艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ユーは辮髪の王とかいう人じゃないですけど、死亡を確認……したと思ったんですが。
なんだかんだで耐えきっていた龍驤お姉さんに摩耶お姉さんですけど、まだ何かを企んでいるみたいです。

 そしてユーは、舞鶴にくるきっかけとなった人たちに、会いにきたんですけど……。


その8「潜水艦のみなさんです」

 

「燃えたで……、燃え尽きた……。もう……、真っ白やで……」

 

 扉を開けて部屋から出た龍驤お姉さんが、小さな声で呟きながら大きく肩を落としていました。

 

「相変わらずの……姉貴だったな……」

 

 摩耶お姉さんも疲れ切った表情で言いながら、静かに扉を閉めました。

 

 確かに高雄さんは凄かったですし、お姉さんたちの髪の毛が真っ白に見えちゃう気がするのも不思議はないと思います。

 

 ただ、一番被害が大きかったであろう元帥さんが、3人の中で真っ先に復活し、なにごともなかったかのように振舞っていたのが、本当に凄いなぁって思いました。

 

 パンパンに腫れていた顔も元通りになっていましたし、もしかして元帥はユーたちと同じ艦娘なんでしょうか……?

 

 そうだったら、バケツを使ったらすぐに治っちゃうので納得できます。

 

 まぁ、使っていた場面を見てないですけどね……。

 

「しかし、とりあえずは……や。

 挨拶もこれで済んだし、やることは分かってるやんね……?」

 

「……ほ、本気でやるのか?」

 

「当たり前やん。せっかく佐世保から舞鶴まできたのに、なにもせえへんまま帰るなんて方が正気やないで?」

 

「そ、それはそうだけどよぉ……」

 

 言って、摩耶お姉さんは表情を曇らせながら、両手で肩を抱きました。

 

 なんだか身体が震えているのは、気のせいじゃないですよね……?

 

「なんや。今更怖がってるんか?」

 

「そ、そりゃあそうだろう。姉貴の説教を受けた後なんだぜ……?」

 

 摩耶お姉さんの言葉を聞いた瞬間、龍驤お姉さんは少しだけ目を開きました。

 

 気づけば、両方の膝がガクガクと震えているような……。

 

「な、ななな、なにを言うてるんやっ。あんにゃんで恐れとったら、できることもでけへえんにょうに……」

 

「……滅茶苦茶焦ってるよな?」

 

「うぐ……」

 

 噛みまくりでしたもんね。

 

 ちょっと猫っぽくて可愛かったですけど。

 

「と、ともあれ、目的だけは何とか達成せえへんと……」

 

 気を取り直した風に龍驤お姉さんが呟いたところで、ユーは質問を投げかけます。

 

「あ、あの……。お姉さんたちはこれから、どこかに行くんですか?」

 

「えっ、あー……、そうやねん。ウチらはちょっと用事があるんやけど……」

 

 まるでユーのことを忘れていたかのように龍驤お姉さんが驚いていましたけど、それはさすがにあんまりだと思います……。

 

 すると、それに気づいた摩耶お姉さんが話しかけてきました。

 

「ユーはここに居る潜水艦に会いにきたんだよな?」

 

「はい。そうですけど……」

 

「それじゃあ、待ち合わせの場所まで案内してやるから、早速行ってみるか?」

 

「Danke……。お願いします」

 

 摩耶お姉さんに頷きながらお礼を言って、頭を上げます。

 

 そんなユーを見て、龍驤お姉さんが胸を撫で下ろしていました。

 

 なんだか、怪し過ぎる気がしますよね……?

 

 

 

 

 

「ここが待ち合わせの食堂だな」

 

 摩耶お姉さんが先導して案内してくれたところは、周りにあるのとは少し小さめで、なんだかちょっぴり雰囲気が違う2階建ての建物でした。

 

 入口にはドックの前にあった暖簾がヒラヒラと風に揺れていて、『鳳翔』って文字が書かれています。

 

 佐世保にあるのとはちょっと違う感じなので、ユーはドキドキしちゃっていました。

 

「この中に……、潜水艦のみんなが居るんですよね……?」

 

「ああ。そうだと聞いているんだけど……」

 

