艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ヲ級とレ級、やり過ぎです。

 そして始まる第3競技……の前に内容の説明をして、やっとこさ開始と思いきや……。
またもや発生した問題を乗り越えて、子供たちは頑張れるのかっ!?



その46「ぶっつけ本番だから仕方がない?」

 

『それでは第3競技のルール説明です!

 子供たちよりも大きな運貨筒を2人で転がして速さを競うんですが、運動会で良くある大玉転がしを想像していただければ分かり易いです!』

 

 競技に参加する子供たちや俺なんかは事前に内容が分かっているから大丈夫なんだが、お客さんの中には説明が必要なのだろう。

 

 しかしまぁ、子供たちの前にはすでに運貨筒が配置されているし、パッと見ただけでおおよその予想はつきそうなモノではあるんだけれど。

 

『ただし、陸上の大玉転がしと違う点は、後ろから押して運ぶだけではないというところでしょう!

 運貨筒は本来えい航して運ぶ物ですが、方法は各チームに委ねられています!』

 

 力強く説明する青葉の声に、観客の方から納得するような言葉や頷く仕草が見受けられた。

 

 つまり、子供たちの背丈の倍近くもある大きな運貨筒を、押して転がす以外の方法でも構わないと言っているのだが、普通に考えれば無理だろうと思ってしまう。

 

 だがそこは小さくとも艦娘。その力の怖さを俺は重々知っているので、生半可な眼で見るようなことはしない。

 

『押して良し、引いて良し。更には上に乗ってサーカスのように運んでも全く問題ありませんっ!』

 

 その言葉と同時に観客からどっと笑い声が上がったものの、本気でそれをやったら色々と危ないから止めて欲しいというのが俺の本音である。

 

 この競技に参加する子供たちの中で、そんなことをしようと考えるのは……、

 

「ナルホド。上ニ乗ッテ転ガストイウ手モアルンダネ!」

 

「安定ハシナイト思ウケド、ソレデオ兄チャンガ注目シテクレルナラ……アリカモシレナイッ!」

 

 そう言ってグッと拳を強く握りしめたヲ級だが、少し考える素振りをしてから首を左右に振った。

 

「マァ、ソレデ失敗シチャッタラ元モ子モナインダケドネー」

 

「ヲ、ヲ級ガ真面目ニ考エテル……ッ!?」

 

「オイオイ、ジョニー。僕ハイツダッテ真面目ダゼ?」

 

「ソウイエバソウダッタネ!

 真面目ナヲ級トイエバ、知ル人ゾ知ル有名人ダッタヨ!」

 

「ブログデノ人気モ鰻登リダカラネ!」

 

「「HAHAHA!」」

 

 通信販売でよくあるテレビ番組顔負けのアメリカンな笑い声を上げるヲ級とレ級を見て、俺はガックリと肩を落としていたのだが、

 

「ぷぷぷ……。やっぱりあの2人って、いつ見ても面白いよねー」

 

「そうですね、北上さん。ヲ級と金剛のコンビ芸も良いですけど、漫才ならレ級の方が1ランク上だと思いますっ!」

 

「いやー。たぶんこのまま腕を上げたら、最年少で上方漫才に加入できそうじゃないかなー」

 

「舞鶴幼稚園始まって以来の快挙ですけど、私と北上さんじゃないのがちょっぴり悲しいです!」

 

 叫びつつも悲しそうな表情を浮かべる大井だが、北上と漫才をしているところが全く思い浮かばないのはなぜなんだろう。

 

「たぶん、抱きつこうとするばかりでネタ振りをしなさそうっぽい……」

 

「だろうなー……って、どうして俺の考えを的確に察知できたんだっ!?」

 

「先生の考えてることは、顔に思いっきり出るっぽい!」

 

「力強く断言されただけに心へのダメージが半端じゃねぇっ!」

 

 まるで心臓にグッサリと刃物が刺さったような感覚に襲われ、膝を折ってその場に倒れ込む俺。

 

 つーか夕立にまでそんなことを言われてしまったら、俺を癒してくれる相手が本当にいなくなってしまうんじゃないのだろうか。

 

『えー、お約束の漫才も終わったようなので、更に説明を続けます。

 コースは第1競技とまったく同じで、直線を進んだ後にターンブイを折り返してスタート地点に戻ります。

 直線は速さを。折り返しでは正確さを求められる内容になっていますねっ!』

 

 説明を聞いた瞬間、観客一同がうんうんと頷いた。

 

 まぁ、レーベや五月雨のトラブルを見たことを考えれば、非常に分かりやすい説明だったのだろう。

 

『さて、それではそろそろスタートしたいと思いますが、みなさん準備はオッケーですかーーー!?』

 

「「「はーい!」」」

 

 各チームの子供たちが一斉に手を上げ、元気良く返事をした。

 

 うむ。こういうシーンは非常に心が癒される。

 

 少しだけど、HPが回復した感じがするな。

 

『それでは全力で頑張って下さいっ!

