艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 お休みをいただいておりましたが、そろそろふっかーーーっつ。
不定期更新予定ですが、そろそろ新章を開始したいと思いますっ!



 スピンオフを終えて、やっと主人公の出番だよ!

 ろーが舞鶴から帰ってきた数日後。
掃除を終えて休憩をしていた俺に、帰ってきたビスマルクが安西提督の元へ向かうようにと促した。

 そこで受け取った書類には、待ち望んでいた内容が書かれていたのだが……。


~舞鶴&佐世保合同運動会!~
その1「舞鶴からの辞令」


 

 なんだか久しぶりな気がするんだが、そんなことはどうでも良いかもしれない。

 

 現在俺は、佐世保幼稚園で数人の子供たちの教育係として働き、先任であるビスマルクをまっとうな教育者に育てつつ頑張っているが、ぶっちゃけた話をすると、子供たちより手がかかってしまう厄介な相手である。

 

 しかしまぁ、そんな状況も慣れてしまえばどうにかなるもので、なんだかんだ数ヶ月を無事に過ごしてきた。

 

 ……と思ったが、よくよく考えてみれば無事だった気がしない。

 

 明石のツボ押しによって不能になってしまった挙句、それが原因だろうと誘拐犯と決めつけられて牢屋に入れられ、明らかにヤバイ看守に狙われたり、日向や伊勢からセクハラまがいの尋問を受けたり……って、半端じゃないと思うんですが。

 

 それでもなんとか五体満足の身体に戻ることができ、今もこうして幼稚園で働けるのは、色んな人のおかげかもしれない。この感謝を忘れずに、日々精進するべきだろう。

 

 ただ、時折気になるのは舞鶴のこと。

 

 元は舞鶴幼稚園で働く身であり、ここにきたのは佐世保幼稚園の運営を円滑にする為なのだ。

 

 完璧とは言えないものの、最近の佐世保幼稚園は順調であると思えているし、そろそろ役目も終わりかな……と考えたが、それを決めるのは俺ではない。

 

 ビスマルクが進言したとは言え、安西提督から元帥へと話をして移動が決まったのだから、ここで俺が「それじゃあそろそろ舞鶴に帰ることにするねー」ってな感じで気軽に戻れるものでもない。

 

 つまりは元帥の辞令を待たなければいけないのだが、もしかして本当に俺が邪魔になったので佐世保に左遷したんじゃないだろうな……と、疑ってしまったのも一度や二度ではないのだが……。

 

 しかし、そんな心配もどこへやら。

 

 物事が起きるのは突発的であり、たまには期待通りに動いてくれることもある。

 

 ただし、ここで忘れてはいけないことは、唯一つ。

 

 

 

 俺は、本当に運が悪いってことなんだよね……。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ユー……改め、ろーが舞鶴から帰ってきた数日後。

 

 幼稚園の業務が終わった俺はスタッフルームで休憩しつつ、コーヒーをちびちび飲んでいた。

 

 いつもならばさっさと寮へ帰ってゆっくりするのだが、就業前に安西提督からの連絡によってビスマルクが呼び出しを受けた為、後片付け等の仕事量が増えてしまったのだ。

 

 こういったことは日頃の不運を考えれば些細であり、たいして気にすることではない。むしろビスマルクが居ない方が、仕事をする上で問題は起きにくいと思ったので、普段やらないところまで掃除をしちゃったんだけどね。

 

 そんなこんなで、壁に掛けてある時計の針は夕食の時刻を指している。それはもう、簡単に大混雑が予想できるドンピシャのタイミングだ。

 

「今の時間に食いに行くのは避けたいよなぁ……」

 

 ぼそりと呟いたものの、返事はどこからも帰ってこない。ある意味悲しいが、たまにはこういった時間も有りだろう。

 

 腹は減っているが、落ち着けるのは万々歳。寮に戻れば簡単に手に入るだろうけれど、ここにはコーヒーメーカーがあるんだよね。

 

「何気に色んな豆があるから、飲み飽きないのは助かるんだけど……」

 

 そうは言っても、何杯も飲むと夜眠れなくなりそうで少し怖かったりもする。何事も程々が感じなので、そろそろ終わりにしようと思ったのだが、

 

 

 

 コンコン……。

 

 

 

