久しぶりのラッキースケベなシチュエーションに気絶してしまった主人公。
回復するや否や運動会の説明を受けることになったのだが、いきなり失態を突き付けられたと思い、謝りモードに入るのだが……。
「ほいや~」
「あうちっ!?」
身体に強烈な痛みが走ったと思ったら、目の前にしおいの姿が見えた。
「凄い……、流石は愛宕先生ですっ!」
「いえいえ~。それほどでも~」
後ろから聞こえる愛宕の声とともに、俺の背中にズキズキとした痛みが残っているのを考えると、どうやら気絶していた俺を気つけしてくれたようだ。
「さてさて、先生の意識も戻りましたから、説明に入らないといけませんね~」
「ウム、ソウダナ」
頷いた港湾と愛宕はソファーに座る。
「えっと、しおいは……椅子を持ってきますね」
さすがにもう1度愛宕と港湾の間に座るのは命の危機と感じたらしく、しおいは苦笑いを浮かべながら部屋の隅にあったパイプ椅子を取りに行った。
俺はまだ少し痛む身体を労わりながら、床からゆっくりと立ち上がる。座っていたパイプ椅子はいつの間にか畳まれた状態で転がっていたので、おそらくはしおいを引っ張った際に倒れてしまったのだろうと考えながら組み立てた。
「よいしょ……っと」
そうしている間にしおいが戻ってきてソファーに対面する位置にパイプ椅子を置いて座ったので、俺もその隣に位置取った。
「これで準備おっけーですね~」
「は、はい。お待たせしてすみません……」
しおいは愛宕と港湾に向かって頭を下げたが、そもそもの原因はその2人にある気がするんだけれど。
それでもなにも言わないのはしおいの性格がそうさせるのか、それとも……、
「………………」
うん。しおい、めっちゃ震えてる。
なにも言わないんじゃなくて、なにも言えないみたいだよこれ。
さっきの苦しさで恐怖しているのか、それとも別の要因なのか……、
そのどちらが本当かは分からないけれど、明らかに普通じゃないことは簡単に見て取れる。
「それじゃあ、説明を開始しま~す」
だが、全く気にすることなく話を始めた愛宕からなにも聞くなという雰囲気を感じた気がしたので、俺は口をしっかりと閉じて耳を傾けることにした。
……チキンとか言われようとも、ぶっちゃけこれは仕方ない。
だって、俺が舞鶴に帰ると決まってから幾度となく、死にそうな目に何度もあっているんだぞっ!
しかも帰ってきたらみんなの様子がガラリと変わっているし……。
愛宕って、こんなに怖く感じたことってあんまりなかったんだからねっ!
………………。
うん、まぁ、なんだ。
怒らせたら怖いというのは重々承知していたけどさ。
ただどうしてなのか、怒っている理由がいまいちわからないんだよなぁ……。
「少し前のことなんですが、先生が連れてきてくれた佐世保のみなさんが、かちこんできました~」
そう言って両手をパンと胸の前で叩いた愛宕は、ニッコリと笑いつつも俺の方へ視線を向け……たん……だけど……、
「す、すんませんでしたーーーっ!」
俺は即座に椅子から飛び降り、すぐさま土下座モードを発動した。
あかんっ、こりゃあ愛宕はんが完全におかんむり状態やっ!
……って、思わず関西弁になっちゃったけど、完全に怒りを吹っ切って殺す気満々になっちゃってるじゃんかーーーっ!
「あらら~。先生ったら、いきなり土下座なんかしてどうしたんでしょうか~?」
「こ、このたびの不始末は全て俺が悪いんですっ!
どうかっ、どうか怒りをおおさめ下さいっ!」
「別に私は怒っていませんよ~?」
「「………………」」
頭を下げたままなのでハッキリとは分からないが、しおいと港湾がなにも言わないのは……たぶんヤバいのだろう。
「安西提督の代わりに元帥へ報告をしなければならないと分かった時点で、ちゃんと言い聞かせておけばこんなことにはならなかったはずっ!」
「……あれ?」
「それをちゃんとやらなかったばかりか、舞鶴に何度かきたことがある龍驤と摩耶に道案内などを任せてしまい、結果的に幼稚園のみんなを巻き込んだのは本当に申し訳なく思っていますっ!」
「……フム」
「本来ならば佐世保から出発する前に、問題は起こさぬようにとしっかり説明しなければならなかったのに……俺の力不足ですっ!」
「……あらあら~」
額をゴリゴリと床に押し付けながら叫ぶように弁解しまくったんだけど、なぜかみんなが疑問のような声をあげている。
口先だけでなく本心からそう思ったことを言ったつもりなんだが……、どうしてなんだろうか。
「愛宕先生……」
「先生ノ発言カラ察スルニ……」
「ええ、根本的なところでバグってますねぇ~」
「………………へっ?」
3人の言葉に俺は慌てて頭を上げる。
「どこか抜けているとは思っていましたけど、ここまでだとは思わなかったですよ……」
そう言って、俺の顔から顔を背けつつ頬を掻くしおい。
「先生トノ付キ合イハ長クナイガ、ココマデ無自覚ダトハユメニモ思ワナカッタワ……」
港湾は俺を見降ろしながら、蔑んだ目を浮かべている。
「他の艦娘ならともかく……とも言えませんでしたけど、仕事に関することまでこうなっちゃいますと、ちょっと問題ありですねぇ~」
大きなため息を吐きながらブツブツと口元でなにかを呟く愛宕が、呆れた顔で俺を見ていた。
えっと……、どうして俺、こんな感じになっているんでしょうか……?
