まさかビスマルクが偵察をしにくるとは……。
焦る主人公だったが、こうなったらやるしかないと決心して子供たちに争奪戦のことを話し始めた。
しかし、主人公の思いとは裏腹に子供たちにはすでに知られていたようで……
「みんなに話がある。心して聞いてくれ……」
チームの状態をビスマルクに知られてしまった以上、俺にはこうするしかないと意を決し、最後の手段に出ることにする。
……とは言っても、やることは現在俺が置かれている状況を包み隠さず話すだけであるのだが、1歩間違えると逆効果になりそうなので、真剣な表情を浮かべて言葉を選ぶ。
さすがに子供たちも俺の顔を見てただならぬ気配を察したのか、少し緊張した面持ちでこちらを注視した。
「実は今回の運動会の結果にて、俺の所有権を争うことになっているんだ……」
俺はゆっくりと重い雰囲気を醸し出しつつ話したのだが、
「「「………………」」」
目の前で俺の話を聞いている子供たちは、完全に白けた表情へと変わっていた。
あれ、なんでこんな顔で見られちゃってんの……?
「先生。それって……、みんな知ってるっぽい」
「すでに周知の事実であります。ついでに言うなれば、幼稚園だけではなく鎮守府内全域に広がっているであります」
「…………へ?」
あきつ丸の言葉に、今度は俺が呆気に取られてしまう始末。
天龍たちと佐世保の子供たち&ビスマルクの睨み合いが起こった場所が遊戯室だったことから、もしかすると幼稚園の子供たち全員に知られているかもしれないと思ったが、まさか鎮守府内にまでとは……って、ちょっと待って。
「いやいやいや、なんでそんなことになってんのっ!?」
「そ、それは分からないけど……、寮のお姉さんたちが、いっぱい噂を……してました……」
オドオドと潮が答えてから、俺の視線を避けるように夕立の影に隠れた。
「と言うか、運動会の結果をトトカルチョにしてるみたいだよね、大井っち?」
「ええ。現在最有力なのは港湾先生のチームみたいですけど、そんな予想は私と北上さんでひっくり返すつもりですよ」
そう言った大井は胸の下で腕組みをし、「ふんっ!」と大きな鼻息を吐く。
全くもって知らない事実に俺は呆れさえ覚えてしまうのだが、前回の争奪戦でもトトカルチョが行われていた噂を聞いたことがあるので、可能性はゼロではないのだろう。
……いや、子供たちにまで耳に入っているのだから、ほぼ間違いないんだろうけれど。
そしてその発案者は、やっぱり元帥なんだろうなぁ……。
金銭的に窮地に立たされてしまったとはいえ、このようなことを秘書艦である高雄が見逃しているのがどうにも納得がいかないのだが、なにか俺の知らない大きな力が働いているのだろうか?
もしそうだったのなら、変に藪を突くのは危険過ぎるかもしれない。
1歩踏み入れたら毒蛇だらけだった……なんてのは、さすがに洒落にならないからね。
「……それで、先生の言いたいことはそれだけなんですか?」
再び不機嫌そうな顔に戻った大井は、敵意に満ちた目を俺に向けて問う。
このまま頷いてしまえば、完全に詰んでしまうことになる。そんなことは絶対に駄目だと、俺は次の手を打つことにした。
「あ、いや、これはあくまで前置きだったんだけど、続きを聞いてくれるかな……」
そう言って、俺は再び真剣な表情で子供たちに話しかけた。
「今回の争奪戦に参加する人数が多いことから、愛宕先生たちと相談してチーム戦を取ることになった。それによって、勝利チームに所属する者が俺の所有権を得る……という感じになっているんだが、ここで大きな問題があるのは分かるかな?」
俺の言葉に夕立やあきつ丸、潮は頭を少し傾げながら考え込むが、北上がすぐさま頷いて口を開いた。
「このチーム分けって、どう考えてもおかしいよねー」
「北上は分かるのか?」
「少し考えたら……だけど、分からないところもあったりするかなー」
言って、北上は大井の方を向く。
すると大井はニッコリと笑った後、「北上さーん!」と叫びながら抱きつこうとした。
「大井っち、今は話している途中だから邪魔をしないでよね」
「むぅ……。北上さんのいけず……」
ホッペをぷっくりと膨らませつつも、まんざらではない顔をする大井。
ぶっちゃけ色んな意味で危うい気がしまくるのだが、とりあえずこの件は置いておこう。
