またもや海へドボンな主人公。そして焦りまくる元帥。
この世は地獄か、それともある意味天国か。
そんなことを考えつつも、第4競技は終了です。
そして結果を知った主人公が考えついた先に、いったいなにがあるのだろうか……。
「あぅー……。また外れちゃったぁ……」
放った魚雷が白鳥ちゃんに当たらなかったことを悔やんだユーが残念な顔を浮かべながら肩を落としたところで、パァァァンッ……と空砲が鳴った。
『子供たちの魚雷が全て尽きましたので、第4競技を終了します!
今からパトランプが光った回数を集計しますので、発表までしばらくお待ち下さい!』
説明を聞き終えた観客からは子供たちに向かって大きな拍手をし、多くの声援を投げかけている。
「良く頑張ったぞー!」
「ナイスファイトー!」
「元帥、避けるんじゃねぇよ!
子供たちが可哀想だろうが!」
「大嫌いだ!」
……とまぁ、後半は元帥への苦情だったのだが、避けなければ死んでいたかもしれないとなると仕方がないはずなのだが。
もしかして舞鶴鎮守府内どころか、別の所でも嫌われちゃっていたりするのだろうか?
俺としては多少の貸しはあるものの、昼休みのイベントと今回の的役によって多少は気が紛れたので、そこまで非道にはなれないんだよね。
「ともあれ、お疲れさまだったぞ、北上、大井ー」
俺も観客と同じように北上と大井を見ながら拍手して声をかけるが、2人の顔色はあまりよろしくない。
それもそのはずで、大井の魚雷は全て外してしまったし、北上の方も数えるほどしか当てられなかったのだ。
本人たちからすれば、1番活躍できるだろうと思っていた競技で結果が出せなかったのだから、その気持ちは分からなくはない。
……しかしまぁ、大井の方は弁解し難いだろうけれど。
つーか、わざわざ俺を海に突き落としにきたのは、競技にまったく関係なかったからね。
それを自覚しているのか、それとも未だに怒っているのか、大井は俺の方に顔を向けようとはしない。北上の方は若干気まずそうにはしているものの、大きく堪えているようには見えなかった。
また、他のチームの子供たちも同じような感じであり、いかに第4競技が難しかったかが簡単に見て取れた。その理由は言わずもかな、元帥が原因ではあるけれど。
……って、この考えをしていると思考が完全にループしてしまいそうなのだが、結局のところ1つのチームを除いて結果は散々だったということで間違いないだろう。
『さて、そろそろ集計が終わったみたいですが……、ふむふむ、なるほどー』
そうこうしているうちに青葉の声が流れてきたが、1人で納得されてもこちらにはまったく分からないんですが。
観客勢はソワソワしているみたいだし、あんまり引っ張ると元帥への苛立ちが青葉の方に向かう可能性もあるんだけれど。
『はい、それでは発表いたします!』
しかし、俺の心配は杞憂だったようで、すぐに発表されると思いきや、
『ダン、ダラララララ……』
なぜかドラムロールが始まってしまったのだが、それ以前に問題ないのは録音された効果音や現物を鳴らしているのではなく、どうやら熊野が自らの口で真似ているようだった。
……いや、それくらいは用意できたんじゃないんだろうか。
でも、なんかちょっと想像してみると、可愛い気がしなくもない。
ちょっぴり恥ずかしがりながらもドラムロールを口ずさむ熊野。
………………。
うん。これは罰ゲームだ。
そんな状況を観客たちに見られなかっただけマシだと思うしかないが……、
『ダダンッ! 第1位は……しおいチーム!
龍田ちゃんと時雨ちゃん、おめでとうですわっ!』
そんな熊野の声は元気いっぱいどころか、ノリノリだったりするのは完全に俺の想定外だった。
罰ゲームどころか、進んでやっていたっぽい。
「……なんだか先生に取られちゃったっぽい?」
「気のせいじゃ……ないけど、心の中を読まないで欲しいなぁ」
すぐそばで首を傾げた夕立にツッコミ返す俺。さっき海に落ちたばかりだが、額に汗がにじんでいるのは気のせいだろう。
『20発の制限のうち、まさかの13発ヒットは断トツの1位でしたねー』
『ま・さ・に、ありえませんわ!
