艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 主人公は焦り、大きな声で叫ぶ。
自らの目に映った光景に、そうすることしかできなかったという風に。
そして恐ろしき思考が頭の中に浮かんでしまい、焦りまくってしまうのだが……。


その27「厨二病」

 もう1度言う。

 

「なんじゃこりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

 

 寮の自室にある窓を開けて見えた景色に、俺は叫ばざるを得なかった。

 

 大きな破裂音は鳴りやまず、青空に白い雲をいくつも生み出している。

 

 更には大きな丸い飛行物体がいくつも揚がり、フワフワと漂っていた。

 

 昨日とはまるで違う鎮守府の様子に、俺が叫ぶのも無理はない。

 

 だって、そうだろう?

 

 ビスマルクと鳳翔さんの食堂でトトカルチョまで行われてしまったバトルを繰り広げ、なんとか場が収まってから夕食を取り、幼稚園前送ってから寮に戻るまでの間の道のりに、こんなモノは一切見えなかった。

 

 そりゃあ夜も更けていたので隅々まで詳しく視認した訳ではないけれど、それにしたってあまりにも変わり過ぎてしまっている。

 

 つまり、なにが言いたいか……よりも、目の前にどんな光景が広がっていると答えるならば、

 

 

 

「完全にお祭り状態じゃんっ!」

 

 

 

 ――と、いうことである。

 

 窓から見えるそれなりに大きな道の両側にはいくつもの屋台が並び、芳ばしい匂いと一緒にたくさんの声が聞こえてくる。屋台の内側には見知った顔があるからして、まず間違いなく鎮守府の関係者が店を出しているのだろう。

 

 俺は窓から身を乗り出して正門の方に顔を向けると、続々と人々が鎮守府内に入ってくるのが見えた。遠目でハッキリとは分からないが、衣服の様子から見ても付近に住んでいる人たちではないだろうか。

 

 つまり、現在鎮守府は一般開放されている……と予測できるのだが、こんな話は一切聞いておらず、俺の頭は完全にパニックを起こしてしまっている。

 

「ど、どういうことなんだよ、これは……っ!?」

 

 窓を閉めてから頭を抱え、ベッドに腰を下ろしながら考える。

 

 まさか、俺がぐっすり眠っている間に別世界に転生してしまったとでも言うのだろうか。

 

 いや、しかしそれなら、どうして見たことがある部屋の中で目覚めてしまうのだろう。

 

「こんな感じの話って……、漫画かゲームでなかったっけ……?」

 

 ブツブツと呟きながら思考を張り巡らせると、1つの案が浮かび上がった。

 

「………………」

 

 そして一気に顔面全体に噴き上がる汗。

 

 つい先日まで高校に通っていた主人公が、目覚めた途端宇宙人に侵略されている地球に目覚め、大きなロボットに乗って戦う……なんて、さすがにないってばよっ!

 

「いやいやいや、いくらなんでもこの考えは突拍子過ぎるだろう……」

 

 そうは言いつつも、ぶっちゃけて心臓はバクバクと高鳴りをあげているくらいに焦っているし、いつ後ろから頭をパックリやられてしまうのではないかと、ひたすら背後を伺う俺が居る。

 

 いったいどうすれば良いのかさっぱり分からず、おたおたしながらしばらく時間が過ぎた頃、急に部屋の入口の方から2回続けて音が聞こえてきた。

 

「……っ!?」

 

 コンコンと聞こえるのは、おそらく扉をノックする音だろう。

 

 普段ならば「どちら様ですかー?」と言いながら扉に近づき、鍵を開ければ良い。

 

 しかし、あまりにもテンパってしまっていた俺は、本当に宇宙人が地球を侵略してきており、遂に俺の部屋の前までやってきたのではないかと思ってしまったのである。

 

「ど、どうすれば……、良いんだ……っ!?」

 

 部屋の中には武器になるような物はなく、あってもせいぜいカッターナイフ程度だ。しかしこんな物でも役に立つかもしれないと、俺は右手で持つ。

 

 その間もノックをする音は続き、その間隔は徐々に早くなってきた。

 

 どうやら扉の向こうに居る宇宙人が諦める様子はなく、なにがなんでも俺をパックリと食いたいらしい。

 

「ちゅ、中将やビスマルクと戦って勝ったくらいなんだから、1対1ならなんとかなるか……?」

 

