まさかの実況解説が交代も、やっぱり元帥と高雄はいつも通りだった。
そして競技は第3ポイント。
飴玉探しが始まるが、なにかが起きるのがデフォ状態。
お約束の展開なのか、それともなにかが起きるのか……?
※諸事情により、次回の更新から少し遅めになるかもしれません。
『さて、それでは続きまして、第3ポイントに参加する子供たちの紹介を致しますわ』
元帥にツッコミという名の仕返しをしたおかげなのか、高雄の口調がいつも通りに戻っていた。
『現在1位のビスマルクチームからは霧島ちゃんが。
2位のしおいチームからは龍田ちゃんが。
3位の愛宕チームからは暁ちゃんが。
4位の先生チームからは潮ちゃんが。
5位の港湾チームからはほっぽちゃんが出場です。
みなさま奮って応援して下さいね』
『お、応援宜しくおねが……ぐふぅ』
つつましい感じで締めた高雄だが、時折聞こえてくる元帥の呻き声で全てが台無しになっているのでどうしようもない。
しかし、それを突っ込もうにも突っ込めない雰囲気が会場全体に広がってしまい、元帥の存在はなかったことにした方が良いという思考で埋め尽くされていた。
『そろそろ先頭のプリンツちゃんがチームメイトと交代をするべく、手を上げて備えました』
「霧島ーーーっ!」
「ビリから一気に先頭とは、想像以上の出来……」
勢いよく駆けてきたプリンツのタッチを右手で受けた霧島は、満足げな笑みを浮かべながら加速を開始する。
「後はお願いしますっ!」
「ええ。これから先は、この霧島に任せて下さいっ!」
コクリと頷いた霧島の背を見送って、プリンツも同じように笑みを浮かべながら額の汗とかかった水を払い落している。
第3競技の運貨筒転がしではもの凄く険悪な感じだったんだけれど、いつの間やら仲が良くなったのか、ギクシャクした感じは見受けられなかった。
前向きに進んだことを喜ぶ半面、チームワークが改善されてしまったことによって勝利が余計に遠退いてしまったことに不安を覚えるが、今はただ自分のチームの子供たちを応援することに集中すべきだろう。
「龍田さん、お願いします!」
「もちろん、後は私に任せてね~」
2位につけていた榛名も続けて到着し、龍田とタッチをして交代を終える。
「さ~て、前にいるのは霧島ちゃんね~。
どうやって料理をしちゃおうかしら~」
「な、なにやら背後から寒気がしたような……?」
先頭を走る霧島が急にビクリと身体を震わせて後方へ振り返ると、加速を始めた龍田と眼があった。
「うふふ~。逃がさないわよ~?」
「……っ!
き、霧島の危険察知電探が最大アラートをっ!?」
ぶわぁ……っと、額どころか顔中に汗をふきだした霧島は、即座に前を向いて全速力で飴玉が入っている台の方へと向かう。
かくいう俺も龍田の恐ろしさが分かっているだけに霧島の気持ちは痛いほど良く分かるが、これも勝負の定めと思って頑張るしかない。
見捨てるつもりは毛頭もないけれど、正直俺にできるのはなにもない……というか、後のとばっちりがマジで怖いのだ。
……って、結局見捨てている可能性が高い気がするが、それは気のせいだということにして置いて下さい。
龍田、マジで、怖い。
「暁……、すまない」
そして榛名の後に続いて3番手で到着した響が、暁にタッチをして肩で息をしながら謝っていた。
「大丈夫よ響。
これくらいの差なら、暁にとってへっちゃらなんだからっ!」
しかしそこは長女……というよりかは、いつも通りに1人前のレディだと自慢げに言おうとしたところ、
「あらあら~。この私をそう簡単に追い抜けると思っているのかしら~」
「ぴぎゃあああああっ!?」
暁の方へ振り返った龍田が笑みを浮かべながらドスの効いた声を発した途端、即座に漏らしてしまいそうな驚きっぷりを見せる暁。
これは完全にビビります。トラウマレベルは間違いない。
つーか、龍田の脅しは半端じゃないんだよぉっ!
「だ、だだだ、大丈夫……っ、暁は怖くなんかないんだからっ!」
涙目を浮かべながらも前に進もうとする暁だが、チラチラと振り返ってくる龍田の顔が見える度に身体をビクビクと震わせているので、これは相当厳しそうだ。
「う、潮殿……。待たせ過ぎて申し訳ないであります……っ!」
「う、ううん。あきつ丸ちゃん、ナイスファイト……です」
そして4番手で到着したあきつ丸は、響と同じように潮とタッチしてからその場で崩れ落ちそうになる。明らかに疲弊しているのが見え見えだが、観客からは多くの拍手が鳴り響いていた。
「あきつ丸ー!
