申し訳ありませんがご理解のほど、よろしくお願いいたします。
ヅラだったんか―――っ!?
どこかの悪魔超人っぽいネタはさておいて。
5人の子供たちが借りものをゲットできたので、後は交代場所へと急ぐだけ。
デッドヒートが繰り広げられる中、今度はあの子が煽るような……?
『5人の子供たちは全員目的のモノを手に入れ、第5ポイントの交代場所へと向かっていますっ!』
『同じ場所から向かっている訳ではありませんので順位が分かりにくいですけれど、今のところ時雨ちゃんがトップみたいですわ!』
熊野の言う通り、子供たちが向かっている場所は同じであるが、現在の位置はかなり散らばっている。1番近いので俺の近くにきたレーベと大井なんだけれど……って、いつの間にレモンを手に入れて海上に出ていたんだろう?
「露店を探すのに手間取ったけど、後ろとの差は充分だね。
むしろ問題は、向こうに見える時雨だけど……」
レーベはおでこに左手を水平に当てて日光を遮り、細めで時雨との距離を計る。
「少し先に行かれている感じはあるけど、僕の速度を考えれば余裕で追い抜けるよね……っ!」
言って、レーベは左手を下ろして体勢を低くすると、もの凄い勢いで速度を上げた。
『ここでレーベちゃんが急加速ーーーっ!
子供とは思えない速度は第1競技でも見せたが、半端じゃないぞーーーっ!』
「……くっ。あの速さには目を見張るものがあるけれど、僕だって負けてはいられないよっ!」
『対して時雨ちゃんも体勢をできるだけ低くして、空気抵抗をできる限り削っているみたいですわ!』
手に持ったハチマキがバタバタと揺れ、如何に時雨の速度が速いかを物語っている。
そんな2人の様子を見ていた他の子供たちも、必死な顔を浮かべながら頑張っていた。
「さ、五月雨も負けられませんっ!」
「先生をゲットする為にも、気合い、マックスで、行きますっ!」
「北上さんに喜んでもらうには、勝つしかないんですっ!」
波に煽られながらも、なんとかバランスを取る五月雨。
両頬をパチンと叩いて更に加速する比叡。
北上の姿を探しながら駆ける大井……って、前を向かなきゃ危ないってばっ!
『どうやらこのままですと、トップは時雨ちゃんとレーベちゃんの一騎打ち!』
『3位争いは五月雨ちゃんと比叡ちゃん!
そして少し遅れて大井ちゃんになりそうですわっ!』
向かう地点が同じなので徐々に子供たちの位置が近づいていき、その差も明確になってきた。
今のところはまだ時雨の方が先頭っぽいが、レーベの速度を考えると交代場所に到着するのはどちらが先だとは言いにくい。
五月雨と比叡の速さはそれほど変わらず、まさに一進一退の攻防だ。そんな2人よりも最後尾にいる大井の方が若干速そうにも見えるけれど、第4ポイントに入った時点で開いていた差が響いているのか、追いつくにはかなり難しそうだった。
『目が離せない状況が続きますが、ここで第5ポイントの説明をいたしましょう!』
『次が今競技の最後ポイントになり、これで完全に決着がつきますわ!』
『泣いても笑っても、本当に最後の勝負!
5人の子供たちには、速度で競い合っていただきます!』
『交代場所からまずは倉庫側の埠頭に沿って進み、続けて放送席の前を通ります。
そして正面スペースであるS席のすぐ側の直線を越え、スタート地点に戻ればゴールになります!』
『ゴールテープは再び一航戦の赤城&加賀コンビですけど……、今度は遊ばないようにお願いいたしますわ!』
熊野は念のためにと、ゴール地点でテープを持って待機している2人に声をかけたのだが、
「失礼なことを言わないで下さい。
アレはほんの少し戯れただけですよね……、赤城さん」
「もぐもぐ……」
「あ、赤城さん……?」
「あっ、え、えっと、なんですか、加賀さん?」
「………………」
頬にパンの食べカスをくっつけた赤城が慌てて顔を上げると、半ば呆れた表情を浮かべた加賀が大きなため息を吐いた。
「ちゃ、ちゃんと加賀さんの分も避けてありますよ……?」
「……後でいただきますので、残しておいて下さい」
「もちろんですとも」
言って、コクコクと頷く赤城だが、加賀が目を逸らした途端、悔しがるように肩を落としたのを俺は見逃さなかった。
……さすがはブラックホールコンビの片割れにして、食欲旺盛な赤城なだけはある。
頼むから、ちゃんとゴールする子供たちを迎えてやってくれと願うばかりだが、信用性は皆無に等しい。
つーか、なんでこの人選なんだろうかと、改めに元帥に問い正したいよね。