 そうは言ってみたものの、両方とも策略めいたモノが上手く作用したから勝てたのであり、腕力による正面衝突ならばおそらく負けていたと思う。

 

 ましてや今度は完全に未知の生物が相手であり、勝手に決め付けてはいるが、複数居る可能性だってあるのだ。

 

 もしそうだったら俺に勝ち目はほとんどなく、まず間違いなくパックリ食われてゲームオーバー。もちろんコンテニューなんてないのだから、人生オワタ状態である。

 

 こんなところまでゲーム感覚が浮かんでくるのかよ……と凹みながら、ふとあることが頭によぎった。

 

「……あれ?」

 

 俺は頭を傾げてから窓を開ける。

 

 先ほどとほとんど変わらず、多くの人が賑わい、鎮守府内に活気があふれている。

 

「………………」

 

 そして、ここにきて俺自身の考えが突拍子もなかったことに気づき、あまりの恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが分かった。

 

「あー、うー、あーーー」

 

 怒りなのかよく分からない感情をどこに向ければ良いのか分からなくなった俺は、頭を壁にゴンゴンとぶつけながら呻くような声をあげる。

 

「ないわー。マジでさっきの考えはないわー」

 

 なんだよ宇宙人が侵略してきた地球に転生したとかって。

 

 じゃあなんで鎮守府内に普通の人たちがあふれ、ニコニコと笑っているんだって話だよ。

 

 どう考えても厨二病です。ありがとうございましたーーーっ!

 

 ……と、ひたすら頭を壁にぶつけまくっていたところ、

 

 

 

 バッカーーーンッ!

 

 

 

「のわあっ!?」

 

 もの凄い音が鳴ったと思った瞬間、白い大きな物体が目の前に飛んできたので慌てて避ける俺。壁にぶつかったソレは勢いそのままに跳ね、室内の真ん中に着地した。

 

「こ、これって……、と、扉か……?」

 

 そう言って部屋の入口を見ると、ものの見事に扉があった部分がぽっかりと穴を開け、代わりに見知った人物が立っていた。

 

 どこからどう見てもしおいです。

 

 だけどなぜか、左手を天井に向けて拳を突き出しているポーズ……って、いったいなにがあったんだ。

 

「せ、先生っ、大丈夫ですかっ!?」

 

 その構えを解かずに叫び、俺の姿を確認するや否や、ダッシュで駆け寄ってきた。

 

「部屋の中から重く鈍い音と一緒に呻き声まで聞こえてくるし、本当に心配したんですよっ!」

 

「あ、あぁ、うん。ごめんごめん」

 

 後頭部を掻きながら謝る俺。

 

 ただし視線は扉の成れの果ての方だけど。

 

 しかしよく見てみたら、拳大の穴が5つほど開いているんですが。

 

 もしかして、正中線五段突きでもぶっ放したのだろうか。

 

 ……スーパーアーツ発動かよ。

 

 というか、しおいって潜水艦の艦娘だよね?

 

 どうしてそんな技ができるんだ。そして、やっぱり艦娘の腕力半端じゃない。

 

「見た感じは大丈夫そうですけど……って、こんなことをしている場合じゃなかった!」

 

 あっ……と驚いた仕草で大きく開いた口を手で隠したしおいは、反対の手を伸ばして俺の腕を掴んだ。

 

「早くきて下さいっ!

 運動会の準備時刻にギリギリですよっ!」

 

「え……って、うわっ!」

 

 壁時計に目をやると、昨日の説明で受けた時刻の5分前だと針が指していた。

 

「ちょっ、マジかっ!?」

 

「大マジですよっ!

 早くしないと愛宕先生が激おこを通り越して、憤怒バーニングファッキンストリームになっちゃいますっ!」

 

「4段階もすっ飛ばしちゃうのっ!?」

 

「それくらい危ないってことですよっ!」

 

 叫ぶしおいは俺の返事を待たずに腕を引っ張り、部屋の外へ出ようとする。

 

「ちょっ、ちょっと待って!

