで、次は愛宕班のサポートに入った先生だけど、しおいとは比べものにならないくらいキッチリとした授業に、やることはあるんでしょうか?


~愛宕班サポート編~
その7「うっかりな汚点」


 

 しおいのサポートを2日間終えた次の日。

 

 いつものように朝礼前のスタッフルームで教員同士の打ち合わせを済ませた俺に、愛宕が声をかけてきた。

 

「それじゃあ先生、今日はよろしくお願いいたしますね~」

 

 ニッコリ笑う愛宕。

 

 うむ、今日も眩しく目に映るぞ……。

 

「えっと、それで……俺は何をしたら良いんですか?」

 

「もちろんサポートをお願いいたします~」

 

「は、はい。

 分わかりました」

 

 そう言われても、愛宕にサポートが必要なのか……と思ってしまう。

 

 以前と比べて子供達の数は増えているけれど、俺たち教員の数も同じく増えているのだ。俺が幼稚園に所属する前は愛宕が1人で幼稚園を切り盛りしていたことを考えれば、サポートなんて必要ないんじゃないかと思うんだけど。

 

「いやいや、何を考えているんだ俺は。

 せっかく愛宕と一緒に居られるチャンスじゃないか……」

 

「……?

 先生、今何か言いましたか~?」

 

「い、いえ。

 何にも言ってないですよ」

 

「そうですか~」

 

 頭の上にクエスチョンマークを浮かばせているような顔をする愛宕が、「う~ん」と呟きながら俺を見る。

 

 ああ、もう……たまらないなぁ……。

 

 子供たちと違って、愛宕独特の可愛さが目の前にある。今が夜で2人きりなら襲い掛かってしまうかもしれないほどの威力に、膝が砕けてしまいそうだ。

 

 いやまぁ、そんな根性はないけれど。

 

 今日も相変わらずのチキンっぷりに、思わず涙がこぼれそうだぜ。

 

「まぁ、そこが先生の良いところでもありますけどね~」

 

「……え?」

 

「いえいえ、何にもないですよ~」

 

 そして再度ニッコリと笑う愛宕。

 

 もしかして、俺の心が見透かれちゃっているとか……?

 

「ほらほら、先生。

 早くしないと朝礼が始まってしまいますよ~」

 

「あ、はい。

 すみません!」

 

 やんわりと注意しながら歩く愛宕を追いかけて、朝礼を行う部屋へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 いつものように朝礼を終え、愛宕に頼まれた道具を倉庫に取りに行ってから教室に到着する。

 

 扉をノックしてから中に入ると子供たちは大人しく席についており、愛宕が本を持ちながら音読をしているところだった。

 

「先生、ありがとうございます~。

 その道具は後で使いますので、子供たちの後ろ側でサポートをお願いしますね~」

 

「了解です」

 

 言われた通り愛宕が立つ教壇の反対側に立った俺は、子供たちの背中を見る。前を向いて左から、暁、響、雷、電、北上、大井、比叡、霧島の順に座っており、騒ぎ立てる様子もなく静かに授業を受けていた。

 

「私たち艦娘が海に出るのは、海の安全を脅かす脅威を排除するだけではありません。

 輸送船を警護する遠征や、他の鎮守府にいる艦隊と演習をすることもありますね~」

 

「愛宕先生、質問を良いかな?」

 

「はい。

 なんでしょうか、響ちゃん~」

 

 コクリと頷く愛宕の返事を聞いて、響は席から立ち上がった。

 

「輸送船を警護するってことは、敵に襲われる可能性があるってことだよね。

 寮のお姉さんから聞いた話だと、遠征任務につくことが多いのは響たちと同じ駆逐艦が主らしいけど、どうしてなのかな?」

 

「確かに電たちのような駆逐艦だと、強い敵に出会った場合厳しいかもしれないのです……」

 

「それでも雷は頑張るわ」

 

