艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※諸事情により、更新が不定期になるかもしれません。
 執筆の進み具合によったり、別件の状況にもよりますが、できる限り間が空かないように進めていきたいと思いますので、宜しくお願い致します。



 なんか聞いたことがあるような声が聞こえたかもしれないけど、気にしないでね?(白目

 遂に最終協議も第4ポイントへ突入かと思われた。
北方棲姫は五月雨と交代し、後を追う子供たちも気合を入れる。

 そんな中、1人の子供の行動がまたしても先生を不幸へと陥れたばかりか、とんでもないことをしでかした!?


その63「鍼治療でそうなった訳じゃないよ?」

 

『と、とにかく今から中断という訳にもいきませんし、なにかあったら元帥が全て責任を取ってくれますから大丈夫でしょう!』

 

 半ばやけくそで青葉が答える中、先頭を行く北方棲姫が第4ポイントの交代場所に到達した。

 

「五月雨、任セタ!」

 

「りょ、了解ですっ!」

 

 北方棲姫が身軽にジャンプをして、五月雨の手にハイタッチで選手交代。

 

「お、おふぅ……。やっぱりほっぽちゃんは可愛いなぁ……」

 

 そんな様子を見ていた観客から呆けた声が上がってくるが、気にしていたらこちらの身が持ちそうにないのでスルーをしておくことにする。

 

『先頭のほっぽちゃんがすでに五月雨ちゃんと交代を済ませましたが、2位以下は混戦状態のまま、少し間が空いていますわ!』

 

 そう熊野は言うものの、北方棲姫を追いかける4人は競争をしているというよりも、仲良く一緒に並んでいたはずなのだが、

 

「先に交代した方が有利になるのは明白です!

 この霧島、ここで勝たなければなりませんっ!」

 

「1人前のレディである暁の前に、行かせる訳にはいかないんだからっ!」

 

「う、潮は……、そ、その……、頑張ります……っ!」

 

 いつの間にやら先頭モードに切り替わっていた子供たちは、真剣な表情を浮かべながら最大速度で海上を駆けていた。

 

 なお、その中で1人だけ表情がいつもと変わらないのは、

 

「あら~。みんな揃って私に勝つつもりなの~」

 

 ……と言いつつ笑顔を振りまきながら、棒を頭上でクルクルと回す龍田。

 

 言動と表情が合っていないだけでなく、その言葉に含まれる恐怖感が半端じゃない。

 

 なにせ、龍田がそう言った途端に潮と暁の表情が青ざめ、霧島の額にはビッショリと汗がにじんでいるんだからね。

 

 つーか、霧島って元は普通の艦娘だったはずなのに、子供の姿である龍田の言動に対してこれほどまでに反応するなんて、いったいどういうことなんだろう。

 

 考えられるのは、なんらかのトラウマを霧島が持ってしまっているのか、それとも龍田の潜在能力が半端じゃなさ過ぎるのかなんだけれど……。

 

「あれれ~?

 なんだかあちらの方から、嫌な気配がするわね~」

 

 するといきなり龍田が俺の方へ顔を向けるや否や、頭上で回していた棒をしっかりと右手で持ち、まるでやり投げのようなポーズを取った途端、

 

「変な思考は、身を滅ぼしちゃいますよ~?」

 

 

 

 ブオンッ!

 

 

 

 風を切り裂くレベルの振りかぶる龍田の動きに眼が追いつかないばかりか、

 

 

 

 ガキーーーンッ!

 

 

 

「んなぁっ!?」

 

 待機場所の椅子に座りながら子供たちを見ていた俺のすぐ横にあるテントの支柱に、龍田が投げた棒が突き刺さっていた。

 

「………………」

 

 棒は支柱のど真ん中に刺さり、途中で止まっている。

 

 ちなみに、支柱は鉄製です。素手で殴れば手がやられます。

 

 どう考えてもおかしいのだが、いくらなんでも有り得ないだろうと、龍田の方へゆっくりと視線を向けてみるが、

 

「うふふ~♪」

 

 右目をパッチリ、ウインクされました。

 

 普通に見れば可愛いんですが、やられた側はたまったもんじゃないです。

 

「は、ははは……」

 

 ただまぁ、あまりの恐怖を感じたとき、人間は乾いた笑い声を上げてしまうんだなぁと、つくづく思い知らされた出来事だった。

 

 しかし、もしこの場に子供たちが居た場合、完全にトラウマ化しただろうと考えれば、俺だけの被害で良かったのかもしれない――が。

 

 

 

 いや、やっぱりやっちゃいけないことなんだが、注意をして命を粗末にできる根性もないんだけどさ。

 

 やっぱりチキンだよな……、俺って。

 

 

 

 

 

『後を追う霧島ちゃん、暁ちゃん、龍田ちゃん、潮ちゃんは横並びのまま交代場所に到着寸前っ!