 ドアをノックする音が聞こえ、振り向くと同時に返事をしようとしたのも束の間、

 

「入るわよー」

 

「いや、返事くらい待てよ」

 

「あら、私に対してそんな口が利けると思っているのかしら?」

 

「どれだけ俺の立場は低いんだよ……」

 

 そう言った俺ではあるが、肩をすくめたり嫌そうな顔は浮かべたりはしない。

 

 こんな会話は日常茶飯事であり、ぶっちゃけた話、飽き気味だったりするんだよね。

 

 それはビスマルクも同じで、普段と変わらない顔をしていると思いきや、

 

「今から安西提督の所に行くわよ」

 

「……へ、今から?」

 

「そうよ。早く準備をしなさい」

 

「あ、あぁ……。分かったよ」

 

 ビスマルクの表情は真剣そのもの……という風に見えたんだが、なぜか瞳の奥に悲しそうな雰囲気が感じられた。まるでこの世の終わりを感じさせる……とは言い過ぎかもしれないが、なぜか気になってしまった俺は、いつの間にか口の中に溜まっていた唾を喉の奥に流し込む為、カップに残っていたコーヒーを飲み込んだ。

 

 エプロンを脱いで自分のロッカーに仕舞った俺は、ビスマルクに玄関で待ってくれるようと言ってから、飲み終えたカップを持って炊事場のシンクに置き、軽くゆすいだ。

 

 玄関に向かう途中で窓の戸締まりを確認しつつ、早歩きで玄関へと向かう。

 

「お待たせ。それじゃあ、行こうか」

 

 待たせておいたビスマルクと合流し、外から鍵をかけて安西提督の元へ向かうことになったのである。

 

 

 

 

 

 そして、今俺が立っているのは執務室の中だ。

 

 何度か顔を合わしていることもあって、以前のような緊張をすることはないのだが、なぜかビスマルクの顔色は優れないと言うか、焦っているように見える。

 

 どうしたのかと尋ねてみたい気もするが、まずは安西提督の話が先だろう……と、俺は言葉を飲み込んだ。

 

「先生、ご足労いただきありがとうございます」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

 安西提督の方が立場も権威も俺より断然上なのに、いつ話しても礼儀正しい。まぁ、舞鶴の元帥みたいにフレンドリーな口調になったらなったで、かなり怖いと思うので、このままで良いとは思うんだけれど。

 

「お呼びだてしたのは、この件についてなのですが……読んでいただけますか?」

 

「は、はい」

 

 返事をした俺は、安西提督からA4サイズのプリント用紙を受け取った。

 

 

 

『辞令

 佐世保幼稚園にて指導中の先生は、以下の期日をもって舞鶴幼稚園に帰還すべし。

 舞鶴鎮守府 元帥』

 

 

 

 書かれている内容は非常に簡潔で、右下には赤いハンコが押されている。

 

 しかし、そんなことよりも真っ先に目に飛び込んできた『帰還』という文字に、俺の心は大きく揺さぶられていた。

 

「こ、これって……、ほ、本当……なんですかっ!?」

 

「はい。舞鶴の元帥から届いた、正式な辞令です。もちろん、うそ偽りがないという証拠に、彼のハンコも押されています」

 

「そ、そうですかっ! そ、それじゃ……」

 

「ちょっと待ってくれるかしら」

 

 喜びの声をあげようとした瞬間、隣に立っていたビスマルクが横やりを入れるかのように遮ってきた。

 

「安西提督。私はこの書類について、納得がいかない点があるのだけれど」

 

「ふむ……、それはどういうことですか?」

 

 ビスマルクの言葉を聞いた安西提督は、右手で自分の下顎を撫でながら少しだけ首を傾げながら問い返す。

 

「まず1つ。

 先生が舞鶴からこちらにきた理由は、佐世保幼稚園が順調に運営できるようにサポートする……だったわよね?」

 

「ええ、その通りです。そして先生は、その役目を充分に……」

 

「いえ、それは違うわ」

 

「「はい?」」

 

 ビスマルクが断言したことで、俺と安西提督の疑問の声が被ってしまった。

 

「確かに先生のおかげで子供たちの教育は順調に進み、スケジュール通りになっているわ。だけど、肝心の問題が未解決なのよ」

 

「はて……、問題らしい問題はなかったように思えるのですが……」

 

 大きく頭を傾げる安西提督と俺。

 

 最近の幼稚園事情を思い返してみても、気になる点はなかったはずだが……。

 

 

 

「いいえ、大アリよ。この私、ビスマルクの教育がまだ済んでいないわっ!」

 

 

 

「「………………は?」」

 

 まるで舞鶴にいる金剛の決めポーズと言わんばかりに右手を振り払ったビスマルクだが、正直なにを言っているのかサッパリ分かりません。

 

「子供たちの教育が済んでも、私が一人前の教育者には未だなっていない!

