艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

255 / 382
※ジャンル違いではありますが、去年の11月に頒布致しました東方二次小説をBOOTHにて通販を開始しております。是非、宜しくお願い致します。https://ryurontei.booth.pm/



 龍田の発言で追い詰められた先生だったが、更に愛宕から恐ろしい言葉が……。
このままだと先生の足が棺桶に突入コースなんだけど、恐る恐る向かいます。

 そしてスタッフルームで、愛宕の言葉攻めが待っている……っ!?


その16「密室●●事件!?」

 

「し、失礼します……」

 

 恐る恐る扉を開けて、俺はスタッフルームの中に入る。

 

 理由は言わずもかな。遊戯室で惨事を終えた後、愛宕から呼び出しを受けたからであるが、そのときの顔が完全に笑っていなかったからだ。

 

 子供たちに注意をするときも、ルールを破って取材に忍び込んだ青葉にお仕置きをするときも、いつもニコニコ笑顔を絶やさない愛宕が――である。

 

 そりゃあ、アイコンタクトをしていたときのように目が笑っていなかったことは何度もあったが、面と向かって話をしているのにあのような顔をされたのはほとんどなかったと思う。

 

 緊迫している状況や、雰囲気が違う場面のときは除くけどね。

 

 ……とまぁ、普段ではありえない状況に置かれた俺にできることと言えば、こうやって恐る恐る様子を伺いつつ、可能な限り愛宕を刺激しないようにするしかないんだけれど……、

 

「は~い。どうぞ入って下さい~」

 

 扉の正面に位置する壁際に設置してあるソファーに座っていた愛宕が、ニッコリと笑いながら口を開いた。

 

 ……あれ?

 

 普通に、笑っていますよね。

 

 もしかして、俺の思いすごしだったりするんだろうか……?

 

「お待ちしておりましたよー、せ・ん・せ・い」

 

「え、あっ、はい……」

 

 遊戯室のときとは打って変わって、満面の笑みを浮かべながら手招きをする愛宕。

 

 もしかすると、殺されるんではないだろうかと心配していた俺にとっては拍子抜けであるが、嬉しいことには変わりがない。

 

「さあさあ、そんなところで立ってないで、こちらのソファーに座って下さい~」

 

 愛宕はそう言いながら俺の方へとやってきて、後ろに回り込んでから急かすように背中を押す。

 

 俺は内心ホッとしながら笑顔を浮かべ、ソファーへと歩きだそうとしたときだった。

 

 

 

 カチャリ

 

 

 

「……へ?」

 

 後ろから聞こえてきた金属音に、俺は振り返りながら声をあげる。

 

 目に映ったのは、扉の鍵から手を離した愛宕が俺の顔を見ながら微笑む様子。

 

 ただし、先ほどとは全く違い、完全に目が笑っていないんだけど。

 

「え、えっと……?」

 

 ゾクリとした寒気が背筋を這い上がり、俺は大きく身体を震わせた。

 

「あれれ~、どうしたんですか~?」

 

 愛宕の口調は以前と同じようにやんわりとした感じなのだが、明らかに別の意味が含まれている気がする。

 

 いや、気がするなんてものじゃない。現に、目がガチなんだから。

 

 あと、背後にやっぱりオーラのようなモノが見える気がします。

 

 それも真っ黒で、『ゴゴゴゴゴ……』と擬音までついているんですけど。

 

「あ、あ、あの……、お、怒って……らっしゃいますよね……?」

 

「はて~、どうしてそんな風に思われるんでしょうか~?」

 

 愛宕は首を傾げながらも、俺の顔へと視線は固定したままで、ゆっくりと1歩ずつ近づいてくる。

 

 俺は恐怖心からか、無意識に足を後退させ、少しでも愛宕から離れようとするのだが……、

 

「……はっ!?」

 

 ふくらはぎに当たる感触に焦りを覚えたものの、愛宕から視線を外せるような余裕が俺にあろうはずもなく、動揺からバランスを崩してしまう。なんとか転げ落ちないように手を伸ばして淵を掴むことで、ソファーに座り込むことになった。

