申し訳ございませんがご理解いただけますと幸いです。
元帥の悲鳴が響き渡るも、これは完全なる公開処刑。
これで良いのか舞鶴鎮守府。このままで良いのか観客&その他大勢。
まぁ、それでもなんとかなるのはいつものことなんだけど。
ところでもう1人、処刑されるべき者が居るとすれば……?
「誰か助けてぇぇぇっ!」
足こぎボートをフル稼働しながら叫ぶ元帥の悲鳴が辺り一帯に響き渡るが、誰も助けに行こうともしない。
まぁ、今までやってきたことを考えれば自業自得だろうし、観客の視線も元帥ではなく子供たちの方に向いているからね。
つまり、まさかの公開処刑。昼のイベントに続いて、踏んだり蹴ったり感が半端じゃない。
俺以上に不幸が舞い降りるとは、なかなか元帥もやるじゃないか……と、内心ほくそ笑むことにする。
それくらい怒っているのだ。うむ、俺は悪くない。
「むむっ、ちょこまかと動き回られたら、なかなか当たりませんね……」
放った魚雷が避けられてしまった大井は、親指をガジガジと噛みながら白鳥ちゃんを睨みつけた。
その表情はかなり不満げで、嫁姑戦争まっただ中って感じに見える。
……いやまぁ、例えがあれだったかもしれないけれど、なんとなくそう感じちゃったのはなぜだろう。
愛宕や俺が担当する子供たちと違い、なんとなく雰囲気が違うんだよなぁ。
「うーん、こりゃあ難しいねぇー……」
大井の隣で魚雷を放った北上も、白鳥ちゃんのすぐ横を通り過ぎて行く航跡を見て力なく肩を落としている。
「私の魚雷だけでなく、北上さんのまで避けるなんて……、元帥許すまじっ!」
眼力MAXで白鳥ちゃんに乗っている元帥睨みつける大井だが、他の子供たちも残念そうな顔で悔しがっているところを見ると、なかなかに難易度が高そうだ。
さすがは腐っても元帥……と言いたいところだが、そもそもこんな状況に遭うこと自体がおかしいよね。
キュインッ!
そんな中、いきなり白鳥ちゃんの頭にあるパトランプの1つが光り、大きな甲高い音が鳴り響いた。
「ひいっ!?」
驚いた元帥が悲鳴を上げ、身を乗り出してパトランプを見た後、海面より下にある白鳥ちゃんから側面へと顔を向けた。
『おおーーーっと、遂に的である白鳥ちゃんに魚雷がヒットーーーッ!
パトランプの色が黄色ですから、しおいチームの龍田ちゃんか時雨ちゃんだーーーっ!』
解説を聞いた観客たちが「おおっ!」とざわめき、元帥の顔色がサー……と青くなるのが遠目でも分かる。
果たして、あと何回魚雷を受けてしまうと爆発するのか。明確な数が分からない元帥としては、気が気でないだろう。
いや、そもそもそんなに怖いんだったら白鳥ちゃんから飛び降りて逃げれば良いんじゃないかと思うんだけれど、それならそれで高雄からのお仕置きが待っているのは明白だし、すでに詰んでいると言っても良いのかもしれない。
唯一助かる方法は、子供たちから放たれる魚雷から逃げることのみであり、当たった場合は爆発しないことを祈るしかない。
「やっと私の魚雷が当たったわ~」
龍田がニッコリと微笑みながらクルリとその場で回転する。すると、その動きに他の子供たちが感化されたのか、一斉に魚雷を発射した。
「……っ!」
ヤバい感じを察知した元帥が急いで足を動かし始めると、白鳥ちゃんの後方から泡と波が起きて前方へと進みだした。
「ふむ……、そうだね。その感じだと、この角度かな……?」
その動きをしっかりと見てから、龍田の隣で様子を伺っていた時雨が右足を前に出し、タイミングを計るように呼吸を止めて集中する。
「うおりゃあああっ!」
元帥は迫ってきた魚雷を避けようと大きく叫びながら足を動かし、ハンドルを捻って進む方向を大きく変えた。
「ああっ! また避けられちゃったじゃないっ!」
「くっ……。さすがの響も、あの動きは読めないかな……」
自らが放った魚雷が外れ、またもやガックリとうなだれる暁と響。他の子供たちも同じように残念そうな表情を浮かべ、恨めしそうに白鳥ちゃんを見つめていた。
しかしそんな中、タイミングを見計らっていた時雨が眼をキラリと光らせた瞬間、
「……ここだね」
――そう、小さく呟いて艤装から2本の魚雷をほんの少しだけタイミングをずらして発射した。
「またきたかっ!」
最初に発射した魚雷は白鳥ちゃんへと真っ直ぐに進み、すぐさま察知した元帥が回避行動を取るべく足をフル稼働する。
発射直後に起こる航跡から迫りくる魚雷の角度を判断し、ハンドルを捻る元帥。子供用かつ模擬魚雷とはいえ、酸素を使っている為に視認しにくく、この方法しかない。
しかし、その方法で子供たちが放った多くの魚雷を避けまくっている元帥は、やっぱり色んな意味で凄いと思う。
「フフフ……ッ。さっきの直撃は失敗したけど、今度はそうはいかないよっ!」
白鳥ちゃんのすぐ後ろに魚雷が走って行く音を聞いたのか、元帥は勝ち誇ったかのような表情を浮かべながら大きく叫ぶ。
だが、まるでそれを予想していたかのように、時雨は口元をほんの少し釣り上げた。
「おわっ!?」
ガクンと白鳥ちゃんが揺れ、元帥が咄嗟にハンドルを握って転落を免れようとする。
キュインッ!