 それなのに先生が舞鶴に帰るなんて、愚の骨頂じゃないのかしらっ!」

 

「い、いや……、その……」

 

 額から大粒の汗を垂らした安西提督が言葉を詰まらせるが、俺も同じ気持ちなんですよね。

 

 ビスマルク、お前はいったい、なにを言っているんだ……と。

 

「更にもう1つ!

 私の先生のケッコンカッコカリは、まだできていないわっ!」

 

「「………………」」

 

 そう言ったビスマルクは自慢げに胸を張りながら、フンス、フンス――と鼻息を荒くしていた。

 

 うん、前言撤回。

 

 やっぱり教育が必要だわ。

 

 ただし教育者という点だけでなく、倫理とか常識って部分を重点的になるけどね!

 

「……その前に質問なのですが」

 

「なにかしら?」

 

「ビスマルクと……先生は、その……、そういう関係なのですか……?」

 

「もちろんよ!」

 

「もちろんじゃねぇよっ!」

 

 親指を立てて自分を指し示したビスマルクを怒鳴りつけた俺は、ツッコミと言う名のハイキックを放ったのだが、

 

「甘いわね。そんな攻撃、当たる訳がないわ」

 

 ……と、いつものパターンだったせいで、軽々と状態を反らして避けられてしまった。

 

 しかも勝ち誇った笑みを浮かべて、自信満々に顎をクイッと動かしている。

 

 くそっ……、間合いは完璧だったが、攻撃が単調過ぎたせいで簡単に避けられちまったぜ……。

 

 膝をついた俺は床を拳で叩きつけながら悔しがるが、良く考えればそんなことをしている場合じゃない。

 

 まずは安西提督の誤解を解かないと、色々と面倒なことになってしまうのだ。

 

「安西提督、ハッキリ言っておきますが、俺とビスマルクの関係はただの同僚であり、深い付き合いなんかは一切ありません」

 

「なっ、なにを言うのよ先生はっ!?

 私にあんなことやそんなことをした癖にっ!」

 

 大声をあげて思いっきり驚いているようだが、俺には全く身に覚えがない。

 

「ビスマルクが言う、あんなことやそんなことを説明して欲しいんだけど」

 

 それならば――と、俺は問い返してみることにしたのだが、

 

「フッ……、良いわよ。そこまで聞きたいのなら、特別に教えてあげるわ」

 

 ビスマルクは自慢げにそう言いながら……って、どうしてそんな態度を取れるんだ?

 

 あんなことやそんなことと言うのなら、それは明らかに……うん、放送できなかったりするレベルなんだろう。しかし、それを自慢気に語ろうとするビスマルクが俺には全く理解できない。

 

 先に言っておくが、俺とビスマルクがそういった……つまり、大人な関係を持ったことは一度もない。そりゃあ、俺も正常な一般男性であるからして、興味がないと言えば嘘になる。しかし、俺にはずっと前から気になっている相手が居て、いつかはちゃんと告白するのだと決めているのだから、ビスマルクと関係を持つ気は一切ないのだ。

 

 俺側の理由はこれで分かってもらえるだろうが、ビスマルクの方はそうじゃないのだろう。前々から……と言うか、出会った次の日には告白されてしまったし、好意を持たれているのは分かっている。

 

 しかしそうであったとしても、場所も時間もここに居る人物をもわきまえれば、あんなことそんなことと言う内容をべらべらと喋るべきでないというのは、少し考えればすぐに分かることだ。

 

 それなのに、ビスマルクはこうも自慢気に語ろうとするなんて……。

 

 なんなの? 痴女なの? 死ぬの?

 

 ――と、こっちが恥ずかしくて死んじゃうかもしれないんだよっ!

