宜しければ是非であります。
日向の言葉によって新たな局面を迎えた主人公。
摩耶の気持ちは本当なのか。それともただ単にからかわれただけなのか。
甲板から逃げるように船内に戻った主人公に、更なる不幸が舞い降りる!?
子供たちから逃げ、更には護衛の5人と安西提督からも逃げることになった俺は、1人寂しく輸送船内通路の隅で体育座りをしていた。
先ほど摩耶についてのことを無線機で問われるのは勘弁してほしいので、電源を切ってからポケットに突っ込んでいる。これで問い詰められることはないが、代わりに1人ぼっちという状況だ。
わあい、1人ぼっち。俺、1人ぼっち大好き。
そんなことを呟きながら涙を流す俺。舞鶴につく前に心がポッキリと折れるどころか、粉々に砕け散りそうです。
「はぁ……」
うずくまりながら大きなため息を吐く。誰かに愚痴を言うこともできず、ストレスが溜まる一方だ。
しかし、他に行けるところと言えば、操舵室かボイラー室くらいであるが、どちらも作業をしている方に迷惑がかかってしまうので、よしておいた方が良いだろう。
暇を持て余している人が居れば、雑談を交わしたりくらいはできるだろうが……。
「適当にうろついてみるのもアリなのかなぁ……」
独り言を呟いてみるが、返事がある訳でもなく……と思っていると、
「……ん?」
なにやら聞き覚えのある音がした気がするので、俺は顔を上げて辺りを見回してみる。
「誰も……居ない?」
左右に見えるのは真っ直ぐ伸びる通路。両方の突き当りには丸い窓があるが、外側の白い波しぶきくらいしか見えない。
「気のせい……だよな?」
おそらく輸送船の機械音や他の要因によって鳴ったのだろうと思った俺は、小さく息を吐きながら立ち上がる。
ここはまだ佐世保から出発してそれほど経っていない海上だ。
まさか、舞鶴で何度も酷い目にあわせてくれた情報ねつ造トラブルメーカーが、輸送船の中にいるとは思えない。
まぁ、舞鶴に帰ったら顔をあわすことにはなるんだろうが。
それでも暫く会っていないことを考えれば、懐かしさも込み上げてくるかもしれない……と考えてみたが、やっぱり痛い思い出の方が多かったので避けておきたいところである。
「それより今は、この船の中でどうするか……だよなぁ……」
行くあてのない旅……と言っては大袈裟かもしれないし、輸送船はそれほど大きくないからすぐに周りきれそうだが、何もしないままこの場所で居座るよりはマシだろう。
俺はとりあえず左右を見渡し、直感で右を選んでから歩き出すことにした。
「そういや、日向が言ったことって本当なのかな……?」
通路を歩きながら、ふと甲板でのできごとを振り返ってみる。
おそらくは日向が俺をからかっただけだと思うが、それにしては摩耶の反応が予想外だった。
「喧嘩っ早い性格なのは前々から分かっていたけど、問答無用って感じだったもんなぁ……」
頭の中に摩耶の姿が現れると同時に、舞鶴に居る天龍も一緒に浮かんでくる。姿形は違うけれど、なんとなく同じ感じに思えてくるのだ。
「……と言うことは、案外摩耶も優しいところがあるってことなんだろうか?」
天龍は妹である龍田や、友人である潮を守ろうと必死になることが多い。普段はぶっきらぼうに喋っているが、そういうこともあって周りの信頼も厚いのだ。
対して、摩耶とは何度か食事をしたことがあるくらいで、多くの会話を交わしたことはない。先日の飲み勝負では完全にビスマルクと険悪ムードだったし、途中から必死のパッチ……と言うか形相だったので、会話らしい会話はしていなかった。
しかし、佐世保にきてあまり仲の良い友人が居なかった俺に、摩耶は普通に接してくれた。言葉使いがフレンドリーなこともあって、すぐに打ち解けたという感じだったんだよね。
「そう考えると、悪い気はしないんだけど……」
だがしかし、俺には舞鶴に居る愛宕の存在がある。佐世保に居る間に何度もビスマルクの誘い……と称した様々な障害に対処してきたのも、それがあってのことなのだ。
そして、やっと俺は舞鶴に帰ることになった。あともう少しで愛しの愛宕に会えるのだから、横道に逸れる訳にはいかない。
……まぁ、付き合っている訳じゃないんだけどね。
「……おや、奇遇だな」
そんなことを考えてながら小さくため息を吐いたところで、曲がり角の右の方から聞き覚えのありまくる声が聞こえてきた。
「なんで護衛の日向が輸送船の中に居るんだよ……」
「その質問に対して私が答えるならば、それなりに長い時間を要してしまうことになるのだが……聞きたいか?」
「……いえ、面倒臭いなら言わなくてもいいです」
余りに遠回しな言い方だったので、俺は断ることにしたのだが、
「簡単に言えば、安西提督に説教されていただけだ」
「単純明快だったよねっ!
