艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 結局主人公は自業自得ということを反省しながらも、後々に生かさないからいけないんです。

 ということで、青葉から別れた主人公は幼稚園へ向かう。
嫌な予感がしつつも部屋の中を伺うと、やっぱりというかなんというか……うん、分かるよね?


その14「やっぱりあの選択は失敗だった」

 

「ふぅ……。やっと着いた……な」

 

 俺の目の前には、数ヶ月前まで勤務していた場所――である、舞鶴幼稚園の建物が見える。

 

「舞鶴幼稚園か……、なにもかも皆懐かしい……」

 

 様々な困難を乗り越えて帰ってきたことを感動する艦長のような気分に浸りながら呟いてはみたものの、実際には転勤で少しの間離れていただけである。しかし、そうとは言え、初めての職場であり、色々な思い出が詰まった建物を見れば、感動してしまうのも無理はないと思う。

 

 ただ、ここで問題があるとするならば……、

 

「大きな声とか音なんかが、聞こえてはこないよな……?」

 

 先に到着しているはずの佐世保幼稚園組が、ひと悶着どころかカチコミレベルのトラブルを起こしていないかが心配なのである。

 

 前日から佐世保幼稚園で繰り広げられたビスマルク&子供たちの発言を切っ掛けに、輸送船内部で起こってしまった険悪なムードと、俺の不甲斐なさにより説得し切れなかったことが合わさってしまった今、この中で問題が起こっている可能性の方が高いはずなのだ。

 

 もし、トラブルが起きなかったとするならば、それは龍驤と摩耶が上手くビスマルクたちを押さえてくれた場合と、舞鶴幼稚園のドンであり、最強の守護神である愛宕がどうにかしたのかもしれない。

 

 ………………。

 

 そう――、頭の中で考えをまとめていると、ふとあることを思い出した。

 

 ビスマルクが初めて舞鶴にきたとき、確かヲ級を見た瞬間にもの凄く焦っていた。

 

 それはもちろん、艦娘として当たり前のことなのだろうけれど、なにより事前に連絡がいっていなかったことが問題だった。今回はすでにヲ級と顔合わせはした後ではあるのだが、今の舞鶴幼稚園には更に追加されている人員が居る。

 

 しかも、ヲ級よりもレベルと言うか、ネームバリューも半端ない。

 

 なんせ、北方棲姫と港湾棲姫なんだから。

 

 ……これって、完全にヤバくね?

 

 いやでも、停戦&同盟を組んだことは各鎮守府に通達があったはずだし、ビスマルクの耳にも届いているはずだ。

 

 それに、龍驤と摩耶は以前にもここにきているのだから、その辺りに関しての問題は起きないはずなんだけれど……、

 

「それでもやっぱり、ビスマルクはビスマルクだからなぁ……」

 

 呟いてからため息を吐く俺だが、ここで考えているだけではなにも始まらない。

 

 まずは中に入って様子を伺わなければ、なにも分からないのだ。

 

 不安しか出てこない頭の中をリセットする為、ブンブンと激しく左右に振ってから両方の頬をパシンと叩き、玄関の扉を強く押したのであった。

 

 

 

 

 

「………………マジか」

 

 扉を少しだけ開けて、遊戯室の中を覗き込む俺。

 

 とりあえず、結論を先に言います。

 

 完全に、詰んでんじゃん。

 

「「「………………」」」

 

「「「………………」」」

 

 俺の目の前で繰り広げられている状況を簡単に説明すると、遊戯室の中心部分を起点として左側に佐世保幼稚園の子供たちであるレーベ、マックス、プリンツ、ろー、そしてなぜかビスマルクが立ち、右側に舞鶴幼稚園の子供たちである天龍、金剛、時雨、ヲ級が立っていた。

 

 ちなみに愛宕は子供たちの中心から少し離れた場所で、ニコニコと笑みを浮かべたままなにも言わずに様子を見ているだけだった。その近くで龍驤と摩耶が悲壮な表情をしながら今にも倒れそうにフラフラしているんだけれど、こちらの方が俺の予想外の出来ごとなんだよね。

