艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 不安に思いながらも子供たちをビスマルクと龍驤、そして摩耶に任せて執務室に向かう主人公。
元帥に報告をする為中に入った途端、やっぱりというかなんというか……うん、いつものことだよね。


その12「最早お約束」

 

 一抹どころではない不安を抱えながらも、俺はみんなと別れて元帥が居る執務室へと向かった。

 

 数ヶ月の間舞鶴に居なかったとはいえ、さすがにここは慣れた土地。目を瞑っていても……とは言い過ぎかもしれないが、輸送船を停泊させた埠頭から最短距離を通って目的の建物へとたどりつく。

 

 通路を歩いていると見知った顔を見かけたので挨拶を交わすと、「いつの間に帰ってきたんだよ?」とか、「あれ、飛ばされたんじゃなかったっけ?」など、少しばかりへこんでしまう言葉を聞きながら、愛想笑いで乗り越えていった。

 

 そうして、元帥が常駐している執務室の扉の前――に立っているのだが、

 

「うむむ……、いつここにきても、変に緊張するんだよなぁ……」

 

 おそらくは踏んだり蹴ったりな経験が多いからだろうけれど、良いことも悪いことも含めて、無駄であったとは思えない。

 

 なんだかんだと言っても、俺は元帥に感謝をしているし、秘書艦の高雄にも色々と世話になった。だからこそ素直に佐世保への転勤も受け入れたし、こうやってここに戻ってきたのである。

 

 それでもこうしてノックするのをためらってしまうのは、なにかしらの不安が心の中にあるからなんだろうなぁ……。

 

「とは言え、ここでジッとしていても始まらないからな」

 

 覚悟を決める為に大きく深呼吸をし、右手の拳を握ってドアをノックする。

 

「どうぞー」

 

 間髪置かずに覚えのある声が扉の向こう側から聞こえ、俺は息を飲みながらノブを回した。

 

「失礼します」

 

 部屋に入ってまずは敬礼。そして元帥の方へと視線を向ける。

 

「遅いっ! 今何時だと思っているんだっ!」

 

「………………」

 

 いきなり怒鳴られた。

 

 いつも通りの元帥なんだけど、顔を真っ赤にして机をドンドンと叩いている。

 

「門限はとっくに過ぎているんだぞっ!

 お父さんはお前をそんな風に育てた覚えはないっ!」

 

 いや、門限が何時だとか決められていないし、そもそも元帥に育てられた覚えもなければ、父親でもない。

 

 なので、俺はジト目を浮かばせながら、元帥のすぐ横に立っている高雄に声をかけた。

 

「高雄さん、ツッコミはまだですか?」

 

「最近、このパターンに飽きておりまして……」

 

 完全に呆れた顔であくびをしているところからして、前もって予想していたのか、他の誰かに同じことをやったんだろうね。

 

「あぁ、なるほど。

 確かにマンネリ化してますからね……」

 

「最近はツッコミを入れると夫婦漫才とか言われる始末ですから、正直避けたいのですわ」

 

「じゃあこの際、完全無視の方向で済ませた方が良いですかね?」

 

「そうですわね。その方が疲れることもありませんし」

 

 そう言いながら、俺と高雄はコクコクと頷いた。

 

「うおぉぉぉいっ!

 僕の目の前で滅茶苦茶酷いことを言われてるんですけどぉぉぉっ!」

 

 それを見た元帥は驚いた顔で大きな声をあげたんだけど、

 

「とりあえず……、

 佐世保鎮守府から安西提督、及び子供たちを輸送船にて舞鶴鎮守府に到着。また、辞令により舞鶴幼稚園に帰還したことを報告致します」

 

「承りましたわ、先生。

 ところで、安西提督の姿が見えないのですが、なにか問題でも?」

 

「輸送船での長旅にて持病の腰痛を発症したらしく、治療所へ向かうように進言して俺が報告にきた次第です」

 

「なるほど、分かりました。

 それでは……」

 

「ちょっとちょっとちょっとっ!

