朝礼でひと悶着があった後、ユーはしおいさんと一緒に部屋を出ました。
そして、舞鶴幼稚園を体験する班を見た瞬間……、恐れていたことが起こったんです……よね?
挨拶をした部屋からしおいさんと一緒に出たユーは、通路を歩きながらお話をしていました。
「あ、あの……、しおいさんの班って、どんな子がいるんでしょうか……?」
「んー……、そうだねー」
ユーの問いかけにしおいさんは少し考える素振りをすると、
「それは行ってからのお楽しみかなー」
そう言って、ニッコリと笑みを浮かべました。
少し心配なのは、自己紹介をしたときに睨みつけてきた子たちです。
ユーはただ、普通に名乗っただけなんですけど、どうしてあんなに敵意を向けられてしまったんでしょうか……?
正直に理由が分からないんですけど、今から向かう先にその中の誰かがいると、ちょっと不安です。
さっきは愛宕さんが言い聞かせてくれましたけど、目が届かないところではどうなるか分からないですから……ね。
「そこの角を曲った先にある部屋が目的地だよ」
「あ、はい」
しおいさんに頷いたユーですけど、心の中は期待と不安が半分ずつで、なんだかモヤモヤしている感じでした。
できるならば楽しい時間を過ごしたいですから、極力敵意がない方が助かりますし、お友達になりやすいですからね。
もちろん、ちゃんとお話をすれば大丈夫だとは思いますから、問題はないでしょうけれど……、
「はいはーい。今から授業を始めるよー」
先導するしおいさんが扉を開けて部屋に入り、ユーも後に続きました。
そうして目の前に広がった部屋の中には、想像だにしていなかった光景が映ったんですよね……。
ジーーーーー。
「う……、え、えっと……、あの……」
向けられる視線の数々が、ユーの顔に突き刺さっています。
まさかもまさか。自己紹介のときに睨みつけてきた眼帯の子、白っぽい着物のような服を着た子、頭の左右に触手を付けた子が一同に揃ってユーを見ているんです……。
その他にも部屋の中には別の子も居るんですが、視線の強さはそれほどきつくはありません。ただ、さっきと違うのは、睨みつけると言うほどじゃないんですけど……。
「こらこら、ユーちゃんを虐めたらダメだよっ。
そんなことをしたら、愛宕先生が飛んできちゃうんだからね!」
「うっ、そ、それは分かっているけどよぉ……」
眼帯をしている子が焦った表情を浮かべると、他の子たちも嫌そうな顔をしていました。
やっぱり愛宕さんはみんなに恐れられている……で、良いんでしょうか。
「それでも、見逃す訳にはいけないことがあるんデース!」
大きな声を上げた白い着物を着た子が、手を横に振り払うようにしていました。
ただ、膝は未だにガクガクと震えているみたいなんですけどね。
「それってやっぱり、先生のことかな?」
しおいさんが問いかけると、ユーの視線を向けていた3人がコクコクと頷きました。
「なるほどねー。まぁ、分からなくはないんだけど、まずはちゃんと自己紹介をしてからの方が良いんじゃないかな?」
「それはそうよね~。このままじゃいつまでたっても、私たちの名前をユーちゃんに知ってもらえないわね~」
3人の後ろから聞こえてきた声の方に視線を向けると、眼帯をしている子と同じ髪の毛の色の子がニコニコと微笑んでいました。
「それに、佐世保に居る先生に現状を知ってもらう為にも、必要だと思うわよ~?」
「そ、そうなのか……? まぁ、龍田が言うのなら間違いはないと思うけどよ……」
「確かに、私たちの自己紹介はまだですカラネー」
「そ、そうだよね……。ちゃんと自己紹介はした方が良いよね……」
「夕立も、ユーちゃんと挨拶をしたいっぽい!」
「むしろここできちんとしないと、不誠実さが先生に伝わってしまうかもしれないからね」
「ムグ……。時雨ガソウ言ウノナラ、仕方ナイ……カ」
次々に口を開いたみんなの数は総勢7人。様々な表情を浮かべてユーを見ながら、小さく頭を下げました。
それを見たユーはホッと胸を撫で下ろしそうになりましたけど、まだまだ不安が拭えない感じがしたんですよね……。
それからユーはしおいさんのサポートもあって、7人の自己紹介を順調に聞くことができました。
眼帯をしている子が天龍ちゃん。
その妹である龍田ちゃん。
天龍ちゃんの後ろにくっついている潮ちゃん。
おさげの三つ編みが可愛い時雨ちゃん。
元気いっぱいの夕立ちゃん。
それ以上に元気でノリが良い金剛ちゃん。
そして、触手を器用に動かすヲ級ちゃん。
それら7人が、ユーにきちんと挨拶をしてくれました。
「うんうん。これでみんなの自己紹介ができたし、問題もなさげだよね」
1人で納得するように胸を張ったしおいさんですが、そこに口を挟むように天龍ちゃんがずいっと前にやってきました。
「いや、本番はこれから……だよな?」
そう言って首を横に傾げると、金剛ちゃんとヲ級ちゃん、そして時雨ちゃんが小さく頷きます。
その表情がなんとなく怖い感じがして、ユーの肩がビクリと震えてしまったんですよね。
「こらこら。さっきも言ったけど、ユーちゃんを虐めるようなことは……」
「そんなつもりはないデース。私たちはただ、先生のことが知りたいだけデース!」
しおいさんの言葉を遮るように金剛ちゃんが口を挟むと、その視線がユーへと向けられました。
「……というコトデ、佐世保に居る先生のことを話して欲しいデース」
「先生って……、先生のことだよね……?」
どうしてそこまで気になるのかな……って思ったけど、元々はここの舞鶴幼稚園に居たんだから分からなくもないです。
それくらい、先生は人気者だった……って、ことですよね?
