そこにはお約束の2人の姿がっ、相変わらずのはっちゃけぶりでっ、
主人公を叩きのめすっ!?
はたして主人公は無事なのかっ!
それとも大事に至るのか!?
今回の事が更なる悲劇を呼びまくる!?
いったいどうなる! 艦娘幼稚園!
それからいくつもの部屋や通路の怪しいポイントを見て回ったけれど、白いセーラー服の小さな子を見つけることは出来なかった。『知らない人』に関しても同様で、探し出すことが出来たのはかくれんぼに参加していた子どもたちばかりであり、鬼の立場上見逃すことが難しい子だけ、タッチをして待機場所へ行くように促した。
「ふぅ……ここで俺が探す場所は最後だよな……」
最後に着いた場所は、建物の東側にある通路の突き当たり。小さな部屋が2つ並んだこの場所は、見ればすぐに分かるトイレである。
「本来ならば、時雨に頼むべきなんだけど……」
男子トイレの方は別に問題ない。もちろん先生であるからして、トイレにまだ行き辛い子のサポートとして入ることもあるのだが、一人きりで入るとなると、やはりゲームの一環だと分かっていても、どうにもやり難さを感じてしまう。
「時雨には西側を頼んであるんだから、さすがにここまで来てもらって頼むのもなんだしなぁ……」
俺は己に喝を入れる為に両頬をパシンと叩いた後、恐る恐る女子トイレの入り口に足を踏み入れた。
コツコツとタイルの床を踏みしめる足音がトイレに響く。手前にある洗面台の目隠しの裏を覗き込んでみるが、誰の姿も見えなかった。ならば次は個室をと、5つ並んでいる手前のドアからノックしていく。
コンコン……
「誰かいないかー? もし、トイレを使用しているなら、返事をしてくれー」
子どもたちにルール変更の際に言っておいた声かけをするが、トイレの中に響くだけで返事はない。それじゃあ遠慮なく――と、1つずつノックをしながらドアを開けていく。
コンコン……ガチャッ……
「ふむ……誰もいないな……」
手前から3つ目の個室をチェックし終えた俺は、「ふぅ……」とため息をつきながら足を止めた。少し額に汗がにじんできているのは、疲れからきているものなのか、それとも緊張しているからなのか。自分でもどちらか分からずに一息つきたくなり、もう一度ため息を吐いたときだった。
キィィィィ……
「……ん?」
一番奥にある個室のドアが、ほんの少しだけ開いた気がした。小さく軋む音もしたので、間違いはないと思うのだが……
「……窓は開いてないし、風も感じなかった……よな?」
俺は誰に確認するためでもなく、独り言を呟いた。
心臓の音が大きく聞こえる気がして、額の汗が頬を伝って落ちていく。
つい先日の夜の見回りをした俺にとって、幽霊なんて見間違いや聞き違いだったのだと分かっているつもりなのだけれど、やっぱりその場の雰囲気に飲み込まれてしまうと、どうにもしがたいものがある。
「……も、もしかして……龍田辺りが、いたずらをしようとしてるんじゃ……?」
馬の被りものをした龍田が急に現れるかもしれないと思った俺は、身構えながら開いたドアに手をかけて、ゆっくりと全開きにして中を覗き込んだ。
「……誰もいないな」
個室の中はからっぽで、便器が中心にちょこんと置かれているだけだった。まぁ、トイレなのだからそれは当たり前のことなので、なんの問題もない。
「たまたま、小さい風とかで動いたのかな……」
偶然だったのだろうと、大きくため息を吐いて緊張を解きほぐした俺は、くるりと入り口の方へ振り返った。
「ばぁっ」
「………………」
目の前に、
身体をカーテンで包み、
顔が血みどろになった、
龍田の顔が、
俺と同じ目線の、
高さにあった。
「……突っ込みどころ満載だな」
「あら~、驚かないの~?」
「いや、充分驚いたけど、何となく予想はついてたから、身構えてればなんとでもなるよ」
そう答えたものの、実際のところは心臓はバクバクと高鳴りをあげ、武者ぶるいを抑えるのも必至だったりする。
「残念~」
そんな俺の状況に気づかなかった龍田はそう言いながら、身を包んでいたカーテンを器用に脱いだ。するとその下の方では、龍田の身体を必死で肩車をしている天龍が、顔を真っ赤にしてプルプルと全身を震わせているのが見え、思わず笑ってしまいそうになった。
「ぷっ……あぁ、なるほど。だから背丈が高かったんだな」
「うぐ……ぐぐぐ……」
「しんどかったら、もう下ろして良いんだぞ? ドッキリは終わったし、そのままだと疲れるだろ」
「うーーがーーっ!」
本日二度目の天龍シュワッチ。
俺の言葉で吹っ切れたのか、天龍は龍田の身体を放り投げるように両手をあげた。ふわりと舞った龍田は器用に空中で1回転をし、そのまま着地すると思いきや、
ドゴッ!
