そこでの会話で誤解が生じ、更には別の艦娘もが加わって……。
ええ、いつものことなんですが(泣
安西提督との話しを終えた俺とビスマルクは、お決まりのパターンで食堂に行き、食事を取ることにした。
「んぐ……、んぐ……、んぐ……」
「……おいおい、飲み過ぎじゃないのか?」
「ぷはー……って、なによ。私がビールをいっぱい飲んだからって、あなたに問題が起きるとでも言うのかしら?」
「……自覚、ないのかよ」
ボソリと呟いた俺だが、ビスマルクは全く気にしていないのか聞こえていないのか、すでに次のグラスを空けにかかっている。
過去にビスマルクが酔った回数は数知れずで、その度に介抱するのは俺なのだ。しかも性質が悪いことに、酔いがまわったビスマルクは滅茶苦茶絡んでくるので、対応する身にもなって欲しい。
「このビールは前哨祝いなのよ! まずはしっかりと勢いをつけて、英気を養わないといけないわ!」
「前哨祝いって……、いったいなんのだよ?」
「それはもちろん……、う、運動会に決まっているじゃない」
ビスマルクはそう言ってからグラスを持ち上げてビールを全て飲み干し、追加の注文を大声で叫んでいた――のだが、どうして俺から微妙に視線を逸らしたんだろう。
安西提督と話していたときも、なにやらぶつぶつと呟いていたし……、かなり怪しい気がするんだよなぁ。
「ビスマルク。ちょっと良いか?」
「あら、なにかしら。急に改まったりして」
「悪いんだけど、俺の顔をちゃんと見て話しをしてくれないか?」
「え……?」
急に驚く声をあげたビスマルクは目をパチパチとさせ、辺りを見回した後に俺の方へと視線を向けた。
その顔はもの凄く嬉しそうな笑顔で、ほんのりと頬か赤らんでいるんだが。
あと、ついでに付近の視線もなぜか俺へと向けられている。しまいには「ヒューヒュー」だの、「遂に告白かっ! 告白なのかっ!?」という声があがって……、
「い、いいい、いつでもOKよっ!
私の心は準備万端なんだかりゃっ!」
いや、思いっきり噛んでますよ、ビスマルクさんや。
うん、ちなみになんだ。
……なんでこんな雰囲気になってんの?
「え、えっと、なにやら誤解が生じまくっているみたいなんだが……、告白なんかしないからね?」
「な、なんですって……っ!?」
打ちひしがれたように驚愕の表情を浮かべたビスマルクが椅子から転げ落ちそうになるが、必死で堪えながら大きく口を開いた。
「き、期待させまくっておいて、どういうことなのよっ!」
「……いやいや、期待もなにも、ちょっとこっち向けって言っただけだからさ」
「そんな台詞をいきなり言ったら、告白してくれると思うのが当り前じゃない!」
「なんでそうなるのか分からないんだが、そもそもなんで俺から視線を逸らしたんだ?」
「そ、それは……、その……」
俺の指摘はビスマルクにとって痛かったらしく、非常に気不味い表情を浮かべながら目をうろたえさせている。
やはりなにかを隠しているようなので、ここはチャンスと踏んだ俺は畳み掛けようとしたのだが、
「「ちょっと待ったーーーっ!」」
「……へ?」
食堂内に響き渡る2つの声が辺りを更にざわつかせ、俺の脳裏に嫌な予感がよぎりまくった。
これは……、またしても不幸が舞い降りそうな臭いがプンプンするぜぇ……。
……って、余裕をこいている場合じゃないんだが、そうこうしている間に声の主がこちらの方へとやってきて、
「なんや聞き捨てならへんことになってるみたいやけど、ウチを忘れて貰ったらあかんでぇっ!」
「そ、その通りだぜ! 勝手に話を進めるなんて、いくらなんでもあんまりだっ!」
2人揃って机をバンバンと叩いてきたのは、独特のフラット軽空母である龍驤と、対照的なシルエットの摩耶だった。
……いや、つーか、なんでいきなり怒られてんのかな、俺。
「あなたたちに聞きたいのだけれど、いきなり乗り込んできてこんなことをするなんて、どういうつもりかしら?」
「どうもこうもあらへんわ。安全牌やと思われていたはずが、いつの間にやら告白タイムって、さすがに見逃せる訳もあらへんやろ?」
「へぇ……。つまり、私に喧嘩を売ってるってことで良いのよね?」
「それはこっちの台詞だぜ。ただでさえ恵まれている環境なのに、こうまでやりたいようにされちまったら、許せないよなぁ」
俺を挟んで両隣に立つ龍驤と摩耶。そして対面で座っていたビスマルクが立ち上がって、ガン飛ばしモードになっているんですが。
完全にメンチ切ってます。阿修羅とか羅刹だとか、そんなやつです。
そしてここから逃げ出そうなんて、言いだせないレベルなんですよぉ。
「自分の立場というモノを、しっかりと教えてあげなければいけないのかしら」
「ほぉ……。なんや、今すぐここでやろうって言うんか?」
「喧嘩上等……、あたし相手に無傷で立ってようだなんて、思わないことだぜ!」
更にヒートアップしてきた3人が、今にも殴りかかってもおかしくない状態に……っ!
