これで勝つる……と思っていたのに、結果はまぁ……ご存知の通り。
そして運動会が終わった後、さらなる悲劇が僕を襲う……?
安西提督の治療が終わった夕方頃。とある場所に明石を呼びつけた僕は、目の前に立っているモノを見て感嘆の声を上げていた。
「おお……、これが……」
「ご希望に沿えた性能を要しているはずですけど、テストはまだ完璧じゃないのでパーフェクトだとは言えませんけどねー」
そんな僕を見ながらニヤニヤと笑みを浮かべつつ、自慢げに明石が言う。
もしもの時にと思って依頼しておいた特殊兵装を佐世保から持ってきた明石は、僕の目の前で披露し説明してくれているのだ。
「強度は人間とは比べものにならないレベルですし、仮に象に踏まれたとしてもびくともしません。
まぁ、元々深海棲艦と戦うことができる兵装を目指して作られていたものを改造したんですから、それくらいは当たり前なんですけどねー」
「それでいて、端から見たら人間にしか見えない……というか、僕が分裂しちゃったのかと思えちゃうくらいの外見はマジで凄いよ……」
「その辺りは兵器として必要が無い点なんですけど、ご希望もありましたしちょっとばかり調子に乗りましたねー」
てへっ……と舌を出してお茶目っぷりを見せる明石がなんとも可愛く見える。
後でちょっとばかり口説いてみるのも良いかもしれない。
「遠隔操作はもちろんできますが、まだ試作レベルということもあって距離は約500メートルくらいまでです。
ちなみに操作方法は2種類用意したんですけど……」
言って、明石が僕に弁当箱くらいの大きさのモノを差し出してきた。
「その1つがこれなんですけど、どうでしょうか?」
黒っぽい色をした箱に、2本の棒がついている。左側の棒には縦に空間があり、右側の棒には左右の空間が……って、なんだか古めかしいデザインだなぁ。
「これって、ラジコンとかで使うリモコンに見えるんだけど……」
「ええ、そうですね。
それを元に自作してみました」
明石はそう言ってから2本の棒をグリグリと動かす。すると、目の前の僕にそっくりな特殊兵装がウィーン、ウィーンと音を鳴らしながらぎこちなく動き出した。
「………………」
そして即座に無言になる僕。
見た目は完璧なのに、動きは完全にロボットです。
しかも安っぽい感じ。完全に見た目だけじゃんかよ、これ……。
「うーん、やっぱりこっちの操作は難しいですねぇ……」
はぁ……とため息を吐いた明石は、興味がなくした子供のようにリモコンをポイ捨てし、地面に落ちて大きな音を立てた。
「い、いやいや、いくらなんでも大雑把過ぎやしないっ!?」
いくら失敗だったとしても、破損しちゃうようなぞんざいな扱いはダメだと思うんだけど。
「まぁこれは予備の方ですし、面白みも無かったので良いんですよー」
僕の言葉を全く気にすることなく、明石はもう1つの操作方法だと言って大きな球体のようなモノを取り出した。
「こ、これは……っ!」
それを見た瞬間、僕は驚愕の顔を浮かべて声を上げる。
パッと見た感じはヘルメットにしか見えないが、操作方法だと言ってこれを出したとなれば思いつくのは1つしかない。
「ふっふっふ……、気づいたようですねぇ……」
「なるほど……。
予備のリモコンを先に出した理由が今分かったよ」
ニヤリと笑みを浮かべた僕に合わせるように、明石も口元を吊り上げる。
時代劇でよくある越後谷と悪徳代官のワンシーンのように悪巧みをしまくった後の笑い声をあげた僕たちは、夜が更けるまで熱い会話を続けたのであった。
そして次の日。
観艦式と運動会当日を迎えた僕は、執務室の窓から鎮守府内を見渡してホッと胸を撫で下ろしていた。
高雄に命じておいた準備は深夜のうちに終え、完璧と言っても過言ではないレベルで完成している。
もちろんコンビニの店長に頼んでおいた屋台も通りにズラリと並び、祭で感じられる雰囲気をまとっていた。こちらも昨日の夜から突貫でやったとは思えないくらい、様々な種類が勢揃いだ。
更には空に漂うバルーンの下に、大きなたれ段幕に『舞鶴鎮守府観艦式&舞鶴、佐世保幼稚園合同運動会!』の文字がでかでかと書かれ、遠くからでもしっかりと読み取れるだろう。
もちろん当日にいきなり告知されてもお客さんは来ないので、今回の企画予算を確定した数日後から鎮守府に近い商店街や通りの電柱などにポスターを貼り、チラシの手渡しやポスティングも済ませてある。