『そうこうしている間に、子供たちの距離がどんどんと縮まっています!』
『先ほどの予想通り、先頭は時雨ちゃんですけど、すぐ後ろにレーベちゃんが迫ってきてますわ!』
『2人の速度はレーベちゃんの方が若干速く、交代場所までの距離を考えると、どちらが先に到着するかは全く分かりません!』
「……くっ!」
徐々に縮まっていく差を確認し、時雨が振り返りながら焦った表情を浮かべている。
対してレーベはまっすぐに時雨を見据え、不適な笑みさえ浮かべていた。
「このままいけば追い抜けるよね……っ!」
そう言って、レーベは全力を出すべく、これでもかというくらいに前傾姿勢を取る。ただでさえ低い体勢だったのに、顔が海面スレスレになるくらいなんだから、見ているこちら側にとっても冷や冷やモノだ。
しかしその甲斐あってか、更に時雨とレーベの距離が縮まり、今にも追いつきそうだったのだが、
「抜かせは……しないよっ!」
時雨はレーベの重心を見極めながら、進行方向をブロックするべく斜行する。これが競馬なら違反行為だが、この競技では立派な戦術として使用できるのだ。
もちろん危険な行為はできる限りしてほしくはないけれど、いざ海に出ることを考えれば、これもまたやむを得ないのだろう。
「邪魔をしないでよねっ!」
「甘いよ。これも立派な戦術なんだから」
「そっちがその気なら……、てえぇぇぇいっ!」
「くう……っ!」
レーベが後方から体当たりをかまし、時雨の顔が苦痛に歪む。
白熱した戦いはすぐに決着が付かず、観客のボルテージもかなり高くなっていた。
「行けー、レーベちゃーーーんっ!」
「負けるな、負けるな、時雨ちゃーーん!」
S席からモデル体型の女性が叫び、倉庫側の埠頭からは時雨の応援団と化した男性たちから声が飛ぶ。
「五月雨ちゃんも負けるなーーー!」
「比叡ちゃーん、気合いだ、気合いだ、気合いだーーーっ!」
至るところから応援と歓声があがり、どこもかしこも白熱した戦いが……と思いきや、
「………………」
最後尾の大井だけには応援らしいモノはなく、本人もそれが分かっているのか、俯き気味で速度も遅い。
チームを監督する俺としてこんな状況は見逃す訳にもいかず、こういうときこそ大声を張り上げるんだと思ったのだが、
「そ、そう言えばさっき、応援した途端に文句を言われちゃったんだよなぁ……」
更にテンションを下げてしまうかもしれないと考えてしまった為に、声を出すことができなくなってしまう。
しかし、このままでは最下位はほぼ確実で、争奪戦の行方も本気でマズイことになるだろう。
第5ポイントが残っているとはいえ、交代までに大きな差がついてしまったらチャンスすら得られなくなるし、なんとかしなければ……と焦っていたところ、
「んーーー、こりゃあちょっちマズイよねー……」
第5ポイントの交代場所で立っていた北上が、顎に手を添えながら考える人のようなポーズを取り、大井の姿をじっと見つめていた。
「このままじゃあ、大井っちのテンションはだだ下がりだし、先生の応援にも期待できないからねぇ……」
俺の考えを見透かしたかのように呟く北上は……って、結構距離が離れているのに聞こえるレベルってのは、ある意味酷いと思うんだけど。
「これはちょっと、一肌脱いじゃおっかなー」
そう言った北上は、なぜか上着をはだけさせるようにスカーフを緩め、
「あっついわー。これじゃあ、大井っちがくる前に熱射病になりそうだよー」
右手でパタパタと首元に風を送る仕種をし、大井の方へ流し目を送る。
ちなみに現在の気温はそれほど高くないし、熱射病にかかってしまいそうな直射日光もきつくないのだが、
「き、北上……さん……」
どうやら大井は北上の言葉が本当だと思ったらしく、愕然とした表情で立ち止まった。
……って、早く交代場所に行かなくちゃいけないのに、止まっちゃったら意味ないじゃん!
これじゃあ北上の作戦は失敗で、完全に詰んでしまった……と思いきや、
「だ、だだだ、大丈夫ですか、北上さーーーーーーーーーーんっ!?」
大きく目を見開いた大井がとんでもない速度で加速したかと思うと、前方で競り合っていた五月雨と比叡のすぐ横を高速で追い抜いていった。
「ふえっ!?」
「ひえぇぇぇっ!?」
なにが起きたのか全く分からず、悲鳴のような声を上げる2人。
しかし、そんなことはお構いなしに、大井はひたすら北上の元へ急ごうと更に速度を上げた。
『先頭争いを繰り広げている時雨ちゃんとレーベちゃん!