あれほど避けるのに必死になっていた元帥ですけど、その先を読んで的確に当てる時雨ちゃん。そして、焦ったところを見逃さない龍田ちゃんのコンビネーションはまさに完璧と言っても過言ではありませんことよ!』
青葉の質問形式に、これでもかと早口で答える熊野。おそらく元帥が居ない代わりなんだろうが、半ばテンションが高い為か少し聞き取り辛かった。
「あらあら~。私たちが1位なんですって、時雨ちゃん~」
「うん、そうだね。結構上手く当てることができたけど、先生は僕の活躍を見ていてくれたかな……?」
「ちゃんと見ていてくれたんじゃないかしら~。
もし見ていなかったら、お仕置きしちゃえば良いのよ~」
「お、お仕置きって……、そんなこと、僕にはまだ早過ぎるよ……」
そう言って、なぜか頬を赤くしながら海上で座り込む時雨。
いや、なにを想像したのかまったく分かんないけど、嫌な予感しかしないんですが。
ただでさえ第1回目の争奪戦から雰囲気が変わったんだし、これ以上悪化して欲しくないんだけどなぁ……。
『さて、それでは続いて2位の発表です!』
『ダラララララララ……』
ま、毎回ドラムロールを言っちゃうんだね……。
『…………ダンッ! 2位は愛宕チーム!
暁ちゃんと響ちゃんの姉妹コンビですわ!』
引き続いてノリノリの熊野が発表すると、周りの観客から「おぉ~……」と歓声とため息が入り混じった声がいくつも聞こえてきた。
『1位のしおいチームには敵いませんでしたが、6発ヒットで第2位です!
龍田ちゃんと同じタイミングで当たることがあったので、運も味方したみたいですねー』
「な、なによもうっ!
暁はちゃんと狙って当てたんだから!」
「いや、運も実力のうちと言うからね。
響もそうやって生き延びたこともあるんだよ」
「そ、それは、まぁ……そうだけど……」
響の説得に納得しきれていないながらも頷く暁だが、これではどっちが姉なのか分からない。
まぁ、そんなところも含めて、雷と電も合わせての4人姉妹だが、案外ああいう感じで上手くいっているのだから問題はないんだよね。
『更に3位の発表です!』
『ダラララララララ……ダンッ! 3位は港湾チーム!
レ級ちゃんと五月雨ちゃんのコンビですわ!』
「ムゥ……。思ッテイタヨリ、当タラナカッタ……」
「ま、まだ次の競技もありますし、頑張りましょう!」
「セメテ、赤魚雷群ガ出レバ良カッタノニ……」
「あ、赤……?」
肩を落とすレ級の言葉がさっぱり分からなくて、五月雨の頭の上には『?』のマークがたくさん浮かび上がっている……気がする。
まぁ、あくまでそんな感じという比喩だけど、それ以前にギャンブルネタを引っ張り続けるのはやめにしなさいと注意した方が良さそうだ。
なお、赤はかなりアツイんで嬉しいんですが。
『そして第4位は……』
『ダラララララララ……』
そんなことを考えているうちに、ついに4位までやってきてしまっていた。
できるだけ上位に食い込んで欲しいという俺の願いは叶わなかったが、せめてここで呼ばれて欲しいところである。
第3競技で4位の結果になった以上、ここでも点を取れないとなると優勝はかなり難しいどころか不可能な場合もあるのだけれど……、
『…………ダンッ! 4位はビスマルクチーム!
マックスちゃんとろーちゃんのコンビですわ!』
「……不甲斐ない結果だけど、ビリだけは避けられたみたいね」
「あぅぅ……。失敗しちゃったですって……」
少し表情を曇らせながらもクールに呟くマックスに、大げさに身体全体で気持ちを表現するろーがため息を吐いた。
「マジ……かよ……」
そしてこの瞬間、俺のチームが最下位だということが判明し、目の前が真っ暗になってしまいそうになる。
ちゃんと計算していないのでハッキリとは分からないが、この結果によって全チームの中でもかなり順位を落としたかもしれない。
つまりそれは、俺の所有権争いから逃れるすべをなくしてしまったということ。
恐れていたことが現実になる可能性が高く、場合によっては幼稚園が取り壊しなる未来すら考えられてしまうのだ。
それだけはなんとしても避けなければならないが、今の俺にできる手段は思い浮かばず、ただため息を吐くことしかできなかったのだが……、
「せ、先生……。げ、元気を出して……下さい……っ!」
「そ、そうでありますっ!
まだ最後の競技が終わっていないのに、諦めるなんて先生らしくないでありますっ!」
「潮ちゃんやあきつ丸ちゃんの言う通りっぽい!