「暁は駆逐艦だけど、一人前のレディとしてしっかりと遠征任務をこなすわよ」

 

 響の言葉に納得し、少し強張った顔を浮かべながら呟く電。いつもと同じ前向きな雷に、口癖のように一人前という暁が自慢げに胸を張る。

 

「酸素魚雷が撃てればどうでも良いんだけどさー。

 大井っちはどう思うー?」

 

「私は北上さんと一緒に出撃できれば、なんでもこいです!」

 

 問い掛けた北上に、フンス! と鼻息を荒くして拳を握る大井。この2人も相変わらずだが、残る比叡と霧島は無言で席に座ったままだった。

 

「みんなの気持ちはよーく分かるけど、それにはちゃんと理由があるんですよ~」

 

「理由……というと?」

 

 愛宕の言葉を聞いて、響は首をクイッと傾げる。

 

「そうですね~。

 霧島ちゃん、答えてくれますか~?」

 

「ふむ……、分かりました。

 霧島の頭脳、とくとご覧にいれましょう」

 

 ブリッジに指をかけて眼鏡の位置を直すと、キラーンとレンズが光る。眼鏡=賢いという方程式が、果たして霧島に当てはまるのか……、見せてもらおうとしよう。

 

「確かに響さんが危惧する通り、護衛任務中に敵艦と戦闘になることがあります。もちろんその際は護衛対象を守ることが必須になりますので、普段と戦闘とは一味違ったものになりますね」

 

「それだったら、やっぱり戦艦などの方が……」

 

「いいえ、必ずしもその戦いで勝たなければならないということはありません。

 必要なのは護衛対象を無事に目的地へ到着させることなんですから、敵艦を追い払うことさえできれば問題がないのです」

 

「ふむ……、なるほどね」

 

「もちろんそれ以外にも理由があります。

 私や比叡姉様のように戦艦が護衛につく場合、どうしても燃費的な面で駆逐艦などに劣ってしまいます。

 せっかく輸送任務を終えたというのに、トータルでマイナスになってしまったら元も子もありませんからね」

 

「うーん……。

 なんだか色々と難しいけど、要は頑張って任務を達成できれば良いってことよね?」

 

 雷の言葉に少し呆れたような表情を浮かべた霧島だが、すぐに笑みへと戻して口を開いた。

 

「もちろんその通りです。

 私たち艦娘は司令官から任務を命じられて始めて海に出るのですから、そのためには日々の訓練が大事になることをお忘れなきように……ですね」

 

 最後にもう一度ブリッジをクイッと上げてから、霧島はドヤ顔気味に席へ着いた。

 

「は~い。

 霧島ちゃん、ありがとうございました~。

 内容に問題もなくお手本通りだったので、みんなで拍手をしましょう~」

 

 パチパチパチパチ……。

 

 俺も子供たちと同じく拍手を霧島に送り、感心しながら何度も頷いていた。

 

 さすがは戦艦で頭脳派というだけのことはある……と思ったが、良く考えてみれば元は佐世保に所属していた艦娘だったのだから、これくらいのことは当たり前なんだろう。

 

 周りから一斉に拍手を受けることになった霧島は、ドヤ顔ながらも少しばかり頬が赤いように見える。

 

 なんだかんだといっても嬉しいのか、それとも若干気恥ずかしいのか。

 

 どちらにしても、俺が思うところといえば、

 

 

 

 すんごい、ちゃんと授業になっているんですよねー。

 

 

 

 ビスマルクの授業や、しおいの特訓前と比べると、天と地ほどの差があるのは、やっぱり愛宕の班なんだよなぁ……と感心してしまう。

 

 何より凄いと思うのは、愛宕が説明するだけでなく、子供たちに考えさせ、答えられる子に話をさせるという点だ。今回は経験がある霧島の言葉によって、よりリアリティのある内容が聞けたことは他の子供たちにとって非常に有意義になるだろう。

 

 うむむ、俺もこれくらいの域に達する授業をできるようになりたい。

 

 さすがは愛宕。そこに痺れる憧れる……だ。

 

 そしてさらにもう1つ。

 

 

 

 やっぱり俺のサポートって、いらなくね?

