見事に自業自得だと突き付けられた主人公は気合を入れた……つもりだったのだが、佐世保の子供たちやビスマルクが気になったので口に出したところ、いきなり驚かれる始末。
不安の元である防犯システムもあることから、就寝用の布団を持って様子を見に行くことになったのだが……。
スタッフルームで説明を受け、なにがなんでも負けられないと悟った俺は気合いを入れようとしたのだが、ここでふと別のことを思い出した。
「あっ、そう言えば……」
ここまで呟いてからどうしようかと迷う俺。
しかし、そうは問屋が卸さないといった風に、すかさず港湾が話しかけてくる。
「ドウシタノダ、先生?」
「あー、いや……。佐世保のみんなはどうしているかなぁと思いまして……」
そう答えたのも束の間、港湾だけでなくしおいまでもが目を大きく見開いて固まっていた。
「せ、先生は凄いですね……」
「……へ、なんで?」
どうして2人が驚いているのか分からない俺としては問い返すしかないのだが、
「……ナルホド。敵情視察トハ、先生モ抜ケ目ナイナ」
その答えは港湾によって明らかとなった。
「いやいや、そんなことは考えていないんですけど、昨日まで佐世保に居た俺としては必要がないと言うか……」
「あらあら~。そんなに余裕ぶっていると、足元をすくわれちゃいますよ~?」
「気を抜いている訳じゃなくて、大人しくしているかなぁって思っただけなんですよね」
「あぁ、なるほどー」
しおいが呟くと同時に、愛宕も港湾も納得したように表情を和らげて頷いた。
ちなみに本音……というか心配している部分だけれど、別にビスマルクが新たな騒ぎを起こすのではないのだろうかという点ではない。
まぁ、それについては100%安心している訳ではないのだが、俺が気になっているのは、ビスマルクたちが居る昼寝用の部屋近くに設置されたという防犯システムである。
愛宕から身長で判断して作動するとは聞いたけど、万が一にも子供たちに危害が加わるのであれば、どうにかして解除しなければならないと思ったのであるが……。
「お布団の用意もしなければなりませんし、明日の会議も終わったので、様子を見に行きましょうか~」
「ウム。システムガ作動シテイルトハイエ、完全ニ抑エキレルトモ限ラナイカラネ」
「そ、それはどうかと思うんですけど……」
笑顔の愛宕に仏頂面の港湾。そして少し汗を額に浮かばせるしおい……って、システムの信頼度が全く分からないんですが。
港湾の言葉からだとそれほどたいしたモノじゃなさそうだけど、しおいの表情からは真逆としか思えないんだよね。
おそらくこれは、自らの経験による反応の差ではないだろうか。
港湾は深海棲艦の中でもかなり上位に位置する高ランクの姫。その力は非常に強く、耐久度も半端じゃないらしい。
しかし、しおいは潜水艦の中では耐久度が高いとは言え、その数値は駆逐艦と変わらない。戦艦相手では無双であっても、いざ攻撃を受ければ脆い部分も見えてしまう。
それが防犯システムに関わるかどうかは別にしても、艦娘であるしおいが不安に思っている以上、生半可ではないと判断できるのだが……。
「ではでは、まずリネン室にお布団を取りに行きましょうか~」
「は、はい。分かりました」
そう言われたら動かざるを得ないし、そもそも見に行きたいと思っていたので都合が良い。
愛宕に頷いた俺は先導してスタッフルームから出て、廊下を歩いてリネン室へと向かう。
とりあえず防犯システムの危険性については、現地に到着してから考えるしかない……と、俺は足を進めた。
「よいしょ……っと」
リネン室から布団を持ち出し、両手で抱えながら通路を歩く。
昼寝用の部屋に居る佐世保の子供たちとビスマルク、龍驤、摩耶を合わせて7人分となると、さすがに1人では持ち切れないので分担するしかない――と思っていたのだ、
「こ、港湾先生、重くないですか……?」
「コノクライノ重量ナド、力仕事ニモナラナイワ」
そう言いながらヒョイヒョイと腕を上げ下ろしする港湾の手には、7人分の掛け布団と敷布団がしっかりと握られている。
カギ爪のような手では布団を破かないように持つだけでも大変そうだと思うのだが、当の本人は全くそんな素振りも見せず、余裕しゃくしゃくといった感じの表情だった。
……うむむ。力仕事は俺の役目だっただけに、なんだかやるせない。
おかげで俺が持っているのは7人分の枕だけ。しおいは敷布団用のシーツだし、愛宕は毛布を持っている。
端から見ても、俺ってあんまり役立っているように見えないよなぁ……と思っていると、
「うおっ!」
港湾の方を見ていた俺は、持っていた枕のバランスを崩しかけて落としそうになってしまった。