「とりあえず……なんだけど、私らのチームが勝ったら先生の所有権は誰にも渡らないよね?」
「ああ、そうなるな」
「だけど、もし負けちゃった場合……、完全にカオス化しそうじゃない?」
「そう……なんだよなぁ」
俺はわざとらしく大きなため息を吐き、肩を思いっきり落とした。
「え、えっと……、カオス化……って、なんなのかな……?」
「うーん……。夕立、分からないっぽい」
「カオスとは混沌という意味であります。もしくはギリシャ神話の原初神でもありますが……」
言葉を詰まらせたあきつ丸は腕を組みながら大きく顔を傾げ、暫くの間「うーん……」と唸る。
大井の顔も曖昧な感じに見えるので、どうやら俺と北上以外は分かっていないようだ。
これを理解させ、更に『あること』を追加すれば上手くいくかもしれないと、俺は小さく頷いてから口を開いた。
「それじゃあ分かりやすく説明するんだが、しおい先生のチームが勝った場合どうなると思う?」
「しおい先生のチームって……、天龍ちゃんに龍田ちゃん、それと……」
「時雨に、金剛と榛名っぽい!」
「ふむ……。なるほど……で、あります」
おっ、どうやらあきつ丸は感づいたようだ。
「その中で俺の所有権を争っているのは?」
「天龍ちゃんと……、金剛ちゃん……?」
「あれれ、それってどうなるっぽい?」
「運動会が終わっても、まだ決着がつかないということになるでありますな」
あきつ丸の言葉に俺と北上がウンウンと頷く。
そんな中、大井がニッコリと笑みを浮かべながら口を挟んでくる。
「そうなったら先生の所有権がどちらかに渡るんですから、北上さんの安全が保障されることになるので問題ないですよね」
「本当にそうなると……思うのか?」
「……え?」
大井が一瞬目を大きく開け、ぽかんと口を開けて固まった。
夕立や潮も訳が分からないという風に、お互いの顔を見合って首を横に振っている。
「分かり難いだろうから簡単に説明すると、勝負に勝ったのにご褒美がもらえなかったら……どうなると思う?」
「それは……、悲しくなっちゃいます……」
「骨折り損のくたびれ儲けっぽい!」
「ほほぅ。夕立殿は難しい言葉を使うでありますな」
「えへへ。時雨に教えてもらったっぽい!」
自慢げに答える夕立だけど、それって言わない方が良いと思うんだけどね。
まぁ、正直なのは悪くないけどさ。
「つまり、勝ったチームによっては更なる争奪戦が起こる可能性があるんだが……」
「佐世保のチームが問題なんでしょ、先生」
「……あぁ、そうなんだよ」
北上の横やりに戸惑いつつも返事をする。
「ちなみに愛宕先生のチームでも同じことが起こるんだが、北上の言ってくれた佐世保のチームで俺の所有権争いに参加しているのは、ろーを除いた全員なんだ……」
「そ、それは……」
「後で無茶苦茶になるっぽい?」
「運動会で争う意味がなくなっちゃうでありますな……」
焦った表情で呟く潮、夕立、あきつ丸。
どうやらことの重大さを分かってくれたようだが、これではまだ押しが足りない。
「ちなみに……だ、大井」
「……なんですか?」
不機嫌な顔で返事をする大井だが、ここで更に怒らせてみることにしよう。
「もし、この争奪戦の内容が俺ではなく北上の所有権だったらどうする?」
「もちろん全身全霊をもって他の参加者をコテンパンに叩きのめし、2度と立ち向かおうとする気すら消し去ってあげます!」
いきなり大井が叫ぶように答え、悪鬼羅刹の顔を浮かべた。
ちょ、ちょっとだけビビったのはここだけの話である。
べ、別にチビッてないよ……?
「な、なるほど……。だが、ここで俺たちのチームが勝ったとしても、先ほど説明したことが起こった場合、どうなるかな?」
「そんなの簡単です。運動会が終わってから同じことをすればいいだけのことですよね」
「おいおい、今回は運動会を舞台にした争奪戦だから目を瞑る部分があるかもしれないけれど、そうじゃないときに堂々と喧嘩じみたことしたら具合が悪いんだが……」
「北上さんの為ならそれくらいのことは、なんでもありませんから!」
「ルールを破ったら、愛宕先生のオシオキが待っているぞ?」
「……ぐっ! で、ですけど、それでも私は……っ!」
戸惑いを見せる大井は両手の拳をギュッと握りながら目を伏せる。しかし、膝は……って、なにその半端じゃない震え方はっ!