 

「あらあら、そんなに慌ててどうしたんでしょう……?」

 

 愛宕は口元に人差し指を当て、あたかも俺を心配するような口調で話しかけてくる。しかしその言葉とは裏腹に、妖艶にすら見えてしまう笑みを浮かべた愛宕の顔によって、俺は完全に蛇に睨まれた蛙状態になってしまう。

 

「額に汗がびっしょりですし、なにか心配ごとでもあるんですか~?」

 

「い、いや……、そ、その……」

 

 1mにも満たないくらい、顔を近づけてくる愛宕。ほんの少し釣り上がった口元と、その目に浮かぶ怪しげな光が、俺をどんどん追い詰める。

 

「それとも……、なにかやましいことでも隠しているんですかね~?」

 

「う……ぐっ……」

 

 佐世保から舞鶴に帰ろうとするまでは、あくまで身に覚えのない噂や、不幸が重なってしまった出来ごとばかりであり、愛宕に対して言えないことはなかったと思う。

 

 だが、輸送船で移動中に起こったことを話すとなると、やましい気持ちが全くないとも言い切れない。

 

 しかしそれでも、俺が愛宕を思う気持ちにうそ偽りはなく、今もその思いは変わらぬまま。

 

 ここで俺の気持ちを伝えることができたのなら、どれだけ楽なのだろう。

 

 過去に1度だけ愛宕に向けて大声で言ったことがあるものの、あれは勘違いによる勢い的な要素が大きかったのだ。

 

 いくら追い詰められているとは言え、こんな状況になっても口が上手く動いてくれないのは……、我ながらふがいない。

 

「……っ!」

 

 俺はやるせなさと答えることができないチキンっぷりに、思わずギュッと目を閉じてしまった。

 

 真っ暗な闇に閉ざされた視界。

 

 時計の針の音が聞こえ、微かな愛宕の吐息が頬に当たる。

 

 心臓はバクバクと高鳴りをあげ、恐怖で身体がガタガタと震えあがる。しかしそれと同時に、得も知れぬ感覚が背筋を駆け上がるような気がした。

 

「ずっと、我慢して待ってたのに……」

 

「……え?」

 

 本当に小さな声が、耳の中に入ってくる。

 

 ハッキリと聞き取れなかった俺は目を開け、ぽかんとしたように口を半開きにしながら声をあげてしまった。

 

「……いえ、なんでもないですよ~?」

 

 すると愛宕はすぐに顔を左右に振り、さきほどの妖艶なモノとは違う、いつもの笑みを浮かべていた。

 

「そ、そう……ですか……?」

 

「ええ、そうなんですよ~」

 

 ゆるふわな声は変わらぬまま。

 

 しかし、それ以上聞かないようにと念を押しているみたいな力強さを感じ、俺は口をつぐんでしまう。

 

「……まぁ、ちょっとばかり先生をからかうのも飽きてきましたし、そろそろ本題に入りましょうか~」

 

 愛宕は小さく舌をペロッと出し、目と鼻の先まで近づけていた顔を少しだけ下げる。

 

「か、からかって……いたんですかっ!?」

 

「うふふ~。久しぶりにお会いできたので、ちょっとしたいたずら心が芽生えちゃったんですよね~」

 

 そう言った愛宕は両手を後ろにして、クルリと回転しながら距離を取った。

 

「そう……ですか……」

 

 俺は肩を落としながら、大きなため息を吐く。

 

 緊張から解放されたせいか、身体中を覆う疲労感が半端じゃない。

 

 そしてそれと同時に、胸の中にモヤモヤとしたモノがうごめいている感じに気づく。

 

「………………」

 

 本当に、愛宕は俺をからかっていたのだろうか?

 

 いや、それ以上に……この感じは……、

 

 

 

 残念……だったのか……?