その成果があってか、観艦式が始まる1時間以上前にも関わらずお客さんの入りは上々で、屋台が並ぶ通りは人であふれかえっていた。
「いやぁ……、どうなることかと心配していたけど、この感じだと問題はなさそうだね」
「準備はしっかりとしましたし、宣伝にも費用をかけましたからこれくらいは当たり前ですわ」
「あはは……、さすがは優秀な秘書艦なだけあって、僕も鼻が高くなっちゃうよ」
「あら……、今更お気づきになられたんですか?」
「いやはや、面目ない」
僕は苦笑を浮かべつつ視線を向ける。するとつられたように高雄が笑みを浮かべたんだけれど、壁にかけられた時計を見た途端に表情を曇らせた。
「そろそろ埠頭に向かう時間ですわね」
「ああ、もうそんな時間か……」
大まかな準備は終えているが、統括する高雄が現場に前もって入っておかなければ何が起こるか分からない。
まぁ、僕の方は大した仕事もないのでゆっくりで良いんだけれど、例の準備もしておいた方が良いだろう。
「私は先に向かいますけれど、間違っても遅刻なんてことはしないでくださいね?」
「うん、肝に銘じておくよ」
コクリと頷いた僕を見た高雄が「今日に限ってえらく素直なところが気になりますが……」と小さく呟きながらも執務室から出て行った。
扉がバタリと閉められ、数秒置いてから「はぁぁ……」と息を吐く。
「危ない危ない。
感づかれるところだったよ……」
独り言を呟きながら、僕は机の影に隠しておいたモノを取り出し頭に被る。
それはもちろん、昨日明石から受けとった特殊兵装を操作する機械だ。
「スイッチをオンにして……と」
小さな駆動音が聞こえ、目の前にある透明なカバー部分に英文やグラフがパラパラと表示されていく。そしてしばらくすると『準備完了』の文字が大きく表示され、見覚えのある景色が映し出された。
特殊兵装を置いてある場所だと確認できた僕は、次に頭の中で身体を動かす想像する。
「まずは歩くことだけを考えて……」
白衣を着た金髪の女性を思い出しながら呟いた僕は、続けて「歩く……歩く……」と頭の中で考えた。
視界が少しずつ動き、それに合わせて首を動かしながら頭の中で次の動きを想像する。
昨日のうちに明石と話しながら練習をしたおかげで、動きは比較的スムーズ……というより、思った通りに進めている。
「よし、問題ないみたいだね」
先ほどとは違い、安心して息を吐いた僕は肩を下ろしてからひと息つく。
だけど、まだ練習することは多いのでリラックスする訳にはいかない。
「これを上手く使いこなせることができたら、昼のイベントでは僕の独壇場になるはずだからねー」
僕はニヤリと笑いながら、時間ギリギリまで練習を繰り返した。
僕の人気を復活させ、さらなる高みに至るためには昼のイベントで先生を打ちのめすのが1番だ。
そのために、この努力は欠かせない。
舞鶴鎮守府の人気ナンバーワンの座を不動のものとし、僕のハーレムを拡大させるのだ。
その場面を想像するだけで笑みがこぼれ、思わず高笑いをしてしまった。
胸の奥にある熱い高鳴りが、すぐ前にあるであろう楽園に触発されて更に大きくなる。
全ては僕の計画通り。
――そう、思っていたのに。
その数時間後、僕の心は完全に打ち負かされることになってしまったのだ。
運動会が始まって第1レースの途中、僕は練習をかねて現場に特殊兵装で実況解説席にいたところで、まさかの事態に会ってしまった。
ゴキャンッ!
『ひ……ぎゃあああぁぁぁぁぁっっっ!?』
『あわわわわっ!
げ、元帥の腰が逆側にポッキリとーーーっ!?』
『折れている部分がフレームインしないところが、昔の時代劇の手法だよねー』
『れ、冷静にコメントできる元帥がすでに人間じゃありませんっ!』
うん、あまりに唐突過ぎたために自分でもなにを言っているのか良くわかんない。
だけど高雄の追い撃ちは止まるどころか、更に酷いものとなってしまった。
『懲りていないようですので、更に追撃ですっ!』
『あ、ちょっ、更に首はマジで勘弁……』
ゴキュッ!
『も、もげたーーーっ!?』
『………………』
『さ、さすがに首がもげたらコメントできない……って、あれ?』
『……なるほど。なにか変だと思っていましたが、偽物でしたか』
『ほ、本当ですっ!