自分の非を認めて土下座したのに、更に悪化している気がするんですが。
なんでこんなことになっちゃうんだよぉぉぉぉぉっ!?
……と俺の心の叫びも空しく、暫くの間、土下座をしたまま黙りこくった俺であった。
それから数十分の後、愛宕が独り言を止めると同時に小さく頷いてから「もう土下座はいいですから、椅子に座って下さい~」と言ったのを聞いて、俺はゆっくりと立ち上がった。
「さて、それでは気を取り直して話を進めましょうか~」
しおいも港湾も頷くと、再び先ほどと同じようにソファーと椅子に分かれ、みんなが真面目な表情へと戻る。
土下座をしていた俺が1番辛いんだけど、それを口に出すこともできずに黙ってパイプ椅子に座った。
「先ほど先生から謝罪がありましたが、それらも考慮したうえで明日の運動会について少し変更をしたいと思います~」
「……ト言ウト?」
「元々は舞鶴幼稚園と佐世保幼稚園の子供たちで様々な競技を行って競い合う予定でしたが、龍田ちゃんの提案によってまたもや先生の争奪戦へと様変わりしそうなんですよ~」」
「……アァ、ソレハ雰囲気デ読メタワ」
「うぅ……。しおいは色々と……怖かったですよぅ……」
またもや呆れた表情を浮かべる港湾と、身体を小刻みに震わせるしおいだが、ここで俺がなにかを言うべきではないと判断する。
理由は分からないが、まず間違いなく地雷踏み抜くだろうからね……。
「ぐうの音も出ないくらいコテンパンにしようと思って……はいませんでしたが、そうなったら舞鶴幼稚園の子供たちに先生の所有権が渡ってしまうので問題になっちゃうんですよね~」
「…………………」
い、色々とツッコミどころが多過ぎるんだが、ここで発言して……って、そんなことを考えてたのっ!?
なんか滅茶苦茶黒い部分がでまくっているんだけど、さすがにそれはヤバいと思うんですけどっ!
いやしかし、舞鶴幼稚園を長く見守ってきた愛宕が物騒なことを考えるだなんてさすがにおかしい気がする。
元帥辺りが影響しているのか、それとも……。
…………あっ。
もしかして、随分前に鳳翔さんの食堂でやった飲み会が関係しているとか……?
あの件によってビスマルクと元々仲が良くなかった高雄はともかく、愛宕までもが根に持ってしまったとすると……、
佐世保幼稚園の面々をギャフンと言わせようと策を練ったとしても、おかしくはないのかもしれない……が。
いや、もしそうだったとしたら、俺が佐世保に転勤すること自体が矛盾している気がするんだけれど……。
………………。
「オヤ、ドウシタノダ先生」
「……えっ、な、なにがです?」
「ナニヤラ凄イ量ノ汗ヲカイテイルヨウニ見エルノダガ」
「そ、それは、その……、ちょっと暑いかなぁ……なんて……」
「……フム。適温ダト思ウノダガ……ナ」
港湾は辺りを見回しながら不思議そうな顔を浮かべたが、暫くすると小さく肩をすくめて前を向く。
しかし、俺の心境はかなりと言って良いほどよろしくなく、汗をかくのも仕方がない。
様々な出来ごとを考慮したうえで結論を出すと、俺はすでに舞鶴幼稚園にとっていらない存在なのではないか……と思えてきたからだ。
だがその一方で、それならわざわざ佐世保に居た俺に帰還命令を出すこともないだろうし、愛宕が言うように争奪戦になってしまいそうな運動会に対して対策を練る必要もない。
なにがなんだか分からなくなってきた俺の頭は知恵熱を発し、ダラダラと汗を浮かばせている……といった次第である。
従って、俺が今できることといえば、
「そこで、子供たちの人数を調整したチーム分けを行おうと思うんですよ~」
黙って愛宕の話を聞く……だけなのであるが、
「ナルホド……。シカシソウナルト、場合ニヨッテハ佐世保側ニ先生ガ渡ッテシマウコトニナラナイダロウカ?」
「ん~……、確かにその可能性全くないとは言い切れませんが、そこは先生本人が頑張るってことで解決して貰いましょう~」
「お、俺が……ですか?」
「そうですよ~。自分が撒いた種くらいは回収して下さいね~」
「は、はい……」
愛宕の声色は優しいけれど、言葉の内容は厳しいばかりである。しかし、元を正せば俺に原因があるのだから、首を左右に振れるとは思えない。
ましてや俺の意思は完全に無視とはいえ、またもや起きてしまった争奪戦。譲る気は全くないが、俺自身の所有権を取られるとなれば全力を持って阻止しなければならない。