良く頑張ったぞー!」
「こ、この声は……先生であります……っ!」
俺も同じように拍手をしながら声をかけたところ、辛いにも関わらず顔を上げて小さく手を振り答えてくれた。
「そ、それじゃあ、潮……頑張りますねっ!」
「よ、宜しく頼むでありますっ!」
あきつ丸が加速し始めた潮の背に向かって声をかける。すると潮は真剣な顔でコクリと頷き、先を行く3人の姿をしっかりと見た。
「ここで頑張らなきゃ先生が……」
いつものような弱々しい感じはなく、芯の通った眼を浮かべた潮が真っ直ぐ前を向き、「行きます……っ!」と小さく叫んで急速に速度を上げた。
『子供たちが次々と交代している中、最後尾のレ級ちゃんがもう少しで到着いたしますわ』
「レ級、早ク、早クッ!」
交代場所でピョンピョンと飛び跳ねる北方棲姫がレ級に向かって手を振ると、今度は拍手ではなくパシャパシャとカメラのシャッターを切る音や、呆けた息を吐く声が聞こえてくる。
「ちくしょう……。アレはマジで反則だぜ……」
「駆逐艦も良いが、北方棲姫の可愛さはマジでパナイからな……」
「あぁ……。お持ち帰りして思いっきり愛でてぇよぉ……」
犯罪臭がもの凄いんだけど、それらの声はほとんどがS席から聞こえてくるんですよね。
あそこにいる大半は海軍関係者……というか見た目が明らかに提督だし、それ以外にはカメラ小僧みたいなのとかも居るけれど、どう考えても問題がありまくりにしか思えない。
この国の未来……、マジで大丈夫だろうか……?
まぁ、可愛いは正義だから、その気持ちは分からなくもないんだけどさ……。
「オ待タセシテ、ゴメンナサイッ!」
「大丈夫! 後ハホッポニ任セテ良イヨ」
「オ願イシマスッ!」
ハイタッチをして選手交代を済ませると、北方棲姫が急いで4人の後を追う。その背中を見送ったレ級は、まるで犬のように身体を半回転させまくって水分を飛ばしていた。
しかし、レ級が北方棲姫と話す際はヲ級と違って若干言葉を選んでいるように思えるのだが、やはり身分の差……というモノが関連しているのだろうか。
幼稚園で一緒に暮らしているのだから、できればそういった関係はなしだと嬉しい……と思ったものの、人間社会でも様々な弊害やしがらみがあるんだし、変に助言しない方が良いのかもしれない。
それよりも今は、以前は敵同士であった艦娘と深海棲艦が肩を並べあって運動会に参加していることを嬉しく思い、精一杯することが重要だ。
『さあ、これで全チームの子供たちが第3ポイントに移行した訳ですが、今度のギミックである飴玉探しをセッティングした元帥に展開を予想していただきましょう』
『え、あ……、そこをいきなり僕に振っちゃうわ……げふっ!?』
『無駄口は叩かずに、聞かれたことだけをおっしゃっていただければ結構ですわ』
『そ、それって、実況解説ではない気が……』
『なにか言いまして?』
『ナ、ナンデモナイデス。ハリキッテ、ハナサセテイタダキマス……』
深海棲艦みたいな喋り方に変わってしまった元帥だが、どうせ蛇に睨まれた蛙の如く、高雄の眼圧に屈したのだろう。
『まず、先頭を行く霧島ちゃんと2位の龍田ちゃんとの差は少し開いていますが、これはどのように影響してくると思いますでしょうか?』
『そ、そうだね……。
単純なスピード勝負なら龍田ちゃんに分が悪いと思うけれど、飴玉探しで引っ掛かる可能性はどの子供たちにもあるだろうし、全員にチャンスがあると言って良いんじゃないかな』
『……なるほど。つまり、いかに早く飴玉を探し出せるかが鍵になる……ということですわね』
『まぁ、大概の飴玉探しはそうなんだけど……って、タンマタンマタンマッ!』
『飴玉が入っている箱には小麦粉が敷き詰められていて探しにくいのは当たり前。
ですが、やはりそれは先に到着した子供の方が有利であることは間違いないはずですわ』
『そ、それは……いて、いててててっ!』
『後になるほど飴の数が減ってしまい、数撃てば当たる方式も使えなくなってしまう以上、やはり最初の差は大きいはず……』
『そ、そうなんだけど……、お、折れるからそれ以上は引っ張らないでーーーっ!』
ギリギリ、ミシミシと鈍い音と悲鳴がスピーカーからひっきりなしに聞こえてきても、観客の誰ひとりとして気にしないところが恐ろしい。
慣れって、本当に怖いよねー。
まぁ、マンネリし過ぎってこともあるんだけれどさ。
『……ふむ。観客のみなさんのノリもあまり宜しくありませんし、元帥をいたぶるネタはそろそろ控え見にした方が宜しいでしょうか……?』