折れた部分からコードや金属片が見えてますっ!』
『影武者どころか、こんなロボットのような物まで作っているとは……。
どうやら本格的にお仕置きが必要みたいですわね』
……とまぁ、こうして明石に頼んで作ってもらった特殊兵装は完全大破となり、僕の計画は文字通り音を立てて砕けてしまったんだ。
もちろんこのことによって高雄の機嫌は非常に悪くなってしまい、踏んだり蹴ったりな目に会っちゃうんだけど。
昼のイベントは大惨事だったし、第4競技では的にされちゃうし、最後の最後までボロボロになっちゃった。
それでもまぁ、なんとか最低限の目的である運動会は最後までやることができたし、幼稚園の合併も滞りなく進められた。
あと、トトカルチョの収益は非常に美味しかったので懐もホクホクになり、これだけでもかなり有意義なイベントとなった。ハーレム拡大計画は失敗してしまったけれど、このお金があれば新たな計画を企てることができるだろう。
全ては裏工作が生きたおかげだ。さすがは愛宕。先生の帰還を早める代わりに、順位操作を完璧にこなしてくれるとは思いもしなかった。
全チームが同点になる予想はほとんどなかったし、賭けた客はたった1人。もちろんそれは僕なんだけど。
その結果、純粋なトトカルチョの胴元利益にプラスして掛金の総取りという100%の利益が出てしまった僕の気分は最高潮と言って良いだろう。
これで一見落着。全てハッピーで幕閉め……と思っていたんだけれど、
「はい、これが特殊兵装の請求書になります」
「………………は?」
佐世保に帰る前に明石が執務室に立ち寄り、僕に1枚の紙を差し出してきたので目を通したところ、とんでもない数字が並んでいたんだよね。
「いち、じゅう、ひゃく……って、なんだかゼロがとんでもないんだけれど」
「総額で1億ですねー」
「いやいやいや、いくらなんでも高すぎないっ!?」
「そりゃあまぁ、特殊兵装ですからー」
「それは分かってるけど、最初の話では2千万くらいだったよね!」
その金額でも厳しいけれど、僕の貯金と鎮守府運営予算の裏が……げふんげふん、があればなんとかなるという計算だっただけに、不満は爆発だ。
「最初はそうですし、本来ならば2千万でいけたんですけどねー」
言って、明石はチラリと高雄の方に視線を向けた。
「あくまで今回は試作品だったので、改良を重ねて完成させるつもりだったんです。
それなのに修理できないレベルで大破させられちゃったら、また1から作り直さなきゃならないじゃないですかー」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
明石が言うことも分からなくはない。しかし、だからといってこの金額をはい、そうですかと首を縦に振るには大き過ぎる。
僕はどうするべきかと考えながら、助言を求めようと高雄の方に視線を向けたところ、
「………………」
思いっきり目を逸らされたんだけど。
心なしか額に汗が浮かんでいるし、気付かないふりをして書類に目を落としていてもごまかせないんだよ?
「じー……」
「じー……」
明石が僕と心を通わせたかのように、高雄の顔を見つめまくる。
「………………」
それでも無言を貫く高雄だったが、さすがに沈黙し続けるのは辛いと感じたのか、大きなため息を吐きながら目を閉じ、僕の方を向いた。
「払えば良いじゃないでしょうか」
「……いやいや、いくらなんでも金額が大き過ぎるよ?」
「トトカルチョで得た利益があるでしょう」
「そりゃあ、無いと言えば嘘になるけどさ。
これは今後の鎮守府運営にも必要だし、他にも計画が……」
そう言いかけて慌てて口を閉じる僕。
「どんな計画かは分かりませんが、払う代わりに条件をつければよろしいのではないでしょうか?」
「「条件?」」
僕と明石の声がハモり、同じように首を傾げた。
「提示した金額をお支払いしますので、更なる強化を求めれば良いのです。
1から作らなければならないと言っても設計図などは残っているはずなので、必要なお金が5倍になることは有り得ませんからね」
高雄の言葉を聞いた明石は「あちゃー……」と呟きながら苦笑を浮かべ、観念するように大きく息を吐いた。
「ばれちゃったら仕方がないですけど、今後の予算が必要なのは分かっていただけますよね?」
「ええ、もちろんですわ……と言いたいところですけど、騙して金銭を得ようとすることは詐欺になりますわ」
ギラリ! と高雄が目を光らせた瞬間、明石の全身が大きく震えて飛び上がりそうになる。
「あ、あは、あははは……。
ちょ、ちょっとした冗談じゃないですかー」
「そうですか。
それでは冗談のついでに1つだけ……」
言って、高雄はわざとらしくゴホン……と咳込んでから、
「次に同じことをやろうとしたら、あなたを対象とした依頼をある人物に致しますので、良く肝に銘じておいて下さいね」
完全に目が笑っていない顔で、明石を見つめていた。
まぁ、その時点で口から泡を吹いた明石がたったまま気絶したのは笑い話ということにしておこう。
……ともあれ、イベントで得た大きな利益は次の日に水泡と化した。
正直に残念で仕方がないのだけれど、なぜ僕は断る理由を無くしていた。
この気持ちがなんなのかはこの時点で分からなかったけれど、
これが後に、大きな切っ掛けとなるのはもう少し先の話だったんだよね。
僕が運動会を計画した理由 完
これにて運動会が行われることになったいきさつとなる元帥編が終了しました。
子供たちの出番がほとんどなかったですが、次回からの番外編は少しくらい……あるはずです。うん、たぶん(ぇ
次回予告
運動会の昼休み。
チームのメンバーである子供たちと一緒にお弁当を食べる……と思っていたんだけれど、いきなり呼出しを喰らってしまう。
いったい何なのかと呼びに来たしおいに尋ねてみると、とんでもない答えが帰ってきた。
艦娘幼稚園 第二部 番外編
燃えよ、男たちの狂演 その1「強制参加とご褒美と」
乞うご期待!
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