艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 安西提督の言葉に耳を澄ませる俺とビスマルク。
そこで語られた内容は、予想外のことだった。

 ところが、それ以上の発言がビスマルクから飛び出して……?


その2「それ、違います」

 

「あ、安西提督。それはいったいどういうことなのかしら……?」

 

 ビスマルクは俺よりも早く、安西提督を真剣な目で見ながら問いかけていた。

 

「実は先生の辞令の連絡がきた際に、幼稚園児たちの交流を兼ねた運動会を開かないかと提案があったのですよ」

 

「う、運動会……ですって!?」

 

 驚きの表情を隠さずにたたらを踏んだビスマルク……なんだけれど、どうしてそんな反応を見せるのだろうか。

 

 運動会と言えば教育施設では当たり前の行事。主に春か秋頃がメインだが、別に季節に合わせなければならないという理由はない。

 

 ……と、思ったところで、少し疑問点が湧いてきた。

 

 そういや舞鶴に居ていたとき、運動会ってやったことがないよな……?

 

 身体を動かすスポーツ的なイベントと言えば、バトルしか思いつかないが……。

 

 ………………。

 

 なぜだろう。なんだか嫌な予感がするのは気のせいだよね?

 

「まさか、あの狂乱の宴が始まると言うの……?」

 

「……ビスマルクがなにを言っているのか、全く理解ができないのですが」

 

「大丈夫です安西提督。俺も同意見です」

 

 額を自らの手で鷲掴みにして嘆いているような仕草をするビスマルクに、安西提督はまたしても額に汗を浮かばせ、俺は冷ややかな目を浮かべていた。

 

「だ、だって、運動会なのよ?

 グラウンドと言うエリアの中で行われるのは、コロッセオの闘技場なんて目じゃないほど……」

 

「いったいどういう勘違いをしたらそうなっちゃうのかさっぱり分からないんだけどっ!?」

 

 俺のツッコミにキョトンとした表情を浮かべたビスマルクだが、なにかを悟ったように手を叩くと、肩の力を抜きながら口を開いた。

 

「そ、そうか……。そうなのね……」

 

「い、いや、1人で納得されても困るんだけど……」

 

「ええ、確かにその通りよ。どうやら私の思い違いだったようだわ」

 

「……は、話が見えてきませんね」

 

 大きく首を傾げる安西提督に、ビスマルクは人差し指を立てて説明をし始めた。

 

「どうやら私が知っている運動会と、先生が知っている運動会とは、随分と危険度レベルが違うようね」

 

「き、危険度レベル……?」

 

「私がどうして驚いたのか。それを説明するには、私の頭にある運動会がどんなモノなのかを理解して貰う必要があるみたいね」

 

「は、はぁ……」

 

 なんだか話が複雑になってきたんだけど、ここで話の腰を折ると、ビスマルクの機嫌が悪くなる可能性があるので我慢しておこう。

 

 まぁ、多少は興味が湧いてきたってこともあるんだけどね。

 

「まず、運動会の開始で行われるのは徒競走よ」

 

「……普通、ですね」

 

「確かに、普通ですね」

 

「もちろん、それがただの徒競走なら危険はないわ」

 

「……と、言うと?」

 

 質問する俺の言葉を聞いて、なぜか満足気に頷くビスマルク。

 

 やけに自信たっぷりな表情のおかげで少しばかりイラッとしたけど、無視することにしておこう。

 

「徒競走に参加する人数は特に決まっておらず、走る距離も場所によって様々よ」

 

「な、なんだかすごく曖昧と言うか、あやふやと言うか……」

 

「それにはちゃんとした理由があって、まず場所を確保することが難しいの」

 

「確保……ですか?」

 

 なんだかよく分からないと言うような顔を浮かべた安西提督だが、俺も同じ気持ちである。

 

 運動会を行うんだから、普通はグラウンドでやるはずだよね?

 

 ビスマルクの記憶が古いモノだとする場合を考えれば、昔はグラウンドを使うのが難しかったということだろうか?

 

「ええ。わざわざ私たちが用意するのは面倒だし、かと言って、敵が設置した場所を簡単に占拠できると言うのも稀だったわ」

 

「「………………は?」」

 

 なにを言っているんだ、こいつは――と、俺と安西提督は2人揃って頭を大きく傾げる。

 

「運良く手に入れた地雷原が手に入ればやっと始められる、デッド オア アライブの徒競そ……」

 

「ちょっと待てよコラァァァッ!」

 

「な、なによいきなり、大きな声なんか出したりしてっ」!

 

「いくらなんでも有り得なさ過ぎるだろうがっ!

 それってただの虐めじゃん! へたすりゃ拷問じゃん!」

 

「別に地雷が爆発したって即死する訳じゃないんだし、艦娘だったらバケツで治るから問題はないわよ?」

 

「そういう問題じゃないだろうがぁぁぁっ!

 運動会を行うのは子供たちなんだから、そんな徒競走に参加させること自体が間違いだって言ってんだよぉぉぉっ!」

 

「ええ、だから私も驚いたのよ。

 そんな怖いイベントを行うなんて、有り得ないって」

 

「た、確かにそう言われたら分からなくもないけど……って、普通に考えたら出てこないよねっ!?」

 

「そうかしら?