「あらあら、大丈夫ですか~」
「え、ええ。ちょっと危なかったですが、大丈夫です」
俺は愛宕に答えてから上手く腕を動かし、積み上げた枕の位置を調整する。
綿や羽毛の枕なら両手で挟み込めば7つくらい持てるのだが、幼稚園で使っているのはそば殻である。そこそこ重量もあり、大きさもこじんまりとした物なので、量があると結構持ちにくかったりするのだ。
「先生、良かったらしおいが半分持ちましょうか?」
「いやいや、港湾先生があれだけ持っているのに、男の俺がこれくらいで音をあげていたらさすがに……ね」
「そう……ですか?」
「うん。だから、これくらいは頑張らせてもらうよ。
それと、しおい先生の気持ちはとても嬉しいから……ありがとね」
「い、いえっ。別にそんなお礼を言わなくても……っ!」
しおいは慌てるようにブンブンと顔を左右に振り、すぐさま俺から顔を逸らした。
「………………」
「フム、ナルホド……」
「……?」
そんな俺を見た港湾が、愛宕と一緒になにかを呟いていた。
声が小さいから聞こえないんだけれど、一体なにを話しているのだろう。
それに、心なしか愛宕の表情が良くない気がするんだけれど、通路の照明が薄ぐらいせいなのだろうか。
……っと、あまりよそ見をしていると、またさっきのようにバランスを崩しかねない。
俺は前を向きながら枕を注意深く見つつ、足を進めたのだけれど、
「あっ、そろそろ……ですね」
「……そろそろ?」
しおいが声をあげたので、俺は立ち止まりながらみんなの顔を見る。
「はい。これから先は防犯システムがあるんですよ」
「あぁ、スタッフルームで言っていたやつだね」
そう言いながら頷いた俺だが、本目的はそのシステムが本当に大丈夫かどうかの確認である。
俺は再び前を向き、辺りの様子を伺ってみたのだが、
「……で、どこに防犯システムがあるのかな?」
「ええっと、見た目は分かりにくいですから、スイッチを切った方が早いんですけど……」
しおいは答えながらキョロキョロと顔を動かしているが、その動きは一向に収まらない。
「あ、あれ……、お、おかしいな……」
「どうしたんですか~?」
「そ、その……、システムを作動させるスイッチが見当たらなくて……」
「ソレナラ、先生ノ少シ前方ノ壁ニアルヤツデハナイノカ?」
「前方って……、あっ!」
小さく叫んだしおいの視線の先には壁があり、そこにはバスの停止ボタンのようなモノが取り付けてあった。
……というか、まんまそれにしか見えないんだけれど。
丸いボタンの上に『停止します』って書いてあるのが見えるし、まず間違いない気がする。
しかし、幼稚園の通路にバスの停止ボタンって、なんだかシュール過ぎるんだが。
いったいどこに止まるんだって感じだよな。
「本当ですね。ちょうど先生の影だったので、見えにくかったのかな……?」
「ゴメンね。俺も早く気づいてあげられたら良かったんだけど、スイッチがどんなのか分からなかったからさ」
「あっ、いえ。そういうつもりで言ったんじゃないんですけど……」
またもや顔をブンブンと左右に振ったしおいの顔は慌てていたけれど、そんなに気を使わなくても良いんだけどなぁ……。
なんだか以前よりよそよそしい感じがするのは、やっぱり暫く会っていなかったせいだろうか。
せっかくこっちに戻ってきた俺としては、できる限りフレンドリーでありたいと思う訳だし、ここはこっちから歩み寄った方が良いだろうと判断し、行動に移すことにした。
「それじゃあ、スイッチに1番近い俺が押すね」
枕で手が塞がっている俺がスイッチを押そうとするなら、おでこで頭突きをするようにすれば良い。
もちろん壊してはいけないので、ゆっくりと触れるように……と思っていたんだけれど、
「あっ、先生!」
急に大きな声をあげたしおいに一瞬驚いた俺だったが、動かした足は止まらずスイッチへと向かう。
そして床を踏み締めた途端、カチリという乾いた音が通路内に響き渡った。
「……へ?」
「う、動かないで下さいっ!」
「え、え、えっ?」
俺は慌てながら足元を見てみるが、通路の絨毯以外はなにも見当たらない。しかし心なしか、布ではなく硬さのあるモノが足の裏に感じられるような気がしなくもないが……。
「な、なにも見当たらないんだけど……」
「その足を浮かしたら、死んじゃいますよっ!」
「……はぁぁぁっ!?」
しおいがいきなり物騒なことを叫ぶものだから、俺はなにを言っているんだと思いながら振り返ってみたのだが、
「……先生、ぜぇぇぇったいに、動かないで下さいね~」
あ、愛宕の顔がガチなんですが。
……ど、どういうこと?
