艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 青葉の実況が詰まり、主人公の目に驚きの光景が映る。
主人公のチームは劣勢に……どころか、忘れ去られそうな勢いにっ!?

 そして、完全に勘違いしていたことが発覚し、焦ったところで時すでに遅し……。


その47「地上と海上の差」

 

「「どっせーーーーーいっ!」」

 

 仲違いからスタートが遅れ、完全においてけぼりを食らったかのように思われていたプリンツ&霧島コンビが、大きな叫び声と共に怒涛の追い上げを見せていた。

 

『なんとここで最後尾に居たプリンツちゃん&霧島ちゃんコンビがいつの間にか4位に浮上ーーーっ!』

 

「はわわわわっ! 抜かれちゃったのですっ!」

 

「なにようもうっ! 雷も電も全力を出してるのにっ!」

 

 悲鳴に似た声をあげながらも運貨筒を押し続ける雷と電。しかしプリンツ&霧島のコンビとの差はどんどん開き、みるみるうちに大きく離されてしまった。

 

 出だしで全く動きが見られないほどの重い運貨筒だっただけに、このレースに必要なのは純粋な力であると思ってはいたんだけれど……、

 

『恐ろしいまでの速度に雷ちゃん&電ちゃんコンビでは太刀打ちできないーーーっ!

 そして更に、序盤から順位を落としているあきつ丸ちゃん&潮ちゃんコンビにも襲いかかろうとしているぞーーーっ!』

 

 単純に考えれば姉妹艦という括りがあるとはいえ、子供たちごとに馬力は違うだろう。そうなると、この競技には戦艦クラスの子を採用するのが最適であると思ったのだが、困ったことに俺のチームには夕立と潮の駆逐艦と、北上と大井の軽巡洋艦、そして陸軍からの揚陸艦であるあきつ丸の5人だったのだ。

 

 この中から2人を選んだとしても、おそらく他のチームに勝てる見込みは薄いかもしれない。しかし、陸軍仕込みのあきつ丸に期待しつつ、もしかすると……と思って潮を採用したのだが……、

 

「あ、あきつ丸……ちゃん。後ろから……また……っ」

 

「こ、これ以上順位を落とすのは避けたいでありますっ!」

 

 焦る2人であるが、プリンツ&霧島の運貨筒がとてつもない速度で近づいてくる。

 必死で押し続けるあきつ丸と潮のコンビネーションは悪くないものの、いかんせん出だしの加速以外は目を見張るものがない。

 

「ちょっと、そんなにそっちにばっかり力を込めたら、変な方向に曲がっちゃうじゃないですかっ!」

 

「それならそちらがもっと押せば良いことでしょう!

 それともこの程度があなたの限界だというんですかっ!?」

 

「い、言いましたねーーーっ!

 ふぁいやーーーーーっ!」

 

 対して、全くといってよいほどコンビネーションが取れてないプリンツ&霧島コンビであるが、運貨筒の速度は群を抜いて速く、今のところ真っ直ぐに進んでいた。

 

「わぷっ!?

 水がいっぱい顔にっ!」

 

「グダグダ言う暇があったらもっと押しなさいっ!」

 

「さ、さっきから、うるさいですよぉっ!」

 

 このように喧嘩と変わらない言い合いをしまくっていても、速度は更に上がっていく。

 

 そして気づけばあきつ丸たちの運貨筒と横並びになり、なんの問題もなく追い抜き去ってしまったのだった。

 

『ここで遂にプリンツちゃん&霧島ちゃんコンビが3位に浮上ーーーっ!

 そしてスタート時にトップだったあきつ丸ちゃん&潮ちゃんコンビがまさかの4位に転落ーーーっ!』

 

「うぅ、不甲斐ないであります……反省っ!」

 

「あ、あきつ丸ちゃん……、落ち込んでないで、頑張って押さないと……」

 

「そ、そうでありましたっ!」

 

 潮に促されて再び運貨筒を押すあきつ丸だが、速度は思うように上がらない。それどころか、最下位に転落していた雷と電のコンビにさえ、追いつかれてしまうのではないかという状況に陥っていた。

 

「ど、どうしてなんだ……。あきつ丸の力があれば、それなりに速度が出ると思っていたのに……」

 