「ちょっ、マジッ!?」
鳴り響く甲高い音と、同時に光る黄色のパトランプ。同じくして観客がどよめきたち、すぐに歓声が上がった。
『またもや、しおいチームのパトランプが点灯ーーーっ!』
キュインキュインッ!
「うふふ~。この隙はちゃ~んと狙わないとね~」
「嘘ーーーっ!?」
満面の笑みで薙刀のような棒を頭上でクルクルと回し、喜びを表現する龍田が優雅に舞う。
「やばいやばいやばいっ!」
対して大慌ての元帥は額に大量の汗をかきながら、足を動かしつつ子供たちの海面に視線を向けて魚雷の角度をなんとか判別しようと必死な顔を浮かべていた。
『続いて龍田ちゃんの魚雷が2連続でヒットーーーッ!
このままだと、他のチームが置いてかれちゃいますよーーーっ!』
「ちょっ、青葉、煽るんじゃないよーーーっ!」
『これが青葉の仕事ですからねー』
「この裏切り者ーーーっ!」
叫ぶ元帥はもとより、実況解説の青葉が返答するのはあまり良くないと思うのだが、これはまぁ、仕方がないことかもしれない。
だって、青葉だし……で、納得してしまう俺が居る。
おそらく子供たちや高雄も同じ考えなんだろうなぁ……と思っていると、
「くっ、このままではマズいわ……」
「ろーちゃん、今度こそ当てますって!」
……うん、バッチリ煽られていた。
「1人前のレディは、失敗を続けないのよっ!」
「今度は……やるさ」
やる気満々の暁に、クールながらも胸の内に秘めた気合を表に出す響の眼がちょっとだけ怖い。
「スーパー魚雷タイム、突入ッ!」
「え、えっとレ級ちゃん、それってなんですか……?」
「魚雷群ガ走ルト、激熱ッ!」
「……え、え、えっ?」
両手を上げつつ魚雷を発射しまくるレ級に対し、なにを言っているのか全く分からない五月雨。
つーか、レ級はなんでそんなネタを持ちだすんだよ……って、これもル級のせいだろうなぁ。
………………。
子供にギャンブルネタとか仕込むんじゃねぇよっ!
「はいはい。ちゃっちゃと当てちゃいますよ~」
「さっさと沈めば良いのよ……」
「……大井っち、なんか言った?」
「あ、いえ、なんでもないですよー?」
「ふうん……。まぁ、良いけどさー」
そして俺のチームの2人は、あいも変わらずマイペースな北上に、かなりヤバげな発言をしている大井だけれど、未だ1度も当てれていないというのは少々どころか非常に心配なんだよな。
この2人だったら大丈夫だと思っていただけに、これはかなりヤバいかもしれない。
第3競技に続いて第4競技も上位が取れないとなると、優勝の目が遠のいてしまうのだが……。
「いや、こういう時だからこそ応援しないといけないよな……っ!」
指揮を取るべき俺がマイナス思考になってしまったら、完全に詰んでしまうことになる。
まだ競技は始まってからそれほど経っていないし、魚雷の残りもあるはずだ。
「北上ー、大井ー!
諦めずに頑張るんだーーーっ!」
「そうでありますっ!
まだまだ勝負は終わっていないでありますよーっ!」
「2人とも、頑張るっぽいー!」
「が、頑張んばって……下さいっ!」
俺が応援をし始めると、チームの子供たちも釣られるように大きな声を出した。
「うぅー、なんだか少し恥ずかしい気もするけど、いっちょやったりますかー」
「そうですね、北上さんっ!
大井、酸素魚雷20発、発射ですっ!」
気合を入れ直した北上に大井。
だが、初期の段階で魚雷は10発しかないはずだから、その数を発射するのは無理なんだけど……。
まぁ、それも気合の表れってことで良いんじゃないかと思っていたら……、
「ああっ!