「そ、それで、愛宕先生が言うチーム分けって……どんな感じなんですか?」
「それはですね……」
しおいの質問に答えた愛宕の言葉を整理すると、
●教育者である愛宕、しおい、港湾、俺、ビスマルクの5人をメインとして、子供たちをチームに分けるということだった。
・ビスマルク:レーベ、マックス、プリンツ、ろー、霧島
・愛宕 :暁、響、雷、電、比叡、
・しおい :天龍、龍田、時雨、金剛、榛名
・港湾 :ほっぽ、レ級、ヲ級、五月雨
・俺 :大井、北上、潮、夕立、あきつ丸
ビスマルクのチームは佐世保幼稚園の4人に、元佐世保鎮守府所属である霧島を入れた5人。
愛宕のチームは担当する子供である暁、響、雷、電に、人数調整で比叡を入れた5人。
しおいのチームは俺が佐世保に転勤する際に引き継いだ担当の子供たちである天龍、龍田、時雨、金剛に、榛名を入れた5人。
港湾のチームは深海棲艦の絡みもあってか、ほっぽ、レ級、ヲ級に人数調整の為なのか五月雨が入っている。
そして俺のチームは舞鶴幼稚園で担当していた潮や夕立、あきつ丸に加え、大井と北上の5人だった。
「なるほどー……。これならバランスも良いですし、愛宕先生の意図にもあってますねー」
「私ノチームハ1人少ナイガ、能力ヲ考エレバ問題ハナサソウダワ」
「子供たちの性能の差が戦力の決定的差ではないと思いますけど……」
「戦イハ数ダト……、先生ハ言イタイノカ?」
「い、いや、別に喧嘩を売っているつもりはないので睨みつけないで下さい……」
ちょっとツッコミを入れたかっただけなんだけど、港湾がガチでメンチ切っちゃってるよっ!
「はいはい、そこで喧嘩をしないで下さい~。
それより、このチーム分けで1番大事なことは分かりますか~?」
「1番大事な……こと?」
しおいが首を傾げながら呟いたんだけれど、そもそもの趣旨を考えればすぐに分かるはずなんだが……。
俺がそれを答えるのも気が引けるが、原因を作った身である以上言わなければならないだろう。
「それはつまり、俺が勝てば丸く収まる……ということですよね?」
「ええ、その通りです~」
ニッコリ笑って頷く愛宕。
うむむ……。非常に可愛い仕草なのに、今までのことを考えるとなにか裏があるような気がしてくるな……。
しかし、俺も1度は愛宕に惚れた身。
いや、今もしっかり惚れているんですけどね。
……未だにハッキリと言えないチキンですけど。
「……ああっ、なるほど!」
大きく目を開いたしおいは大きな音を立てて手を叩き、何度も納得するように頷いた。
「先生のチームには、嫁にする宣言をしている子供たちが居ませんねっ!」
「う、うん……。そうなんだけど……ね」
そうもハッキリと言われるとなんだか恥ずかしい気もするが、しおいの言う通りなのだ。
つまり、俺のチームには争奪戦に参加する子供たちは居らず、所有権は動くことがない。
かくして俺は再び自由の身。お天道様の下で存分に闊歩できるという訳である。
「まぁ、その為には全力を出さないといけませんけどね~」
「そ、それはそうですけど、もちろん協力してくれるんですよね……?」
「ソレハ……、聞ケヌ相談ダナ」
「えっ、ちょっと、本気ですかっ!?」
「私も港湾先生と同じ意見ですよ~?」
「なっ、愛宕先生までっ!?」
「だって、私たちが手を抜いちゃったら、子供たちに対して失礼じゃないですか~」
「で、でもっ、俺の所有権がかかっているんですよっ!」
「自業自得ですよね~?」
「自業自得ダナ」
「じ、自業自得……ですからね……」
3方向から狙ったかのように突っ込まれた俺は「そ、そうですよね……」と言うことしかできず、心の中で涙を流したのであった。
こうなったら、なにがなんでも勝つしかない……ってことだなっ!
次回予告
見事に自業自得だと突き付けられた主人公は気合を入れた……つもりだったのだが、佐世保の子供たちやビスマルクが気になったので口に出したところ、いきなり驚かれる始末。
不安の元である防犯システムもあることから、就寝用の布団を持って様子を見に行くことになったのだが……。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その20「不幸の名の元に」
乞うご期待!
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