申し訳ありませんが宜しくお願いいたします。
舞鶴で過ごしたのは少しの間だったですけど、すごく楽しかったです。
でもそろそろ佐世保に帰らないといけないので、お別れの時間……なんですが……。
お姉さんたちの様子が、おかしいですよね……?
温泉から舞鶴鎮守府に帰った後、鳳翔さんの食堂でご飯やデザートのアイスを食べてから、昨日と同じように、しおいさんの部屋で寝ることになりました。
就寝前に部屋でお話をしていたとき、龍驤お姉さんと摩耶お姉さんからの連絡が途絶えたらしいと聞いたので、ちょっとだけ心配になっちゃったんですけど、しおいさんは大丈夫だろうって言ってくれたので信じることにして、床についたんですよね。
そして次の日の朝。
やっぱりと言うかなんと言うか、身体をしおいさんにガッチリとホールドされ、身動きしにくい状態になっていました。
でもそこは経験済みだったので、ちゃんと寝る前にトイレに行っておいたんですよね。
だから焦ることなくしおいさんを起こしてから、身支度を開始します。
そう……。今日は佐世保に帰る日。
舞鶴の皆さんと、お別れしないといけないんですよね……。
「ちゃんと準備はできた? 忘れ物はしてない?」
「はい。大丈夫ですって」
舞鶴に到着したときと同じ埠頭で、しおいさんが心配そうな顔で問いかけてくれています。
幼稚園や温泉ではあまり見せなかった表情に、ちょっとだけ驚いちゃいました。
でもこれって、幼稚園の先生としては当たり前のこと……ですよね?
あと、帰る準備をしていたのはしおいさんの部屋でしたから、何度も確認をしていたのも知っているはずなんですけど。
もしかしてしおいさんは、心配性だったりするんでしょうか……?
「あっ、そうだ……。これ、プレゼントなんだけど……受け取ってくれるかな?」
「……えっ?」
しおいさんが少し恥ずかしそうに、小さな包みを差し出してくれました。
「似合うかどうかは分からないけど……、良かったら着てみてね」
「はいっ。ありがとうございますっ!」
大きな声でお礼を言いながらお辞儀をすると、しおいさんはニッコリと笑みを浮かべながら手を上げます。
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい。しおいさんも頑張ってください」
「あはは……、そうだね」
ポリポリと頬を掻いたしおいさんにもう一度頭を下げて、さぁ出発……と思ったんですが、
「しかし……、あれはちょっと気になるね」
いつの間にか見送りにきてくれていた元帥さんが、埠頭の先の方を見ながら曇った表情を浮かべていました。
なぜ出発前にそんな顔をするのか。
普通ならば不吉な考えとかがよぎっちゃうと、あまりよろしくないような気がするんですけど……、
「はぁー……」
「うー……」
大きなため息を吐きながら肩を落としている龍驤お姉さんと摩耶お姉さんの姿を見たら、仕方がないって思っちゃいますよね。
「あ、あの……、2人とも、大丈夫ですか……?」
「あー……、うん。なんとかイケるとは思うんやけど……」
「あぁ……、大丈夫……だぜ……」
そう答える2人のお姉さんですけど、全く大丈夫そうに見えないんです。
「……具合が悪いなら、帰還は明日以降にした方が良いと思うんだけど?」
さすがに難しいと思ったのか、元帥さんはそう問いかけたんですが、
「それはありがたいんやけど……」
「むしろここに居る方が……辛いんだよなぁ……」
「……え、どういうこと?」
「あー、いや、ちゃうねん。別に気にせんといてくれればええんやけど……ね」
「……そっか。まぁ、厳しいと思ったら言ってくれれば良いんだけどね」
これ以上はなにを言っても無駄だと思ったのか、元帥さんは肩をすくめます。
2人のお姉さんがどうしてここまで疲れた感じになっているのか分からないんですが、昨日連絡が途絶えたこととなにか関係があるんでしょうか?
