港湾チームの作戦勝ち!
とぼとぼと帰ってくる潮やあきつ丸を出迎え、慰めの言葉をかける主人公。
だけど、トータル的に見れば……と、北上が説明をし始めた。
そして、第3競技の準備が整ったけれど……?
俺が待機しているテントに、第2競技の対空砲玉入れ合戦を終えた子供たちが帰ってきた。
「せ、先生……、ただいま帰りました……」
おずおずと声を出した潮の表情は暗く、後ろに続くあきつ丸と夕立も同じようだ。
「うう……。不肖あきつ丸、恥ずかしながら帰還したであります……」
「港湾チームには、全然敵わなかったっぽい……」
2人はそう言いながらガックリと肩を落とす。
「まぁ、そう言うけど、私たちもそこそこ頑張ったんだから、悪くはないっしょー」
「そうです!
勝負には負けましたが、私と北上さんの友情はより一層深まりましたっ!」
いや、それは運動会に全く関係ないんだけど……とは言えず、俺は小さなため息を吐きながら苦笑を浮かべ、慰めの言葉をかけようと口を開いた。
「いやいや、みんなはよく頑張ってくれたよ」
「で、でも……、1位は取れませんでした……」
「そうであります……」
「夕立がもっと頑張れたら……っぽい」
しかし、3人は消沈したままで、明らかに覇気がない。
「おいおい、そんなに落ち込んじゃったら、次の競技に影響してしまうぞ?」
「そ、それはそうですけど……」
「このまま1位が取れなかったらと思うと、先生が不憫であります……」
心配してくれるあきつ丸の言葉に、おもわずジーンと胸が熱くなってしまう俺。
「せっかく舞鶴に帰ってきたのに、また佐世保に行っちゃうっぽい……」
だが、次に口を開いた夕立の言葉に、その本質を見いだせた。
「………………」
潮、あきつ丸、夕立の暗い顔を、俺は数日前にも見ている。
それは、俺が舞鶴に帰還するようにという指令書を見つけた、ろーたちと同じ顔。
別れを感じた子供たちが落ち込む姿に、俺の胸が強く握り締められる。
佐世保の子供たちも、舞鶴の子供たちも、この運動会が終わった後に俺と別れてしまうのではないかと危惧してしまっている。
その切っ掛けによって、俺の所有権を奪って確保しようとする佐世保の子供たちのボルテージは非常に高くなったのだが、俺のチームの子供たちは続けて1位を取れなかったことによって一気に低下してしまったのだ。
いや、しかし……、ちょっとばかり勘違いをしちゃっている節があるよね?
……ということで、ちゃんと説明をしようとしたんだけれど、
「あー、落ち込んじゃってるみたいだから言っちゃうけどさー。
私たちのチームって、現在1位なんだよねー」
「「「「……えっ!?」」」」
北上のツッコミに驚く、潮、あきつ丸、夕立と大井。
……って、なんで落ち込んでいなかった大井まで驚いているんだろう。
俺の所有権とか、佐世保に連れていかれることに関して全く興味がないからかもしれないが、それはそれでちょっとへこんじゃうよねー。
いやまぁ、分かっちゃいたけどさ……。
「各競技の順位によって点数が割り振られるんだけど、私たちのチームは連続して2位だったから、合計得点では今のところ1位なんだよ?」
「そ、そうなん……ですか……?」
「詳しく説明しておくと……、
ビスマルクのチームは第1競技が1位で第2競技が5位だから、5+1で合計6点。
愛宕先生のチームは第1競技が3位で第2競技が4位だから、3+2で合計5点。
しおい先生のチームは第1競技が4位で第2競技が3位だから、2+3で合計5点。
港湾先生のチームは第1競技が5位で第2競技が1位だから、1+5で合計6点。
そして、私たちのチームは2回連続で2位だったから、4+4で8点なんだよねー」
人差し指を立てながら説明していた北上は、最後にニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
「ということで、今の調子で頑張れば優勝も夢じゃないんだけど……って、あれ?」
「ぷしゅー……、であります……」
またもやあきつ丸が頭から大量の湯気を立たせながら地面でうつぶせになっているんだけど、どれだけ計算が弱いんだよ……。