 

 

 

 ……ってことだった。

 

 実際、今のところ何かをやった記憶がない。

 

 愛宕の説明と霧島が答えるのを教室の後ろで聞いていただけで、言い方を悪くすればサボっているのと変わりがないのではなかろうか。

 

 そんな風に、思っている時期が俺にもありました。

 

 ええ、問題が起きるのは、いつだって突然なんですよね。

 

 

 

 

 

「………………ん?」

 

 霧島への拍手が終わり、愛宕が再び授業を進めていると、ふと俺の目にあるモノが映った。

 

「……ひそひそ」

 

「……ひそひそ」

 

 なにやら大井と北上が話し合っている気がする。そしてさらに、何かを手渡ししたような……?

 

「大井っち」

 

「はっ、危ない危ない……」

 

 そしてチラリと俺の方に視線を向けた北上が何かを制し、大井が一瞬だけ焦った顔を浮かべた。

 

 ふむ……。

 

 ひそひそ話にあの反応。そして、手渡しとくればアレしかない。おそらく大井か北上のどちらかが、誰かに手紙を回そうとしているのではないだろうか。

 

 小中学校、いや、もしかすると高校の授業でも見る風景であり、授業に差し支えがないのならば教師も見て見ぬ振りをする場合もある行動だが、いったいこれはどうするべきなんだろう。

 

 あまり細かいことを言うと小さい男だと見られてしまうかもしれないが、授業中にやって良いことだと問われればそうではない。あくまで授業中は勉強に集中する時間であり、手紙を回すのは休み時間にするべきだ。

 

 しかし、子供たちはまだ幼稚園児。頭ごなしに叱るというのも、それはそれで気が引けてしまう。

 

 ここはゆっくりと気づかれないように近づいて、やんわりと注意するのがベストではないだろうか……と思っていたところ、

 

「あらあら~。

 これはいったい、何でしょうか~?」

 

「……っ!」

 

 大井から北上と渡った手紙らしき小さな紙切れが、床の上に落ちていた。北上が浮かない表情をしているのでどうやら落としてしまったらしい。

 

 愛宕がメモを広い、北上と大井が咄嗟に目を逸らす。

 

 その反応で自分たちが犯人であると公言しているようなモノだが、愛宕は気にすることなくメモを開き、

 

「ぷっ、くすくす……」

 

 小さく吹き出し、笑い始めたのである。

 

「……うおっ!?」

 

 その瞬間、衝撃的な現象を見た俺は大いに驚いた。

 

 愛宕が口元に手を添え、これ以上大きな声を出さないように耐えている。ツボに入ってしまったのか相当に我慢しているらしく、肩が大きく揺れているのだ。

 

 そしてその振動は身体中に伝わり、ある1点をさらに揺らす。

 

 ――そう。愛宕の胸部装甲だ。

 

 もしこれを擬音で表すとするならば、間違いなくこういうだろう。

 

 

 

 ばるんばるん……と。

 

 

 

 あ、やべぇ……、鼻血が出てきちゃった!

 

 すぐティッシュを詰めないと、床にボタボタと流れ落ちてしまうじゃないか。

 

 俺はポケットに手を突っ込んでティッシュを取り出し、1枚を半分に切って小さく丸める。それを鼻血が出てきた左の穴に入れ、首の後ろをチョップでトントンと軽く叩いた。

 

「せ、先生……っ、そ、それは……」

 

「あ、いや、これはですね……」

 

 俺の行動に気づいた愛宕が、顔を真っ赤にしながら問いかける。

 

 やばい。さすがにこのタイミングで鼻血が出てきたことがバレてしまっては、心証はかなりよろしくない。

 

 先日スタッフルームで「見るくらいなら別に良い」と言われていたとしても、さすがに授業中ということを踏まえたら、子供たちにも悪影響を与えてしまうとみなされるだろう。

 

 せっかく愛宕の評価が良くなってきたかもしれないと思っていただけに、ここでマイナスのイメージは避けておきたいのだが……、

 

「ぷぷっ……、くっ、あははははは……っ!」

 

「え、えええっ!?」

 

 大爆笑をし出した愛宕はお腹を抱え、床に転げ回りそうな勢いで大きく身体を揺らしたのだ。

 

「あはははっ!

