しかし主人公としては諸手を上げて喜びたいところだったのだが、だんだんとやり過ぎ感がしてくることに。
いやまぁ、やっぱり自業自得だから仕方ないね。
『それではまず、第4種目に出場する子供たちの紹介ですっ!』
元気いっぱいの青葉の声が響き渡り、ちょっぴり頭がガンガンする。スピーカーの音量ではなく、昼に行われたイベントが原因だと分かっているだけに、余計に疲れてしまう気がしてしまっているのが現状だ。
これも全ては元帥が悪い。
いつか仕返しをしなければならない……と、頭の中で模索しつつも、準備を終えて海に浮かぶ子供たちの方へと眼をやった。
『まずはビスマルクチームから、マックスちゃんとろーちゃんの登場ですっ!』
「さて……、後半戦に勢いをつける為にも、ここで頑張らないといけないわね」
「ろーちゃん、頑張りますって!」
立ったまま前を向き、クールに決めるマックス。その横で右手を空高く掲げながらジャンプをする、元気いっぱいのろーが観客席にウインクをした。
その瞬間、S席に座っていた男たちの表情が一変し、だらしがない笑みを浮かべたのだが……まぁ、それは仕方がないのかもしれない。
だって、ろーってマジで可愛いし、そのまま部屋に連れて帰りたくなっても不思議ではない。ただ、それをやったら幼稚園に関係する全員がガチで止めにかかり、最後は仕置き人の手にかかることになるだろうが。
ある意味魔性の女の子。それがろーなのである。
……って、なんか俺、滅茶苦茶なこと考えている気がするんだけど。
疲労が蓄積し過ぎて思考回路に問題が起こっちゃっているのかなぁ。
『続きまして、愛宕チームからは暁ちゃんと響ちゃんの登場ですっ!』
「今度こそ、暁が1人前のレディであることを証明しちゃうんだからっ!」
「暁の言い分はもとより、午前中の競技は散々だったからね。ここはなんとしても上位を取らせてもらうさ」
こちらもビスマルクチームと同じような組み合わせなんだが、姉妹である分チームワークに期待ができそうな感じに思える。
『次はしおいチームから、龍田ちゃんと時雨ちゃんの登場ですっ!』
「あら~、私の魚雷……うずうずしてる~」
「酸素魚雷……か。うん、詰んだ感じは悪くないよね」
不敵な笑みを浮かべた龍田が薙刀のような棒を振り回し、時雨は太ももに装着している艤装に顔を向け、眼を細めながら見つめていた。
……こっちは両方がクールって感じだけど、色んな意味で怖いんですが。
今から殴り込みに行きそうな龍田に、準備を完璧に済ませる為にナイフを研ぐ時雨のような光景が目の前に浮かびそうで、勝手に膝が震えているんですが。
なお、恰好は完全な暴走族なレディース衣装。どうしてこうなった。
『な、なんだか少し怖い気もしましたが……大丈夫でしょうっ!』
青葉も同じ気持ちかよ……と、少し安心しつつもため息を吐く俺。
『さて、続きましては港湾チームより、レ級ちゃんと五月雨ちゃんの登場ですっ!」
「レ級、リベンジノマッキッ!」
両手を高く上げてガッツポーズをしながら、なぜか次回予告をするレ級。
脳内イメージは忍者とチクワ大好き犬がセットです。
「さ、五月雨、今度こそは失敗しないように、がんばりまひゅっ!
そして、気合が空回りして噛んじゃう五月雨は……、うん、まぁ頑張れ。
『ラストは先生チームより、北上ちゃんと大井ちゃんの登場ですっ!』
「はーい。ほどほどに頑張っちゃうよー』
「北上さんが居れば、この大井……負けるはずがありませんっ!」
超がつくマイペースな北上が軽い感じで右手を上げ、隣では大井が鼻息を荒くして気合を入れていた。
うむ。この2人に任せておけば、第4競技は間違いがない。
疲労で動きが鈍けれど、今回ばかりは助言もなにも必要なさそうだからね。
なぜ、それほどまでに余裕が持てるのかと言うと、その理由は……言わなくても分かるだろう。
北上と大井は、成長すれば雷巡になる艦娘。たとえそれが子供であっても、いかんなく発揮してくれるはずだ。
『出場する子供たちの紹介が終わりましたので、今度は競技の説明に移りたいと思いますっ!