 レディー……』

 

 青葉の声に子供たちの表情が一変し、運貨筒に手を添え、いつでもスタートを切れるように体勢を取った。

 

 ほんの少しの間が長く感じ、子供たちの緊張がひしひしと伝わってきたような気がした瞬間、

 

『ゴーーーッ!』

 

 青葉の叫び声と同時に乾いた空砲が鳴り、観客から盛大な歓声が上がる。

 

 そしてほぼ同時に子供たちがスタートを切った……かに思えたのだが、

 

「ふぁいやー……って、あれれれ?」

 

「はわわわ……、重いのです……」

 

「むぐ……ぐぐぐぐぐ……」

 

「ヲ……ヲヲ……」

 

 必死に運貨筒を押そうとする子供たちが顔を真っ赤にしているのだが、前に進むどころか回転すらほとんどしていない。

 

『は、始まった途端にアクシデント発生かーーーっ!?』

 

 実況する青葉もなにが起こったのか分からないようで、とりあえず思い浮かんだことを口走ったような感じであったのだが、その後小さい声で話し合っている声が聞こえてきた。

 

『ちょっと、どういうことなんですかっ!?

 運貨筒が全然動いてないですよっ!』

 

『あの運貨筒を準備したのは元帥でしたけど、またなにかやらかしたのかしら……』

 

『冷静に喋っているように見えますけど、顔面に汗がびっしょりですよねっ!?』

 

『こんなことになるのなら、首をもぐんじゃありませんでしたわ。

 まさか自分自身に馬鹿め……と言わざるを得ないなんて……』

 

『いや、そんな自分を貶めなくても良いですから、この状況をどうにかしないことには……』

 

 ……とまぁ、思いっきり焦りまくっているのは明白であり、またもや元帥が原因だったんだと判明するも時すでに遅し。

 

 このままでは第3競技はどうなるんだと観客からも不安の声が聞こえてくる中、少しずつではあるが子供たちが押している運貨筒に動きが見えた。

 

「どっせーーーい……でありますっ!」

 

 あきつ丸の必死な声が聞こえ、徐々に押している運貨筒が回り出す。その横にいる潮も顔を真っ赤にしながら押し続け、徐々にその動きが加速していった。

 

「わ、私たちも負けてられまセン!

 榛名、頑張りマスヨーーー!」

 

「は、はい、金剛お姉さま!」

 

 あきつ丸と潮の運貨筒が動き始めたことによって周りの子供たちにもより一層の気合が入り、同じように回転し始める。

 

『おっと、ここであきつ丸ちゃんと潮ちゃんの運貨筒が少しずつ進みだしているーーーっ!』

 

 その様子を見たのか、少し安心した様子の声がスピーカーから流れ、観客から大きな声援が飛び始めた。

 

「がんばれー! 負けるなー!」

 

「気合があれば、なんでもできるぞー!」

 

「諦めんな! 諦めるんじゃないっ!」

 

『そして観客の皆さんからも大きな応援が飛び交い、他のチームも徐々に進みだしたぞーーーっ!』

 

「い、電だって、頑張ればできるのです……っ!」

 

「こ、こんな重さくらい……雷には大丈夫なんだからっ!」

 

 プルプルと両腕を震わせながらも、前に進もうと必死に頑張る電と雷。

 

「ファイトー!」

 

「イッパーツッ!」

 

 緊張感の欠片どころか、ここぞとばかりにネタを投下し、ちゃっかり運貨筒を前に押し出すヲ級とレ級。

 

 しかしそんな中、まったく運貨筒に動きが見えないチームが1つだけあった。

 

「なにをしてるんですかっ! ちゃんと押して下さいよっ!」

 

「霧島はちゃんとやってますっ! そっちこそ手を抜いてるんじゃないんですかっ!?」

 

 運貨筒を押すどころかいきなり言い争い始めたビスマルクチームの2人が、今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうな雰囲気になっている。

 

 第2競技のときから大丈夫なのかと思っていたが、このままだと非常にマズイのではないだろうか。

 

