艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 高雄マジ怖い。
まぁ、分かってはいたんだけどね。

 と言うことで、お約束の漫才タイムは終了し、幼稚園へと向かう主人公。
しかし、そうは問屋が卸さない……と、ある艦娘が前に立ちはだかった


その13「久しぶりに切れちゃいます」

 

 結局いつものドツキ漫才(とは言っても、一方的な虐殺レベルではあるんだけれど)を見た後に高雄の脅し……ではなく忠告を受けた俺は、少しばかり膝をガクガクとさせつつ執務室から出た。

 

「ふぅ……。これで報告は完了だな」

 

 扉を閉めてからため息をひとつ。通路に響き渡るのは執務室の中から放たれる元帥の悲鳴だから、目立つようなことはない。

 

 しかし、相変わらずの元帥と高雄だったので、ちょっとだけ安心した。

 

 これでやっと舞鶴に戻ってきたって感じがするんだけれど、これでまだ終わりじゃないんだよなぁ……。

 

 龍驤と摩耶にお願いしたとは言え、ビスマルクと子供たちの様子が気になり過ぎる。まさかとは思うが、到着早々ドンパチを起こす……なんてことを、していないと良いんだけれど。

 

「とにかく、早いところ幼稚園に向かった方が良さそうだな」」

 

 俺は独り言を呟きながら、通路を早歩きで進む。

 

 頭の中で、幼稚園で起こりえる事態を想像し、背筋を凍らせつつ額に汗を浮かばせた。

 

「ろーは以前にこっちにきているから、上手く話をまとめてくれるとありがたいんだけど、たまに導火線に火……どころか、地雷を連続で踏みまくることがあるからな……。

 それに、マックスとプリンツの機嫌もよくないし、ビスマルクの気合も入りまくりだから、龍驤と摩耶がどれだけ頑張ってくれるかなんだけど……」

 

 考えれば考えるほど、やっぱり引き止めておけば良かったと後悔してしまう。

 

 まぁ、今更言ったところで、どうしようもないんだけどさ……。

 

「もし、佐世保のみんなが問題を起こさなかったとしても、安心はできないんだよな……。

 前よりは天龍も大人になったとは思うんだけど、喧嘩っ早いのは確かだし、龍田が煽る可能性もある。

 金剛に関しては他の姉妹たちが佐世保に属していたこともあるだろうし、上手く取り持ってくれるだろうけれど……」

 

 そうは言っても、俺が舞鶴から佐世保に転勤が決まる前の記憶でしかないので、今がどうなっているのかは分からない。ほんの数ヶ月だから……と思ったりもするが、子供たちの成長は目を見張るものがあるだけに、楽観はできないのだ。

 

「たまに怖いときがあったりするが、なんだかんだと言っても時雨は大人だから大丈夫だろう。

 潮も大人しい方だし、夕立はぽいぽいだからな……」

 

 呟きながら、ぽいぽいってなんだよ――と、心の中で突っ込む俺。

 

 なんだか分からないが、『ぽいぽい』は『ぽいぽい』なのである。

 

「1番の問題は……、やっぱりアイツだよなぁ……」

 

 俺の脳裏に浮かびあがってくる1人の子供。

 

 厄介ごとを起こす頻度が高く、更に悪化させる能力は群を抜いている問題児。

 

「ヲ級が、なにごとも起こさないと良いんだけど……な」

 

 俺は肩を落としながら大きく息を吐き、頭を抱えながら階段を下りるのだった。

 

 

 

 

 

「どもっ、青葉でーす!」

 

 執務室のある建物から出た途端、俺の行く手を遮るかのように立ちはだかった艦娘に、俺は足を止めて顔を上げた。

 

「………………」

 

「ろ、露骨に嫌そうな顔をしないで欲しいんですけど……」

 

 そう言いながら頬を掻く青葉だが、片方の手にはしっかりとメモ帳が握られており、首には大きいカメラが紐でぶら下げてある。

 