もう魚雷の残数がありませんっ!」
「そりゃあ、一気に発射しちゃったらそうなっちゃうよね……」
「くぅっ! 私ったら、なんて失敗を……」
ガックリと肩を落とす大井……って、ちょっとそれマジで洒落にならないんですけどーーーっ!?
「あ~、もうやっちゃいましょー」
そして、まったくやる気のない言葉が北上の口からこぼれたんだけどっ!?
諦めるの早過ぎだってっ! まだ北上の方は残数があるんだからちゃんと狙おうよねぇっ!
「とりあえず、この辺に撃っときゃ当たるかなー?」
「まったくやる気が微塵も見えねぇぇぇぇぇーーーっ!」
ほんの少し前まで頑張る雰囲気見せていたじゃん! 一体全体、どうしてそんな風になっちゃったのさーーーっ!?
「こ、これは……、ちょっと不味そうな感じであります……」
「感じじゃなくて、本当にヤバいっぽい……」
「だ、大丈夫……じゃなさそう……だよね……」
北上と大井の様子を見ていたあきつ丸、夕立、潮は、かなり不安な表情を浮かべながら呟いていた。
もし、この競技でビリになってしまったら……。
それはつまり、俺の所有権がほぼ確実に――失われてしまうということになる。
この競技の結果にもよるが、下手をすれば次を待たずしてBADEND直行ルートへ進んでしまう。それだけはどうにかしてでも避けなければいけないと思った俺は、藁にもすがる思いで大声を上げた。
「が、頑張れっ! 北上だけが頼りなんだーーーっ!」
「「「なっ!?」」」
「……え?」
視線の先に居る北上と大井。そして俺の周りに居るあきつ丸、夕立、潮。更には付近の観客どころか、いたるところから視線が向けられているんですが。
「え、えっと……、ど、どうしたの……かな……?」
身体中が凍りつくような感覚が襲い、冷や汗をかきながら周りを見る。
「せ、先生は今、告白をしたでありますか……?」
「いやいや、なんでそういうことになっちゃうのっ!?」
小さい声で呟いたあきつ丸にツッコミを入れる俺だが、付近からの冷たい視線は止むことなく、更に強くなった気がした。
「んぁー、いきなりそんなことを言われちゃうと……、ちょっち恥ずかしいよねー」
言葉とは裏腹に、そんな素振りをまったく見せない北上ではあるが、問題はその隣に居る大井であるのだが、
「あ、あれ? 大井はどこに行ったんだ……」
キョロキョロと海上を見渡してみるが、その姿はどこにも見えない。
さっきまで北上の横で大きく肩を落としていたはずなんだけれど、魚雷の補充はできないからその場に居るしかないのだが……、
「先生……、知ってます……?」
「……っ!?」
いきなり背後から声が聞こえたので振り向こうとするも、腰の辺りになにかが突き付けられた感触によって身体が固まってしまい、身動き一つできなかった。
「九三式酸素魚雷って……、冷たくて、凄いんですよ……?」
「な、なんでそんな話をここで……?
そ、それ以前に、さっきまで北上の横に居たんじゃ……ひっ!?」
「北上さんにまとわりつく虫は、全て消さないといけないからじゃないですか……」
「い、いやいやっ!
俺にそんな気はまったくないからっ!
さっきの言葉は、ただ単に応援しただけだからっ!」
「本当……ですか……?」
「か、神に誓って、間違いないですっ!」
「そう……。なら、良いんですけど……」
耳のすぐそばから聞こえてくる大井の声が遠ざかり、腰のあたりの感触が消えたことで俺はホッと胸を撫で下ろそうとしたのだが、
「でも……」
「……え?」
「勘違いするような発言は……、しないで下さいよねっ!」
いきなり大井が叫んだことによって驚いた俺は、無意識のうちに身体が硬直してしまい、
「のわあっ!?」
続けて襲いかかってきた衝撃をまともに食らったせいで、俺の身体は大きく宙に浮いてしまった。
「み、見事な……、ドロップキックであります……」
……と、あきつ丸の声が聞こえたときには時すでに遅し。
俺の身体は海へと叩きつけられ、3度目の水泳と相成りましたとさ。
2度あることは3度ある。でも、正直止めて欲しいです。
※先月中旬から時間が取れなくて執筆が進まない状況が続いており、ストック分がなくなった場合更新が不定期になる場合があります。
申し訳ございませんがご理解いただけますと幸いです。
次回予告
またもや海へドボンな主人公。そして焦りまくる元帥。
この世は地獄か、それともある意味天国か。
そんなことを考えつつも、第4競技は終了です。
そして結果を知った主人公が考えついた先に、いったいなにがあるのだろうか……。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その53「追い打ち連打」
乞うご期待!
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