 舞鶴の元帥が発案者と言うのなら、可能性は無きにしも非ずよ」

 

「いやいやいや、あの元帥なんだから、どう考えても……」

 

 ――と、俺は大きなため息を吐いてから言いかけたところで、

 

「………………」

 

 なぜか安西提督が今までにないレベルの焦りっぷりで、汗をかきまくっていた。

 

 そりゃあもう、床が水たまりになっているレベルで。

 

「あ、安西提督……?」

 

「い、いや、彼はもう大人になったのですから、まさか、そんなことは……」

 

「………………へ?」

 

 え、えっと、安西提督はいったい、なにを言っているんでしょうか?

 

 あの元帥に限って、ビスマルクが言うようなヤバイ徒競走なんてやるはずがないですよね……?

 

「し、しかし、前例がない訳でも……。いや、だからこそ……なんでしょうか……」

 

 なんだかマジでやばい雰囲気が漂っているんですけどぉぉォッ!?

 

 なんなんだこの焦りっぷりはっ! どう考えても、冗談じゃ済まされないんですよねぇっ!?

 

「あ、あの……、安西……提督……」

 

 流石に気になりまくった俺は、恐る恐る安西提督に声をかけてみたんだが、

 

「……はっ、な、なんでしょうか?」

 

「え、ええっとですね……。今さっき、元帥がどうとか……言っていましたよね?」

 

「……き、気のせいではないでしょうか」

 

「は、はぁ……。そ、そうですか……」

 

 ……と、完全に俺から目を逸らして答えたんですが。

 

 ………………。

 

 絶対なにかありますよねぇぇぇぇぇっ!

 

 明らかに動揺しちゃっている顔をしているじゃん! 間違いなくヤバいことがあったってことだよねっ!?

 

「と、とにかくですね。ビスマルクが言うような運動会ではないと思いますので、その辺りは安心して……」

 

「……そう。それなら安心したわ」

 

 そう言ったビスマルクはホッと胸を撫で下ろしながら微笑を浮かべたんだけど……、

 

 そもそも危険な運動会の時点でおかしいからね?

 

 艦娘と言っても、まだ子供である園児たちに危険な目はあわせられないし、そうだと分かっていたら断固反対するのが当り前だ。

 

 しかし、ビスマルクが説明した運動会はそれ以前の問題であり、地雷原を突っ走る徒競走の段階で既にスポーツじゃないし、バケツを使えば問題ないという思考はマジでヤバ過ぎる。

 

 それらのことを考えれば、やはりビスマルクに佐世保幼稚園を任せてサヨウナラと言うのも危険なのではなかろうか。

 

 ――だが、舞鶴に帰れると決まったことは素直に嬉しいし、向こうの子供達にも早く会いたい。

 

 それに、愛宕にも――ね。

 

 ただ問題は、安西提督が呟いていた元帥の件である。

 

 まさかとは思うが、ビスマルクが言うようなレベルではないにしろ、子供達に危険が及ぶ運動会を開催するなら問題なんだけれど……、

 

「……まぁ、それならそれで、高雄さんが止めるよなぁ」

 

 優秀なる元帥ストッパーである秘書艦が随時側に居るんだから、恐れているようなことはまず起きないだろう。

 

 ビスマルクの件はひとまず置いといて、佐世保幼稚園の子供たちを舞鶴に連れていき、交流を深める運動会に参加させるのは教育者として当たり前だと思う。

 

 子供たち同士で仲良くなることは微笑ましいし、運動会というイベントで切磋琢磨するのは、身体的にも教育的にも非常に有効であるだろうからね。

 

 だから俺は、今回の辞令と運動会の開催に至って、なにも問題はないと思っていた。

 

 そりゃあ、多少の不安材料がないとは言えないけれど、それはいつものことだから……と、安易に考えている部分があったんだよね。

 

「それでは今回の辞令と、舞鶴へ子供たちを随伴させて運動会に参加させる点については……問題ないですね?」

 

「そう……ですね。

 少しばかり気になることはありますけど、おおむね問題はないかと思います」

 

「……ま、まぁ、心配し過ぎなのはよろしくありませんからね」

 

「ええ。ですが、思い過ごしであって欲しいという気も……」

 

「は、はは……、ははははは……」

 

 乾いた声で笑い声をあげる安西提督だが、目が完全に笑ってないです。

 

 うむむ、マジで心配になってきたんだけど、大丈夫だよな……?

 

「と、ともあれ、出発は2日後の朝になりますので、準備をしっかりとしておいて下さい」

 

「分かりました。それまでにビスマルクの方もなんとかなれば良いんですけど……」

 

 俺はそう言って、ビスマルクの方を見てみたんだが、

 

「……そうね。そうすれば……だから……。ふふ……、ふふふふふ……」

 

 にやけた表情を浮かべながらブツブツと呟いているんだけど、無茶苦茶不安になってきたんですが。

 

「な、なんとか、頑張ってみます……」

 

「え、ええ……。よろしくお願いしますね……」

 

 俺と安西提督は2人揃って大きなため息を吐き、疲れきった表情を浮かべてしまった。

 

「今度こそ……、今度こそヤツにほえ面を……。うふふふふ……」

 

 なんだか恐ろしい呟きをしているビスマルクに対して、俺がもっと注意をしていれば……と後悔するのは、ずいぶん後のことだったんだけどね。

 




次回予告

 ビスマルクの反応があまりにヤバいと感じた主人公だが、いつものパターンで一緒に食事へ行くことになった。
そこでの会話で誤解が生じ、更には別の艦娘もが加わって……。

 ええ、いつものことなんですが(泣


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その3「巻き込まれるのはいつものこと」


 乞うご期待!

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