「ソウ……。オ兄チャンノコトヲ、包ミ隠サズ教エテクレレバ問題ハナイ」
「……お兄ちゃん……ですか?」
あれ……、今みんなが聞いてきたのは、先生のことですよね?
どうしてお兄ちゃんという言葉が出てきたんでしょうか……?
「ヲ級ちゃん、その辺のことをちゃんと説明しないと、ユーちゃんが混乱しちゃっているみたいだよ」
「……ヲ?」
首を傾げたヲ級ちゃんを見た時雨ちゃんは、少しだけ苦笑を浮かべてからユーの方に顔を向けました。
「ややこしくなる前に説明すると、実は先生とヲ級ちゃんは兄弟という間柄なんだよね」
「え、えっと……、兄弟……ですか?」
先生は人間ですけど、ヲ級ちゃんは……どう見てもそうじゃないですよね……?
「色んなことがあって説明するのは難しいんだけど、元はそういう関係だったってことなんだよ」
「はぁ……、そうなんですか……」
なんだかユーにはよく分からないけれど、それだけ絆が深いってことで良いんでしょうか。
でもそれだったら、遠く離れている佐世保に居る先生のことが気になるのも無理はないと思います。
ユーも祖国のことが気になったりしますし、寂しくなっちゃうこともありますからね……。
「マァ、今デハオ兄チャンヲ狙ウ第一筆頭ナ訳デスガ……」
「おいおい、ヲ級は何を言ってるんだ?
先生を嫁にするのは俺様だって言ってるだろぅ?」
「何を言ってるんデスカッ!
先生をハズバンドにするのは、この私デース!」
「それは聞き捨てならないね。
先生は僕のモノにするんだから、君たちは黙っていて……」
「……あれ?
先生って、ビスマルクと付き合っているんじゃなかったです……か?」
「「「………………え?」」」
みんなが一斉に喋り出したんですが、その内容があまりに気になったのでユーが口を挟んだんですけど……、マズかったですか……?
「ちょ、ちょっと待てよ。それってどういうことだってばよっ!?」
「あら~、天龍ちゃんったら、口調が忍者みたいになっているわよ~」
そう言った龍田ちゃんは、長い棒の先に刃物がついた槍のようなモノをどこからか取り出して、ニコニコと笑いながら急に研ぎ始めちゃいました。
「え、えっと、ユーは佐世保に居るお姉さんたちから聞いた話を言っただけなんですけど……」
「い、いやいや、さすがにそれはアリエナイデース!」
「そ、そうだよ!
あの鈍感度MAXな先生が、あろうことか普通の艦娘であるビスマルクさんと付き合うだなんて、信じられる訳が……」
「時雨ちゃんの言う通りっぽい!
先生はロリコンっぽいから、海が真っ二つに割れるくらい現実的じゃないっぽい!」
「そ、そうだよね……。先生がそんな風になるなんて、信じられないもんね……」
「アノ愚兄ガ、ビスマルクト付キ合ウナンテコトハ……」
「あっ、でもあれ……ですよね。
レーベとマックス、それにプリンツも良い感じに見えましたし……」
「「「なん……だと……っ!?」」」
目の前のみんながまるで石みたいに固まりながら、驚愕の顔を浮かべて呟きました。
……もしかしてユーは、余計なことを言っちゃったんでしょうか?
「そ、その……、レーベとかマックス、プリンツって、ど、どういう奴なんだ……?」
「え、えっと、ユーと同じ国からきたんですけど……」
「そ、そうじゃなくてデスネ……、その、普通の艦娘とか、そういうコトデ……」
「それは……、ユーと同じちっちゃい艦娘ですけど……」
「「「やっぱりかーーーっ!」」」
「はうっ!?」
あまりに大きな声が一斉にあがったので、ユーはびっくりしてたたずを踏んじゃいました。
「俺様という存在がありながら、先生はまた浮気をしたって言うのかよっ!」
「これは一大事デス! 一度本格的に懲らしめないといけまセーン!」
「僕が居るのに先生は……、ふふ……ふふふふふ……」
「し、時雨ちゃんが危険モードに入ったっぽいっ!?」
「み、みんな……、お、落ち着いて……」
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲ……」
危険なオーラを纏った天龍ちゃん、金剛ちゃん、時雨ちゃん、ヲ級ちゃんの4人に、あたふたしている潮ちゃんと夕立ちゃん。
「やっぱり、ぶった切らないとダメなのかしら~」
そして、大きな槍の刃物部分を完ぺきに研ぎ切った龍田ちゃんが、これ以上ない笑みを浮かべていたのを、ユーは見てしまったんですよね……。
もしかして、先生の人生は……、終了になっちゃいそうです……か?
次回予告
ユーの言葉で先生が大ピンチ!?
でも、そんな心配をある方からのツッコミでことなきを得た……と思いきや、
余計に、悪化しちゃってませんか……?
艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
~ユー編~ その13「先生の役目って、もしかして……?」
乞うご期待!
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