誰か、たーすーけーてーーーっ!
――と、心の中で叫んでみても、周りに居る作業員や艦娘たちは遠巻きに観察しているどころか「よし、そこだ。やっちまえっ!」ってな感じで煽っていて、洒落にならないんですが。
こうなったら止められるのは俺しか居ない。明後日には舞鶴に帰る予定なのに、問題を起こして延期なんてしたくはないのだ。
「ちょっ、ちょっと3人とも!
食堂で暴れるのは周りに迷惑がかかるだろっ!」
「あなたが心配してくれるのはありがたいけど、さすがにここまで言われては引けないわ」
「なにを勘違いしてるんや?
先生が心配してくれたんはウチのことやで」
「いやいや、残念だけどそうじゃないぜ。どう考えても、あたししか居ないだろ」
「ハンッ! 頭の中が沸いちゃうだなんて、可哀想なモノね」
「なにを言うてんねん。毎日がお花畑な頭をしよってからに」
「……言って良いことと悪いことの区別もつかないのかしら?」
ギロリと目を向けたビスマルクだが、龍驤も肝が据わっているのか微動だにしない。
――と思っていたら、涙目を浮かばせながら身体中が小刻みに震えているみたいなんですけど。
「な、なん、なんやねん。別にそんな顔したって、こ、ここ、怖くなんかあらへんでっ!」
いやいや、ガチでちびっちゃいそうな感じですよ。
そりゃあ、戦艦に面と向かって対抗するのは、さすがに怖いってもんですよねー。
――って、そんなことを考えている場合じゃないんですけど。
「と、ともあれ、ビスマルクの好きなようにさせる訳には……」
「だ、だからちょっと待てって!
こんな場所で喧嘩なんかしたら、どう考えても始末書だけじゃ済まなくなるから、落ち着いてくれよっ!」
摩耶の言葉を遮った俺は、テーブルを強く叩いて3人の意識を向けさせながら大きな声を放つ。
ぶっちゃけて本気で怖いんだけど、ここで俺が引いちゃったら本当にヤバイことになりそうなので、勇気を出さなければならないのだ。
「なにが原因なのかさっぱりなんだが、とにかく揉めごとは勘弁してくれ!
同じ鎮守府の艦娘なんだし、仲良くするのが当たり前だろ!」
言って、俺は3人の顔を見たんだけれど、
「「「………………」」」
え、なんですか、その目は。
大きく見開いて、完全に固まっているみたいなんですが。
お、俺……、変なことを言いましたっけ……?
「「「「「はぁ……」」」」」
そして、3人どころか周りのギャラリーからも一斉に大きなため息がこぼれたんですが、一体全体、どういうことだってばよっ!?
「こ、ここまであなたがダメ男だったとは……、思わなかったわ……」
「完全に……、唐変木ってヤツやな……」
更に今度は白い目で見られるって……、マジで俺、悪いことをしちゃったみたいじゃん!
「ま、まぁ、あたしはそれでも良いんだけど……よ……」
そう言う摩耶だけど、完全に視線は逸らしちゃってるからねっ!
なんなのこの雰囲気はっ! 全くもって意味が分かんないよっ!
「うわー……、最低にもほどがあるよねー……」
「これが俗に言う、スケコマシという奴だよなー……」
「女性の……、いや、全人類と艦娘の敵でござるな……」
ギャラリーからも、言われたい放題なんですけど……。
ま、周りからの視線が……、痛過ぎる……っ。
今すぐここから逃げ出してぇぇぇっ!
「……とは言え、喧嘩を売られたからには受けなければいけないわね」
――と、話をぶり返すように、ビスマルクが龍驤と摩耶の顔を見る。
「だ、だから、喧嘩は……」
「ええ、あなたの心配してくれる気持ちは充分にありがたいけれど、さすがに我慢の限界なの」
「え、えっと……、どういうこと……なんだ?」
「私が何度も言ったことを完全に無視する気なら、少々手荒な事をしてでも思い知らせなければならないってことよ」
そう言ったビスマルクは、少しだけ身を屈めて、
ふわりとジャンプをしたと思った瞬間、俺の後ろに立っていた。
「……えっ!?」
そしてガッチリと俺の首を脇で締め、逃げられないようにホールドされてしまう。
「これで逃げられないわね」
「ちょっ、び、ビスマルクっ!?」
「い、いきなりなにすんねんっ! さっさとその手を離しいやっ!」
「そ、そうだぜ! 羨ましいったらありゃしねぇぞっ!」
両側から憤怒する2人の声が耳に響くが、ビスマルクは俺の身体を抑えつけたまま、
「……黙りなさい」
――と、一言呟いた途端、辺りが静寂に包まれた。
こ、怖い……。ガチ切れビスマルク、マジで怖ぇぇぇ……っ!