遠回しに言う意味あったのかなっ!?」
「それはもちろん、キミをからかう為に決まっているだろう?」
「2度あることは3度目もあったよこんちくしょうっ!」
ガッデムッ! と、叫んでもおかしくないくらいに悔しがる俺だが、さっきまで色々と考えていた教訓をなに1つ生かしていなかったのだから、自業自得と言えばそうである。
だが、その件で安西提督に怒られたはずなのに……ってことは、全く反省していないということじゃないのだろうか。
「反省はしている。しかし、やめられないのだよ」
「勝手に人の心を読んだ挙げ句に開き直られてもっ!」
「はっはっはっ。罪な奴だなぁ、キミは」
「俺のせいなのっ!?」
そう言って、日向は俺の背中をバシバシと叩きながら高らかに笑っているのだが、俺にとっては笑い話では済まないんだけどね。
でも、なにを言っても聞かなさそうだしなぁ……。
「さて、ストレス発散もできたから、補給の方を済ませてこよう」
「暴露しちゃったよっ!
俺で発散されちゃったよっ!」
「うむ。キミは非常に良いおもちゃだからな」
「隠すつもりが微塵も感じられないっ!」
「その通り、私は嘘が嫌いだからな。
瑞雲に賭けて、ハッキリと言いきれるぞ」
「さすがは師匠と呼ばれるだけのことはある……って、別に瑞雲は関係な……」
ガシッ!
「ふぁっ!?」
「……今、キミはなにを言おうとしたのかな?」
いきなり日向が俺の両肩をガッチリと掴んだんだけど、半端じゃなく痛いんですがっ!
「え、い、いや、だから、別に瑞雲に賭けなくても良いんじゃないかと……」
「……つまりキミは、瑞雲を馬鹿にするつもりなんだな?」
言って、鼻の先が当たるくらいに日向が顔を近づけた挙げ句、半端じゃないレベルで睨みつけてきているんですけどっ!
「べ、べべべ、別に瑞雲を馬鹿にするつもりは……っ!」
「本当か?
もし嘘なら、いますぐ海に叩き込むぞ?」
「ほ、本当ですっ!
神に誓って嘘は言いませんっ!」
「……ふむ。しかし、その言葉は信憑性に欠けるな」
「そ、それじゃあ、どうすれば……」
「もちろんそれは、瑞雲に賭けてうそ偽りがないと言ってもらわなくては困る」
「………………はい?」
いやいやいや、俺は別にそこまで瑞雲が大事だとかそういうんじゃないんですけどっ!
