なんとか死の危険から逃れられた主人公。
1つの目的であるビスマルクたちの様子を伺うことができ、布団の用意をすることになる。
だがここでも、不幸なことに変わりはなく……?
「よし、それじゃあ用意するかな」
地雷を踏みつけてしまった騒動はことなきを得、ビスマルクたちも大丈夫だったことに安心した俺は胸を撫で下ろし、昼寝用の部屋に入って子供たちに声をかけつつ、持ってきた布団を敷き始めた。
「しおい先生。俺がまず敷布団にシーツを被せて配置しますので、その上に枕と毛布をお願いします」
「了解ですっ!」
さすがにここはこなれているので、俺もしおいもテキパキと作業をこなす。
「さすがは先生ね。私の教育に間違いはなかったわ」
ふふん……と鼻を鳴らしながら腕組をしてふんぞり返るビスマルクだが、どうしてそう事実と全く違う発言ができるのだろうか。
「……教えたのは俺の方だし、ビスマルクは未だにこういうのって苦手なイメージがあるんだけど?」
「なっ、なによっ!
私だってやればできるんだからっ!」
そう言って近くに置いてある別の敷布団を手に持ち、シーツを被せようとする。
「むっ……、むぅぅ……っ」
「言わんこっちゃない……。
ここは俺としおい先生がやるから、ビスマルクは子供たちを見といてくれ」
「くぅぅ……っ!
こ、これで勝ったとは思わないことねっ!」
顔を真っ赤にしながら逃げ去る様に部屋を出て行ったビスマルクだが、佐世保に居るときに何度も教えたはずなんだけどなぁ……。
いかんせんビスマルクは要領が悪い……というよりも、単純に細かい作業が苦手な感じがする。
それが分かっているからこそ、最初は口しか出さなかったのだろうけれど。
……そう考えると、少々悪いことをしてしまったかもしれない。
しかし、佐世保に戻ればもう俺は居ないのだから、これくらいのことは1人で出来て貰わないと困るのだが。
うむむ……。不安要素を残したままってのも、心苦しい気がする。
とはいえ、帰還命令はもう出ちゃっているしなぁ……。
――と、そんなことを考えながら7つの敷布団にシーツを被せ終え、少し間をおいて配置をする。しおいがその上にお願いした通り枕と毛布を置いてくれたので、その間に掛け布団にシーツを被せておいた。
「先生、これでオッケーですかー?」
「うん。バッチリだよ」
「それじゃあ、あとはこの掛け布団を被せて終わりですねー」
しおいはそう言いながらシーツを被せ終わった掛け布団を配置し、7つ全ての布団セットが完成した。
「ふぅ……。お疲れ様」
「お疲れ様ですー」
別に汗はかいていないのだけれど、普段の癖なのか額を袖で拭う俺としおい。
そしてふと壁に取り付けてある時計を見ると、針は19時前を指していた。
「そろそろ夕飯の時刻か……」
「そうですね。空もかなり暗くなってますし、お腹もすいてきちゃいましたっ」
「確かに……って、よく考えてみたら鳳翔さんの食堂って滅茶苦茶久しぶりじゃんっ!」
俺は大きな声で叫びながら記憶を呼び覚ました途端、腹部から『ぐぅぅぅぅ……』と情けない音が鳴り響いた。
「わわっ、凄い音ですねぇー」
開いた手を口の上に当て、ビックリしたような表情でしおいが言う。
「あ、あはは……」
さすがに恥ずかしくなってしまった俺は、頬を掻きながら苦笑を浮かべたのだが、
「……あれ、そういえば、佐世保のみんなの食事はどうするのかな?」
「ああ、それなら愛宕先生が夕食時刻に鳳翔さんの食堂に行くのは大変かもしれないからって、子供たち用にお弁当を発注してましたよ」
「なるほど。さすがは愛宕先生だね」
「ですねー。
あっ、でもあくまで子供たちの分だけみたいですから、ビスマルクさんや……えっと……」
しおいはそう言いながら部屋の片隅へと視線を向ける。
そこには体育座りをしている2人の艦娘の姿があった。
「………………」
「………………」
虚ろな目を浮かばせながら微動だにしないその姿は人形のようであり、その一帯だけ負のオーラが漂っている気がしてしまう。