「あなたたちからの喧嘩もちゃんと買ってあげる方法を、提示してあげるわ」
「そ、それはどういうことなん……?」
顔面が蒼白寸前の龍驤だけど、なんとか聞き返すことはできるようだ。
ちなみに俺の方は洒落にならないくらいビスマルクが締め付けてきて、首がマジで痛いんですけど……、
ぷに……、ぷよぷよ……、むにゅう……。
頬に当たる柔らかい感触が凄過ぎて、色んな意味でヤバいんですがぁぁぁっ!
「それはとっても簡単なことよ。暴れない方法で喧嘩を買い、先生に仕返し……じゃなくて、思い知らせることと言えば……」
……おい。
今、仕返しって言いかけなかったか?
――と、考えるよりも、首が締まり過ぎて大変な……ことに……。
こ、このままだと……、マジで落ちそう……なん……ですが……。
あと、柔らかい感触が……マジで天国なんで……、昇天といっても過言では……な……い……。
「お、おい。先生の顔が青くなって……ないか?」
「あら、ちょっと締め過ぎちゃったかしら?」
言って、ビスマルクが腕を解いてくれた途端、肺に息を取り込むことができた俺は咽ながらも呼吸をする。
「げほ……っ、ごほっ……。はぁ……、はぁ……、やば……かった……」
「だ、大丈夫かよ、先生……?」
「あ、ああ。ありがと……」
背中をさすってくれた摩耶に感謝をしつつ、俺はビスマルクの顔を見る。
「私の胸部装甲はどうだったかしら?」
「確信犯かよっ!」
最高でした――とは言えないので、本場のツッコミを入れつつ怒った振りをする。
そうじゃないと、今度は龍驤の視線が痛いからね……。
「……それで、さっさとその方法とやらを説明してくれへんかな」
うん。ガチでメンチ切ってる。
さっきのビビり具合が嘘のように、マジ切れモードな龍驤です。
「ああ、そうだったわね。
この方法は非常に合理的で、この場にふさわしいモノよ」
「……ちょっと待て。ビスマルクが言おうとしていることは、嫌な予感しかしないんだが」
「それは……、あながち間違ってもいないわね」
「否定しろよっ!」
大きな声をあげて怒る俺を見ながら、ビスマルクはクスリと笑う。
これは、間違いない。
完全に……、リベンジを狙ってやがる……っ!
「なんだかよく分かんないんだけど、説明してくれないか?」
「なあに、簡単なことよ。
今からこの4人で、飲み勝負を行うだけだから」
ですよねー。
そして、その後の始末をさせられるんですよねー。
「なるほどなぁ……。ここで暴れられへんなら、その手しかないわなぁ……」
ニヤリと笑みを浮かべる龍驤だけど、そんなにお酒が強いんだろうか?
そもそも飲んで良い年齢には見えないんだけど、憲兵さんとか来ないよね?
「……なんや言いたいことがありそうな目をしてるけど、喧嘩売ってるん?」
「売ってないんでメンチ切るのは止めてほしいんですが」
「そっかそっか。ならかまへんねんけどなー」
頷く龍驤だが、目は完全に笑っていない。
こいつ……、既にやる気モードとなってやがる……っ!
「飲み勝負ならあたしも負けてられないぜっ!」
そして摩耶も同じように張り切っているし、これは完全に止められないやつだ。
「それじゃあ意見もまとまったところで、注文をしないといけないわね」
「い、いや……、俺はやると言って……」
「まさか逃げるなんて言わないわよね?」
「だ、だから、俺は……」
「せやせや。ここで逃げたら関西人の恥やで?」
「は、恥でも良いんで逃げさせて……」
「つべこべ言うのなら、さっきのにやけていた顔の写真を舞鶴に送っちまっても良いんだぜ?」
「やらせていただきますっ! さぁ、どこからでもかかってこいっ!」
こんちくしょうっ!
そんなこと言われたら引けないじゃんかよぉぉォッ!
「さて、それじゃあ開始しようかしらっ!」
「どっからでもかかってきいやっ!」
「完全に全員を潰してやるからなぁっ!」
「やけくそだよ、うわぁぁぁぁぁんっ!」
――とまぁ、まさかまさかの第二回飲み勝負が始まってしまったのである。
どうしてこうなったんだよ……、マジで……。
次回予告
第二回飲み勝負……が終わった翌日、主人公はいつものように幼稚園で仕事をこなす。
ちなみにビスマルクはと言うと……、うん、察して下さい(泣
しかし、それらを知らない子供たちは、ビスマルクが居ないことを主人公に聞くのだが……。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その4「いつの間にやらトップ記事?」
乞うご期待!
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