 

 その他には、しおいと潮、夕立、龍田の姿が部屋の隅辺りに見受けられる。おそらくこの面子は見(ケン)に徹すると言う感じだろうが、龍田の表情だけがやけにニヤついていているので、油断をしない方が良いだろう。

 

 この部屋に居ない子供たちは、おそらく別の部屋なのだろう。全員がここに集まっていたら収拾がつかないのは明白であり、多少は安心できる……とは安易に言えないし、気が滅入りそうになる。

 

 なにせ、輸送船内で俺を嫁にする宣言をした面子同士なんだよ?

 

 どう考えても険悪になるのは確実だし、近寄りたくないのは分かってもらえると思うんだけれど、

 

「あら~、噂をすればなんとやらね~」

 

 そう言った龍田が覗き込んでいる俺に向かって指をさし、

 

「「「……っ!」」」

 

 険悪ムードの子供たち&ビスマルクの視線が集中する。

 

 さすがは龍田。完璧なタイミングを分かっている。

 

 そして、こう言おう。

 

 

 

 ちょっとくらいは気を使えよ! うわあぁぁぁぁぁんっ!

 

 

 

 

 

 ――と言う訳で、現在俺は子供たちの中心に位置する場所で正座をし、突き刺さる複数の視線を全身に受けていた。

 

 もうダメです。耐えられません。

 

 針のむしろとか、そんな言葉で済まされるレベルじゃないよっ!

 

「これで当事者も揃ったから、いよいよ修羅場を開始できるわね~」

 

 そして問答無用の言葉を吐いちゃう龍田には、すでに突っ込む気力すらないです。

 

 ……まぁ、俺が言葉を発したら、なにもかもが終わってしまう気がしてならないからなんだけど。

 

 つまり根性がないだけです。ハイ。

 

「「「………………」」」

 

 しかし、子供たち&ビスマルクは俺を挟んで睨み合ったまま、無言で威圧感を出し続けていた。

 

 おそらく、先に動いた方が負ける……的な思考が渦巻いているからかもしれないが、俺としては最悪な状況に変わりがないので、さっさと楽にして欲しい気分である。

 

 どちらにしても糾弾されるなら、早い方が良い。

 

 その理由は分かってはいるけれど、正直に言って理不尽だと思う。

 

 ただ、好かれているというのは悪いことではなく、むしろ嬉しくてたまらない。

 

 問題は、行き過ぎた結果がこうであると言うのならば、やっぱり前もって対処しておかなければいけなかったのではあるが……。

 

「うぅ……」

 

 周りに聞こえない小さな呻き声をあげながら、俺はチラリと愛宕の方に視線を向ける。

 

 本来ならこのような状況になった場合、幼稚園の主として真っ先に止めるべきはずなのに、どうして黙ったままなのだろうか。

 

 ――そう考えながら、愛宕の顔をしっかりと見てみると、

 

「………………(にっこにっこにー♪)」

 

 満面の笑みでした。

 

 ただし、背中の辺りに感じるオーラは、反比例しているとしか思えないけれど。

 

 だって、愛宕の周りには誰も居ないし、明らかに距離を取っている感じにしか見えないもんね!

 

 ちなみに龍驤と摩耶は未だに床で這いつくばっています。暫くは無理っぽいです。

 

 まぁ、人の心配ができるほど余裕もないのだが、半ば諦め気味なんだから仕方がないよね。

 

 ………………。

 

 そもそも、なんで愛宕は怒っているんでしょうか。

 

 限度があるとは言え、子供たちに好かれるのは教育者として悪いことではないはずなのはさっきも思った通りだ。それに愛宕のことだから、俺が子供たちに手を出さないことくらい分かってくれているだろう。

 

 それとも、もしかしてビスマルクの噂がこっちも流れちゃっているとか……?

 

 でもそうだったとしたら、愛宕は嫉妬をしてくれているとか、そう言う感じ……なんだろうか。

 

 それってつまり……、えっと……、喜んで良いってこと……だよな?