『おおっとここで、プリンツちゃんと霧島ちゃんのようすがおかしいぞーーーっ!?』

 

 実況する青葉も気づいたのか、喧嘩を止めようと明確に声にして2人を制止させようとしたのだろう。

 

「「……っ!」」

 

 それに気づいたプリンツと霧島は辺りをキョロキョロと見回し、大きなため息を同時に吐いてから面と向かい合った。

 

「ここはハッキリさせたいところですけど、今は競技中ですから仕方ないですっ!」

 

「それはこっちの台詞です……が、負けては元も子もありませんからね」

 

 そう言った2人は「フンッ!」と大きく鼻を鳴らしてから運貨筒に向き、両手を添えて力を込め始めた。

 

「むぐぐ……っ!」

 

「せぇぇぇいっ!」

 

 まるで怒りを力に変換したのか、運貨筒がゆっくりと回り出して前に進む。

 

 こうして全てのチームのスタートが切られ、遂にレースが動き始めたのである。

 

 

 

 

 

 運貨筒の重さのせいで動きが鈍かったものの、1度回転し始めればスピードも出るらしく、勢いがついてレースらしい状況になってきた。

 

『真っ先に動き出したのは先生チームのあきつ丸ちゃん&潮ちゃんコンビ!

 その後を追うのはしおいチームの金剛ちゃん&榛名ちゃんですが、徐々に差を詰めてきているぞーーーっ!』

 

「私たちの力はまだまだこんなもんじゃないネー!

 榛名、どんどん押しますヨー!」

 

「はい、金剛お姉さまっ!

 榛名、全力で頑張りますっ!」

 

 大きな声を上げる金剛と榛名がグイグイと両手で運貨筒を押す。

 

「こ、金剛ちゃんたちに追いつかれちゃいそうです……」

 

「あきつ丸たちも必死で押すでありますよっ!」

 

「う、うん……っ!」

 

 声に驚いて振り返った潮が、焦りながらあきつ丸と互いに声を掛け合って押し続けた。

 

 しかし、金剛たちのスピードが徐々に勝ってきたのか、その差はほとんどなく並列状態になっている。

 

「か、完全に勢いが負けているであります……たぶんっ!」

 

「た、たぶんじゃなくて、追い抜かれちゃいます……」

 

『ここで遂に戦闘が入れ替わったーーーっ!

 あきつ丸ちゃん&潮ちゃんコンビが2位に転落っ!

 そして更に後ろから漫才コンビもやってきているぞーーーっ!』

 

 いつの間にやら勝手な名前がつけられていたヲ級&レ級コンビがスピードを増し、あきつ丸たちのすぐ後ろを追いかけていた。

 

「誰ガ漫才コンビヤッチューネンッ!」

 

「怒ルデシカシッ!」

 

 かけてもいない眼鏡の位置を直すフリをする段階で認めてしまっているようなモノなんだけれど、2人とも芸人気質なんだから仕方がないのだろう。

 

 ……って、俺までもが完全に認めちゃっているよね。

 

 まぁ、あれだけボケとツッコミをかましまくってたら自業自得だけどさ。

 

 それに本人たちも嫌じゃないみたいだろうし、放っておくことにしよう。

 

 つーか、やっぱりレ級のネタは古過ぎですよ?

 

「くぅぅ……、このままでは抜かれてしまうでありますっ!」

 

「う、潮、頑張っているんですけど……っ」

 

 必死に頑張るあきつ丸と潮だが、その努力もむなしくヲ級とレ級のコンビに差を縮められ、遂には追い抜かれてしまった。

 

『出だしこそ好調だったあきつ丸ちゃん&潮ちゃんコンビがまたしても順位を落としてしまったーーーっ!

 先頭は金剛ちゃん&榛名ちゃんコンビ、そして続くヲ級ちゃん&レ級ちゃんコンビ、そして必死に頑張るあきつ丸ちゃん&潮ちゃんコンビですが……』

 

 ……と、いきなり青葉が言葉を詰まらせたかのように実況を止めた。

 

 またもや元帥辺りが問題を起こしたんじゃないだろうかと心配しそうになったが、実況席には高雄も居ることから大丈夫だろう……と思ったのも束の間、俺の視界には予想していなかった状況が映ったのであった。

 




次回予告

 青葉の実況が詰まり、主人公の目に驚きの光景が映る。
主人公のチームは劣勢に……どころか、忘れ去られそうな勢いにっ!?

 そして、完全に勘違いしていたことが発覚し、焦ったところで時すでに遅し……。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その47「地上と海上の差」


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