艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※諸事情により、更新が不定期になるかもしれません。
 執筆の進み具合によったり、別件の状況にもよりますが、できる限り間が空かないように進めていきたいと思いますので、宜しくお願い致します。



 さようなら、元帥。

 冗談はさておき、再びトップへ躍り出た港湾チーム。
それを追う4人の子供たちは、果たして追いつけることができるのだろうか?

 ……と思ったら、またもや和気あいあい? なんですけど。


その62「楽園?」

 

 元帥の悲鳴と高雄の叫び声の後、なにかを引きずるような音が遠ざかって行くのが聞こえてから、青葉の声がスピーカーから流れてきた。

 

『えー、結局のところ、元帥は高雄秘書艦にどこかへ連れられて行ったので、再び青葉と熊野が実況解説をさせていただきますね……』

 

 若干テンションが低い声で説明だが、おそらく元帥の哀れな姿を見て引いている……というところだろうか。

 

『それでは、再び子供たちの様子を見て行きますわ!』

 

 逆に熊野の方は未だにテンションが高いんだけれど、自分の出番が戻ってきて嬉しいのだろうか?

 

 まぁ、どちらにしても進行が居た方が分かり易いことも多々あるんだし、元帥と高雄に関しては忘れた方が良さそうである。

 

『現在先頭は第4ポイントの交代場所へ爆走中のほっぽちゃん!

 2位との差はおおよそ30メートルと、なかなかのリードを保っていますねー』

 

『後を追う霧島ちゃん、暁ちゃん、龍田ちゃん、潮ちゃんは団子状態!

 速度の差はあまりなさそうですので、ホッポちゃんだけが独走状態になるのでしょうか!?』

 

『しかし結局のところ、子供たちみんなが飴玉をゲットできたことが確認できませんでしたが……』

 

『あの小麦粉の霧では判断のしようがありませんでしたから仕方がないでしょうし、全ては元帥が悪いってことで、このまま進行いたしますわ!』

 

『い、良いんですかねぇ……』

 

 半ばごり押しの熊野に、未だ歯切れの悪い青葉だが、小さな飴玉を口に含んでしまったとなれば溶けてなくなることは必定であり、今更確認しようにも不可能であることは少し考えれば分かるはず。

 

 だからこそ誰も文句は言わないし、元帥に罪をなすりつければ万々歳……ということになったのだが、本当に運がないと言わざるを得ない。

 

 俺自身の不運は自慢できてしまうレベルだが、今日の元帥はそれを超える勢いであり、少しばかり可哀想にも思えてきた。だが、そのほとんどが身から出た錆や自業自得なので、運だけとも言えないのだけれど。

 

 まぁ、元帥は不死身なんだから大丈夫だろう。

 

 それよりも、子供たちのレースの方に集中しなければ……と、再び視線をそちらへと向ける。

 

「ホッポ、1番前……ナノ!」

 

 先頭を行く北方棲姫は、ニコニコと笑みを浮かべながら海上を駆け、ときおり嬉しそうにジャンプをしていた。

 

「うおぉ、あの仕草は可愛過ぎるな……」

 

「まったく、ほっぽちゃんは最高だぜ……」

 

「アレが敵で出てきたときは絶望すら感じるのにな……」

 

「馬鹿野郎。それを愛で乗り越えてこそ、1人前の提督だろうが!」

 

 そして観客の方から聞こえてくる声なんだけど、主にS席からです。

 

 やっぱりこの国の行く末が心配過ぎるんだが、可愛いは正義だから仕方ないね。

 

 それに、深海棲艦の一団と同盟を組んだからこそ、こうやって一緒に運動会ができるんだから、むしろ喜ぶべきなのだ。

 

 ただまぁ、先ほどの発言の1部は憲兵を呼ばなければならなかったりもしそうだが。

 

「うぅ……。眼鏡の小麦粉が静電気で取れません……」

 

「あら~、それは大変ね~。

 もし良かったら、コレを使ってくれれば良いわよ~」

 

「ハンカチは分かるんですが、なぜその棒を……?」

 