「つまり、今のところ夕立たちのチームが1位っぽい?」
「そうだねー。2つの競技では1位は取れなかったけど、総合点では頭ひとつ抜けちゃってるんだよー」
「そ、それじゃあ……、このままいけば……」
「みんなが心配している、先生が佐世保に連れていかれるのも阻止できるんじゃないかなー」
「そ、それは朗報でありますっ!」
北上の言葉を聞いたあきつ丸が腕立て伏せをする要領で身体を浮かしながら大きく叫ぶが、その格好は疲れないんだろうか。
「もちろん、この後の競技の結果次第ではあるんだけど、今のところ調子は悪くないと思うんだよねー」
「別に私は先生がどうなろうと気にしませんけど、北上さんの為にも、この後の競技でも負けるつもりはありませんからっ!」
言って、大井は俺からプイッと顔を背けていた。
まぁ、なんだかんだと言っても順調にことが進んでいるのは間違いなく、心配そうにしていた潮、あきつ丸、夕立の表情も明るくなっている。
説明しようとした俺の出足を見事に払ってくれた北上だが、大井の絡みを考えれば、これで良かったのだろう。
「……まぁ、そういうことだから、この後の競技も頑張ってくれよ」
「は、はい。わかりました……っ!」
「夕立も、全力で頑張るっぽい!」
「あきつ丸も、全身全霊で立ち向かうであります!」
大きく頷く3人に、マイペースで手を振る北上。
そして大井は無言ながらも小さく頷くのを見て、チームの気合は十分だと理解できたのであった。
『ぴんぽんぱんぽーん。
続きまして、第3競技に参加する子供たちは集合場所に集まって下さーい』
スピーカーから流れる声を聞き、周りの観客から少しざわめきが起こる。
……ってか、なんでチャイム音みたいなのを声でやっちゃうんだろうか。
なんだか青葉と元帥の実況解説のときもそうだったけど、地味にクオリティが下がってきている気がするんだよなぁ……。
「さて、続けてあきつ丸の出番でありますなっ!」
「う、潮も……、頑張ってきます」
「ああ。2人とも怪我がないようにするんだぞ」
「了解であります!」
「は、はい。ありがとうございます、先生」
陸軍式の敬礼をするあきつ丸と、大きなお辞儀をした潮が2人揃って集合場所へ向かうべくテントから出て行った。
「えーっと、次の競技は大玉転がしだったよねー」
「そうなんです、北上さん!
この糞先生ったら、せっかくの2人競技なのに私と北上さんに任せないなんて、天罰が落ちれば良いと思うんですっ!」
「お、おいおい……。
いくらなんでもそれはないぞ……大井……」
「そうだよ、大井っち。
それに先生は、私と大井っちのコンビが第4競技で栄えると思ったんだろうしさー」
「ま、まぁ、北上さんがそういうなら我慢しますけど、私としては2人競技の全部を任せて貰っても良かったんですよっ!」
「あははー。それは頼もしい限りだけど、あんまり出過ぎたらしんどくなっちゃうよねー」
北上は首を左右に振りながら苦笑を浮かべて答えてから、俺の方へと顔を向けた。
「ちなみに……先生、次の競技はどうしてあの2人に任せたのかな?」
「そりゃあ、大玉転がしという競技を考えたら力がある方が良いと思ったからだけど?」
「それはそうだけど、雰囲気的にこの競技は潮に合わないとか……思わなかったのかな?」
「そう……、思うのか?」
北上の問いに俺は口元を少しだけ釣り上げ、そう答えた。
「……あれ? なんだか意味ありげな仕草だよねー」
「北上さんと喋っているのに見下した顔をするなんて……、もう1回海に叩き落としますよっ!」
「ちょっ、別に見下すなんて気はまったくないから、さすがにそれは勘弁してくれっ!」
飛びかかろうとする大井に向かって両手を広げ、俺は降参の意を示す。
「それじゃあどうして、そんな顔をしたんですかっ!?」
「それは……、その……だな……」
「まぁまぁ、大井っち。
先生もなにか考えがあるみたいだから、まずは競技の方に集中しようよ」
「で、ですけど……って、北上さんっ!?」
不満げな顔を浮かべた大井だが、北上に服の裾を引っ張られたことによって機嫌が一気に良くなった。
「ほら、そろそろ始まるから、ちゃんと応援しないとねー」
「わ、わかりましたっ!
