艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 舞鶴の幼稚園にやってきたユーですが、ここでいきなりビックリです。
思っていた以上の光景と、なぜか思いっきり睨まれているみたいなんですけど……。


その11「やれやれ……です」

 

「「「ざわ……ざわ……」」」

 

 驚きです。

 

 桃の木です。

 

 山椒の木なのです……。

 

 今、目の前にはたくさんのちっちゃな艦娘がユーをじっと見つめています。

 

 ちっちゃなって言ってもユーと同じくらいなんですけど、佐世保の幼稚園では比べ物にならないくらい、すごい人数なんです……。

 

「はいは~い。今日は佐世保幼稚園からお友達が、遠足にきてくれました~」

 

「「「ざわ……っ!」」」

 

 愛宕さんが両手をパンパンと鳴らしてから言うと、急にざわめきが止まります。

 

 ただどうしてなのか、ユーを見る視線が一層強くなったような気がするんですけど……。

 

「それでは自己紹介をしてもらいましょう~」

 

 愛宕さんの声に合わせるように、しおいさんがユーの背中を軽く押します。

 

 振り返って顔を見てみると、「頑張って!」と言うような笑みを向けてくれたんですが、正面に居るみんなの視線が怖くって、ちょっぴり怖じ気づきそうです……。

 

 でも、このまま黙っていたって始まりませんし、ユーは頑張ります。

 

「あ、あの……、佐世保の幼稚園からやってきました、U-511……です。みんなからはユーって呼ばれていますので……、その、宜しくお願いします……」

 

 言って、ユーはぺこりと頭を下げました。

 

 そうして恐る恐る頭を上げながら前を見てみると……、

 

 ………………。

 

 あ、あの……、もの凄く……、強い睨まれ方を……、しているんですけど……。

 

 眼帯をしている紺色の髪の毛をした子が、少し俯きながらユーの顔をじっと見ています。

 

 白っぽい着物のような服を着た茶色の長い髪をした子は、顔を真っ赤にさせながら両手のこぶしを握り締めています。

 

 そしてその中でもひと際怖いのは、頭の左右についている2本の触手のようなモノを空中でウネウネトとさせながら、背中の辺りに変な影を纏わせつつ『ゴゴゴゴゴ……』と、効果音のようなモノが見えちゃう始末で……

 

 ど、どうしてこんな状況になっているんでしょうか……。

 

 ユー、なにか悪いことしましたか……?

 

「……ぁぅ……」

 

 あまりにも威圧的な態度を取られてしまって、ユーは泣き出してしまいそうです。

 

 訳が分からないで怒られるだなんて、どうしてこんな目にあわなければいけないんでしょうか……

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

「「「……っ!?」」」

 

 急に後ろの方から大きな音と地響きのような衝撃を感じ、慌てて振り向きました。

 

 そこには、ニコニコと笑っているのに、どう見ても怒っているような愛宕さんが……、その……、

 

 

 

 右足だけ、足首部分がなくなっていました……。

 

 

 

「「「ざ、ざわざわ……っ」」」

 

 あまりにも衝撃的な出来事に驚いたみんなですけど、良く見てみると、愛宕さんの右足は床を踏みぬいて埋まっています。

 

 ……って、この床は……木じゃないですよね……?

 

「おかしいですね~」

 

「……え、えっと、ユーの自己紹介が……悪かったん……ですか?」

 

「いえいえ、ユーちゃんは全く問題ないですよ~」

 

 言って、愛宕さんはユーの頭を撫でてくれました。

 

 ただ、顔は笑っているはずなのに、勝手に身体が震えちゃうのは……なぜなんでしょう……。

 

「ユーちゃんに挨拶を返すどころか、睨みつけたり敵意をむき出しにしたりする子が居るなんて……、私の教育が間違っていたんでしょうかねぇ~?」

 

 そう言った愛宕さんは、ゆっくりと後ろへ振り向きます。

 

「ひっ!?」

 

 すると視線の先に立っていたしおいさんが、大きく身体を震わせて固まっちゃいました。

 

「ダイジョウブ。愛宕ノ教育ハ、間違ッテイナイト思ウ」

 

 しおいさんの隣に立っていた港湾さんは、首を左右に振りながらそう答えます。

 

 だけど、膝の辺りが小刻みに震えていたのは……、気のせいじゃなさそうです。

 

「そうですか~。それじゃあ、やっぱりおかしいですよねぇ~」

 

 そして今度は子供たちの方を向き……って、みんなが泣き出しそうな顔をしています……。

 

「ど、う、し、て……、ユーちゃんの自己紹介に対して、挨拶をしないんでしょうか~?」

 

 愛宕さんの声が非常に重く圧し掛かるように聞こえた瞬間……、

 

