艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 予想通り。というか、やったらあかんやろそれ。
それが主人公である先生の心境。ええ、ヤツがまたしても……なのです。

 ってことで、観艦式(子供たち)バージョンも始まりますっ!


その33「死亡フラグ?」

 

「なんでお前が先頭を切っているんだよぉぉぉっ!」

 

 ……と、叫ぶのはさすがに無理だったので、仕方なく心の中で済ませる俺。

 

 今まで姿が見えなかったと思っていたビスマルクが、子供たちを先導しながら埠頭に居る人たちに向かって大きく手を振り、ニコニコと笑みを浮かべて海上を駆けて行く。

 

 これが佐世保の子供たちの前ならば納得できなくもないのだが、俺の目に映っているのは、どこからどう見ても舞鶴の子供たちの先頭なのだ。

 

 主役である子供たちの顔はなんだか浮かない表情をしているのだが、その原因であるビスマルクは全く気づいていないかの如く、観客に向かってアピールをするので必死なようだった。

 

「「………………」」

 

 俺のすぐ側に居る愛宕と港湾が、そんな様子を見ながら目尻の辺りにビキビキと血管が浮かばせている。

 

 その表情は明らかに切れる寸前であり、導火線に火がついているのと同意だろう。

 

 やばい。これはマジでヤバ過ぎる。

 

 下手をすればいきなり砲弾をぶっ放すんじゃないかと思えてしまう剣幕に、俺の膝が独りでにガクガクと震えてしまっていた。

 

 さすがにそれをすれば子供たちに危険が及ぶし、観客の手前もある以上やらないとは思うけれど、この後なにが起こるかは色んな意味で想像がつかない。

 

 良くて惨事。場合によっては大惨事。

 

 今回の総本元の元帥もろとも、ビスマルクが海の底に沈んでしまうんじゃないかと、マジで心配になってくるんですが。

 

『え、えーっと、子供たちを先導しているのは、佐世保幼稚園の教育担当であるビスマルクです。

 そ、そして後ろに続いているのは舞鶴幼稚園の子供たちで、天龍ちゃん、潮ちゃん、龍田ちゃん……』

 

 青葉の声がうわずり、明らかに予定にはなかったことだと伺い知れる。

 

 仮にビスマルクが子供たちを先導するという予定があり、それを俺が知らなかった……という可能性も、もしかすると有り得るのかもしれないと思ったが、それなら愛宕と港湾の顔色が悪化したのはなぜだろうと問われれば返事に戸惑ってしまう。

 

 結局のところ、ビスマルクが先導しているのは勝手にやっているのだろう。

 

 この行動がどういう結末になるのか、全く理解していないんだろうなぁ……。

 

 さすがはビスマルク。テンションとノリだけで動く厄介なヤツだ。

 

 そして、そのビスマルクを教育していた俺の立場は、

 

 

 

 あれ、これって死亡フラグじゃね……?

 

 

 

「お、俺も巻き添えをくらっちゃわないよ……な?」

 

 誰にも聞こえないようにボソリと呟くが、正直気が気でない。

 

 本音を言えば今すぐここから逃げ出したいが、それをやったら確実に立場は悪くなる。

 

 俺ができるのは、このままなにごともなく子供たちの紹介が済み、砲弾や魚雷が発射されないのを祈るのみだ。

 

 願わくは、できる限り己の身に危害が加えられませんように。

 

 そしてムカ着火ファイアーを通り越して、カム着火インフェルノになりませんようにと、心の中で強く念じる。

 

 もし、それがダメだったのなら、せめて元帥に向けられますようにと淡い期待を胸に秘めて、半ば半目状態で見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

『こ、これにて舞鶴鎮守府所属の艦娘及び、舞鶴幼稚園、佐世保幼稚園の子供たちの紹介を終わります』

 

 青葉の不安が残る声がスピーカーから流れると、観客から大きな拍手と声援があがり、俺はひとまず胸を撫で下ろす。

 

 砲弾が飛び交うようなことはなく、心配していたような問題は起こらなかったのだが、愛宕と港湾の顔色は未だに変わらずである。

 