夕立たち、最後の最後まで諦めないっぽいっ!」
「み、みんな……」
落ち込んでいた俺の周りを取り囲むように3人が集まり、元気が出るように励ましてくれている。
運動会の競技に出るのは子供たちで、俺は指示をしているだけの存在だった。
そりゃあ頑張ってくれるように応援もしたが、頭の中を大きく占めていたのは争奪戦で勝利し、俺自身を守ろうとすることに集中し過ぎていたのだ。
ことある毎に何度もそうじゃないと考え、子供たちが運動会で楽しめるように精一杯努力しようと思っていたのに、悪い結果が出た途端に元の思考に舞い戻ってしまっていたのである。
それを潮やあきつ丸、そして夕立は俺に気づかせてくれ、自分たちも苦しく悲しいはずなのに励ましてくれているのだ。
「お、お前たち……」
大切なのは勝つことだけじゃない。
いかにして運動会というイベントを楽しむか。
そして、艦娘として成長する為に訓練してきた成果を、今ここでみんなに見せる為に頑張ってきたんじゃなかったのか。
改めてその思いが頭の中を駆け巡り、自分の不甲斐なさを受け止めているうちに目頭が熱くなってくる。
「せ、先生……」
眼に滲んできた涙に気づいた潮は、オロオロとしながら俺に声をかける。
「あ、いや……、すまんすまん」
指で両眼を擦ってから立ち上がり、3人の顔を見てからニッコリと笑いかけた。
「そうだな……。まだ次の競技が終わっていないのに、諦めるなんておかしいよな」
「そ、そうでありますっ!」
「うん……。潮たちも頑張るから、先生も応援を……して下さい……っ!」
「夕立、全力でぶっ飛ばすっぽい!」
な、なにをぶっ飛ばすんだ……と、一瞬焦ってしまったけれど、夕立は気合充分であることを表現する為にその言葉を選んだのだと理解する。
そして、俺はいつものように子供たちの頭を撫で、満面の笑みを浮かべたのだ。
諦めるなんて、俺らしくない。
家族から引き裂かれたとき、俺は復讐の為に苦難を乗り越えて生き延びた。
努力を重ねて試験を受け、舞鶴の幼稚園に配属されることになる。
それは、復讐という思いを達成することができないところではあったけれど、俺が新たな未来を見つけられる切っ掛けを多く与えてくれたのだ。
そして、まさか死んだ弟と海底で再開し、ひょんなことから占領された呉の奪還作戦を行い、更には新たな幼稚園を作る為に佐世保で働きもした。
いろんな場所で、いろんな人や艦娘、そして深海棲艦とも出会ってきた。
それらは全て俺の中で経験としていきづき、楽しい毎日を過ごさせてもらっている。
そりゃあ刺激があり過ぎたりもするけれど、飽きがこないと言えるのだろう。
だからこそ、この環境を壊したくない。
だからこそ、俺は諦める訳にはいかないのだ。
これはいがみあった争いではなく、楽しいイベントとして受け止める。
そして、みんなが喜びあえる未来を描く為に……、俺は諦めず前に進むのだ。
もの凄く臭い言葉を選びまくっているかもしれないけれど、これが本心である。
さぁ、それじゃあ始めよう。
最後の第5競技に全力で立ち向かい、最高の未来を勝ち取る為に。
「あの……さ、先生……」
「……え?」
「なんか、1人頭の中で盛り上がっているみたいだけどさ、すっごく顔が気持ち悪いことになっちゃってるよ……?」
「……ぶっちゃけ、そのまま海に沈んで欲しいレベルですね」
競技を終えたとき以上に表情を曇らせた北上と、まるで嫌いな虫なんかを見るような眼を浮かべた大井が、いつの間にか戻ってきていた。
「あ……、これは、その……だな……」
「まぁ、私たちが不甲斐ない結果を出しちゃったから仕方ないっちゃあ、仕方ないんだけどさー」
「その点についてはなにも言えない立場ですけど、キモさ加減は限度を超えちゃってますもんねー」
「た、確かに、少しばかり変な顔では……ありますな」
「そ、そう……なのかな……?
別に、潮は気にならないと……思うけど」
「う、潮……」
唯一俺寄りな言葉をかけてくれた潮に泣きそうになったのだが、
「夕立は、別に先生の顔がどうなっても平気っぽい!」
「……ごふっ」
夕立の一言で、完全に轟沈してしまったのはここだけの話……ではない。
見事に、胸に突き刺さるナイフのようでした。
最後の競技を前向きに……、頑張れる……よね?
次回予告
夕立の追い打ちで瀕死の重傷を負った主人公。
しかし次の競技は待ってくれない。最終競技が始まります。
まずはパン食い競争……開始!
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その54「泣いても笑っても」
乞うご期待!
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