艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 港湾がおかしくなったのは全てル級のせい。
ということにしておいて、説明はまだまだ続きます。

 運動会について詳しい話を聞く主人公。
港湾の苦言?に耐えながら運動会の切っ掛けなどを聞くうちに、やっぱりと言うかなんというか、全てはアイツが悪かった?


その30「言いだしっぺは仕打ち済み」

 

「つまり、今回の運動会は海上で行うってことなんですね?」

 

「エエ、ソノ通リヨ」

 

 コクコクと頷く港湾としおいを前に、俺の内心は何とも言い難い複雑な気分だった。

 

 充分な説明を受けていなかったのは俺だけのようで、ビスマルクや子供たちも、このことについては知っているのだろう。

 

 もちろん舞鶴の子供たちも同じだろうからこそ、昨日幼稚園で睨み合っていた状況が生まれたと予測できる。

 

 つまり、統括的に考えた結果……、

 

 俺って、いらない子のような気がしてきたんだけれど……。

 

 ヤバい。なんだか急に泣き出したくなってきた。

 

「あ、あの……、先生。大丈夫……ですか?」

 

 そんな俺の気持ちを察してか、しおいが優しい声をかけてくれる。

 

 なんだかんだと言っても気遣ってくれるのは嬉しいなぁ……と思っていると、

 

「シオイ先生。別ニ先生ヲ慰メナクテモ問題ナイワヨ?」

 

「……え、どうしてですか?」

 

「ダッテ、自ラヲ悲劇ノヒロイントシテ頭ノ中ニアル世界ニ投影シ、ヨリ一層ノ悲シミヲ背負ウコトニヨッテ、ドMノ本領ヲ発揮シテイルノヨ」

 

「うわー……。さすがにそれは、引いちゃいますねー……」

 

 そう言ったしおいは俺から離れるように後ずさりながら、冷ややかな目を浮かべて……って、ちょっと待て。

 

「なにを勝手に納得しつつ軽蔑した視線を向けてんのっ!?」

 

「それは……、先生が変態だからですよ……」

 

「だからそれ自体が間違いなんだって!」

 

「ソンナニ謙遜シナクテモ、スデニ皆ガ知ッテイル事実ジャナイ」

 

「いやいやいや、謙遜もなにも完全にねつ造だから……って、皆が知っているだとっ!?」

 

「エエ。私ハ何度モソウイッタ先生ノ噂ヲ耳ニシタワヨ」

 

「そんな噂に振り回されないで、ちゃんと現実の俺を見て下さいよっ!」

 

 俺は胸に左手を当てながら大きな声を出し、港湾に訴えかけようと詰め寄る。

 

「アラ……」

 

 すると港湾がほんの少しだけ上半身を後ろにそらした後、なぜか頬の辺りを赤く染め、

 

「奥手ダト思ッテイタノニ、押シガ強イトコロモアルトハ……」

 

「へっ、今なにか言いましたか?」

 

「イイエ。ナンデモナイワヨ」

 

「そう……ですか?」

 

 小さい声が聞こえた気がするんだけど、気のせいだったのだろうか。

 

 しかしまぁ、本人がそう言っているのだから無理に聞く訳にもいかないし、まだ分からないこともたくさんあるので、別の質問を投げかけることにした。

 

「それより、他にも気になることがあるんですけど……」

 

「ナニカシラ?」

 

「昨日、佐世保から輸送船に乗って到着したときには鎮守府内はいつも通りだったんですけど、朝起きたらすでにとんでもないことになっていたというか……」

 

「トンデモナイ……コト?」

 

 言って、港湾はしおいに視線で問いかける。

 

 しかし、俺が聞きたいことを理解できなかったのか、しおいはフルフルと首を左右に振っていた。

 

「えっと、つまり……、正門から通りにかけて屋台などが並んでいたり、ここにくる途中にも色んな催し物があったりしたんですけど、いつの間に用意していたんですか?」

 

「……アア、ソノコトネ」

 

 納得するように頷いた港湾だけど、その表情はなんだか疲れているような、非常にあいまいな感じに見える。

 

「ソレニツイテモ、先生ガ説明ヲ聞クタイミングガナカッタワネ」

 

 港湾は大きくため息を吐き、肩をすくめてから重い口を開いた。

 

 ……って、なんだか嫌な感じがするのは気のせいだろうか?

 

 しかし、今俺が聞いた内容について、厄介ごとが起きるようなことはないと思うんだけれど……。

 

「今回ノ運動会行事ヲ行ウニイタッテ、話ヲ切リ出シタノハ元帥ダトイウノハ理解シテイルワヨネ?」

 

「えっと、舞鶴と佐世保の合同運動会を元帥が企画したと聞いていますので、それくらいの理解ならば……」

 

 ……と、そこまで言ってから、俺の頭にふとあることが思い浮かんできた。

 

 俺が今回の件を安西提督から聞かされたとき、ビスマルクは運動会と聞いた瞬間に全く違うモノを想像していた。更には安西提督も合同の運動会としか言っていなかったことから、このような行事とは理解していなかったのではないのだろうか?