「げふぅっ!?」
鳩尾付近にローリングソバットを食らってしまい、思わず仰け反る俺。反動でさらに1回転をして綺麗に着地した龍田は、不満げな表情を一瞬浮かべた後、すぐにいつもの笑顔になりながら、
「天龍ちゃんをいじめちゃいけませんって、何度言ったら分かるのかしら~?」
「い、いや……別に……いじめてなんか……」
「せっかく天龍ちゃんが、ドッキリを仕掛けようって言ったから上手にやったのに、リアクションが薄い挙げ句に気遣ってあげちゃあ、可哀想すぎるでしょ~」
「そ、そこまで……理解するのは……無理だろ……」
子どもに蹴られた腹部を押さえながら悶絶する大人の図。情けないかもしれないが、半端無く痛いんですけど……
でもまぁ、金剛のバーニングミキサーよりかは、幾分かマシな気がする。
「あら~、1人前に口答えなの~?」
「いやいやいや、いくら何でも理不尽すぎやしないかっ!?」
「そんなの知りません~」
「酷っ!」
そっぽを向く龍田に叫ぶ俺に、おずおずと近づいてきた天龍が口を開く。
「いや、あのさ……先生」
「ん、どうした天龍?」
天龍の方へと振り返ると、少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「龍田の言ってること、ほとんど嘘だからな」
「……あ、やっぱり?」
「あら~、ダメじゃない天龍ちゃ~ん」
「っ! だ、だってよぉっ、先生を驚かそうって言いだしたのも、肩車をしろって言ったのも龍田じゃねえかっ!」
「もう~、そこまで言っちゃったらバレバレじゃない~」
プンスカッ……と、頭の上に効果音がつきそうな感じで両手を腰に当てる龍田だけれど、相変わらず表情は笑ったままだ。
「先生を驚かせて気絶させたら、寝込みを襲……じゃなくて、天龍ちゃんの好きにさせてあげようと思ったのに~」
「「……はい?」」
目が点になったまま、ハモって口を開く俺と天龍。
もちろん俺は、寝込みを襲う……と言いかけた龍田に対する驚きだったのだが、それは天龍も同じだと思っていると、
「し、しまったっ! それなら確かに先生のほっぺにチュウを……って、なんでだよ龍田っ!」
「あら~、本音が出まくってるわよ~」
「べ、べべべっ、別に本音とかじゃねーしっ! の、ノリツッコミ的なアレだしっ!」
再び目が点になる俺。
このまま先生やってたら、貞操の危機に思えてくるんですけど。
「とっ、とにかく、俺は全然先生のことなんか何とも思って……」
「あら~、枕の下に先生の写真を挟んでるのに~?」
「げっふーーーーっ!」
「もう私ったら、妬けちゃって妬けちゃって~……ちょっと先生、弱弱→弱強とかしても良いかしら~?」
「いや待て死ぬから止めて」
頭を思いっ切り左右に振りながら両手を突き出す俺。
それ食らったら、間違いなくゲージもってかれるから止めて下さい。
瞬獄、ダメ、絶対。
「え~、残念だわ~」
「いや、マジで止めてくれな」
「しょうがないわね~。まぁ、先生がいなくなっちゃったら、天龍ちゃんが悲しんじゃうから、仕方ないわね~」
残念そうに龍田はそう言ったけれど、天龍が悲しまないのなら、いなくなっちゃうようなことを俺にするつもりだったのだろうか?
……まぁ、瞬獄殺の段階で、やっぱりそうなんだよなぁ。
「いやいや、そんな物騒なことを考えるんじゃない」
「そうかしら~?」
「消す気満々だったよね? 確実に殺られる寸前だったよね!?」
「気のせいじゃないかしら~?」
「そうだといいんだけどねーっ!」
強めの眼力で龍田を睨んでみるが、「うふふ~」とか言いながら、巧い具合に逸らされてしまった。
うーむ、さすがは龍田。手強すぎる。
「ところで、天龍は……」
俺はそう言いながら、しばらく黙っていた天龍の方を振り向いた。しかし先ほどまで居た場所に天龍の姿が無かったので辺りを見回してみたところ、トイレの一番隅っこの方で屈み込んでいる影を見つけた俺は、ゆっくりと近づいてみた。
「うぐ……ひっく……」
天龍は小刻みに身体を震わせて、何度も鼻をすすっている。
「あー、なんだ……。俺は気にしてないからさ、元気出せよ、天龍」
「もうダメだ……ダメなんだ……こんなんじゃ、先生に嫌われちまって……捨てられちゃうんだ……」
俺の言葉が全く耳に届いていないのか、ぶつぶつと呟いていた天龍だが、その内容が何とも暗すぎる。
って言うか、嫌いにもならないし、捨てる気もさらさらないんだけど、そもそもが天龍が俺の所有物ってわけでもないし、そういう関係でもないのだが。
うーん、こんなのだから、この間の青葉みたいにハーレムを作ってるとか思われちゃうのかなぁ……。
ちょっとは自重した方がいいのかもしれないのだけれど、俺からネタを振ってるわけでも、何かを起こしているわけでもないんだよなぁ……。