「金属製だから、静電気を放電できるから~」

 

「ま、まぁ、それはそうかもしれませんけど、リレーでどうして持っているのかが気になりまして」

 

「うふふ~。それは、乙女のナ・イ・ショ……よ~」

 

「……っ、わ、分かりました」

 

 口元に人差し指をつけた龍田がそう言ったのが、眼が完全に脅しモードだったので、霧島が一瞬顔を強張らせてからハンカチだけを受け取っていた。

 

 やっぱり龍田は怖いです。これは、紛れもない事実なんです。

 

「ま、まだ口の中がスースーしちゃうんだけど……」

 

「あ、暁ちゃん。良かったら、潮が持っているキャラメル……食べるかな?」

 

「本当っ!?

 あ、でも、暁は子供じゃないんだから、キャラメルなんて……」

 

「あ、それじゃあ私が貰うわね~」

 

「う、うん。どうぞ、龍田ちゃん」

 

「ありがと~。

 んふふ、おいしーい♪」

 

「あの……、霧島も1つ良いでしょうか?」

 

「うん。まだいっぱいあるから、良かったら……」

 

「ありがとうございます。

 ……もぐもぐ、やはりキャラメルは美味しいですね。

 ハッカ味の後に食べると、口直しにもピッタリだと思います」

 

「そ、そうだよね……。

 キャラメルって、甘くておいしいよね……」

 

 そう言って、龍田、霧島、潮が口をモゴモゴさせながらキャラメルを味わっていると、暁の表情が悲しそうになったり、泣き出しそうになったり、悔しそうになったりと、1人百面相のようにコロコロと変えていた。

 

 もちろんそれに気づかぬ潮ではなく、少し戸惑った表情を浮かべつつも、もう一度問いかける。

 

「あ、暁ちゃんも、良かったら……」

 

「べ、別に暁は……」

 

「ハッカ味が苦手だったんだから、口直しに……良いよ?」

 

「そ、そうっ!?

 それじゃあ1つ……いただくわ!」

 

 言い終わる前に手を伸ばした暁は潮からキャラメルを貰い、即座に口の中へと放り込む。

 

「もぐもぐ……もぐもぐ……。

 う~ん、甘くておいし~いっ!」

 

 満面の笑みを浮かべながら幸せそうにしている暁を見て、ホッと一息つく潮。

 

 なんとも微笑ましい光景なんだけれど、これって競争中なんですよね。

 

 一応、俺の争奪戦も関わっているんだし、もうちょっと緊張感を持って欲しいところなんだけどなぁ……。

 

 しかし、そうは言ってもそれを伝えようと口を挟めば恨まれることは必至。

 

 その理由は言わずもかな。観客の方から聞こえてくる会話を聞けば、一目瞭然である。

 

「エデンだ……。楽園が今、目の前にある……」

 

「親方、海上に女の子が!

 完璧に俺たちを萌え殺しにやってきているよっ!」

 

「ラ●ュタは海上にあったんだ!」

 

 ……と、会話内容がカオス化しそうな状態になっていたので、俺は耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らしたくなってしまいそうな心境になってしまんですが。

 

 いやまぁ、しないけどさ。

 

 類は友を呼ぶじゃないけれど、本当に観客席は憲兵を呼ぶレベルだぞ……。

 

 この際、運動会が終わったくらいに到着する感じで通報しておくべきだろうかと、ポケットの中に入れてある携帯電話を取り出そうとしたところ、

 

「そんなことをしなくても良いですよ~?