まるで某不幸戦艦姉妹の部屋みたいな……って、入ったことも覗いたこともないけどさ。
「あ、あの2人の分はさすがに用意していないと思いますけど……」
「ま、まぁ、ビスマルク等と一緒に食べに行くんじゃないかな……」
「そ、そうですよね……。あは、あはははは……」
乾いた笑い声をあげながら、額に汗をかくしおい。
俺が幼稚園にたどりついたときには、すでに2人はあんな調子だっただけになにがあったかは分からない。
しかし、しおいの顔色を見る限り、結構ヤバいことがあったんだろうと思う。
愛宕との会話でも分かる通り、かなり怒っていた感じがあったからなぁ……。
本当に、龍驤と摩耶はなにをやらかしたんだろう。
「そ、そういえば、そろそろ愛宕先生と港湾先生の作業も終わりますかね?」
またもや頭の中で考えごとをしていると、急にしおいがそんなことを言い出した。
「んー……、防犯システムがどれくらいあるのか俺は知らないし、全部の撤去ってどれくらいかかるか分からないんだけど……」
「あっ、そうですね。それじゃあ、しおいが様子を見てきますっ!」
なぜか敬礼のポーズを取ったしおいはクルリと踵を返し、ダッシュで部屋の外へと走って行く。
なんだか焦っていたみたいだけど、なにをそんなに気にしているのだろう。
そう思った俺は、部屋を見回してみたんだけれど……、
「………………あっ」
なるほど。そういうことか……。
「「「………………(じーーーーー)」」」
めっちゃ見られてる。
それはもう、懐かしき比叡のガン見モードのように。
プリンツ、レーベ、マックスが俺の顔を睨みつけるように、ジッとこちらの方へ視線を向けていたのだ。
そして先ほどのしおいが立っていた位置は、ちょうど俺と子供たちを挟んでいた。
つまり、背中にヒシヒシと視線を感じていた訳で、
「気まずく感じちゃうよなぁ……」
俺は肩を落としながら小さく息を吐き、あまりそういうことをしないようにと注意をするべく、子供たちの方へ歩いて行った。
「さて、どうするか……だな」
子供たちに近づきながら、頭の中で考える。
現状に置いて、子供たちの機嫌はよろしくないはずだ。輸送船の中で説得できなかったばかりか、天龍や金剛たちと睨み合っていたことを考えれば、更に悪化している恐れさえある。
それらを考慮すれば、開口1番に注意をするのは避けておき、それとなくやんわりと伝える方が良いだろう。
なにごともトラブルなく進むのがベストである。
ましてや今日はいつにも増して不幸続きなんで、極力厄介ごとは回避したい。
考えがまとまったところで、俺は子供たちのすぐ目の前にやってきた。ここはいつも通りに挨拶をしてから、それとなく本題に入ろうとしたのだが、
「やぁ、みんな。
今日お休みする布団の用意ができたから……」
ガシッ!
「……へ?」
いきなり腰の辺りに強い締め付けを感じ、疑問の声をあげながらも子供たちを見る。
プリンツにレーベ、そしてユー……って、1人足りなくないか?
「捕獲……完了よ」
そして後ろから聞こえてきた声に、俺は冷や汗を浮かばせながらゆっくりと振りかえる。
そこには残りの1人であるマックスが、不敵な笑みを浮かべながら俺を見上げていた。
「あ、あの……、マックス……?」
「フフフ……。もう逃がさないわ……」
「い、いや……、なんでそうなるの……?」
「舞鶴に帰ってきた途端、同僚にうつつを抜かす先生にはお仕置きが必要だから……かしら」
「ちょっ、言っていることがビスマルクと変わらないぞっ!?」
俺は慌ててマックスから逃れようとするが、その力は非常に強く、なかなか振りほどけない。
それどころか、更に事態は悪化するようで……、
「ナイスですマックス!
そのまま先生を捕まえておいて下さいねっ!」
そういったプリンツは、見覚えのあるポーズを取って……って、まさかっ!?
「ちょっと待てプリンツッ!
その体勢はまさか……っ!?」
「浮気心は……、全部ぶち壊してあげますっ!」
「ば、馬鹿っ!