「TM-46……、対戦車地雷ヲバッチリ踏ミ抜イタネ」
「ファッ!?」
「う~ん。スイッチを押して解除しようとしても、足を離したら起爆しちゃうでしょうねぇ~」
「ちょっ、マジでっ!?」
「だ、だから危ないって言ったのに……」
「そんなの分かる訳ないじゃんかよぉぉぉっ!」
俺はしおいに向かって悲鳴が混じったツッコミを入れたものの、3人はお互いの顔を見合ってから、
「「「はぁぁ……」」」
「なんで同時にため息なんて吐くんですかっ!?
つーか、なんで防犯システムに対戦車地雷なんか使ってるんだよっ!
しかもなんで解除スイッチの真下に設置しちゃってんのっ!?」
「それはもちろん、解除しようとする輩の殲滅を狙ってのことですよ~?」
「殺す気満々じゃん!
そしてどう考えても幼稚園に設置するレベルのモノじゃないですよねぇぇぇっ!」
地雷を踏んだままの俺に向かってニッコリと笑って説明する愛宕に、全力でツッコミを入れる。
もちろん足は微動だにさせないが、生きた心地は全くしませんですハイ。
「とにかく、どうにかして解除をしないといけませんねぇ~」
「コノ際、起爆シテシマエバドウダロウカ?」
「いやいやいや、ちょっと待って!
それってどう考えても死んじゃうからっ!」
「先生のことですから、案外しぶとく生き残ったりしませんか?」
「俺はいたって普通の人間なんだから、いくらなんでも無理だって!」
「「「………………」」」
「なんでここで無言になるのかなぁぁぁっ!?」
「子供とはいえ、艦娘の全力踏み付けを顔面に喰らってピンピンしている段階で普通の人間だとは思えないですよ……」
「あれって目茶苦茶痛かったし、気絶しちゃったからねっ!?」
「気絶程度デ済ム段階デ、人間デハナク全身義体ノ疑イガ……」
「脳だけじゃなくて、ちゃんと全身が生身ですからぁぁぁっ!
有線も無線も繋げませんからぁぁぁっ!」
「案外、世界制覇を企む悪の秘密結社に改造されていたという可能性もありますねぇ~」
「変身ベルトなんて装着してませんよぉぉぉっ!」
「ここでまさかの蒸着……?」
「俺の身体に0.05秒でコンバットスーツを蒸着できる訳がないっ!」
「ナゼカ先生ノ台詞ガ、ラノベノタイトルニ聞コエルノダガ……」
「俺はエロゲが大好きな読者モデルでもないんだからねっ!」
「地味にツンデレっぽい言い回しですねぇ~」
「乙女プラグインなんか導入していませんからぁぁぁっ!」
久しぶりのボケの嵐に、半泣きになりながら突っ込みまくる俺。
あえて言おう、どうしてこうなった。
そして頼むから、足の下にある地雷をどうにかして下さい……と、心の中で何度も泣き続けたのである。
それと、どうしてみんなは佐世保での出来ごとを知っているんだろう……?
次回予告
地雷を踏んだ挙句、ツッコミ連打をしなければならなくなった主人公。
どうにかして解除をする方法を模索しているうちに、このタイミングで絶対に会いたくなかったアイツが現れて……。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その21「効果は未知数?」
乞うご期待!
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