 

 しかしそうなると、それらを全て知った上で明確に伝えなかった者がいるということになり、それをして得をすると言えば……。

 

「もしかして、全部元帥の差し金だったりします……?」

 

「ノミコミガ早クテ助カルワ」

 

 言って、またもや大きなため息を吐く港湾。

 

 その横で立っているしおいも、同じように疲れたような表情を浮かべている。

 

 とどのつまり。

 

「全部元帥が悪いってことでファイナルアンサー?」

 

「「ファイナルアンサー」」

 

 頷く2人を見ながら、俺も同じように頷いて。

 

 そして、そっと心に秘めたるは、元帥への思い。

 

 どこかで機会を見つけて、ギャフンと言わせてやる……と思ったのだが、

 

「デモマァ、ソノ仕打チハスデニ終ワッテイルケドネ」

 

「……へ?」

 

 内心を全て読み切ったかのような港湾の答えに、俺は素っ頓狂な声をあげる。

 

「今回ノ件ハ高雄秘書艦ニヨッテ暴カレ、必要経費ノ全テヲ元帥ガ懐カラ出スト決マッタソウヨ」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

 言葉を詰まらせながら問いかけるも、内心はちょっぴりほくそ笑みそうな俺だったのだが、

 

「その予算が、どうやら8ケタ位いきそう……って噂ですけどねー」

 

 死んだ魚のような目を浮かべたしおいが海の方を見ながら呟いているのを聞き、俺は頭の中で計算する。

 

 一、十、百、千、万……。

 

 ………………。

 

 ……マジか。

 

「い、色んな意味で……南無……ですね」

 

「自業自得ダケドネ……」

 

「あははははー……」

 

 このとき、俺達3人は揃いも揃って感情のない顔をしながら、海を眺めていたのだろう。

 

 

 

 俺の給料の……、何ヶ月分なんだろうね……。

 

 

 

 

 

 俺たちは暫く呆けた状態になっていたものの、帰ってきた愛宕を怒らせる訳にはいかないので、急いで準備をすることにした。

 

 そうは言っても、元帥の懐から捻出されたお金によって昨日から夜通しで突貫作業を依頼したおかげもあり、俺たちがする作業は少ししか残っておらず、埠頭に沿ってパイプ椅子を並べる程度である。

 

「ひい、ふう、みい……、よし、これでオッケーですっ!」

 

「ウンウン。予定通リニ並ベラレタワネ」

 

 港湾の指示によってテキパキと作業をすることができ、愛宕が帰ってくる前に準備を終えることができた。

 

 これで後は開催時刻までやることはなく、少しばかり休憩が取れるのでは……と思いたいところだが、いかんせん情報伝達がうまくいっていなかったことを考えると、気を抜くことすら難しいと考えてしまう。

 

 まぁ、俺以外はちゃんと聞いているっぽいけどさぁ……。

 

 なんだか昨日から俺だけ省かれちゃっている気分なんだが、佐世保に行っている間に嫌われてしまったのかなぁ。

 

 もしそうだったのなら非常に困るのだけれど、昨日からのできごとを考えたら、俺の信頼度はガタ落ちどころでは済まないレベルで低下している気がする。

 

 いや、気がするのではなく、実際に下がっているんだけれど。

 

 特に、俺がM的扱いな方面に。

 

 いったい誰のせいだよ、こんちくしょう。

 

 ……もちろん分かっているのだけれど、本人にそれを言ったところで喜ばせるだけだ。

 

 ならば言わない方が良いし、新たな悩みの種を作りたくない。

 

 それよりも問題なのは、これから行われる運動会……とは名ばかりの行事で俺のチームで勝利をもぎ取らない限り、明るい未来が失われてしまう。

 

 昨日のうちにチームのメンバーを考えた上で、どんな競技に参加させるかを考えていたのに、いざ当日本番の少し前になった途端、その考察はほとんどが無になってしまった。

 

 なぜなら、今からするのはグラウンドなどで行う陸上競技ではなく、艦娘としての動作を使った競技なのだ。

 

 それがいったいどんなモノなのか。

 

 俺には全く想像することができず、なんとかして対策を考えなければならないと、近くに居るしおいに聞いてみることにした。

 

「しおい先生、ちょっと良いですか?」

 

「は、はい。なんでしょう」

 

「実はちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

 

 そう言って、競技についてどうやって聞き出せば良いかを考える。

 

 昨日のスタッフルームでチーム分けをした際、愛宕と港湾はフェアじゃないという理由から俺に協力をすることを拒むような節があった。

 

 そのときしおいから返答はなかったが、同じような対応を取られる可能性があるので、上手く聞き出さなければならないと思ったのだが、

 

「あ、あのっ!」

 

 いきなりしおいが顔を真っ赤にしながら、思いつめたように声をあげた。

 

「し、しおいは、そ、その……」

 

 視線をキョロキョロと動かしながら言葉を詰まらせ、両手の人差し指をツンツンと合わせながらなにかを言おうとしている感じに見えるんだけど、どうしてこんな態度を取るのだろう。

 

 まさか俺の心境を先読みして断ろうと考えているのか……?