 どこからどう見ても記者の成りだが、実際は舞鶴鎮守府に正式所属している艦娘だ。しかし、俺が頭を悩ませている子供たちと同レベルで問題視しなければならない相手であり、迂闊な発言は死に直面すると言っても良いだろう。

 

 もちろん死と言っても、社会的に……と前に付くけどね。

 

「今まで俺にしたことを振り返ってから口を開いてくれると嬉しいかな」

 

「振り返る……、ですか?」

 

 ジト目を浮かべる俺に、青葉は全く気付かない素振りで考えるように空を見上げる。

 

「うーん、そうですねぇー」

 

 今度は腕を組んで、頭を捻る。

 

「噂の先生を取材するうちに、ちょっとばかりストーカー気味になっちゃったことはありましたけど、あの件は手打ちになりましたし……」

 

 手打ちとか言うな。色んな意味で怖いわ。

 

「先生の写真を販売したことによって、ファンクラブができたとか……」

 

 その件はいろんな方面から情報を得ることである程度は知っていたけど、やっぱり青葉が原因だったのかよ……。

 

「最近はル級と取引をしているおかげで、深海棲艦側にも広がりを見せていますけど……」

 

 なにそれ、聞いてない。

 

「佐世保での潜入工作はほとんどばれてませんでしたから……って、げふんげふん」

 

 ちょっと待て。

 

 潜入工作って、いったいどういうことっ!?

 

「まぁ、おかげで新聞の販売部数も鰻登りですから、青葉としては万々歳ですけどねー」

 

 メトロノームのように頭を左右に傾かせながら、次々に言葉を並べていく青葉だけど、全くもって聞き捨てならないんだけどっ!

 

「そう言うことですから、振り返ったところで青葉に全くの落ち度は……」

 

「ありまくりなんで、1度本気で怒っていいか?」

 

「またまたー。そんな冗談を言ったところで……」

 

 井戸端会議をしている奥様方のように、手を左右にパタパタと振る青葉に向かって、俺はちょっとばかり大人気ない行動を取った。

 

「………………」

 

「……っ!?」

 

 青葉の身体が一瞬で固まり、呆気にとられた表情を見せる。

 

「………………」

 

「え、あっ、ちょっ……」

 

 そして、顔をみるみるうちに青ざめさせ、膝をガクガクと揺らす。

 

 大人気ないと言っても、別に大したことはない。

 

 ただ単に、無言で青葉に近づいているだけなんだけれど。

 

「ひぃっ!

 よ、寄らないで下さいっ!」

 

「………………」

 

 ただし、ちょーーーーーーっとばかり、表情が怒っちゃっているかもしれないけどね。

 

「ご、ごめんなさいっ!

 もう2度としませんから許して下さいっ!」

 

「………………」

 

 俺はゆっくりと1歩ずつ足を進め、じわりじわりと追い詰める。

 

「おおおっ、お願いしますっ!

 なんでもしますからーーーっ!」

 

 恐怖のあまり地面に座り込んだ青葉は、ガタガタと身体中を震わせながら大きな悲鳴をあげていた。

 

「……本当に、2度と俺に対して問題を起こさないと誓うかな?」

 

 さすがにこれ以上やっちゃうと色々面倒なことになりそうなので、最後に念を押しておくことにする。

 

「は、はいっ!

 不詳青葉っ、先生の為ならどんなことでもやり遂げますっ!」

 

「いや、別に厄介ごとを持ちこまなければ良いだけなんだけれど……」

 

「せ、先生が望むなら……、青葉はどんなことでも……っ!」

 

「そこで顔を赤らめる意味が全くもって分からないっ!」

 

「これだからDTは……」

 

「……なにか言った?」

 

「いいえ、なんでもありませんよー?」

 

 またもや聞き捨てならない言葉を聞いた気がするのだが、小さい声だったせいで分からなかった。しかし、青葉の視線は俺から完全にそっぽを向いているので、おそらくはそういうことなのだろう。

 

「反省の色がなさそうだよね……」

 

 同じ――いや、さっきよりも怒りを込めた表情で、青葉の方へと歩を進める。

 

「ひいぃっ!?」

 

「もう1度聞くけど、俺に対して問題を起こさないと誓うかな?