 この部屋の主だけじゃなく、鎮守府で一番偉い僕を完全に無視して話を進めないでよっ!」

 

「先生はこの後、子供たちを幼稚園に向かわせるのですよね?」

 

「その件はビスマルクと護衛の2人にお願いしてあります。

 報告を終えた後に向かうつもりなんですが……」

 

「その方がよろしいですわね。

 少々厄介な……艦娘がついておりますし」

 

「あ、あはは……」

 

 ビスマルクの名を出した途端に高雄の表情が曇ったので、俺は愛想笑いを浮かべて誤魔化しておいた。

 

「こらあぁぁぁっ!

 これ以上無視するんだったら、僕にも考えがある……」

 

「五月蠅い……ですわ」

 

「うがっ!?」

 

 あまりにも大声を上げ続けるものだから、さすがに高雄もイラッとしたんだろう。

 

 元帥の頭を見事なまでに右手1本で鷲掴みし、椅子から引っこ抜くようにしてぶら下げた。

 

「痛い痛い痛いっ!」

 

「あら、どこからともなく悲鳴のような声が……?」

 

「目の前っ、目の前に居るからっ!

 あと、掴んでるのは高雄本人だよっ!?」

 

「おかしいですわね……。

 少々大きな蠅しか見えないのですが……」

 

 元帥を蠅扱いする秘書艦とはこれ如何に。

 

 ……まぁ、これもいつものことなんだろうけどね。

 

「えーっと、それじゃあ報告も終わりましたので、俺は幼稚園に向かうことにしますね」

 

「はい、お疲れさまでした」

 

「ちょっ、先生っ! 助けてよっ!」

 

「……俺の力で高雄さんに敵うとは思えないんですが」

 

「別に武力でなくても構わないから……って、いだだだだっ!」

 

「先生、蠅の言葉なんかに惑わされてはダメですわ」

 

 ニッコリ笑う高雄の顔がマジで怖いのでガチ引きなんだけど、このまま放置すると元帥から恨みを買う恐れもあるんだよなぁ……。

 

 しかし、言葉を間違えると更に悪化する恐れもあるし、どう対処したら良いのだろうか……と思っていると、

 

「た、助けてくれないなら、愛宕に先生の秘密をばらしちゃうよっ!」

 

「………………は?」

 

 いきなりとんでもない発言をした元帥に、俺は眉間にしわを寄せながら視線を向ける。

 

 別に愛宕に隠しごとや秘密をした覚えはないんだけれど、元帥はいったいなにを知っているというのだろう。

 

「その……、秘密とやらとは、いったい……?」

 

「ふっふっふ……。僕の情報収集能力によって、先生が佐世保に行っている間の行動は逐一調べべべべべべっ!」

 

 メキメキメキ……と、元帥の頭から嫌な音が鳴っているんだけど、このままだとマジで死んじゃうんじゃないのだろうか。

 

 さすがにヤバいと思うので、俺は高雄に「やり過ぎな気がするんですが……」と言うと、大きなため息を吐きながら元帥を掴んでいる手を離した。

 

「うごごごごご……」

 

 机に突っ伏した元帥はよく分からない呻き声をあげているが、十秒ほど経ったころには掴まれていた頭をさすりながら顔を上げた。

 

「ふぅ……、復活完了」

 

 ……いや、それで復活って、元帥は人間じゃないですよね?

 

 どう考えてもヤバいレベルの音がしてたと思うんだけど、普通だったら病院送りでもおかしくないと思うんですが。

 

「……それで、先生の秘密とやらはいったいなんなのでしょうか?」

 

 急かすように高雄が元帥に言葉を投げかけたんだけど、表情が興味ありげに見えるのはどうしてなんでしょうか。

 

 なんだかんだと言って、やっぱり気になっているんですかね?