『こ、これって、ネタだったの……?』
『半分はそうですけれど、もう半分はストレス発散ですわね』
『キッパリ答える高雄が怖いっ!』
『今更なにをおっしゃっているのでしょう……』
『あっ、それは……無理ーーーっ!』
ゴキャッ! と、大きな音の後にブツンとマイクの接続が切れるノイズが流れ、辺りからは大きなため息が漏れる。
高雄が言った通り、会話の流れは完全に飽きられているみたいである。
元帥の身体を張ったボケ? も空しく、新たな掴みを探さなければならないのだろう。
そして暫くすると同じようなマイクのノイズ音が聞こえ、放送が再開された。
『そうこうしている間に、先頭の霧島ちゃんがそろそろ飴玉が入っている台に到着したみたいですわ』
高雄の言う通り、霧島がスピードを落として台に近づき、枠に手を添えて小麦粉が敷き詰められているところに眼を落した。
「見た感じでは……、簡単にいきそうにありませんね」
パッと見る限り、小麦粉は均一に敷き詰められている為に飴玉がある場所はまったくと言って良いほど分からないようだ。
「後ろとの差は少しありますけど、悠長なことは言っていられませんし……」
振り向きざまに龍田との距離を確認するが、おそらく10秒ほどで追いついてくるだろう。
もし飴玉を発見することに手間取ってしまえば、せっかくプリンツが奪ってくれたリードをふいにしてしまうかもしれない。
「ならば、ここは意を決して……いきますっ!」
そう言った霧島は、大きくのけぞるように背中を逸らしてから、まるで頭突きをするかのごとく台に向かって顔を落とした。
『おおっと、先頭の霧島ちゃんが大胆に顔から小麦粉へダイブですわ!』
「あ、飴玉はいったい……ごほっ、ど、どこに……ぶほぉっ!?」
霧島は顔を左右に動かしつつ口で飴を探してみるものの、なかなか見つからないようで何度もむせている。付近には白い煙のように小麦粉が舞い上がり、若干視認がしつらい状態になってきた。
「だ、台が大き過ぎて……、ごほごほっ、な、なかなか見つかりません……っ!」
5人の子供たちが一斉に探し始めた際にスペースが足りなくなるのを防ぐ為か、霧島が言う通りに台のはかなり大きく見える。
もしこれで、人数分の飴玉しか入っていなかったら……と思うと、かなり厳しいんじゃないだろうか。
まぁ、さすがにそんなことはないとは思うけど、元帥がセッティングしただけに気は抜けないんだよなぁ……。
「だ、駄目です……、い、一度息を整えないと……げほごほっ!」
さすがに息切れしたのか、霧島は頭を上げて大きく深呼吸をしようとする。しかし、へんなところに小麦粉が入り込んだのか、何度も咳を繰り返していた。
『先頭で到着した霧島ちゃんですが、なかなか飴玉を見つけることができずに参っているようです。
そして、そろそろ2位以下の子供たちが近づいてきましたが、いったいどうなるのでしょうか!?』
「……くっ、せっかくのリードでしたのにっ!」
ギリギリと歯噛みをした霧島は、咳を無理矢理抑えて再び台へと顔を落とす。
「うふふ~。龍田、到着いたしました~」
そこにマイペースな口調でやってきた龍田が、霧島の様子を見ながら台の反対側に位置取った。
「あ、暁だって、負けてられないんだからっ!」
「う、潮も、頑張りますっ!」
遅れて到着してきた暁と潮も、空いているスペースに入り込んで台に手を添える。
こうして、4人の子供たちによる飴玉探しが行われたのだが、
「げほっ、ごほ……っ!
あ、飴玉はいったいどこにあるんですか……っ!?」
「あらあら~。小麦粉ばっかりで……けほっ、見つからないわ~」
「ど、どこに飴玉があるの……ふえっくしゅんっ!」
「で、できれば……、早く見つかって……ごほっ、ごほっ……」
まったくもって飴玉は見つからず、付近一帯に白い幕ができあがってしまうほど小麦粉が舞い上がってしまっていた。
……これって、飴玉が見つからないじゃなくて、入っていないなんてことは……ないよね?
※諸事情により、次回の更新から少し遅めになるかもしれません。
なにやらスケジュールがとんでもないことになりそうな予感ですが、まったりとお待ちいただけると幸いです。
次回予告
飴玉が見つからない子供たちを前に、観客たちがざわつき始める。
またもや元帥がやらかしたのか、それともただ単に運が悪いだけなのか。
その理由を知ろうとしたところ、思わぬ展開が待ち受けて……?
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