 せ、先生、そ、それっ、それは……卑怯過ぎます……っ!」

 

「え、え、えっ!?」

 

 いきなり愛宕が笑い始めたことで子供たちに不安が過ぎり、驚愕した表情をしながら見守っている。しかしそんな中、大井と北上は俺の顔を見るや否や、

 

「「ぶふぅーーーっ!」」

 

 思いっきり吹き出し、そして愛宕と同じように大爆笑と相成ったのだ。

 

「ちょっ、先生、それはいくらなんでもなさすぎだって!」

 

「ひ、卑怯、卑怯すぎですよ……っ、あははははっ!」

 

 椅子から転げ落ちそうになりながら笑う大井と北上の言葉に、子供たちも俺の方を見た。

 

「あれ?

 先生、鼻血が出ちゃったんですか……?」

 

「あ、あぁ。

 ちょっと……のぼせちゃったのかなぁ」

 

 電の問いかけに咄嗟にそう答えたが、本当のことは言えないよね。

 

 しかし、愛宕や大井、北上は大爆笑なのに、他の子供たちはそんなに笑っていないんだけど……。

 

 一体全体、何が切っ掛けで3人は笑っているのだろう?

 

「……ん?」

 

 ふと愛宕の足元を見ると、先ほどのメモが落ちている。愛宕はこのメモを見てから笑い出したし、これを書いたのは大井か北上のどちらかだ。

 

 おそらくこのメモが原因だろうと思った俺は、床から拾い上げてメモを開こうとする。

 

「あっ、そ、それは……」

 

 俺の動きに気づいた北上が笑いすぎによる涙目で訴えるが時すでに遅し。

 

 そうしてメモの中身を視界に入れた俺は、目を点にして固まってしまった。

 

「………………」

 

「先生、どうしたのかな……?」

 

「あ、いや、別に何でもないよ」

 

 響の声で我に返った俺は、メモを握り込んでから首を左右に振る。

 

「そう……?

 なんだか凄く、不安そうな顔をしているけれど……」

 

「い、いやいや。

 別に大丈夫だから、気にしなくて良いからね」

 

 言って、俺は右手の甲で鼻をゴシゴシと擦りながら答えたのだった。

 

 そんな姿を見ながら愛宕と大井、北上はさらに笑い、

 

 他の子供たちは全く訳が分からないという風に首を傾げる。

 

 俺の頬は……いや、耳の端まで真っ赤になっているのは鏡を見なくても分かってしまう。

 

 それは、あまりにも恥ずかしい現状に気づいたからだ。

 

 拾ったメモに書かれていた文字。

 

 

 

『先生の鼻なんだけど、右側の穴から毛が1本出ちゃってるよね? by北上』

 

 

 

 ここ数日で最大の汚点を指摘されてしまい、恥ずかしさとふがいなさでへこみまくることになるのは、仕方がないことだった。

 

 

 

 結局、俺のイメージはマイナス方向に行っちゃったってことですよね……。

 




次回予告

 愛宕班のサポートをするはずが、結果的に邪魔をしている状態に?
ひとまずトイレに行って身だしなみを整え終えたと思ったら、ある子供がやってきて……。

 さらに、厄介ごとを発見しちゃいました。

 艦娘幼稚園 第三部
 ~幼稚園が合併しました~ その8「連日の犯行」

 乞うご期待!

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