 

 

 ジョバーーーッ

 

 

 

「……?」

 

 なんだか湿った音がいっぱい聞こえてきたんですよね……。

 

 しかも、ユーを思いっきり睨みつけていた眼帯をしている子は、口からブクブクと泡を吹いて……倒れちゃったんです。

 

 その横で同じ髪の色をした子がニコニコしているし、触手を動かしていた子は大きく×を作りながら土下座をしているし……。

 

 この瞬間、ユーは愛宕さんにだけは絶対に逆らってはいけないって感じちゃったんです……。

 

 

 

 先生とは違って、とっても怖いですから……ね。

 

 

 

 

 

「はーい、それじゃあもう一度。

 みなさん、ユーちゃんに挨拶をしましょうー」

 

「「「ようこそ、舞鶴幼稚園へ!」」」

 

 大きな声で一斉に挨拶をしてくれたみんなは、一糸乱れぬ……といった風にお辞儀をしました。

 

 ちなみに、何人かの子たちの顔が半泣きだったり、膝がガクガクと震えていたりしたんですけど、見なかったことにしておいた方が良さそうです。

 

 ですので、ユーはみんなに向かって同じように頭を下げて挨拶を返し、「宜しくお願いします……」と言いました。

 

「うんうん。これでもう大丈夫ですね~」

 

 満面の笑みを浮かべながら両手を合わせた愛宕さんの顔を見たみんなは、ほっとした表情を浮かべて胸を撫で下ろしていました。

 

「それじゃあ朝礼の方はこれにて終了です~。

 ユーちゃんは1日体験ということで、しおい先生の班に入って下さいね~」

 

「あ、はい……。分かりました」

 

「良い返事です~。

 それではみなさん、今日も一日頑張りましょう~」

 

「「「はーいっ!」」」

 

 返事をしたみんなは班ごとに分かれ、思い思いに部屋から出て行きました。

 

 ユーはどの子がしおい先生の班なのかは分からないので、どうするべきかと迷っていたんですが、

 

「そ、それじゃあ……、早速部屋に向かおっか」

 

「はい。宜しくお願いします」

 

 ユーの肩に手を置いたしおいさんに頷いて、後に続こうとしたんですが……、

 

「うぅぅ……、怖かったよぉ……」

 

 ぼそりと呟いたしおいさんの言葉に気づいてしまったユーは、思わず下の方を見てみました。

 

 すると、しおいさんの膝は先ほどの子たち以上にガクガクと震えています……。

 

 更には額にも汗がいっぱい吹き出ていて、かなり焦っているのが見て取れました。

 

「あ、あの……、大丈夫です……か?」

 

「う、うん……。だ、大丈夫……、大丈夫……」

 

 そう答えたしおいさんですけど、どこからどう見ても大丈夫そうには見えません。

 

「あらあら、しおい先生の顔色が良くないですねぇ~?」

 

「ひっ!?」

 

 しおい先生の不審な動作に気づいたのか、愛宕先生がスタスタと近づきながら声をかけました。

 

「もしかして、身体の具合が悪いんでしょうか~?」

 

「い、いえっ、なんともないですっ!」

 

「そうなんですか~? 顔色が青ざめた風に見えますし、汗もびっしょりですし……」

 

「こ、これはそのっ、え、えっと、あの……」

 

「はっ! も、もしかして……、更年期障害とかでしょうか~?」

 

「……イヤイヤ。サスガニコノ歳デ、ソレハナイダロウ」

 

 そう言いながら、港湾さんが両手を広げて『やれやれ……』と呆れたようなポーズを取っていました。

 

「ちょっとした冗談ですよ~?」

 

「あ、あはは……、そうですよね……」

 

 乾いた笑い声をあげるしおいさんですけど、引きつった笑い顔が痛々しく見えちゃいます。

 

「しかし、体調が優れないならお休みした方が……」

 

「だ、大丈夫です。ちょっとだけ、焦っただけなので……」

 

「そうですか……って、どうして焦ってしまったのでしょう~?」

 

「そ、それは……、その……」

 

 またもや言葉が詰まってしまったしおいさんに、愛宕さんは本当に分からないといったような顔をしています。

 

 そんな2人を見ながら、ユーは港湾さんと同じように小さくため息を吐いてしまったんですよね……。

 

 

 

 まさに、やれやれだぜ……って、感じです。

 




次回予告

 朝礼でひと悶着があった後、ユーはしおいさんと一緒に部屋を出ました。
そして、舞鶴幼稚園を体験する班を見た瞬間……、恐れていたことが起こったんです……よね?


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その12「舞鶴での先生って……ヘタレなんですか?」


 乞うご期待!

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