 どうせ、私がぜーんぶチェックしておきましたから~」

 

「……へ?」

 

 急に後ろから声が聞こえたので振り返ってみたが、そこには誰も居ない。

 

「い、今の声って……、どこかで聞いたことがあったような……」

 

 若い女性の声で、ちょっと間延びした感じは、確かに覚えがあるんだけれど。

 

 思い出したくても思い出せないのか、それともなにかが引っ掛かっているのか……。

 

 まるで本能が拒否をしているような感じがあるので、無理に思い出さない方が良いのかもしれない。

 

「ま、まぁ、用事があるなら姿くらい出すだろう……」

 

 独り言のようにボソリと呟いてみるが、返事は帰ってこない。

 

 俺は一抹の不安を胸に感じながらも、再び子供たちへ視線を向けることにした。

 

 

 

 

 

『先頭のほっぽちゃんが依然リードを保ったまま、第4ポイントの交代場所まであと少しです!』

 

 青葉の実況に観客から熱気のある歓声と、萌え死にかける声が上がる。

 

『ところで、第4ポイントのギミックはなんなのですの?』

 

『またもやフリをありがとうございます……と言いたいところですけど、前と同じようになりたくないのでツッコミは無しの方向でお願いしますね?』

 

『ええ、それはもう重々承知しておりますわ』

 

 言って、青葉と熊野の2人が「あはは……」と乾いた笑い声を上げながらも、説明を開始した。

 

『次のギミックですが、またもやありがちかつリレーに入れるのか……と、突っ込みたくなる内容です!』

 

『そ、それはいったいなんですのっ!?』

 

『聞けば単純明快!

 なんと、借り物競走です!』

 

『……ほ、本当にリレーで導入する意味が分かりかねますわね』

 

『飴玉探しからの流れとは思えなくなっちゃいますが、これも一種のサプライズだと元帥から聞いております!』

 

『はぁ……、なるほど。

 まぁ、また高雄秘書艦に絞られる理由が増えたということですわね』

 

『そ、その点に関しましてはノーコメントで参りますが、第4ポイントに参加する子供たちの紹介へと移りましょう!』

 

 嫌な予感がしたのか、即座に話を切り替える青葉。

 

 高雄の声は聞こえなかったし、近場から威圧されたという感じでもなかったんだけど。

 

 でもまぁ、高雄の情報収集能力も目を見張るものがあるので、その辺を青葉も警戒しているのかもしれない。

 

『現在先頭の港湾チームからは、五月雨ちゃんが。

 そして、ビスマルクチームからはレーベちゃんが。

 愛宕チームからは比叡ちゃんが。

 しおいチームからは時雨ちゃんが。

 先生チームからは大井ちゃんが出場です!』

 

『ちなみに借り物競走ですから、指定されたモノを探してこなくてはなりませんわよね?』

 

『はい、もちろんその通りです!

 第4ポイントから第5ポイントの中間地点の海上には、防水加工された封筒がいくつも浮かんでおり、その中に指令書が入っています!』

 

『なるほど……。つまり、その指令書に書かれているモノを観客のみなさんや付近から手に入れて第5ポイントへ向かうということですけど、それって大丈夫ですの?』

 

『……と、言うと?』

 

『今回のギミックも、元帥がお決めになったんですわよね?』

 

『ええ、モチのロンです』

 

『そうすると、指令書の内容に問題がありそうでなくって?』

 

『………………』

 

『下手をすれば、子供たちの眼に入ってはイケナイモノ……なんてことも、有り得るんじゃないかしら?』

 

『そ、それはさすがに……、ないと思いますけど……』

 

『私もそう思いたいですが、相手はあの元帥でしてよ?』

 

『う、うぐぅ……』

 

 タイ焼きをかじりそうな呻き声を上げた青葉が言葉を詰まらせる中、観客からどよめきが上がり、嫌な予感が沸々とわき上がる。

 

 まさかとは思うけど、今日1番の厄介ごとが起きたりはしないよね……?

 

 

 

 そんな俺の心配を知ってか知らずか、当の本人である元帥の声は未だに聞こえてこなかった。

 




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次回予告

 なんか聞いたことがあるような声が聞こえたかもしれないけど、気にしないでね?(白目

 遂に最終協議も第4ポイントへ突入かと思われた。
北方棲姫は五月雨と交代し、後を追う子供たちも気合を入れる。

 そんな中、1人の子供の行動がまたしても先生を不幸へと陥れたばかりか、とんでもないことをしでかした!?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その63「鍼治療でそうなった訳じゃないよ?」


 乞うご期待!

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