 このままだとひと悶着が起きそうですが、はたして大丈夫なんでしょうか!?』

 

 龍田の追撃に恐れてビクビクしながら展開を見守っているうちに、第3ポイントは終わりに近づいていた。

 

 しかし、ひと悶着が起きそうだと実況をするのはいかがなものかと思うのだが、青葉だから仕方がないね。

 

「負けられない……、負けられないんだから……っ!」

 

「速度と火力で霧島に勝とうだなんて、思わないで下さいねっ!」

 

「う、潮でも……、みんなのお役に立てるはず……ですっ!」

 

 暁が必死の形相で我先にと駆けるものの、他の子供たちも譲らないといった風に一進一退を見せる。

 

「あはは~。

 砲雷撃戦、始めちゃおうかしら~?」

 

 そんな中、またもや龍田だけが危険な言葉を発しているんだけど、誰かが止めなきゃマジでヤバいんじゃないかなぁ。

 

 レ級と言い龍田と言い、どうしてそんな攻撃的な行動を取ろうとするのか分からない。そもそも運動会で砲弾を使用したのは第2競技の対空砲玉入れだけだったし、あれは特殊なモノだったから当たってもそれほど被害は出ないはずだ。

 

 それに第2競技以降は必要がないからと全ての砲弾を回収したはずなので、簡単に手に入れられるものでもない以上、龍田の言ったことが現実に起こりえるはずがないと思うんだけれど。

 

 ………………。

 

 いや、しかしアレだ。

 

 先ほど棒の件があった以上、甘い考えは止めておいた方が良いのかもしれない。

 

『4人が一進一退の状況に、交代を待つ子供たちもどうしたら良いのか焦っているみたいですわ!』

 

 誰か1人が前に出れば、それを追い抜こうと他の子供たちが必死なる。

 

 その結果、順位がころころと入れ代わり、子供たちだけではなく応援する観客の顔までもが一喜一憂していた。

 

「がんばれー、そこだー!」

 

「後ろからきてるぞ! 抜かれるんじゃないー!」

 

「今こそ末脚を見せろー!」

 

「ニトロターボを点火するんだ!」

 

「超時空ワープで切り抜けろ!」

 

 ……とまぁ、こんな感じで応援が入り乱れているんですが、後半色々とおかしくね?

 

 つーか、運動会で使う手じゃないよね。明らかに大問題が発生しちゃうよね!?

 

 仮に使えたとしても、子供たちに危険が及ぶのは明白なんでマジで止めて下さいでしょうがっ!

 

「霧島、早く!

 ここで抜かれちゃったら、みんなにあわせる顔がないよ!」

 

「私の計算ではこんなはずでは……。

 しかし、最後まで諦める気はありません!」

 

 ちなみに子供たちの方は観客の変な声が耳に入らないのか、それとも完全スルーしているのか、真剣な表情で集中力を発揮しつつ、順位を競う熱い戦いを繰り広げていた。

 

「暁ちゃん!

 1人前のレディなら、ここが踏ん張り所ですっ!」

 

「わ、分かっているわよっ!

 暁は絶対に負けないんだからっ!」

 

 比叡の発破をかける声に応えた暁は、姿勢を低くして少しでも空気抵抗を減らそうと頑張っていた。

 

「潮!

 北上さんと私のために……、そしてぶっちゃけるとどうでもいいですけど、先生のためにもうひと踏ん張りしなさいっ!」

 

「……っ、わ、私が……、潮が頑張らなきゃ、先生が辞めちゃうかも……っ!」

 

 なにげどころではない言葉をかける大井に、嬉しいことを言いながら頑張ってくれる潮に涙を流しそうになりながら、俺は何度も大きな声で応援し続けていたんだが、

 

「龍田ちゃん。

 このままだと混戦のまま交代になっちゃうけれど、天龍ちゃんのためにもう少し本気を出してくれないかな?」

 

「あら~。天龍ちゃんのためなの~?」

 

「龍田ちゃんだって、天龍ちゃんの喜ぶ顔が見たいよね?」

 

「それはそうね~。

 それじゃあ、ちょーーーっとばかり、リミッター解除をしちゃおうかしら~」

 

 ………………はい?

