艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 第3競技が終わり、午前の部が終わった。
これから昼休み。食事タイムと思いきや、とあるイベントが催されることになった……のだが、それは番外編へと向かうようです(ぇ

 ということで、第4競技へと続きます。


その50「閑話休題……にはならなかった?」

 

『ぴんぽんぱんぽーん。

 本日は舞鶴鎮守府観艦式、及び艦娘幼稚園の運動会にお越しいただき誠にありがとうございます。

 午前中の予定である第3競技が終了し、子供たちは一旦お昼休みになりますので、この時間を利用してお食事や鎮守府内の観覧をお勧めいたしますわ』

 

 あきつ丸と潮を迎えたところでスピーカーから熊野の声が聞こえ、観客の方から残念がるようなため息が漏れた。

 

『なお、ただ今から30分後、鎮守府内にある第2体育館にてとあるイベントを催します。

 もしよろしければ、足を運んでいただけますと楽しめるかもしれませんわ』

 

 そんな内容を聞かされては……と、多くの観客たちが様々な表情を浮かべて顔を上げる。

 

 ……が、俺はそんな様子を見て、ぽかんと口を開けたまま固まってしまう。

 

「第2体育館でイベントって……、全く聞いてないぞ……?」

 

「せ、先生、どうしたんですか……?」

 

 かろうじてボソリと呟くと、潮が近づいてきてズボンのすそをクイクイと引っ張りながら不安そうな表情を浮かべている。

 

「あ、いや、ちょっと初耳だったんでな」

 

「初耳って……、なにがですか?」

 

「今、熊野が放送でとあるイベントを催すって言っていたけど、俺はそんなことを誰からも……」

 

「あっ、先生!

 こんなところでボーっとしているなんて、なにを考えているんですかっ!」

 

「……へ?」

 

 いきなり呼びかけられた俺は驚きながら声がした背後へ振り返る。

 

 するとそこには、今日の朝と同じように拳を空高く掲げたポーズをしながら、焦った表情を浮かべるしおいが立っていた。

 

 ……って、なんでスーパーアーツの硬直後みたいになっちゃってんの?

 

「そんな素っ頓狂な声を上げている暇なんてないですよっ!

 はやくしなきゃ、また愛宕先生が激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームになっちゃいますって!」

 

「いやいや、ランクが上がり過ぎてとんでもないことになっちゃっているんだけど……」

 

「いいから早くきて下さいっ!

 これ以上お仕置きされたら、しおいはもう立ち直れないかもしれないんですからっ!」

 

「子供たちの食事とかもあるし……って、そんなに手を引っ張らないでよっ!」

 

 問答無用と言わんばかりに俺を連れて行こうとするしおい。なぜそんなに焦っているのか分からないんだけれど、それよりも聞き捨てならない言葉があったよね?

 

「早く……、早くお願いしますってばぁっ!」

 

「だ、だからなんでそんなに焦ってるのっ!?

 それに、さっきお仕置きされたらって言っていたけど、それって愛宕先生にってこと?」

 

「そ、それは……、そ、その……」

 

 ツッコミを受けたしおいの引っ張る力が弱まったので、説明してくれるのかと思いきや、

 

「ナ、ナナ、ナンデモナイデス……。愛宕センセイハ、トテモイイカタデスカラ……」

 

「眼が死んだ魚みたいになっちゃってるんですけどっ!?」

 

 完全に光が消えて、意識がなくなっちゃっている風にしか見えないんですけどねぇっ!

 

「し、しおい先生まで……愛宕先生の餌食に……」

 

「あれ、潮ちゃんは知らないっぽい?」

 

「……え?」

 

「しおい先生って結構ミスが多いから、終礼の後にちょくちょく怒られているっぽいよ?」

 

「そ、そうなの……?」

 

「あんな眼をしてるくらいだからねー。相当絞られちゃってんじゃないかなー?」

 

「北上さんとはあまり関わりがないですけど、ちょっと可哀想にも思えてきますよね……」

 

「あ、あきつ丸は……、もう勘弁であります……」

 

 ……と、口々に小さく呟く子供たち一同。

 

 いやいや、君たちはいったいなにを言っているんだ……

 

「ヒィッ!?