 あまりに予想できなかった展開を見た俺は、額に汗を浮かばせながら思わず呟いてしまう。

 

「……ん?」

 

 すると、背中の辺りをツンツンと突くような感触を覚え、後ろへ振り返ってみた。

 

「あのさー、先生。ちょっと勘違いしちゃってないかな?」

 

「か、勘違い?」

 

 いきなりそんな言葉をかけられても……と思ったが、今までの北上の行動や思考から導き出せば、先ほど呟いた言葉ではないだろうかと察しがつく。

 

「それって……、あきつ丸の力についてのことか?」

 

「うん、その通りなんだけどさー……」

 

 そう言った北上は人差し指を口元に添え、あきつ丸と潮が押す運貨筒を見ながら呟いた。

 

「先に聞きたいんだけど、先生はこの競技について1番必要な能力がなにかを考えたんだよね?」

 

「そ、そりゃあちゃんと考えたぞ。

 大玉転がしには力と体力が必要だから、陸軍仕込みのあきつ丸なら任せられるだろうって……」

 

「それってさ、陸上でのことだよね?」

 

「……あっ!」

 

 北上に突っ込まれた瞬間、俺の頭が真っ白になる。

 

 チーム分けを聞いたのは昨日のスタッフルームでのこと。そして食堂でビスマルクとひと悶着を起こした後、寮への帰り道で子供たちをどんな役回りで担当させるかを考えていた。

 

 しかし、当日の朝になって知ったのは、グラウンドではなく海上での運動会。子供たちは専用の艤装を装着し、艦娘として海の上に立っている。

 

 そうなれば、俺が知っている子供たちの能力は陸のモノであり、海上とは違うかもしれないということを頭の中に入れていなかったのである。

 

 ……まぁ、あまりに突発過ぎて考える暇がなかったとも言えるんだけど。

 

 いやしかしそうであったとしても、そこまで大きな差が出るとも思えないんだけれど……。

 

「ちなみに説明しておくとさ、海上で必要になる馬力の数値で1番小さいのは、あきつ丸だかんね?」

 

「………………え?」

 

「ぶっちゃけちゃうと、潮の3分の1にも満たないよ?」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。

 あきつ丸は幼稚園でも無類の体力を発揮しまくっていたことがあるんだぞっ!?」

 

 ビーフジャーキーを目当てのメンチに追いかけられていたことなんだが、相当走りまわされたらしい。

 

「だから、それはあくまで陸の上のことであって、海上で速度を出せるのはやっぱ馬力だよ?」

 

「じゃ、じゃあ、どうしてうちのチームの運貨筒が1番最初に動き出せたんだ?」

 

「おそらくは上半身というか単純な腕力だと思うけど、いざ海上で動き出しちゃったら馬力がモノを言うよねー」

 

 そう言って、北上はなぜか自慢げな顔で「ふんっ」と鼻息を荒立てた。

 

「さすがは北上さんっ!

 物知り過ぎて惚れちゃいそうですっ!」

 

「えっへっへー。

 褒められるのは嬉しいんだけど、そんなに抱きつかれたら苦しくなっちゃうよ……」

 

「それは我慢して下さいっ!

 私は今、北上さん分を補給しているんですからっ!」

 

「き、北上さん分ってなにさ……」

 

 ボソリと呟いた北上だが、大井は全く気にする素振りもなく抱きつきまくっている。

 

「結局、いつも通りっぽい……」

 

 小さな夕立の呟きが耳に入ってきたものの、俺の頭の中では完全に失敗してしまったことに対する後悔だけがグルグルと回り廻っていた。

 

 確かに北上の言う通り、俺があきつ丸をこの競技に押した理由は幼稚園での動きを見たからだ。

 

 しかし、今行っているのは海上でのことであり、陸とは違う能力が必要となるのは当たり前だろうし、艦娘としての能力を1番に考えなければならなかったはずなのにどうして俺は……。

 

「……くそっ!」

 

 あまりにも不甲斐ない自分を戒めるように、自らの頬をパシンと叩く。

 

 それでも気が済まない俺は、どうすれば良いかと頭の中で考えていると……、

 

「まぁ、そこまで落ち込まなくても良いと思うよ、先生。

 佐世保から帰ってきたのは昨日なんだし、考える時間も少なかっただろうからねー」

 

