艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 それから子供たちの質問攻めにあったものの、舞鶴で行われる運動会のことを知らせて準備をさせることにした。
肝心の帰還について、子供たちに切りだせない主人公だがったのだが、ひょんなことからツッコミを受けて……。


その5「一致団結……しちゃいました」

 

 あれから色々と大変だったが、子供たちに舞鶴で合同の運動会が行われることを伝え、今日のスケジュールを大幅に変更して明日の準備に取り掛かることにした。

 

 運動会自体は1日で終わるものの、実際に開催されるのは2日後である。しかし、佐世保から舞鶴までの移動に半日を要する為、明日の朝から出発して夕方くらいに到着し、向こうで1泊するとなると、帰りのことも考えれば3日間を要することとなる。

 

 俺はそのまま舞鶴に帰還となるが、子供たちはそうではない。着替えなどの必要なモノをきっちりと揃えておかないと、いざとなったときに慌てる羽目になってしまう。

 

 いくら舞鶴に幼稚園があると言っても、全て融通をきかせられるとは限らないし、それらをちゃんとやってこそ教育者である。

 

 本来ならばビスマルクの現状を知る為に様子を見ておきたかったのだが、2日酔いの為にダウンとなると……、やっぱりまだ独り立ちは難しいのだろうか。

 

 それと、ここにいる子供たちに、俺が舞鶴に帰ると言うことをまだ伝えられていないのだが、どのタイミングで切り出せば良いかで迷っているのだ。

 

 正直に言って、別れるのが辛い。

 

 しかし、あくまで俺はビスマルクのサポートとして佐世保にやってきたのだから、いつかは別れのときが来るのは分かっていたはずだ。

 

 だが、そうだとしても、やっぱり辛いモノは辛い。

 

 考えただけで涙が出てきそうになるし、胸の奥が締め付けられるような気持ちになる。

 

 だけど、それを子供たちに悟られないように……と思っていたのだが、

 

「先生……、どうかしたんですって?」

 

 リュックサックに荷物を詰めるように指示をして様子をうかがっていた俺に、ろーが話しかけてきた。

 

「ん、あ、いやいや。なんでもないよ?」

 

「そうなんです……か?

 なんだか悲しそうな顔をしていたみたい……ですって」

 

 そう言って、ろーは俺の目を覗きこむように見上げてきた。

 

 ろーのオーシャンブルーの瞳が俺の心を見透かすかのように見え、思わず目を逸らしてしまう。

 

「……どうして、ろーから目を離したんですか?」

 

「うっ……、そ、それは……、その……」

 

 どう答えて良いものか戸惑う俺。

 

「……どうかしたのかな?」

 

「レーベ、先生がなんだか変なんですって」

 

「先生が……変?」

 

 そうこうしているうちにレーベが近づいてきてろーと話し、いつの間にやら子供たち全員が俺の顔を見つめていた。

 

「べ、別に俺は……、変なんかじゃないぞ?」

 

「そのわりには、額に汗をかいているよね?」

 

「いやー、この部屋暑いなー。ちょっと暖房の温度落とした方が良いかもなー」

 

「私は適温だと思うわよ。ねぇ、レーベ?」

 

「そうだね。暑くもなく寒くもなく……って感じだよね」

 

「そ、そうか……?」

 

 コクコクと頷くレーベとマックスに、怪しむ顔でずっと俺の顔を見るろー。そしてプリンツはと言うと……、

 

「あれ、この紙ってなんですかー?」

 

 俺のリュックサックを、見事なまでに開けていた。

 

「ちょっ、プリンツ!?」

 

「えーっと、なになに……って、えええええっ!?」

 

 驚きながら大きな声をあげたプリンツの手には、昨日安西提督から受け取った辞令書がしっかりと握られていて、

 

「ど、どうしたのかな、プリンツ?」

 

「そんなに驚くなんて、きっと重大なことが書かれているんだわ」

 

「なんて書いてあるんですか?」

 

 他の子供たちが、すかさずその紙を覗きこもうと近づいて行く。

 

「ストップ! ストーーーップッ!」

 

 俺は慌ててプリンツから辞令書を取り返そうと駈け出したが、とき既に遅しであり、

 

「せ、先生が……、先生が舞鶴に帰っちゃうっ!」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

 呆気なく、子供たち全員が内容を知ってしまったのであった。

 

 

 

 

 

「い、いったいどういうことなのかな……、先生?」

 

 ゆっくりと歩きながら、レーベが俺に問う。

 

 その足取りはフラフラと危なっかしく、今にも倒れそうな気配がする。

 

 目の光が失われ、その姿はまるで虐待を受けた後のような状態で……って、どうしてこんなことになっているんだっ!?