ちなみに帰る途中に摩耶お姉さんに尋ねてみたんですけど、
「な、な、なにも、なにもなかったよな、龍驤っ!」
「せ、せせせ、せやでっ! 別に舞鶴の裏番長とかに喧嘩を売ってなんかしてへんでっ!」
そう言いながら、膝をガクガクと震わせていたんですけど……、結局なにがあったのかは教えてくれなかったんですよね……。
2人のお姉さんたちの動きが鈍かったせいか少し移動速度が遅かったですけど、舞鶴に向かうときと違ってトラブルが少なかったこともあり、なんとか今日中に佐世保に帰ることができました。
それから安西提督の元に向かい、舞鶴でのことをしっかりと報告をしたんですよね。
ただ、そのときになぜか安西提督が変な顔をしたり、冷や汗を浮かべていたりしたんですけど……、なにかあったんでしょうか?
もしかすると2人のお姉さんの報告にビックリすることがあったかもしれませんけど、話をしている間にチラチラとこっちの方を見ていたと思うんです。
なんだか分からないことがいっぱい続いて、変な感じです……。
そういえば2人のお姉さんと合流したときも、同じことがあったような……。
それってやっぱり、気のせい……じゃないですよね?
安西提督に報告を終えてから建物の外に出ると、空にはお月さまが出ている時間でした。
「それじゃあ……、うちらは部屋に戻ることにするわ……」
「あれ……、ご飯を食べにはいかないんですか?」
「あー、うん。確かにお腹は減っているんだけど、正直に言って食欲がわかないんだよな……」
「そう……ですか……」
龍驤お姉さんも摩耶お姉さんもヘトヘトといった感じで足取りが重く、今にも倒れそうな感じに見えます。
「ほな……お疲れさんやでー」
「はい、お疲れ様でした」
龍驤さんはこっちを見ずに手を上げながら寮の方へと向かって歩き、摩耶お姉さんも後に続いて行きます。
舞鶴まで移動を共にしてくれたお礼を込めてお辞儀をし、食堂へと向かうことにしました。
「………………」
食堂のテーブルについてご飯を食べているんですが、なんだか様子が変なんです。
物珍しそうにジロジロ見られているような感じがして、初めてここにきたときのことを思い出してしまいました。
でも、どうしてこんなことになるんでしょうか。
もしかすると、いつもの夕食よりも少し遅い時間ということもあって、心配されているのかもしれません。
周りに居るお姉さんたちや作業員の人たちは、食事と併せてお酒を飲んでいますし……。
そんな中に小さい子が1人ぽつんと居るのも、変と言えば変だと思います。
あまり周りに迷惑をかけたくはないので、できるだけ早めに夕食を食べて、寮に戻ることにします。
食べ終わった食器を返したときも、厨房のおばさんの顔が驚いた感じだったのは……やっぱり変な感じでしたけど。
そうして自室に戻ったんですけど、時計の針は既に寝ている時間になっていました。
もしかするとプリンツは先に寝ちゃっているかもしれないので、起こさないようにゆっくりと扉を開けてみます。
「……真っ暗、ですって」
思っていた通り明りがついていなかったので、プリンツはもう寝ていると思ったんですが、
「……あれ? ベッドのとこに……居ない……?」
窓のカーテンの隙間から差し込んでいる月明かりで薄らと見えるプリンツのベッドに、誰かが寝ているような膨らみはありませんでした。
「もしかして、プリンツはお出かけ中なんでしょうか……?」
舞鶴に向かっている間、この部屋にはプリンツしかいないわけですし、寂しくなっちゃったのかもしれません。
レーベやマックス、もしくはビスマルクの部屋で寝泊まりしているというのも考えられますけど……、
「……さすがに先生の部屋に行っている……ってことは、ないですよね?」
ちょっぴり気になっちゃいましたけど、真っ暗な部屋で立っていることで眠気がどんどんと強くなってきました。
舞鶴から佐世保までの移動は大変でしたし、色んなことがあって疲れちゃっていますから……。
「うにゅ……、眠たいですって……」
お風呂に入ってからにしたいですけど、もう……限界みたいです……。
「おやすみなさい……です……って……」
自分のベッドに身体を傾けた途端、まぶたがゆっくりと閉じていき、完全に真っ暗になってしまいました。
◆ ◆ ◆
そして次の日になりました。
目覚めたときにもベッドにプリンツの姿はなく、どうやら誰かの部屋でお泊まりをしたみたいでした。
やっぱり気になっちゃいます……と思ったんですが、ふと壁に掛けてある時計に目をやると、
「……っ!?」
明らかにいつもの起床時間よりも大幅に遅れていたことに気づき、慌てて身支度を始めました。
「あ、朝ご飯は……難しいですって!」
お腹は減っていますけど、食堂に行ったら確実に遅刻しちゃいます。
それどころか、今から幼稚園に走ってもギリギリですから、急がないといけませんっ!