しかし、日向の力は凄まじく、このままだと肩が砕けてしまうかもしれないくらいに痛いので、この場を乗り切るためには仕方ない……と思った瞬間、
「あっ、日向ー」
俺の前方、つまり日向の背中側から声が聞こえてきた。
「いやー、安西提督の説教が長引いちゃって……って、なにやってん……の……ぉぉぉっ!?」
声を聞く限り、おそらく伊勢だとは思うのだけれど、日向の顔が真近く過ぎて、俺にはその姿が見えない。
いや、それ以前に、もの凄く嫌な予感がするのだが……、
「ななな、なんで日向と先生がキスしちゃってるのっ!?」
「やっぱりそういう誤解になっちゃいますよねーーーっ!」
側面から見れば分かるかもしれないが、伊勢が居る位置は日向の背中側。つまり、日向が俺の両肩をガッチリ抱いて、リードをしているという状態にしか見えないのだろう。
……って、そんなことを冷静に推測している場合じゃないよねっ!
「どうしてなのさ日向っ!
大人しいってレベルじゃないし、そもそも抜け駆けなんて酷くないっ!?」
「ち、違うんだよ伊勢っ!
これはキスをしているんじゃなくて、単に脅されているだけで……」
「なっ……!
先生を脅してキスを迫ってたってことっ!?」
「だ、だからそうじゃなくてっ!」
声を荒らげて反論する俺なのだが、日向は一向に離してくれないし、これじゃあ誤解が解けないのも無理はない。しかし、力任せに振りほどこうとしても力では全く敵わないので、こうするほかしかないのだが、
「……うむ。
やはり色恋沙汰は早い者勝ちだな」
「なんでこの状況で更に悪化させるようなことを言っちゃうのかなっ!?」
「ひゅ、日向の馬鹿ぁぁぁっ!」
「ご、誤解だからっ!
頼むから俺の話を聞いてくれぇぇぇっ!」
大声で叫んだのも虚しく、伊勢はダッシュで通路を走り、気配が完全に消え去ってしまった。
「嘘……だろ……」
「はっはっはっ。いやはや、愉快痛快だな」
「だから笑いごとじゃないんだけどっ!?」
「悪い悪い。キミを更にからかおうとするあまり、少々やり過ぎてしまったな」
「少々ってレベルじゃないんだけどねっ!」
憤怒する俺に、笑う日向。
ここでやっと肩から手を離してくれたが時すでに遅しであり、伊勢がどこに消えたのかは定かではない。
しかし、このまま伊勢が誤解したままでは、更なる悲劇を呼ぶ可能性があるので、放って置くことはできないのだ。
「い、伊勢は一体どこに向かったんだろう……」
「おそらくは通路の先にある安西提督の部屋だろう。
私の説教が終わった後、伊勢も呼出しを受けていたからな」
「なるほど……って、それって具合が悪過ぎじゃねっ!?」
「どうしてだ?」
「今の誤解が安西提督に伝わったら、摩耶の件と合わせても俺の立場がヤバいことになっちゃうよねっ!」
「今更な気もしなくもないが……、まぁ、そうなるな」
「冷静に言ってるけど、その発端は全部日向だからねっ!」
「いやいや、それほどでもないぞ?」
「褒めたつもりはないんですけどっっっ!」
全力でツッコミを入れたものの、恥ずかしげに笑みを浮かべる日向にこれ以上なにを言っても無駄だと察した俺は、ダッシュで伊勢を追うことにする。
なんとしても誤解を解いて、安西提督に伝わることだけは避けなくては……っ!
「待つんだ、先生」
「うおっと……って、なんだ?」
走り出した途端に呼び止められたので、つんのめりそうになったが、なんとかバランスを取って振り返ると、
「通路を走るなと教えられなかったのか?」
「そんな場合じゃねぇよっ!」
……と、またしてもニヤニヤと笑みを浮かべて言った日向に叫んだ俺は、今度こそ伊勢を追いかける為に走り出した。
いやまぁ、幼稚園で教育をしている身としてはダメなんだけどね。
※別の艦これ二次小説『深海感染』の続きである作品『ONE』のツイッター修正版を更新しました。
宜しければ是非であります。
次回予告
勘違いをした伊勢を追いかける主人公だが、まさかの展開が待ち受ける。
恐る恐る声をかける主人公に、驚きの表情を浮かべる伊勢。
そして、行動が加速して……?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その9「誤解の行方」
乞うご期待!
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