「天龍ちゃ~ん、先生が気にしてないって言ってるから~、正気に戻ってよ~」
ゆさゆさと天龍の身体を揺さぶっていた龍田だが、全くと言っていいほど反応が返ってこないのに苛立ちを覚えたのか、少し不満げな表情を浮かべた後、何かを思いついたように天龍の耳元で囁き始めた。
「ごにょごにょ……ごにょ……っ」
「………………」
「だから……せん……の、……でしょ?」
「……っ!?」
「青葉……お姉ちゃん……頼めば……」
「た、確かに龍田の言うとおりだなっ!」
ババッ! と、急に立ち上がった天龍が大きな声で叫ぶ。
「よし、分かったぜ! 早速、青葉のお姉ちゃんを探してくる!」
「……は?」
いきなりの発言に、目が点になる俺。
「それじゃあな、龍田、先生! 後はよろしく頼んだぜ!」
「じゃあね~、天龍ちゃ~ん」
手を振る龍田に笑顔を見せた天龍は、大きく拳をあげて一目散にトイレから出ていった。
「……いや、かくれんぼはどうするんだ?」
「この場合は~、行動不能(リタイヤ)ってことかしら~」
「……なぜに、スタンド使い風なんだ?」
「その場のノリって大事よね~」
「………………」
呆れかえった俺は「はぁ……」とため息を吐いて、龍田の顔を見る。
「で、さっきは天龍に何を言ったんだ?」
「別にちょっとね~」
「む、その言い方は気になるな」
「しょうがないわね~、ちょっとだけよ~」
全くエロく聞こえない龍田の声に、禿面の丸メガネな芸人を思いかけつつ耳を澄ます。
「この間、先生のストーカーをしていた青葉お姉ちゃんなら、いっぱい写真を持ってるんじゃないかって言ってあげたのよ~」
「……それって、俺の写真ってことか?」
「もちろんそうよ~」
うーむ……さっきの龍田の言っていたことから、天龍が俺の写真を持っていたということは分かったのだが、それを俺に知られたときは恥ずかしがった割に、別の物をゲットすると公言していったことについては何も思わないのだろうか。
まぁ、乙女的なアレかもしんないけど、俺にはちょっと分からない。
「それに~、四六時中先生を追っかけ回してたんだから~」
「……ん?」
「お風呂とか、寝姿なんかもあるかもしれないわよ~って、言ってあげたの~」
「……おい、それはマジか?」
「可能性があるってことだけどね~」
「不確定要素なら……まぁ、いいけどさ」
「1枚300円で出回ってるみたいだし~」
「おいこらちょっと待て」
「あら~、意外にお姉さん方に受けがいいのよ~」
「……マジ?」
「特に、マッチョにコラれた写真がね~」
「マジかーーーーっ!?」
「さすがは青葉のお姉ちゃんよね~」
「今すぐ見つけてここに連れてこいっ!」
「あら~、先生はちゃんとお仕事をしないとね~。通常業務を命ぜられてますよ~?」
「む、むぅ……」
龍田の言う通りなだけに具の音も言えない俺は、がっくりと肩を落として仕方なく頷いた。
「それじゃあ、私は部屋に戻って10分待機してるわね~」
「あー、うん……分かったよ……」
「じゃあね~、せーんせっ」
そう言って、龍田はトイレから出ていった。
「はぁ……」
もう一度大きなため息を吐いた俺は、自分のやるべきことを思いだし、頬を叩いて気合いを入れる。
「早いところ、あの子を見つけないとな!」
白いセーラー服の小さな子。あの子が『知らない人』だとは思えないが、気になるのは確かなのだ。響が言う通り怪しいことには違いないので、探し出すべきだろう。
「……あれ?」
そこでふと、さっきのは変じゃないかなと思い、俺は声を上げた。
「俺ってさっき、龍田にタッチは……したっけな……?」
龍田からは攻撃を食らったけれど、こちらから触れた記憶は全くない。ついでに言うと、天龍の方にもだ。
「……まぁ、仮に待機してなくても、捜索をしてくれていたら目的通りだし……いいだろう」
さすが龍田は抜け目ないというか、俺が間抜けであるというか、どちらにしても笑い話になりそうな、そんな出来事だった。
まぁ、俺は全然笑えないんだけどね。
特に、青葉の写真のことについては、近々問いつめるとしよう。
……あと、出来る限りのコラ写真の回収もね。
………………
…………
……
しくしくしく……
次回予告
一通り捜し終えた主人公は、時雨と合流するために集合地点へと戻っていく。
時雨との会話が遮られ、子どもたちが一斉に集まりだす。
はたして知らない人はどこなのか?
その姿が……ついに晒されるっ!?
艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ その10
ついに出てくる……ヤツが……来るっ!
乞うご期待っ!
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