 

 より怖く、より恐ろしく思わせる為に、声のトーンは低く、一定を保ちながら口を開く。

 

「あわっ、あわわわわっ!」

 

 青葉の顔は先ほど以上に青ざめ、目に涙を浮かばせながら、おたおたしていた。

 

「誓うかな?」

 

「……っ、……っ!」

 

 コクコクと頭を縦に振る青葉だけれど、言葉にしなければ意味がない。

 

「んー、聞こえんなぁー?」

 

 気分は恋人を盾にして刃向かえないようにしつつ、腹部に指を突き刺していく殉星のように。

 

 もちろん誰か口車に乗ったり、騙されたりしていないけど。

 

「ち、ちちちっ、誓いますっ!

 誓いますから許して下さいぃぃぃっ!」

 

「その言葉に二言はないよね?」

 

「はいっ、はいぃぃぃっ!」

 

 悲鳴となんら変わりがないと思えてしまう声をあげる青葉は、その場で両手をつき、何度も頭を下げていた。

 

 俗に言う土下座のポーズであるが……って、これはさすがにやり過ぎた感があるな……。

 

 しかし、青葉相手に気を許すとダメだと言うことを、俺は重々承知している。ここは心を鬼にして、しっかりと言い聞かせなければならないのだ。

 

「もし今後、青葉の悪行が俺の耳に入ってきたら分かっているよね?」

 

「そ……、それはもちろん、先生に関するってこと……ですよね……?」

 

「そんなの当たり前でしょ。

 それと、子供たちに関係することも含まれるから、しっかりと覚えておかないと……」

 

 俺はそう言いながら、土下座をしている青葉の顎を掴んで、グイッと引き寄せた。

 

「~~っ!?」

 

「今度はこんなレベルで済まさないから、肝に銘じておくように」

 

 視線を合わせてから目をカッ……と開き、暗示をかけるように言葉を終える。

 

 青葉はピクリとも身体を動かすことができないまま、顔を真っ赤にさせ、次に一気に青ざめ、そして大量の汗を額に浮かばせた。

 

「分かってくれたら良いんだけどね。

 それじゃあ、早く幼稚園に向かわないといけないから、そろそろ行くよ」

 

 青葉から手を離した俺は素早く立ち上がり、手を振ってからスタスタと歩いて行く。

 

 向かう先は、もちろん舞鶴幼稚園。

 

 願わくは、子供たちが問題を起こしていないように。

 

 あと、ビスマルクが大人しくしていれば、非常に助かるんだけど。

 

 さすがにそれは難しいかもしれないけれど、龍驤と摩耶がなんとかしてくれれば……と、淡い期待を胸に抱きながら足の動きを速めた。

 

 

 

 

 

 ちなみに、後々の話なんだけど。

 

 青葉を説得する為に少々手荒なことをしてしまったおかげで、新たなる噂が舞鶴鎮守府を駆け巡ってしまったのは、完全に予想外だった。

 

 よく考えてみれば、艦娘だとしても女性である青葉に悲鳴をあげさせた挙句、土下座させてしまったんだから仕方ないのかもしれないけれど。

 

 その噂のせいで、更なる悲劇を生んだかどうかは……、想像にお任せします。

 

 

 

 しくしくしく……。

 




次回予告

 結局主人公は自業自得ということを反省しながらも、後々に生かさないからいけないんです。

 ということで、青葉から別れた主人公は幼稚園へ向かう。
嫌な予感がしつつも部屋の中を伺うと、やっぱりというかなんというか……うん、分かるよね?



 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その14「やっぱりあの選択は失敗だった」


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