 

「………………」

 

 脳内考察を終えた俺は、もう一度愛宕の方へと視線を向けたんだけれど、

 

「………………(ゴゴゴゴゴ……)」

 

 あ、あの……、オーラが半端じゃないんですが。

 

 なんか愛宕の周りだけ空気が淀んでいるみたいに、ぐにゃりと曲っている気がするんですけど。

 

 そして子供たちと愛宕の感覚が更に広くなっているし、誰もそっちの方に顔を向けようともしていないよっ!

 

「ぶくぶくぶく……」

 

 更にしおいに至っては、立ったまま泡を吹いて気絶をしているんですけどっ!?

 

 滅茶苦茶器用なんだけど、褒められるようなことじゃない。

 

 しかし、こうなってしまった以上、俺にはどうすることもできないし、頼みの綱は愛宕だけ。なんとかして助け船を出してもらいたいところなんだが、目を合わすだけで殺されてしまいそうな気がしてならない。

 

 だが、言葉を発することができない俺としては、アイコンタクト以外に方法がない訳で、死を覚悟したとしてもやらざるを得ないのだが。

 

「………………」

 

 俺は口を塞いだまま溜まった唾を飲み込み、勇気を出して愛宕と視線を合わす。

 

「………………(助けて下さい、愛宕先生!)」

 

「………………(あらあら、自業自得にも程があると思うんですけど、泣きごとを言うつもりなんですか~?)」

 

「………………(い、いったい俺がなにをしたって言うんですかっ!? 噂はただの誤解ですし、子供たちに手を出していないことくらい分かっていますよねっ!)」

 

「………………(本当に分かっていないんでしょうか~?)」

 

「………………(わ、分かっていないって……、な、なにをなんですかっ!?)」

 

「………………(………………)」

 

 ほんの少し瞳孔を大きくした愛宕は、口元に右手を当てて考えるような素振りをする。

 

 視線は既に俺とは合わせず、完全に思考モードに入っているようだ。

 

 しかし、愛宕が言う『分かっていない』とは、いったいなにを指すのだろう?

 

 佐世保での出来ごとについて、聞かれてしまってはマズイことなんて……ありまくりにも程があるんだが。

 

 でも結局のところ、そのほとんどは俺の本意ではないし、誤解が多く生じてしまっているのは事実である。それらを分かってくれた上で愛宕が機嫌を悪くすると言うのなら、それはやっぱり……、

 

 嫉妬……なんだろうか?

 

 それはそれで、滅茶苦茶嬉しいんですが。

 

「………………」

 

 ただ、この状況を打開するには少々厄介に働いてしまう訳で、素直に喜べない。

 

 しかし、逆に言うと、この場を乗り切れさえすればバラ色の未来が待っている可能性があるのだ。

 

 そうとなれば、なにがなんでも頑張りたいところではあるが、この緊迫した状況に置いて俺から発言するには、やはり怖いモノがある。

 

 勇気を出して一歩を踏み出した途端、そこは既に地雷原でしたって気分だからね。

 

 ……上手く言ったつもりはないが、事実はあまりにも無常である。

 

 さすがは日々、不幸な俺。

 

 呆れかえりそうになった俺は、小さく口を開いてため息を吐こうとすると、ある子供が緊迫した空気をぶち壊そうと行動を取った。

 

 茶色の長髪に巫女服をイメージした服装の子。

 

 舞鶴に居るときは、日々タックルに怯えながら相手をしていた――金剛が、

 

 それはもう、見事なまでの発言をかましてくれた。

 

 

 

「先生はこの中デ、いったい誰を選ぶと言うんデスカッ!?」

 

 

 

 その瞬間、俺を囲んでいるほとんどの子供たちとビスマルクの頭上に、導火線に火がついた大きな爆弾が現れた気がした。

 




次回予告

 金剛の一声によって、部屋の中に更なる険しさが増す。
追い詰められたかに思えた主人公だったが、ここで本当の気持ちを打ち明けるべきだと思ったのだが……。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その15「舞鶴側で荒らすといえば……」


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