 

「い、いやいや、それ以前にレーベの方が心配なんだけど……」

 

「僕のことなんかどうでも良いんだよ……。それより、プリンツが持っている紙のことについて、ハッキリさせて欲しいんだ……」

 

 ゆらり……、ゆらり……と、1歩ずつ近づいてくるレーベが、なんだかゲームで登場するゾンビのように見えて、マジで怖いんですが。

 

「さあ、早く答えてよ先生……。どうしてこんなことになっているのかな……?」

 

「そ、それは……だな」

 

 こうなってしまった以上、誤魔化す訳にもいかないのだが、いかんせんレーベの動きが気になってしまい、上手く口が動かせない。

 

「……もしかして、僕たちが嫌いになったから舞鶴に帰ろうとしているの……?」

 

「いや、そんなことはないんだけど……っ!?」

 

 それは違う――と言おうと思った瞬間、レーベの後ろから同じように近づいてくるマックスにプリンツの姿が目に映り、息を飲んでしまった。

 

「どういうことなの……、先生……?」

 

「私たちを置いて逃げようだなんて……、許さないですよ……?」

 

「ちょっ、誰も逃げるだなんて言ってないよっ!?」

 

 両手を前に出して向かってくる姿は完全にゾンビのソレであり、更に俯き気味の顔が恐怖を一層引き立たせている。

 

 これで目が赤く光っていたら、完璧に漏らしちゃうコースだ。いくら大人だからと言っても、この恐怖感はマジパナイ。

 

「……どうしてみんな、こんな格好で歩いているんですって?」

 

 そんな中で、ろーだけはいつも通りなんだけど、今の状況を全く理解してないのはどういうことなんだろう。

 

「え、えっと、ろーちゃんも同じようにやったら良いんですか?」

 

「いや、むしろみんなを止めてくれると嬉しいかなっ!」

 

 大きな声でお願いをしたのだが、ろーは俺と3人の子供たちを何度も見比べた後、なぜか辞令書を手に持った。

 

「辞令……って、良く分からないですけど、先生は舞鶴に帰るんですよね?」

 

「そ、そうなんだけど、今はそんなことを言っている場合じゃ……」

 

 そうこうしている間に、レーベたちの威圧感から部屋の隅に追いやられた俺はどうすることもできず、完全に逃げ場をなくしている。

 

 ゆっくりと近づいてくるレーベ、マックス、プリンツ。

 

 その目は俺の姿を捉え、捕食するかのように手を伸ばす。

 

「た、たすけ……、助けてくれぇぇぇっ!」

 

 大声で叫んだところで3人の動きは止まることはなく、もうダメだ……と思いかけた瞬間、

 

「でもそれって、前から決まっていたことなんですよね?」

 

 ろーが放ったその言葉に、部屋の空気が固まったような気がした。

 

 気づけば3人は足を止め、手をゆっくりと下ろしている。

 

 そして一様に俯いた顔。

 

 その瞳には、大粒の涙がにじみ出ていた。

 

「うっく……、ひっく……」

 

 レーベが肩を震わせ、すすり泣く。

 

「分かっては、いたんだけれど……、やっぱり悲しいわね……」

 

 視線を逸らして呟くマックスの頬に、一筋の涙の痕が見える。

 

「……っ、……っ!」

 

 プリンツは声を殺し、両方の手をギュッと握りながら、ボロボロと涙をこぼしていた。

 

「………………」

 

 そんな3人の姿が、あまりにもいたたまれなくて、

 

 こぼれる涙を見るのが辛過ぎて、

 

 俺は視線を逸らしたくなってしまう。

 

 でも――、そうであっても、

 

 これは、はじめから決まっていたこと。

 

 俺が佐世保にきたのは、あくまで一時的であって、

 

 ビスマルクが独り立ちできれば、俺の役目は終了だと思っていたのに、

 

 辞令が届いた時点で、それはまだ不完全かもしれなくて、

 

 それでも俺は、従わなければならない。

 

 佐世保には、4人の子供たちが。

 

 舞鶴には、もっと多くの子供たちが居る。

 

 そのどちらも、最初のうちは上手くいかなかったこともあった。

 

 それでも、いつしか仲良くなることができ、

 

 気づけば頼り、頼られ、離れたくない存在になっていた。

 

 目の前にいるレーベ、マックス、プリンツが取った行動の意味は、痛いほどよく分かる。

 

 色んな意味で危なっかしい点もあるが、それは舞鶴の子供たちと変わらないはずだろう。

 

 ――だけど、俺はどちらかしか選べない。

 

 いや、選べるのは決まっている。

 

 辞令が届いた以上、それに従わなければならないのだ。

 