頑張りなさい、2人ともーっ!
負けたら先生を2度と浮上できないようにコンクリートの重しを両足に巻きつけてから海に叩き落としますからねーーーっ!」
「しゃ、洒落にならねえ発言がヤバ過ぎるんですがーーーっ!」
「せ、先生が確実に死んじゃうっぽいっ!」
俺と夕立は2人揃って両頬に手を添え、ムンクの叫びのように疲労度MAXの表情を浮かべたのである。
ちなみに、まだ出場する子供たちは海上に現れておらず、どこに向けて叫んだんだよって話なんですけどね……。
大井、マジパネェ……。
そうこうしている間にスピーカーからノイズのような音が聞こえてくると、今度は熊野と違う声が聞こえてきた。
『みなさまお待たせいたしましたっ!
第3競技の準備ができましたので、子供たちの入場を開始しますっ!
拍手でお迎え下さいませーーーっ!』
テンションが高過ぎる気がするんだけど、青葉になにかあったのだろうか……?
そんな心配をよそに観客から多くの拍手が上がり始め、続々と参加する子供たちの姿が海上に見えた。
『それでは参加する子供たちの紹介と参りましょう!
まずはビスマルクチームより、プリンツちゃんと霧島ちゃんの2人ですっ!』
実況に合わせて手を高々と上げて振るプリンツと霧島。プリンツの方は笑顔なんだけれど、霧島の顔は不機嫌そうにしか見えなかった。
『続きまして、愛宕チームより雷ちゃんと電ちゃんの2人ですっ!』
それに対して、雷と電の顔はにこやかで、まさに満面の笑みといった感じに見えた……のだが、
「この競技で勝利を収め、先生に頼られまくっちゃうんだからっ!」
「はわわっ!?
雷ちゃんったら、大胆なのですっ!」
まったく恥ずかしげもなく叫ぶ雷に、自分の発言でもないのに顔を真っ赤にする電。
そして、俺の方には観客から浴びせられる冷たい視線が……マジパナイ……。
『更に続いて、しおいチームより金剛ちゃんと榛名ちゃんの登場ですっ!』
「先生に向かって、バーニングラァァァブゥゥゥッ!」
「ば、ばあにんぐ……、ら、らぶですっ!」
またもや恥ずかしげもなく両手でハートマークを作り、俺に向けて大声で叫ぶ金剛。そして、電以上に耳まで真っ赤にした榛名が、金剛と同じような格好で控えめな声をあげていた。
そして背中に突き刺さる多数の視線。
もうなんか、心臓までえぐり取られそうな感じなんで、海の方しか見られません。
『次は港湾チームより、レ級ちゃんとヲ級ちゃんの登場ですっ!』
そして、この2人の名を聞いて嫌な予感しかしないと思っていたら、
「流派、北方不敗ハッ!」
「王者ノ風ヲッ!」
「全新!」
「系列!」
「「天破侠乱!」」
「「見ヨ! 北方ハ赤ク燃エテイルッ!」」
見事にぶちかましてくれちゃってんじゃんかよぉぉぉっ!
つーか、なんでそのチョイス!?
この流れだと、俺に向けて爆弾発言するのが普通でしょぉぉぉっ!?
……って、それはそれでしんどいから止めて欲しいけど。
そして、観客勢から大きな拍手が上がりまくっているのは、気のせいじゃないですよねぇっ!?
『そして最後は、先生チームよりあきつ丸ちゃんと潮ちゃんの2人ですっ!』
「あきつ丸、いっきまーーーす……でありますっ!」
「が、頑張りますっ!」
どこぞの出撃シーンのようなあきつ丸と、控えめにも気合を見せる潮が最後に登場したが、いかんせん港湾チームのインパクトの後だと目立ち難かったものの、2人とも頑張ったのは褒めてあげたい。
いや、ネタ振りはもういらないんだけどね……。
ということで、第3競技に参加する全ての子供たちが海上に揃ったのである。
次回予告
ヲ級とレ級、やり過ぎです。
そして始まる第3競技……の前に内容の説明をして、やっとこさ開始と思いきや……。
またもや発生した問題を乗り越えて、子供たちは頑張れるのかっ!?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その46「ぶっつけ本番だから仕方がない?」
乞うご期待!
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