 摩耶お姉さんはそう言ってから引き戸を開き、食堂の中に居る人に声をかけました。

 

「あの……、ちょっと良いか?」

 

「はい、なんでしょう……って、摩耶さんじゃないですか。お久しぶりですね」

 

 摩耶お姉さんの姿を見てニッコリと笑ったのは、白いエプロンを纏った女の人でした。

 

 額にバンダナのような物を巻いて、キリッとした感じの目がかっこいいと思います。

 

「ああ、久しぶりだな、千歳。ここに潜水艦の連中が待ってくれてるって聞いてるんだけど……」

 

「ええ、話は聞いてますよ。2階の広間で待っているから、どうぞ上がって下さい」

 

「おっ、サンキューな」

 

 エプロンの人にお礼を言った摩耶お姉さんは、ユーの方へと振り返って口を開きます。

 

「そこにある厨房の奥に階段があるから、それを上がったらみんなが居るってよ」

 

「わ、分かりました……」

 

「そんじゃあ、ウチらは用事があるさかい……、後はユーだけで大丈夫やね?」

 

「えっ、そ、そうなん……ですか……?」

 

 龍驤お姉さんの言葉にビックリしましたけど、少し前に用事があると聞いていたので、仕方ないですよね……。

 

「あたしらも食事を取りたいんだけど、やらなきゃいけないこともあるからな……」

 

「そう……ですか……。分かりました。ユー、1人でも……頑張ります」

 

「まぁ、そこまでいきらんでも大丈夫やって。上には潜水艦が居るし、そん中の1人はここの幼稚園の先生らしいからさ」

 

「確か……しおいって人ですよね……?」

 

 佐世保でゴーヤさんたちと話したときに聞いていたのを、ユーはちゃんと覚えています。

 

「そうそう、よお覚えてたやん。えらいえらい」

 

 言って、龍驤お姉さんは前と同じように、ユーに飴玉をくれました。

 

 いつでも持ち歩いているなんて、飴玉がすっごく好きなんですね……。

 

「一応話はしてあるさかい、後のことは向こうに任せたら大丈夫やと思うわ。

 どうしてもダメになったって言うんやったら、連絡してくれたらええさかいな」

 

「はい。分かりました」

 

「姉貴も声をかけてくれたみたいだから、まず問題は起きないだろうぜ」

 

「……それって、半ば強制力が働いてへん?」

 

「そ、それは、否定できないかもしんないけどよぉ……」

 

 2人のお姉さんはそう言いながら、気まずそうな顔を浮かべていました。

 

 ユーには難し過ぎて良く分からないですが、とりあえず2階に行ってみれば大丈夫だってことですよね……?

 

「じゃあ……、ユー、行ってきます」

 

「ああ、楽しんでこいよな」

 

「せっかくここまできたんやさかい、色んな話を聞いてくるんやでー」

 

「Danke。頑張ってきます」

 

 コクコクと頷いたユーを笑顔で見送ってくれたお姉さんたちに手を振ってから、厨房の方へと向かいます。

 

「あら、可愛い子がやってきましたね」

 

「あっ、は、初めまして。佐世保からきた、ユーです」

 

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。

 私はここの食堂を切り盛りしている、鳳翔です。

 潜水艦のみなさんは2階でお待ちになっていますから、どうぞお気軽に上がって下さい」

 

「Danke……、じゃなかった。ありがと……です」

 

「いえいえ。それではごゆっくり」

 

 ニッコリと笑ってくれた鳳翔さんに頭を下げてから、ユーは言われた通りに階段へと向かいます。

 

 階段の前にある踏み台の周りには靴が置いてあったので、ユーも同じように脱いでから上を見上げます。

 

 少し角度が急ですけど、頑張れば上れなくはないです。

 

 心の中で、「ふぁいとー」と叫びながら、1歩ずつ段を上がっていきます。

 

「えいしょ……、えいしょ……っ」

 

 手摺につかまりながら少しずつ進み、なんとか一番上までくることができました。

 

「……っ、……だね」

 

 右手には襖があって、奥の方から話し声が聞こえてきます。

 

 たぶんここに、潜水艦のみんなが居るはずですよね。

 

 ……うぅ、なんだかちょっと、緊張してきた……です。

 