 せめて着替えだけでもさせてよっ!」

 

「そんな時間はありませんから、走りながら着替えて下さいっ!」

 

「無茶苦茶にもほどがあるっ!」

 

「死にたくなかったら全速力でお願いしますっ!」

 

「更に難易度上がっちゃったーーーっ!」

 

 なんとかクローゼットからカッターシャツとズボン、そして幼稚園では必須のエプロンを手に取った俺は、しおいに無理矢理引きずられる格好で幼稚園へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 しおいが言った通りに走りながら着替えをし、鎮守府内を駆け抜ける。

 

 屋台で買い物をしたり、鎮守府の建物を物珍しそうに見ていたりする人たちにそんな状態を見られるのは恥ずかしいと思ったが、あまりにもしおいが急かすので、半ば諦めながら済ませたんだよね。

 

 ……まぁ、愛宕が憤怒バーニングファッキンストリームになるって言われたらなにがなんでも間に合わせなければならないんだけれど。

 

 もし、昨日の怒りっぷりより更にヤバいとなれば、すなわちそれは死を意味する……かもしれない。

 

 そんなことを考えてながら走っていたんだけれど、先導するしおいが幼稚園とは違う方へ向かっているんですが。

 

 まさかあまりに焦っているせいで、道を間違えたというのだろうか。

 

 ここでそんな失態をすれば、遅刻は完全に免れない。

 

 さすがにそれはまずいので、俺は走りながらしおいに声をかける。

 

「し、しおい先生っ、幼稚園はこっちじゃないですよっ!」

 

「今更なにを言ってるんですかっ!

 幼稚園のグラウンドでは小さ過ぎるから、別の場所って説明していましたよっ!」

 

「……え、なにそれ。全く聞いていないんですけど」

 

「3日ほど前に愛宕先生から説明を受けたじゃないですかっ!」

 

「俺が舞鶴に帰ってきたのって、昨日なんだけどなぁ……」

 

「………………あっ」

 

「どう考えても聞けないよね?」

 

「え、えっと、その……って、今はそんなことを話している場合じゃないですよっ!」

 

「露骨に話をはぐらかされたっ!」

 

「と、とと、とにかくっ、さっき説明した通り、幼稚園のグラウンドでは狭過ぎるんですよっ!」

 

「い、いや、狭いって……なんで?」

 

 走りながら頭を傾げ、しおいに向かって問いかける俺。

 

 ぶっちゃけて走り難いが、それ以上に……、

 

「とにかく狭いんですっ!

 詳しくは到着すれば分かりますからっ!」

 

 そう叫ぶしおいは俺の方に顔……だけではなく、身体全体をこちらに向けていた。

 

 つまり、後ろ走りである。

 

 結構マジで走る俺と同レベルの速度で。

 

 ……いやいやいや、どう考えてもおかしいよっ!?

 

 しかし、それこそツッコミを入れてもはぐらかされるのは目に見えているし、愛宕を怒らさない為にもできる限り早く現地へ向かうべきである。

 

 実際にどこへ向かうのかハッキリとは分からないが、幼稚園のグラウンドよりも広い場所となればある程度は絞られる。

 

 ましてやしおいが先導している方向を考えれば、おおよその予想はつく訳で、

 

「それじゃあ、さっさと現地に行ってしまおう!」

 

 そう言って、俺は更に走るスピードをあげた。

 

「え、ちょ、ちょっと先生っ!?」

 

「そんな走り方じゃ俺にはついてこられないぞっ!」

 

 さっきのが全速力だったと見せかけて、実はもっと速く走れるんだぜ……と、カッコ良く見せてみる。

 

 だが実際には長続きできない走法なんだけど。

 

 向かうべき場所が分かればペース配分を考えられるし、大丈夫だからと判断したのだ。

 

「そんなに早く走れるなら、最初っからやって下さいよっ!」

 

「着替えをしながら全速力はやっぱり無理だし、どこに向かうか分からない状態だとスタミナが保つか分からないだろっ!」

 

「それはそう……って、それじゃあ……?」

 

「ああ、向かう先は第二グラウンドだなっ!」

 

「あー……、いえ、違います」

 

「あるぇーーーっ!?」

 

 まさかの大失態をかました俺は、走りながら愕然と口を大きく開ける。

 

「このまま先生が先に走ったらダメなんで、しおいが先導しますね……」

 

「りょ、了解……」

 

 半ば呆れた顔のしおいは頬を掻きながら、余裕の足運びで俺を追い抜き前を走った。

 

 ……ちくしょう。

 

 色んな意味で、こんちくしょうである。

 

 

 

 べ、別に、軽々と追い抜かれたからって訳じゃ……ないよ?

 




次回予告

 しおいの先導で目的地へと向かう主人公。
そしてたどりついたのは全くの見当違いな場所だった。

 焦るしおいが主人公に説明しているうちに、当の本人がやってきて……。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その28「憤怒バーニングファッキンストリーム」


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