 こりゃあ近々血の雨が降る……なんて冗談で済まされるとは到底思えない状況に俺の膝が小刻みに揺れてしまっているが、ここでふと思い立って、しおいの方に顔を向けた。

 

「………………」

 

 しおいの顔は海の方に向いていてハッキリとは見えないが、身体が震えているようなことはない。

 

 今までのしおいだったら、愛宕や港湾の顔を見た途端にガタガタと震えながら涙目を浮かべていると思ったんだけれど、そんな風には感じられないので、少しは成長したということだろうか。

 

 そして成長したといえば、子供たちもまたしかり。

 

 気づかぬうちに子供用の艤装を装着し、海上に出て航行しながら観客に手を振ったりしていた。

 

 何人かの子供たちは表情が緊張しっぱなしでハラハラさせられたけれど、それでも失敗することなく観艦式を終えることができたのは、日頃の訓練の賜物なんだろう。

 

 俺が舞鶴から離れて佐世保に行っている間に、見違えるほど成長してくれた。

 

 それは少し残念だと思ってしまうところもあるけれど、それ以上に嬉しさがこみ上げてくる。

 

 これでビスマルクの件がなければ完璧だったのに……というのは高望みかもしれないが、済んでしまったことは仕方がないのでフォローに回ることにしよう……と思い、しおいに声をかけようとした。

 

「しおい先生、ちょっと良いです……か……?」

 

 しおいの肩をポンと叩いて振り向かせようとしたのだが、なんとなく違和感を覚えた俺は寸前のところで手を止めて、ゆっくりと顔を覗き込むことにする。

 

 声をかけたしおいに反応はなく、未だに海を眺めたまま。

 

 もしかすると、子供たちの成長っぷりに感動して涙を流し、俺の声が聞こえていなかった……なんてことだったのなら、それはそれで仕方がないと思ったのだが、

 

「あぁ、そういうことなのね……」

 

 俺はガックリと肩を落として大きくため息を吐く。

 

 しおいの身体は小刻みに震えているようなことはないし、口から泡を吹いてもいない。

 

 ただ単純に、立ったまま気絶していただけのことであった。

 

「こっちの方が成長していないのって、どうなんだろうな……」

 

 小さい声で呟く俺だが、なんだか自分自身にも言い聞かせているような気がして更に肩を落としてしまう。

 

 それでも前に進まなければ先はないのだと、俺は自ら頬を両手で叩き気合を入れた。

 

 子供たちの紹介が終わった後は、遂に運動会が始まるのだ。

 

 ここで俺のチームが勝利しなければ、未来は闇に閉ざされてしまう可能性が高い。

 

 そうならない為にも、俺は全力を持って運動会に向い合い、子供たちに指示を出さなければならないのだ。

 

 ビスマルクの件は”かなり”気にはなるが、まずは自分の身を守らなければならない。

 

 俺は無言で頷きながら、しおいから貰った運動会のしおりに書かれているチームごとに割り振られたスペースへと向かい、子供たちを迎えることにした。

 

 

 

 

 

「お疲れ様だ、みんな。失敗もなく上手にできていて、先生ビックリしちゃったぞ」

 

 埠頭の先端にある小さめのテントで子供たちを迎え、満面の笑みを浮かべながら褒め称えた。

 

「夕立、ちゃんとできていたっぽい?」

 

「ああ。問題なく航行できていたし、観客のみんなに元気良く手を振っていたな」

 

 俺はそう言いながら夕立の頭に手を乗せ、優しく撫でてあげた。

 

「えへへー。頑張ったっぽいー」

 

 上目づかいではにかみながら嬉しそうにする夕立に思わずドキドキしてしまったが、この辺りは以前とまったく変わっていないな。

 

「あ、あの……先生。潮は……どうでしたか……?」

 

「潮もちゃんと動けていたし、控えめだったけどちゃんと挨拶もできて問題なかったぞ」

 

「そ、そう……ですか。良かった……です」

 