 元々俺は舞鶴鎮守府に属しているのだから、元帥の命令をないがしろにすることはできない。

 

 そりゃあ、辞令を断ってクビになり、佐世保で雇ってもらうこともできなくはないのかもしれない。

 

 だけど、それをやってしまえば鎮守府同士の関係にヒビが入る可能性もあるだろうし、なにより舞鶴の子供たちと会えなくなってしまう。

 

 勝手な思い込みでなければ、俺の帰りを待ってくれている子や、仲間が居るはずなのだ。

 

 その期待を裏切ることなんて、俺にはできない。

 

 でも、そうだったら、なおさら――、

 

 佐世保の子供たちとは、どうすれば良いのだろう。

 

 少しだけ、お別れの時間だ――と、説得するべきなんだろうか。

 

 また、近いうちに遊びにくるからと、言いくるめるべきなんだろうか。

 

 それが最善の手。

 

 そうとしか、思えない――としても、

 

 やっぱり、別れるのが辛いのだ。

 

 だからこうして、子供たちは涙を浮かばせ、

 

 俺の目にも、熱い滴が浮き出ていた。

 

「ありがとな……」

 

 俺はニッコリと笑いながら言う。

 

 今生の分かれなんかじゃない。

 

 またいつか、会うことができるのだ――と。

 

「でも、すぐにこっちへ遊びにくるからさ……」

 

「本当……だね……?」

 

 レーベの問いに、俺はしっかりと頷いて「ああ……」と答える。

 

 マックスは小さく息を吐き、「これは仕方がないことだから……」と呟きつつ肩を落とす。

 

 未だ黙ったままのプリンツは俺の方を見ようともせず、ずっと俯いたまま拳を震わせ、

 

 そして――、小さな声が部屋に響く。

 

 

 

「でも、これから舞鶴へ運動会に行くんですよね?」

 

 

 

 首を傾げるろーだけど、完全に空気読んでないよね……?

 

 今はそういう雰囲気じゃないんだけど……って、あれ?

 

 なんか、部屋の空気がガラッと変わったような……?

 

「決めた……。決めましたっ!」

 

 いきなり顔を上げたプリンツが天井に向かって大きく叫び、俺に右手の人差し指を突き出した。

 

「運動会で舞鶴幼稚園をコテンパンにして、先生を奪い取りますっ!」

 

「………………は?」

 

 いや、なにを言っているんですか、プリンツは。

 

 運動会はそういうイベントじゃないし、そもそも俺を奪い取るって……無茶にもほどがあるよ?

 

「良く言ったわ、プリンツ!」

 

「………………へ?」

 

 そしてまたもや大きな声が響いたと思ったら、いつの間にか扉を開けてヅカヅカと部屋に入ってきたビスマルクが、プリンツと熱い握手を交わしていた。

 

 つーか、いつの間にビスマルクは復活したんだよっ!?

 

「そうよ、そうなのよっ!

 舞鶴の高雄や愛宕なんかに、先生を渡すもんですかっ!」

 

「……いやいやいや。一体全体、なに言っちゃってんの……?」

 

「なるほどね……。その手を使えば、先生を舞鶴から奪うことができるんだね、マックス」

 

「そうね……。私としたことが、こんな簡単なことを失念していたなんて……」

 

 そう言ったレーベとマックスの表情はみるみるうちに明るさを取り戻し、完全にキラキラ状態になっていた。

 

「だ、だから、人の話を聞いてくれないかな……」

 

「これで一件落着ですって!」

 

「全くもって解決してないし、そもそもそんな理由で舞鶴に行くんじゃないんだけどっ!?」

 

「前回の恨み……、いえ、前々回の演習の決着も、完璧につけてやるわっ!」

 

「不肖プリンツも、ビスマルク姉さまと一緒に戦いますっ!」

 

「僕も頑張るよっ!」

 

「私も、負けてはいられないわ」

 

「ろーちゃんも、頑張りますって!」

 

 俺を除いた全員が円陣を組み、「エイエイオー!」と大きな声で気合を入れる。

 

「なんで一致団結しちゃってるんだーーーっ!?」

 

 俺の叫びは完全に無視され、愕然としながら床に手と膝をついてへこむことになったのである。

 

 そう――、こんな感じに → OTZ

 

 

 

 久しぶりだよね、これ。

 




次回予告

 舞鶴へ帰還することがばれたと同時に、運動会で決着をつけると言いだした子供たち。
さすがにそれはヤバいと思った主人公は、移動中のうちになんとか説得を試みようと考えたのだが……。

 なんか、滅茶苦茶増えてませんか……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その6「四面楚歌への歩み」


 乞うご期待!

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