 し、しおいはそんな悪いことはしていませんっ!

 だ、だから許してくだいよぉっ!」

 

「し、しおい先生っ!?」

 

 いきなり涙目になりながらガクガクと震えだしたしおいを見かねた俺は、慌てながらもギュッと身体を抱きしめて大きく口を開いた。

 

「だ、大丈夫。大丈夫ですからそんなに怯えないで下さいっ!」

 

「え……、あ……ぅ……はっ!?」

 

 力強くしたせいか、それとも呼びかけが効いたのか、しおいの眼に光が戻り、キョロキョロと辺りを見回してから現状に気づき、

 

「わ、わわわっ!」

 

「良かった……。正常に戻ったんですね」

 

「し、しおい、先生に抱きしめられちゃってますっ!」

 

「あっ、ご、ごめんっ!」

 

 俺は慌ててしおいから離れ、ペコペコと頭を何度も下げたのだが、

 

「あー……、これはマズイっぽいよねー」

 

「また愛宕先生に、勘違いされちゃうっぽい……?」

 

「え、えっと、そうなの……かな……?」

 

「まぁ、私はどうでも良いですけどね」

 

「ぷしゅー……であります」

 

 半ば呆れた顔を浮かべる北上、夕立、大井に、理解が追いついていない潮、そしてなぜか顔を真っ赤にして頭から大量の湯気を吹き立たせるあきつ丸たちが、じっと俺を見つめていた。

 

 うむむ……、ちょっと軽率な行動だったかもしれないな。

 

 それと、過去にも覚えのある背中に突き刺さるような視線はいったい……?

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「いやー、さっきの試合は本当に凄かったでありますっ!」

 

「そうかしら……。ギリギリで勝利って感じでしたけど?」

 

「そうは言うけどさ……大井っち。あの状況では仕方なかったと思うよ」

 

「先生、滅茶苦茶頑張っていたっぽい!」

 

「そ、そうだね……。あそこまで頑張る先生って、初めて見たかもしれない……かも……」

 

 ……と、こんな感じで待機場所に集まった俺のチームの子供たちがワイワイと騒いでいる。

 

 しかし、その話の中心である俺は……、

 

「あらあら、そんなところで真っ白に燃え尽きたボクサーのコスプレなんかしても、全然面白くありませんよ?」

 

「コスプレをしている気はないんだけど、今は少しでも体力を回復させたいから休ませてくれないかな……」

 

 大井の苦言&ジト目に対して大した反論もできず、椅子に座ってへこたれていたのである。

 

 ちなみに俺がこんな状態になってしまったのは昼休みのイベントが原因なのだが、正直語るのもしんどいので別の機会にしようと思う。

 

 あわよくば番外編で。

 

 つーか、これだとただの番宣です。

 

 ………………。

 

 ま、まぁ、なんだ。

 

 つまり、昼休みに行われたイベントを見ながら食事を取ることになった子供たちだが、色んな意味で大盛り上がりだったおかげか配布されたお弁当にほとんど手をつけていなかったようだった。

 

 そこで昼休みの残り時間で昼食を済ませてしまわなければ……と、ヘトヘトになりながらもチームの待機場所に戻って子供たちを急かそうとしていたのだが、体力も精神力もとうに限界を超えていたということなのだ。

 

 しかし、さすがに子供たちもお腹が減ってはなんとやら。第4競技が始まる前に空かしたお腹を膨らませようと、自主的にお弁当を食べつつ会話を楽しんでいるのだから問題はないのだろう。

 

 ということなので、俺はもう少し休ませてもらうことにします。

 

 

 

 

 

『ぴんぽんぱんぽーん。

 もうすぐお昼休みが終わりますので、第4競技に参加する子供たちは準備を済ませて集合場所に集まって下さい』

 

 それから20分くらいが経ったところで、熊野の声がスピーカーから流れてきた。

 

「おっと、それじゃあそろそろ行ってくるかなー」

 

「そうですね、北上さんっ!