こんな状態でタックルなんか食らったら……」
「問答無用っ! ふぁいやぁぁぁーーーっ!」
「マックスまで巻き添えに……って、あれ?」
プリンツが駈け出した途端、腰を掴まれていた感触がふっと消える。
「……くっ!」
俺は慌てて右に体重をかけ、ステップで避けようと体勢を取った。
「甘いですっ!
先生の行動は、何度も目で見て……ふえっ!?」
「とうっ!」
いつもならばそこから普通に距離を取るか、体重移動自体がフェイントで反対方向に避ける方法を取る。しかし俺は、今までにはやったことがない――垂直ジャンプで、プリンツのタックルを飛び越えたのだ。
呆気に取られたプリンツだが、スピードが乗ったタックルを急に止められる訳がなく、そのまま俺から離れていく。
「よし、これでなんとか……」
着地をした俺は膝を曲げて衝撃を逃し、プリンツの追撃に備えて立ち上がろうとしたのだが、
「先生って……甘いよね」
「んなっ!?」
いつの間にかすぐそばに立っていたレーベにガッチリと肩を抑えつけられ、立つことができずに中腰のまま固まる俺。
「……ええ、ベタベタにもほどがあるわ」
そしてその後ろからガッチリと背中を抱きしめるマックス……って、全く動けないんですけどっ!
「先生を見事にとったどー……ですって!」
そして右手を高々と上げつつ叫ぶろーだが、君はなにもやってないからね……。
「フッフッフ……。さすがはレーベとマックス。私の陽動が見事に功を奏しましたねっ!」
ガッチリと拘束された俺を見ながら悠々と近づいてきたプリンツが、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「……私もろとも先生にタックルをするとは思わなかったのだけれど?」
「そ、それは気のせいですよっ!」
「あのままだったら、マックスも怪我をしていたと思うんだよね」
「て、敵を騙すには、まず味方からですからっ!」
「……本当かしら?」
「……本当に?」
「ほ、ほほほ、本当ですっ!」
レーベとマックスの冷ややかな目と言葉にうろたえたプリンツは、ススス……と視線を逸らしていく。
うむ。アレは完全に嘘をついちゃっている感じだよね。
もちろんそのことをレーベもマックスも感づいているようで、冷ややかな目はそのままにプリンツを見つめながら「はぁ……」と2人揃ってため息を吐く。
結果、俺の顔面と後頭部に息がもろに当たったのだが、そんなことで喜んでいられる場合じゃない。
中腰という力が入りにくい体勢で掴まれているせいで、立ち上がるどころか身体をピクリとも動かせないのだ。
もしこんな状態でアイツに見つかろうモノなら……、
バターーーンッ!
「呼ばれて飛び出てジャジャジャ……ぷげらっ!?」
嫌な予感がした瞬間、扉が勢い良く開けられてなにかを叫んだ男性が、急にワイプアウトをしたかのように吹っ飛んで行った。
「あらあら~。防犯システムを解除していたら、虫が入り込んじゃってました~」
そしてその男性を追いかけるようにゆっくりと歩いて行く愛宕の姿が扉の隙間から見え、
「ぎょへえええっ!
ちょっと待って、マジで変な方向に腕が曲がってるからっ!」
「聞く耳持ちません~」
「だ、誰か助け……ぎにゃあああああっ!」
「ぱんぱかぱーんタイムの始まりです~」
……と、遠ざかって行く声が消えてなくなるまで、俺や子供たちは完全に固まったまま身動き1つできなかったのであった。
さっきの男性の声といい、まっ白い軍服といい……、あの人しかいないよね……って、いったいなにをやってんだよっ!
あと、ビスマルクが入ってくると思った俺の不安は、無駄だったということで。
結果オーライでは……ないけどね。
次回予告
結局地雷の対象は元帥だったようで……。
さすがに驚く佐世保の子供たち。だがそんなモノでめげないのもまた、佐世保の所以(違
しかしそれ以上に問題なヤツが帰ってきて……?
※次回、ビスマルクが問題発言をぶっぱなしますが、今更なので……。
もし駄目だという方は飛ばされる方が良いかも……です。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その23「何番煎じ?」
乞うご期待!
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