 

 いや、時雨と龍田の会話がイマイチよく分からないんですが。

 

 まずなんだ。リミッター解除って、映画とかゲームでよくある能力制限を解除するってことか?

 

 しかしあれは、元々とんでもない能力とかを持っていて、それを発動しちゃうと周りに危険が及んだり、制御できなくなったりしちゃうから制限しているってやつだよね。

 

 目からビームが出ちゃうから特殊なサングラスをしているとか、元の力を発動させちゃうと世界が滅んでしまうかもしれないとか、ぶっちゃけてあり得ないからね?

 

 もし、そんなモノが龍田に備わっていたら、それはもう太刀打ちできるとかそういうレベルじゃない。ただでさえ眼力だけで周りの子供たちはおろか、俺ですらチビッてしまいそうになるのに……、

 

「えいっ♪」

 

 

 

 ギュワンッ!

 

 

 

「「「……え?」」」

 

 霧島、暁、潮が眼を点にしながら、呆気ない声を上げた。

 

 そして観客から上がっていた応援もピタリと止まり、実況解説の青葉と熊野も、なにひとつ言葉を発しない。

 

 それもそのはずで、龍田の姿は霧島たちから少し離れた前方にあり、時雨とすでにタッチを交わしていたのだった。

 

 いや、そればかりではなく、もっと驚くべき事柄は、

 

「あ、あれ……、俺の眼って、おかしくなったのかな……?」

 

 まさか、龍田の身体が大きくなったというか、子供ではなく大人……、つまり普通の艦娘に見えたなんてことは、ただの眼の錯覚としか思えない。

 

 だからこそ、こうして両目を手でグリグリと押さえ、マッサージをしてから再び龍田の姿を確認してみると、

 

「うふふ~。時雨ちゃん、後はよろしくね~」

 

「うん。任されたよ」

 

 普段と同じ子供の姿で、時雨と交代を済ませている龍田の姿が見えた。

 

「お、おい……、今さっき、龍田ちゃんの姿が一瞬だけ、大きくならなかったか……?」

 

「……は?

 いったいお前は、なにを言っているんだ?」

 

「あ、あれ……、気のせいかな……?」

 

 近くに立っていた2人組……、おそらく舞鶴鎮守府のスタッフだと思われる男性が、ボソボソと会話をしているのが聞こえてきた。

 

 確かに俺も、1人の男性が言っているように見えたと思ったが、もう1人の男性は気づかなかったようだ。

 

『お、おかしいですね……。今、青葉の眼に変なモノが映り込んだような……』

 

『なにを言っているんですの?

 私には気になることはありませんでしたけれど……』

 

 青葉と熊野も別々の意見を言い合っているが、どうにもハッキリとしないようだ。

 

 ただし、これだけは分かることなんだが、

 

『と、ともあれ、龍田ちゃんが単独で2位に踊り出たーーーっ!』

 

「……っ、し、しまった!」

 

 青葉の実況に驚いた霧島は、即座に我に返って加速を再開させる。

 

「こ、これ以上は抜かさせないんだからっ!」

 

 同じく暁も急いで後を追うが、残された潮だけが未だ固まったまま小さく口を開く。

 

「さ、さっきの……って、龍田……ちゃん……だよね……?」

 

『霧島ちゃんと暁ちゃんが慌てて後を追う中、潮ちゃんだけが未だに加速をしていないぞーーーっ!?』

 

「……っ!」

 

 やっと我に返った潮は、あたふたとしながらも足を動かして交代場所へと急ぐ。

 

 近くにいたからこそハッキリと見えたのか、驚きを隠しきれていない表情を浮かばせながら、潮は何度もブツブツとなにかを呟いていた。

 




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次回予告

 龍田がなんか……変化した?
果たして見間違いだったのか、それともまたまた元帥の罠なのか。
訳が分からないまま競技は進み、第4ポイントへと向かう子供たち。

 しかしまたしても、問題が発生したのだが……、これは……、うん、予想できなかったよね。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その64「ドジというレベルじゃない」


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