 私たちの完璧なコンビネーションを、みんなに見せつけに行きましょう!」

 

 お弁当を食べ終えていた北上と大井が立ち上がり、軽くストレッチをしてから待機場所から出て行った。

 

「残る競技は……、あと2つっぽい?」

 

「う、うん……。夕立ちゃんの言う通り……かな」

 

「第3競技はあきつ丸が不甲斐ない結果を出してしまったゆえ……、北上殿と大井殿には頑張って欲しいでありますっ!」

 

 あきつ丸は両手で自分の頬をペチペチと叩いて気合を入れ、海の方に向かいながらいつでも応援ができるような体勢を取る。

 

「あ、あの、あきつ丸ちゃん……。競技の開始時間はもう少し後だから、まだ早いと思うんだけど……」

 

「いやいや、さっきの失敗を少しでも取り戻していただけるよう、ここは全力で応援するでありますよ!」

 

「今からそんなに張り切っていたら、本番で疲れちゃうっぽい……?」

 

「そ、そんなことはないでありますっ!

 あきつ丸の体力を持ってさえすれば、応援をし続けることくらい容易いはず……」

 

「あきつ丸が気合充分なのは感心するが、この後の第5競技は全員参加なんだから体力は残しておいてくれよ……?」

 

「……はっ!

 そ、そこまで頭が回っていなかったであります!」

 

 言って、焦った表情を浮かべながら頬を掻くあきつ丸。

 

 色んなところで抜けちゃっている感が否めないが、それはそれで可愛いところでもあるんだよなぁ。

 

 しかし、俺があきつ丸に注意したこともまた事実である。ましてや第5競技で運動会の競技が全て終わるのだから、失敗して貰っては困るのだ。

 

 責めるつもりはないけれど、あきつ丸が言った通り第3競技で4着になってしまった結果、ビスマルクのチームに総合得点で抜かれてしまっているのが現状であり、次の第4競技と最後の第5競技でなんとしても抜き返さなければならないのである。

 

 もし、それが失敗してしまったら俺の身が危うくなるのはもちろんのこと、北上が言ったように幼稚園が無法地帯と化してしまうかもしれない。

 

 子供たちを教育するべき立場の俺が原因となって幼稚園がなくなってしまったとなれば、悔やんでも悔やみきれない……では済まされないのだ。

 

「とは言っても……だ。みんなの応援で北上と大井を奮い立たせて、ぜひとも1位を取らないとな」

 

 俺はあきつ丸のそばに行き、優しく頭を撫でながらみんなに言う。

 

「うんっ! 夕立、いっぱい応援するっぽい!」

 

「潮も……頑張りますっ!」

 

「不肖あきつ丸、全身全霊で応援しつつも、第5競技に向けて準備をするでありますっ!」

 

 陸軍式の敬礼をしたあきつ丸はアキレス腱をストレッチすべく足を伸ばし、両手を手に添えていつでも応援をできるようにしていた。

 

 いや、だから、なんかこう……、空回りしまくっているせいか、どう突っ込んで良いか良く分からなくなってきたぞ……。

 

『さて、それでは第4競技に参加する子供たちの準備ができましたので、お昼の部を始めたいと思いますっ!』

 

 そうこうしているうちに青葉の声が辺り一帯に鳴り響き、まったりとしたムードだった観客席の面々の表情が一変する。

 

 頑張る子供たちを応援しようと、メガホンを持つ男たち。

 

 子供たちの雄姿を写真に収めようと、超大型の望遠レンズを装着したカメラを構える男たち。

 

 その他、なぜか一升瓶を片手に飲んだくれている男や、言動が怪しいチョビ髭なんかが居たけれど、未だに疲れが酷かった俺は突っ込む気力もなく待機場所の椅子に座りこんでしまうのであった。

 




次回予告

 第4競技の説明が始まった……と思いきや、またもやあの人が絡んだ模様。
しかし主人公としては諸手を上げて喜びたいところだったのだが、だんだんとやり過ぎ感がしてくることに。

 いやまぁ、やっぱり自業自得だから仕方ないね。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その51「尊くない犠牲?」


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