 

 

 

 愛宕に眼前まで迫られ、言葉で威圧され、俺は焦りまくっていたはずなのに。

 

 どうして虚無感のような、心にぽっかりと穴が開いた感じになるのだろう……。

 

 どうせなら徹底的に糾弾してくれた方が、どれほど楽だったのか。

 

 そうしてくれた方が、どれほど嬉しかった……って、ちょっと待て。

 

「いやいやいや、さすがにこの考えはマズイ。マズ過ぎる」

 

「……どうかしたんですか~?」

 

「え、あっ、いや、な、なんでもないですっ!」

 

 慌てて返事をしながら首を激しく左右に振るが、愛宕はもの凄く不思議そうな表情で俺を見る。

 

「もしかして、長旅でお疲れだったのに私がからかっちゃったせいで……?」

 

「だ、大丈夫ですから……」

 

「でも……、顔色が少し優れないみたいですよ?」

 

「す、少し休めば、本当に大丈夫ですのでっ!」

 

「う~ん……。そこまで言われちゃうと、仕方がないですねぇ……」

 

 愛宕は両手を腰に添え、少し心配そうな表情で俺を見ながら小さく息を吐く。

 

 そんなことを言うんだったら、子供たちに糾弾されているときに少しくらい助けてくれても良いんじゃなかったのだろうかと思うのはおかしいのだろうか。

 

 そして更に、スタッフルームに呼び出した俺をからかったりするなんて、やっぱりどこか変な気がするんだよね……。

 

「まぁ、少し休憩してから、明日のお話に入ることにしましょうか~」

 

「は、はい……。すみませんが、お願いします……」

 

 俺はソファーに座りながら頭を下げると、愛宕は笑顔を浮かべながら「いえいえ~」と答えてくれた。

 

 その顔は、記憶にあるいつもの笑顔。

 

 なんだかホッとする感じと同時に、なにか物足りない気持が胸の奥に湧き上がる。

 

 やっぱりなにか、おかしい……気がする。

 

 以前とは違う、俺の中に芽生えた感情。

 

 それは、おそらく……、

 

 

 

 ビスマルクのせいなんだと、思うんだよね……。

 

 

 

 佐世保で幾度となく繰り返してきた戦いの末、まさかとは思うが俺の属性が変わってしまったなどとは考えたくもない。

 

 しかし現に、残念がっている気持ちが心の中にあるのは、まぎれもない事実なのだ。

 

 つまりそれは、ビスマルクの調教が効果を発揮していたということになるのだが……って、そんなの受けた記憶がないよっ!?

 

 あくまで言い争いと、パンチやキックの応酬、それに何度かの馬乗り……って、これかーーーっ!

 

 いや、でもそれはすぐに振り払ったし、やましいことはなにもない。

 

 もちろん口では言えないようなことも、全くと言ってよいほどやってないからねっ!

 

「あ、あの……、先生……?」

 

「……っ、は、はい?」

 

「なんだかさっきから、顔色が真っ赤になったり、青くなったりなんですけど……」

 

「き、気のせいですよ……気のせい……」

 

「はぁ……、そうは見えないんですけどねぇ……」

 

 笑顔から心配する表情へと変わってしまった愛宕に「あははははー」と乾いた声をあげた俺は、思わず頭を抱えそうになる。

 

 まさか、俺の属性が……、ドMに変わっちゃったと言うのだろうか……。

 

 そんなこと、希望してないのに……である。

 

 

 

 かくして、佐世保へ出張によって俺が得た経験は、あまりも理不尽な内容となってしまったのだった。

 

 

 

 まぁ、踏んだり蹴ったりなことが多かったからね……。

 

 

 

 あはははは……(血涙

 




※ジャンル違いではありますが、去年の11月に頒布致しました東方二次小説をBOOTHにて通販を開始しております。是非、宜しくお願い致します。https://ryurontei.booth.pm/


次回予告

 愛宕のからかい? を受けつつ、自らへこみまくる主人公。
しかしそれでもめげずに頑張ろうとするのだが、新たな悩みの種は増える一方で……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その17「アイツの影響がこんなところまでっ!?」


 乞うご期待!

 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。