武者震いとかそんなレベルじゃない気がするんですけど、いったいどういうことなんですかねぇっ!?
大井って愛宕の班だったはずだけど、どんなオシオキをやったんですかーーーっ!?
………………。
ま、まぁ、アレだな。
ここ数日、愛宕の怖さを色々と知っただけに、なんとなくだが予想がつかなくもない。
主に青葉の件を思い出せば、おのずと……。
が、頑張れ、子供たち……っ!
「でもさー、それってあくまで先生の部分が私になっちゃったらの話でしょ。
それじゃあちょっと話が違うんじゃないかなー?」
「……はっ、確かにっ!」
北上のツッコミを聞いた大井が驚きの表情を見せ、すぐさま俺の方を見る。
そしてまたもや怖い顔で睨みつけて……って、どうやら怒りが倍増しているようだ。
ふむぅ……。話の流れから北上はこっち寄りかと思っていたが、どうやら純粋に分かっていないのか、それとも……。
まぁ、ここは最後の手……と言わんばかりに、俺はジョーカーのカードを切り出すことにする。
「確かに北上の言う通り、今のはあくまで仮定の話だが……」
「ほら見なさいっ!
さすがは北上さん。危うく戯言先生に騙されるところでしたっ!」
言って、またもや抱きつこうとする大井を身軽に避けまくる北上。
なんだかコントみたいに見えてきたのは気のせいだろうか……?
「ふむ。2人は相当仲が良いのでありますな」
「だ、だけど、北上ちゃんの方は……、ちょっとだけ嫌がっているような……?」
「2人はいつもあんな感じっぽいっ」
そう言って呆れた表情を浮かべる夕立だが、少々声が小さく感じたのは過去になにかあったのだろうか。
大井の言動を見ていたら、隠れたところでなにかやっていそうな気がしなくもないんだけれど。
愛宕に任せておけば大丈夫だとは思っていたが、1度しっかりと話しておいた方が良いかもしれない。
天龍と潮のような感じではないけれど、あまりにベッタリというのも問題だろうし、トラウマ的なこと件もあるからね。
「だが、ここで良く考えてくれないかな?」
俺は逸れそうになった話を戻すべく、子供たちに声をかける。
夕立や潮、あきつ丸に北上はこちらを見るが、大井だけは不機嫌な顔を浮かべてそっぽを向いたが、気にせず口を開いた。
「現在争われているのは北上ではなく俺の所有権だ。
それを今から行われる運動会の勝利チームが権利を得る……ということになっているが、先ほど話した通り大きな問題を抱えているのは紛れもない事実なんだ」
「そうだねー。私たちのチーム以外が勝利したとしても、争いは終わらないだろうねー」
「ああ、その通り。
そして、その後には……」
俺はここで言葉を止めて真剣な顔で子供たちを順番に見ると、夕立に潮、あきつ丸は雰囲気に飲まれたかのように、少し心配そうな面持ちを浮かべた。
「おそらく新たな問題……、争いごとが起こる可能性は十分に高いだろうな」
「……ふん。別にそうなったとしても、私や北上さんには関係ありませんよね?」
しかし大井だけは抵抗するように自身の意見を述べたのだが、これはもちろん想定内である。
「いや、そうとも言えないんだが……」
「そ、そうやって、あたかも危ないという感じで話したとしても、私は絶対に騙されませんからねっ!」
「……ふむ。しかし、俺が思っていることが本当に起こってしまった場合、大井や北上にまでどころか、子供たち全員に被害が及ぶ可能性があるんだぞ?」
「「「……えっ!?」」」
俺の言葉を聞いた子供たちが一斉に声をあげ、驚いたように大きく目を見開いていく。
さて、それでは始めよう。
大井が俺につけた『戯言』という名を、本格的に発動しちゃおうかな。
次回予告
言葉巧みに園児たちを騙そうとする……と言えば聞こえが悪いが、背に腹はかえられぬだし、ほとんどは本当だったりするからね。
ということで、現状をしっかりと子供たちに伝えつつ上手く誘導しようとしたのだが、想像できた未来がとんでもないことになってしまい……?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その37「戯言先生 改」
乞うご期待!
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