第4競技は午前とは少し違い、艦娘らしい種目で競い合って貰いますっ!』
張り切る青葉の声が一旦止まると、倉庫がある方からキコキコと音が鳴り始めた。
『艦娘と言えば砲雷撃戦!
水雷戦隊の華と言えば魚雷!
今回の子供たちの艦種からも分かる通り、雷撃合戦を行いますっ!』
その説明に、観客の方からざわついた声が上がり始める。
おそらくは、子供たちがちゃんと魚雷を発射できるのか、また安全なのかどうかを心配しているのだろう。
しかし、第1回の争奪戦に巻き込まれてしまった俺としては、その辺りの不安はない。あるとすれば実弾を使っているんじゃないよね……? という心配だが、さすがに高雄や愛宕が監修しているだろうから問題はないはずだ。
ま、まぁ、第3競技で明らかなリハーサル不足があったことも事実なだけに、100%とは言えないけどさ。
『ルールは簡単!
各チームは2人1組で魚雷を発射し、的に当てた数を競い合ってもらいます!
1人が持てる魚雷の数は5本で、合計10本を発射することができるのですっ!』
青葉が事細かに説明してくれているおかげで、観客は一同にウンウンと頷いている。
『ここまではいわゆる普通の艦娘による魚雷演習と発射できる数に限りがあること以外ほとんど変わりませんが、それじゃあ運動会の競技としてはイマイチです!
そこで、よりゲーム性を持たせる意味合いと、色々な大人の事情が入り乱れ……って、あ、はい。これは喋らなくても良い?』
……おい。裏方との会話まで聞こえちゃっているぞ、青葉よ。
色んな意味で抜けているのは五月雨だけじゃないけれど、青葉だから仕方がないよね。
『……ごほん。ちょっとばかり打ち合わせ不足でしたことを謝りつつ……、もちろん止まった的に当てても面白い訳がありません!
そこで、こういったものをご用意いたしました。子供たちが向いている前方に注目して下さいっ!』
大きく叫ぶ青葉の声を聞いて、観客は一斉に指定された方へと顔を向けた。
そこには、先ほどから聞こえてきたキコキコという音と一緒に、どこかで見たことのあるフォルム……って、あれは公園の池とかに浮かんでいる白鳥の姿を模した足こぎボートだよな……?
なんだか白鳥の頭部分に5つのパトランプが並んでいるけれど、これってやっぱり競技用に改造したからだろうか。
いや、それよりも気になるのは、運転席に座っているのって……元帥だよねっ!?
顔がボコボコになっているけど、あの服装と雰囲気から元帥で間違いないと思う。しかし、昼のイベントではあそこまで酷くなかったと思うんだけど、時間が経って腫れてきたってレベルじゃないよね……?
ま、まぁ、午前中の流れから考えれば高雄に言われて半ば強制的にって感じなんだろうけれど、昼のイベント参加だけじゃ怒りが収まらなかったんだろうなぁ……。
そして、それに巻き込まれてしまった俺も……。うむ、今日も不幸で間違いない。
『あそこに見えたるは動く的!
そう……、子供たちはあの白鳥に向かって魚雷を発射し、点数を競い合って貰うのですっ!』
その説明に、またもやざわつく観客一同。
そりゃそうだ。だって、乗っているのが元帥だもの。
仮に元帥だと分からなかったとしても、人間が乗っていることに変わりがない。
そして子供であることを踏まえたとしても、艤装から発射される魚雷が直撃すれば白鳥ボートが危険であると思えてしまうのは当たり前。ましてや午前からの競技で子供たちの性能を見ている以上、なめてかかるような観客はいないだろう。
つまり、普通に考えれば元帥の犠牲はほぼ確定なのだが、さすがにそんな公開処刑を運動会で行うことはしないと思う。
……思うんだけど、まさかってことはないですよね?