 

 はぁ……、はぁ……。

 

 以上、心の中でのツッコミは終わりなんだけど、そうこうしている間にビスマルクが口を開いたんですが、

 

「まず、佐世保鎮守府内に私と先生が付き合っているという噂を振りまいたわよね」

 

「……うん。俺じゃなくてビスマルクがね」

 

「ぜ、全力の踏みつけを顔面に食らったわ」

 

「踏まれたのは俺だし、踏んだのはプリンツだけどね」

 

「そ、そうだわっ。美味しい手作りのお菓子を振舞ってあげたわよねっ」

 

「アレを作ったのは俺なんだけどなぁ……」

 

「牢屋に閉じ込められたとき、助けに行ってあげたじゃないっ!」

 

「ああ、うん。アレは確かに嬉しかったけどさぁ……」

 

 最後の以外は完全にねつ造だよね。ほとんど反対方面だよね。

 

 つーか、俺の方ばっかりが与えている感じで、ビスマルクからは大したお返しを貰ってなくないか?

 

 別にそうだからってどうこう言うつもりはないが、改めて考えてみると本当にビスマルクってダメな子なんじゃ……。

 

 ………………。

 

 あれっ、と言うことは、やっぱり教育が終わってないことにならないか……?

 

 いやいや、そもそもビスマルクを教育するって時点でおかしいと思うんだが、教育者の経験を積むのなら舞鶴で行った方が効率が良かった気がする。

 

 それなのに俺がこっちにきたのは、すでに幼稚園があったからなんだろうけれど……。

 

 ……うーん。なんだか計画性がなさ過ぎて、最初の段階から破たんしちゃってないかなぁ。

 

「………………」

 

 そんなことを考えつつ安西提督の顔をチラッと見てみたんだが、

 

「………………」

 

 顔面汗まみれで固まっているんですけど。

 

 なんかもう、私からなにを言えば宜しいんでしょうか――と、今にも膝をついて崩れ落ちそうな感じに見えちゃうのは気のせいにしておこう。

 

「と、とにかく、あなたが舞鶴に帰っちゃったらどうしたらいいのよっ!」

 

「いや、俺がここにきてから結構色んなことを教えていたはずなんだけどさぁ……」

 

「確かに教えては貰ったけど……、仲の方は全然……」

 

「えっ、なに?」

 

「なっ、なんでもないわよ、馬鹿っ!」

 

 大声をあげたビスマルクは両腕を組みながら、頭の上に『ぷんすか』と擬音が浮かびそうな感じで怒っていた。

 

 なぜそこまで怒るのかはさておき、色々とトラブルがあったとは言え、ビスマルクに幼稚園の運営手順を教える機会はいくつもあったし、それなりにこなしてきた部分もあったはずだ。確かに完璧とは言えないけれど、俺が居なくてもこっちの幼稚園を運営していくことくらいはできると思うんだけど……、

 

「ふむぅ……。困りましたねぇ……」

 

 やっと言葉を呟いた安西提督は、たぷたぷの二重あごに手を添えながら考え込んでいた。

 

「明石の報告書を毎回読んでいますが、今のところ問題はないと確認していました。その結果を踏まえて舞鶴の彼に連絡を取り、今に至るのですが……」

 

 言って、安西提督は俺とビスマルクを交互に見てから、小さくため息を吐く。

 

「ビスマルクの意見を通すとなると、予定が大幅に狂ってしまうのが問題ですねぇ……」

 

「予定……ですか?」

 

「ええ。先生が舞鶴へ帰還するのとあわせて、佐世保幼稚園の子供たちを舞鶴に連れて行ってもらおうと考えたのですが……」

 

「「…………えっ!?」」

 

 安西提督の言葉を聞いて、俺とビスマルクは大きく目を見開きながら声をあげる。

 

 それは、いったいどういうことなのか。

 

 そして、ビスマルクも初耳だったのか……と、俺はあわせて驚いたんだよね。

 




※復活することはできましたが、まだまだ仕事の過半時期は乗り越えられないようなので、暫くは不定期まったり更新になる予定です。


次回予告

 安西提督の言葉に耳を澄ませる俺とビスマルク。
そこで語られた内容は、予想外のことだった。

 ところが、それ以上の発言がビスマルクから飛び出して……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その2「それ、違います」


 乞うご期待!

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