「し、しかし、俺が失敗してしまったことでチームの勝利が遠のいてしまったことには変わりないんだぞ……」

 

 そしてそれは、俺自身の所有権を失いかねないということにもなる。

 

「そうは言うけどさ、単純に性能だけで勝ち負けを決めるのも良くないと思うんだよねー。

 それに、チームを指揮する先生がそんな感じになっちゃったら、数少ないチャンスすら見逃しちゃうかもしれないよ……っと」

 

 北上はそう言ってから海の方へと顔を向け、「ほらほら、まだまだレースは終わってないんだから、頑張って行こーーーっ!」と叫ぶように応援をする。

 

「あきつ丸ちゃん、潮ちゃん、頑張れっぽいーっ!」

 

「少しでも巻き返しなさいっ!

 そうじゃないと、ここに居る先生を海に叩き落としますよーーーっ!」

 

 2人も北上と同じように応援し……って、どうして大井は俺を海へ落としたがるのかなぁっ!?

 

「ほら、先生。

 ちゃんと応援してあげないとね」

 

「あ、あぁ。そうだよな」

 

 振り返った北上に促された俺は、みんなに負けないように両手をメガホンのように口に添え、

 

「頑張れー、負けるなー、力の限りーーーっ!」

 

「……なんだか、色んなところに引っ越しするっぽい?」

 

「部下の方が偉そうなんだよねー」

 

 ……と、ボケをする気は全くなかったのだが、思いついた言葉が駄目だったようだ。

 

 うむむ……、反省。

 

 

 

 

 

『現在トップは金剛ちゃん&榛名ちゃんコンビ!

 そして2位はヲ級ちゃん&レ級ちゃんコンビだが、ジワジワと差を縮めているプリンツちゃん&霧島ちゃんコンビが襲いかかるかーーーっ!?』

 

 あきつ丸と潮を必死で応援する中、観客の視線は先頭集団へと向けられていた。

 

「2位との差は今のところ大丈夫そうですケド、霧島の方が気になりマスネー」

 

「追い上げてくる速度がかなり凄いです。さすが霧島というところでしょうか……」

「もしものことがありますカラ、ちょっとでもリードを取れるように頑張りマスヨー!」

 

「はい、金剛お姉さまっ!」

 

 金剛と榛名は持ち前の馬力を生かして運貨筒を押し、大きな水しぶきをあげながら折り返し地点へと進んでいく。

 

「ムゥ……。差ガ少シズツ開イテイルヨネ、ヲ級?」

 

「オーゥ……。単純ナ馬力デハ敵イソウニナイデスネー」

 

「ドウスル?」

 

「処ス? 処ス?」

 

「ドウヤッテ処ス?」

 

「ソレハ考エテナイカナー」

 

「ダメジャン、ヲ級……」

 

「アイヤー。僕モマダマダアルネー」

 

 一方2位の港湾チームは、訳が分からない漫才をやりつつも金剛たちを追っていた。

 

 ……真面目にやっていたら、もう少しなんとかなりそうな気がするんだけどなぁ。

 

 いや、あの2人だからこそ、あれで力が出るのかもしれないけれど。

 

 色んな意味で訳が分からない。つーか、レ級と絡んでいると弟としての影が薄くなっちゃっていないか?

 

 これはたぶん、ル級の影響が大き過ぎるんだろうなぁ……。

 

「わわっ! ちょっとこっち側に押し過ぎですよっ!

 もう少しバランスを考えて下さいっ!」

 

「そっちがちゃんと押せば良いだけのことでしょうっ!」

 

「むむむっ、そっちがその気だったら……、てりゃーっ!」

 

 互いにバチバチと火花が散るように睨み合いながらも、器用に運貨筒を押し続けるプリンツと霧島。

 

 その速さは遅くなるどころか更に加速し、遂にヲ級とレ級の港湾チームに追いつこうとしていた。

 




次回予告

 チームワークは最悪。だけどなぜか滅茶苦茶早いプリンツ&霧島コンビ。
このままヲ級&レ級コンビは抜かれてしまうのか、それともなにか逆転の手が……ってマズイ気が

 そして更にはある子供が策を練っていて……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その48「待て、慌てるな、それは……」


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