 夕立と同じように頭を撫で撫ですると、恥ずかしそうに俯きながら笑顔を浮かべる潮。

 

 うむ。この仕草も非常に可愛い。

 

 2人揃って今すぐお持ち帰りは……しないけど、この表情を見ているだけで本当に癒されるなぁ……と思っていると、

 

「ふむ……。昨日に引き続いて先生の顔を見たでありますが、相変わらずロリコンっぷりが抜けていないであります」

 

 そんな俺たちを見ていたあきつ丸が、いぶかしげな目を浮かばせながらボソリと呟いた。

 

「ちょっ、いきなり人聞きの悪いことを言わないでくれるかなっ!?」

 

「そうは言いますが、2人の頭を撫でながらにやけた顔をしているその姿は、どこをどう見ても危ない人であります」

 

「こ、これは純粋に、2人の成長を見て感動していただけで……」

 

「ならば、その不敵過ぎる笑みの理由はどう答えてくれるのでしょうな」

 

「べ、別にそんな不敵な笑みなんて……してないよな?」

 

 助けを求めるように潮と夕立の顔を見る。

 

「う、うん。先生の顔は別に、変じゃない……です」

 

「いつものニコニコな先生っぽい!」

 

「だ、だよなぁ……。あは、あはははは……」

 

 2人の返事に笑いながらも、俺は内心ホッと息を吐く。

 

 だが、あきつ丸は納得しないような表情でため息を吐き、両手を広げてやれやれと言わんばかりの仕草をしてから口を開いた。

 

「こうも2人が先生に洗脳されているとは、不肖あきつ丸は困ってしまったであります」

 

 言って、あきつ丸は俺から顔を逸らしたかのように振舞うが、チラチラと俺の方に視線を向けているのがバレバレである。

 

 ……ふむ、なるほど。そういうことか。

 

「ちなみにだがあきつ丸。お前の航行も捨てたもんじゃなかったぞ?」

 

「べ、別に褒めて貰わなくっても……良いであります」

 

 そう答えたあきつ丸だが、さっきとは打って変わって表情が明るくなっているんですが。

 

「本心からそう思ったから言っただけなんだけどね」

 

 俺の言葉にあきつ丸の眉間がピクピク動き、手の動きが忙しなくなってきた。

 

「あっ、ちなみにアレだ。海上での安定感はピカ一だったぞ?」

 

「ほ、本当でありますかっ!?」

 

 あきつ丸はついに我慢ができなくなったのか、ダッシュで俺のすぐそばに寄ってきてキラキラと目を輝かせながら見上げてきた。

 

 その姿がまるでご飯を前にしたメンチのように感じ、お尻の辺りにパタパタと動く尻尾が見えたような気がする。

 

 つまりアレだ。あきつ丸も褒めて欲しかったという訳である。

 

 ということで、期待を込めて上目づかいをしているあきつ丸の頭を優しく撫でる俺。

 

 にへらー……と、嬉しそうな顔と共に、忙しなく動きまくる尻尾が本当に見えてきそうである。

 

 ああ、本当に癒されるなぁ……。

 

 佐世保の子供たちを撫でているときも良かったけど、なにかこう、安心感が違う気がする。

 

 今までに見てきた時間の長さが影響しているのか、それとも別の要因があるのか。

 

 まぁ、おそらくは俺を嫁にする宣言がなく、単純に身の危険を感じないからかもしれないけどね。

 

 そんな風に思いながら3人の頭を順番に撫でていると、少し離れた位置から大きなため息が聞こえてきたので視線を向ける。

 

 そこにはチームだけでなく、俺が先生をしてきた中で一番接点が少ないであろう2人の子供。

 

 

 

 北上と大井の不機嫌そうな顔が、俺の視界にバッチリと映っていた。

 




次回予告

 観艦式もなんとか終えて、やっと運動会と思いきや、またもや不幸はやってくる。
主人公に対して不審な眼を浮かべる2人の子供。
北上と大井が、牙をむくのか否か……。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その34「修羅場フラグ?」


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