もうすぐ交代場所に到着しそうですが、いったいどちらが先に……って、なにか後ろからとんでもない速度で追いかけてくる姿が見えるんですけどっ!?』
『こ、これは、大井ちゃんですわーーーっ!』
驚く青葉と熊野の声を聞いた時雨とレーベは、牽制をしながらチラリと後方を伺い見る。
「北上さーーーんっ!
今すぐ行きますから、倒れないで下さーーーい」!
「「えええっ!?」」
ほんのさっきまでハッキリと姿を見ることができないくらい差があったはずの大井が、なぜかすぐ後ろにいる。
それだけでも脅威なのに、更に2人を驚かせてしまう出来事が視界に入っていた。
「な、なんで鼻血を出してるのっ!?」
レーベが目をパチパチと開閉し、見間違いでないことを確認しながら大きく叫ぶ。
「こ、これは……、そ、そうか、なるほど……、そういうことだったんだね」
時雨はすぐに原因を察知し、交代場所にいる北上の姿を見てから小さくため息を吐いた後、決意を込めた目を浮かべた。
「こうなったら、作戦を変更するしかない……か」
前を向いた時雨はレーベの進路を防ぐことを止め、大きく姿勢を低くする。そして、ただ前につき進むことに集中し、一気に加速をした。
「……っ、しまった!」
いきなり現れたと思えば鼻血を出している大井に驚く中、急に時雨が妨害を止めたことに対する反応が遅れたレーベは一瞬だけ身体が硬直してしまい、完全においてけぼりを喰らってしまった。
「北上さーーーーーーーーーーんっ!」
更にはその隙を突いた訳ではないにしろ大井にまで抜かれてしまい、余計に焦りが生じて加速行動に遅れが出る。
「今がチャンスですっ!」
「先生は、渡しませーーーん!」
そして今度こそ隙を突いた五月雨と比叡がレーベに襲い掛かり、時雨とトップを争っていたレーベが、まさかの最後尾にまで落ちてしまった。
「そ、そんな……っ!?」
レーベの心中はあわてふためき、周りからの歓声や応援も耳に入らない。
「レーベ!
早く加速して、追いつきなさい!」
ヒステリーを起こしそうな勢いでビスマルクが叫ぶも、レーベは完全にフリーズ状態に陥り、完全にリタイアか……に思えたのだが、
「レーベはもう……、諦めるのかしら?」
「……え?」
周りの声に掻き消されてしまいそうな小さな声が、微かに聞こえた気がした。
「先生を手に入れるのが望みだったんでしょう?」
「……っ!」
聞き覚えのある声にハッと顔を上げたレーベは、前方に立っている姿をしっかりと見つめる。
「それとも、レーベの気持ちはその程度だったのかしら?」
マックスが呼んでいる。
姉であるレーベの気持ちを誰よりも一番知っているであろうマックスが、諦めるなと言わんばかりに声をかけているのだ。
「そんなことは……ないよっ!」
端を発するように叫び声を上げたレーベは水面を思いっきり踏み込むことで気合いを入れる。
バッシャーン! と大きな水柱が上がり、続けてレーベの身体がもの凄い速度で走り出した。
「やれば……できるじゃない」
レーベの様子を見たマックスはゆっくりと目を閉じ、口元をほんの少しだけ吊り上げて笑みを浮かべる。
『まさかのフリーズでレーベちゃんが最下位まで落ちたものの、怒涛の追い上げを見せているーーーっ!』
『現在先頭は時雨ちゃん、そしてとんでもない速度で追い抜こうとする大井ちゃんは顔を負傷している模様ですわっ!』
『負傷というよりかは、興奮による鼻血にも見えますけど……この際、どちらでも良いでしょう。
そして続くのは五月雨ちゃんと比叡ちゃんの3位争いに、レーベちゃんの追い上げがどこまで届くのかーーーっ!?』
『ついに第4ポイントは終了!
最後の勝負はどうなっちゃいますのーーーっ!?』
『『次回、熱闘運動会は……この後すぐっ!』』
こうご期待……って、いつの間にそんなタイトルがついていたんだろう……。
※作業が立て込み倒している為、今週より更新ペースが若干遅くなります。
申し訳ありませんがご理解のほど、よろしくお願いいたします。
次回予告
第5ポイントへの交代をする為、必死に走る子供たち。
いつも通りの展開に呆れながらも、このまますんなりいくと思いきや……、
いや、今回で何回目なんだろうね。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その71「転覆王+α」
乞うご期待!
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