 

 ……まぁ、愛宕に対して言われたらマズイということをした覚えはないけれど、噂が流れてしまったという可能性もあるからなぁ。

 

 それらは全て、ちゃんとした否定する材料を揃えてから帰ってきたので、問題はないんだけどさ。

 

 特に、明石の誘拐事件については色々と大変だったけど、今回は安西提督も一緒にきているので、フォローをしてもらえれば問題は……、

 

「佐世保に行っている間に、ビスマルクを籠絡したんだってさ。

 さすがは先生、やることが早いよねー」

 

「……いや、なんでやねん」

 

 素でツッコミを入れる俺。もちろん裏手も込みで。

 

 その噂は、すでに佐世保鎮守府内ではガセ情報だったと、ほとんどの人や艦娘は認識しているんですけどねっ!

 

 ……あっ、そう言えば、安西提督は未だに勘違いしていたみたいだけど、どうしてなんだろう。

 

 しかしまぁ、これに関しては簡単に否定できる材料……が……、

 

「………………」

 

 ちょっと待て。

 

 否定すること自体は簡単だけど、問題のビスマルクがこっちにきているよな。

 

 そして、元帥が愛宕にこのことを伝えたとすれば……、

 

「いやいやいや、いくらなんでもそれはないです」

 

「……先生の目があらぬ方を向いているように見えるのは、なぜなんだろうねー?」

 

 そういった元帥は、もの凄く嬉しそうにニヤニヤしている。

 

 対して、非常に嫌そうな顔をしているのは高雄なんだけど、おそらくこれはビスマルクとの仲を現わしているからだろう。

 

 もちろん俺がビスマルクを落としたという事実はないとしても、当の本人が未だに諦めていない以上、厄介な事態に陥る可能性は非常に高いのだ。

 

 ましてや今は子供たちを幼稚園に引率している状況なのだから、こんなことを現場で言われたら……、

 

「そういった事実は全くありませんけど、収拾がつかなくなるのでマジでやめて下さい」

 

「えー……、どうしよっかなぁー」

 

 ガセ情報を使ってでも脅しをかける元帥だが、本人はどう思っているのだろうか。

 

 隣に、1番危険な艦娘が居ると言うのに……ね。

 

「ふぁっ!?」

 

 先ほどと同じように、ガッチリと元帥の頭を掴む高雄。

 

「いだだだだだだだだっ!」

 

 すでにメキメキという音が聞こえ、更にミシミシとまで鳴っている。

 

「一応言っておきますが、その情報はかなり古いモノですわ。

 先生がビスマルクを落としたというのはガセでしたし、それ以外にも聞き捨てならない噂は流れていましたが……」

 

 仏頂面のままスラスラと話す高雄は、元帥の悲鳴を全く気にすることなく続けていく。

 

「そのどれもが噂でしかなかったと、私の情報網にて調べはついています。

 ただ、誤解を招くような行動も少しはありましたので、噂が流れても仕方がないと思われますけどね」

 

 言って、半分だけ開いた鋭い目を俺に向けた。

 

「ですから、舞鶴に帰還してから羽目を外す……なんてことは、なさらない方が身の為だと思いますわ、せ・ん・せ・い?」

 

「は、ははは、はいぃぃぃっ!

 よく心に刻んでおき、日々精進するでありますっ!」

 

「良い返事ですわ。

 舞鶴鎮守府の一員として、恥ずかしくない行動を取って下さいね」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる高雄だけれど、目は完全に笑っていない。

 

 それどころか、元帥を掴んでいる腕が小刻みに震え、それと一緒に……、

 

「ぶくぶくぶくぶく……」

 

 完全に元帥が泡を吹いて気絶していた。

 

 

 

 これって、死んじゃってもおかしくないですよね……?

 




次回予告

 高雄マジ怖い。
まぁ、分かってはいたんだけどね。

 と言うことで、お約束の漫才タイムは終了し、幼稚園へと向かう主人公。
しかし、そうは問屋が卸さない……と、ある艦娘が前に立ちはだかった



 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その13「久しぶりに切れちゃいます」


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