 

 いやしかし、さすがにそれは俺の考え過ぎかもしれない。

 

 それによく考えてみれば、子供たちの行事を進行する側に立場として、どのような順番で競技を行うかなんてことは前もって知っておかなければならないのではないだろうか。

 

 そうじゃないと、チームの子供たちに対して準備すらやらせることができなくなってしまうし、それこそいくらなんでもフェアじゃない。

 

 それなら情報を聞き出すくらいなにも問題がないのだが、そうなると目の前に居るしおいの態度が全くもって理解できないんだけれど……、

 

「え、えっと、その、あの……」

 

「あー、いや。そんなに慌てないで良いから、落ち着いて話してくれるかな?」

 

「あっ、は、はい。すみません……」

 

 俺はしおいに深呼吸をするように助言する。

 

「すぅ……はぁ……」

 

「どう、落ち着いた?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 言って、ニッコリと微笑むしおい。

 

 こうやって話をしている限り、先ほど思っていたような好感度の下がりっぷりは感じないと思うんだけど。

 

 まぁ、しおいだけは少し違う感じだったからなぁ。

 

 どちらかと言えば、同じような仕打ちを受けているような感じもするし。

 

 ……もしかして、似た者同士なんだろうか?

 

 そうこうしているうちにしおいが落ち着き、大きく深呼吸をしてから俺の顔をしっかりと見てきた。

 

 ……と思った途端に、またもや頬を赤らめて目を逸らされたんですが。

 

 なんだこれ。

 

 なんか変なフラグとか立っちゃってない?

 

 そういえば、しおいが俺を起こしにきてくれた件も曖昧な感じになっていたけれど、なんだか少し気になっているんだよなぁ……。

 

 ………………。

 

 頬染に、目逸らし。

 

 あれ、もしかして、これって……?

 

「せ、せ、せ、先生っ!」

 

「は、はいっ!?」

 

 急にしおいが大きな声をあげたので、俺は背筋をぴんと伸ばして直立の体勢を咄嗟に取る。

 

 目の前に見えるしおいは、深呼吸をする前と同じように恥ずかしげな顔で、両手を腰の後ろで組んでモジモジしている。

 

 うわ……。こりゃあ、マジっぽいぞ。

 

 まさかとは思ったけど、俺の部屋にきてくれたのって、そういうことだったのか……。

 

 なんだかこっぱずかしいけど、嬉しくないと言えば嘘になる。

 

 しかし、やっぱり俺は心に決めた愛宕という存在があり、しおいの気持ちにこたえる訳にはいかないのだが……。

 

「し、しおいは、しおいは……っ!」

 

 ギュッと目を閉じたしおいは、腰の後ろで組んでいた両手を解いた途端、

 

 

 

「先生の希望するプレイはできそうにもありませんっ!」

 

 

 

 ……と、それはもう辺りに響き渡る声量で言い放ってくれた。

 

「………………はい?」

 

 なにを言っているんでしょうか、しおいは。

 

 まず、あれだ。

 

 プレイってなんだ。プレイって。

 

「し、しおいはノーマルですから、先生の好むようなことは……」

 

「いやいや、ちょっと待って」

 

「あ、でも、もしかすると、試してみたら意外にハマるという可能性も無きにしも非ずで……」

 

「だからちょっと待ってってば」

 

「あ、案外それが癖になっちゃって、もう後には戻れないけどそれはそれで……なんてキャーーーッ!」

 

「いったいなんの想像をしているのか分かりたくないけど、止めないと色々と問題が発生しまくった挙句に厄介なヤツが湧きそうだからマジで勘弁してくれぇぇぇっ!」

 

 いきなり両腕で自らの身体を抱きしめながらクネクネしだしたしおいを止めるべく、俺は大声を出しながら両肩を強く叩いた。

 

「ひゃうっ!?」

 

 衝撃にビックリしたしおいは両目を開け、俺の顔を見る。

 

 もちろん両肩を叩いた俺との距離は非常に近い状態であり、

 

「あわっ、あわわわわっ!?」

 

 更に驚いたしおいが耳まで真っ赤にして取った行動は、

 

「ど、どどど、どぼーんしてきますっ!」

 

「ちょっ、いきなりなんでそうなるんだ……って、なんで俺の手を握ってぇぇぇっ!?」」

 

「どぼーーーーーーんっ!」

 

「やーーーめーーーてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 そのまま2人揃って埠頭から海へ飛び込んだ……という訳である。

 

 

 

 お後が宜しいとかいう以前に、行事が始まる前なんだけどね。

 

 

 

 しくしくしく……。

 




次回予告

 しおいの暴走……珍しいかな?
とまぁ、そんなこんなでずぶ濡れになってしまった主人公。
しかしそんな状態でも運動会について話を聞かなければと港湾に問う。

 そんなとき、とある物についての話を聞いて……


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その31「七転び八転び」


 乞うご期待!

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