「着替えは……、え、えっと……」
クローゼットの中を見ると、いつもの服がありません。
確か出発前に洗濯をお願いしましたから……、
「と、取りに行く時間が……、ないですって……」
洗濯物は寮のお姉さんたちが交代してやってくれているんですが、し終わった物は取りに行かなくちゃいけなかったんです。
時計の針は朝礼が開始するすぐそこまで迫っていていますし、着ている服のまま幼稚園に行くのはちょっと恥ずかしいですから……、
「あっ、そういえば……、しおいさんから貰ったやつが……っ!」
舞鶴を出発するときに貰ったプレゼントを思い出し、慌てて包みを解きます。
「これは……」
目に映った2枚の衣服を見て一瞬だけ戸惑いましたけれど、時間もないので……と着替えてみたところ、
「……な、なんだか、心機一転って感じですって!」
移動の際に焼けてしまった肌が思いのほか服と似合っているんじゃないかと思いながらも、そんなことをしている場合じゃないと気付き、急いで幼稚園へと向かいました。
全速力で走り、幼稚園の建物を目に捉え、体当たりをするかの勢いで入口の扉を開き、上履きに履き替えてから、いつも朝礼を行っている部屋の前にやってきました。
おそらく時間はギリギリアウトで、みんなはもう中で朝礼をしていると思います。
扉の前に立ってから息を整え、大きな声をあげながらガラガラと開けました。
「お、遅れちゃって、すみませんですって!」
中に居る先生やビスマルクに向かって頭を下げ、怒ってないですよね……と、恐る恐る顔色を伺ってみたんですが、
「「「………………」」」
みんなはこっちを見たまま驚きの表情を浮かべ、完全に固まってしまっていました。
「え、えっと……、そ、その、ごめんなさい……」
もう一度謝って、なんとか許してもらおうと思ったんですが……、
「あ、あの……、君は……誰なんだ……?」
先生は戸惑うような顔で大きく首を傾げ、訪ねてきたんです。
「誰……って、私のことを……聞いているんですよね?」
「そ、そうだけど……」
そう言った先生は本当に分かっていないみたいで、思わずほっぺを膨らませてしまいそうになったんですけど……、
「「「………………」」」
レーベもマックスも、ビスマルクも、そして寮で同じ部屋のプリンツまでもが、同じような顔だったんです。
そして私は、姿見を見たときを思い出し、
しおいさんから貰った服と、潜水艦のみんなからつけて貰ったあだ名を頭の中に浮かべてから、大きく口を開けました。
「私は……、ユーちゃん改め、ろーちゃんです!
しおいたちがつけてくれたんですって!」
右手で作ったピースサインを向け、今度はみんなで一緒に舞鶴に行こうって笑いかけました。
本当に、舞鶴は楽しかったですって!
艦娘幼稚園 スピンオフ ユーちゃん編
終わり
※今後の更新についてのお願いを活動報告にてお知らせいたします。
申し訳ありませんが宜しくお願いいたします。
これにてスピンオフのユーちゃん編は終了です。
長くなりましたが、以降は元に戻って先生編へと移りますが……、暫くの間お待ちいただけますと幸いです。
来年になった辺りには戻ってこられるよう頑張りますので、宜しくお願いいたします。
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