『もちろん魚雷がHITしたことが分かるように、白鳥の頭についているパトランプが光るように改造してあります!
ビスマルクチームが青、愛宕チームが赤、しおいチームが黄、港湾チームがピンク、先生チームが緑のランプに対応しています!』
だが、そんな心配を全く気にすることなく青葉は説明を続けていく。
『光った数をこちらで集計し、最終的に合計得点を競技終了時に告知します!
なお、同点の場合は先に魚雷を撃ち尽くしたチームが上位となります!』
ふむふむ……、なるほど。
説明は非常にありがたいのだが、聞きたいことはそれじゃない。
『ただし! 的である白鳥ちゃんは移動を行うので、もしかするとまったく当たらない可能性もあります!
先に撃ち尽くした方が有利になるとは一概に言えないかもしれませんね!』
今度は子供たちに向かって助言を行う青葉だが、そろそろ本題に入ってくれないだろうか。
『あ、ちなみに子供たちが発射する魚雷は爆発しないように火薬は入っていませんので、気にせず狙って下さいねー』
……と、やっと心配していた内容が聞けたことで、ホッと一安心というところなのだが、
「あら~。それじゃあ、当てても面白くないじゃない~」
いやいや、龍田よ。それマジで洒落にならないからね?
いくらなんでも舞鶴で1番偉い元帥を沈めたとなれば、色んな問題が山積みになってしまう。
まぁ、そんな競技に参加した段階でどうなんだと問われれば言葉に詰まるかもしれないが、おそらく強制的にやらされているだろうから、ややこしくなることには間違いないだろう。
「あっはっはー。さすがに僕も爆発に巻き込まれるのは勘弁して欲しいからねー。
でもまぁ、練習も兼ねて競技を盛り上げる為にも、バッチリ狙って……」
『あ、はい。え、あ、そうなんですか……?』
元帥が龍田に向かって話しかけていた途中で、若干戸惑っているのが伺える青葉の声がスピーカーから聞こえてきた。
『えー、追加情報です。
魚雷は爆発しませんが、白鳥ちゃんに多くの衝撃が与えられると、内蔵された爆弾が爆発してドクロマークの煙が上がる……だそうなので、元帥は必死で逃げて下さいだそうですー』
「ちょっ、マジでっ!?」
「あら~。それだったら問題ないわね~」
「いやいやいや、問題ありまくりだって!
足こぎボートに爆弾設置って、どう考えてもおかしいよねっ!?」
『それくらいしないと、元帥はサボりそうだから必要設備……だそうです!
そ、そういうことなので、子供たちも元帥も、全力で頑張って下さいねっ!』
「「「はーいっ!」」」
「はーい……なんて、返事ができる訳が……」
『それでは第4競技を開始します!
魚雷発射よーい……ゴーーーッ!』
「ぼ、僕の話を聞けよぉぉぉっ!」
悲鳴を上げる元帥だが、ジッとしていては非常に危険だと即座に判断したのか、必死で足こぎを開始し始めた。
「舞鶴の元帥に恨みはないけど、これも先生を手に入れる為よ……」
「尊い犠牲……ですって!」
「暁がレディであることを、証明するんだからっ!」
「ypaaaaa!」
「あはははは~。発射するわよ~」
「僕の酸素魚雷……、存分に味わってよね」
「元帥、処ス!」
「あ、あの、その……、ごめんなさいっ!」
「元帥に恨みはないけどさー、自業自得だよねー」
「女の敵……、悪、即、斬ですっ!」
「ぎにゃああああああああああああああっ!」
……とまぁ、気合充分な子供たちの声と元帥の悲鳴が一斉に上がり、第4競技が開始されたのであった。
俺の仕返し、こんなところで叶っちゃった……?
次回予告
元帥の悲鳴が響き渡るも、これは完全なる公開処刑。
これで良いのか舞鶴鎮守府。このままで良いのか観客&その他大勢。
まぁ、それでもなんとかなるのはいつものことなんだけど。
ところでもう1人、処刑されるべき者が居るとすれば……?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その52「必殺仕置……人?」
乞うご期待!
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