 だけどここで帰るなんてもったいないですし、色々とお話をしたいから、ユーは頑張ります。

 

「し、失礼しますっ」

 

 中に聞こえるように声をかけてから、ゆっくりと襖をスライドさせました。

 

 照明の光りが目の前に広がり、一瞬だけ眩しくなった後……、

 

「あっ、やっときたのねー」

 

「待ってたでちよー」

 

 目が慣れてきたと同時に聞き覚えのある声が耳に入り、ゴーヤさんとイクさんの姿が見えて、ユーはホッと胸を撫で下ろしました。

 

「お、お待たせしました……です」

 

 ペコリと頭を下げてから部屋の中に入り、襖を閉じてみんなの方を見ます。

 

 畳の床に大きな座卓が2つ重ねられていて、その周りに座布団が置かれており、イクさんとゴーヤさんの他に、4人が座っていました。

 

「あなたがユーちゃんだね。どうぞどうぞ、こっちに座って良いよー」

 

「Danke……、じゃなかった。ありがとう……です」

 

 ユーは手招きしてくれた人の隣にある座布団の上に座ってから、みんなの顔を見てもう一度頭を下げました。

 

「これで全員揃ったでちね。イク、宜しくでち」

 

 ゴーヤさんの言葉に頷いたイクさんがコクリと頷くと、みんなはテーブルの上に置かれているコップを手に取りました。

 

 ユーの前にもオレンジ色の液体が入ったコップがあったので、同じように持って、待機します。

 

「今日も一日、オリョクルとバシクル……、お疲れさまでしたなのー」

 

「「「お疲れさまでしたー」」」

 

「夜の出撃はもうないので、いっぱい食べて飲んで、騒ぎまくるのね。

 それじゃあ……」

 

「乾杯でちっ!」

 

 イクさんが喋っている横からゴーヤさんが声を挟むと同時に、コップを高々と掲げました。

 

「「「かんぱーーーいっ!」」」

 

「ちょっ、横取りされたのねっ!?」

 

「イクの話が長いからでち」

 

 抗議をするイクさんですけど、既に周りのみんなはコップに口をつけてゴクゴクと中身を飲んでいました。

 

「うぅ……、へこんじゃうけど、落ち込んでばかりもいられないなのっ!」

 

 吹っ切れたように言ったイクさんは、コップを上に掲げてから一気に中身を飲み干しました。

 

「ぷはーーーっ、なのっ!」

 

「はい、おかわりをどうぞ」

 

「おっとっと……。ハチ、ありがとなのねー」

 

 金髪のお姉さんがすかさずイクさんのコップに瓶の中身を注ぐと、こぼれないようにバランスを取っていました。

 

 どうやらイクさんの隣に座っている金髪でメガネのお姉さんがハチさんという名前みたいですけど、確かユーの祖国にきたことがある潜水艦がそうだったと思うので、機会を見てお話を聞いてみたいです。

 

「あれれ、ユーちゃんは飲まないの?」

 

 イクさんとハチさんの様子を見ていると、隣に座っていたしおいさんがニッコリと笑いながら話しかけてくれました。

 

「ユーちゃんはまだお酒を飲んじゃダメだから、オレンジジュースにしたんだけど……、もしかして苦手だったかな?」

 

「あっ、いえ。オレンジジュースは……好きです」

 

「それじゃあ、遠慮しないで一杯飲んじゃって良いよ。今回は元帥のおごりだから、気兼ねしないでじゃんじゃんいっちゃおうねっ」

 

 しおいさんはそう言って、自分でコップにお酒を注いでから飲んだので、ユーも続いて飲むことにします。

 

「んぐ……、んぐ……」

 

「おっ、良い飲みっぷりだねー」

 

 喉が渇いていたのもありますけど、口の中に広がる甘酸っぱい味が心地よくて、一気に全部飲んじゃいました。

 

「はい。おかわりを注いであげるね」

 

「Danke。あ、ありがとうございますっ」

 

 頭を下げながらお礼を言うと、しおいさんはフルフルと首を左右に振ってからコップをユーの前に突き出しました。

 

「今回は無礼講だから、気にせず楽しくやろうねっ」

 

「は、はい。ありがとです」

 

 ユーはコップを持って、しおいさんのコップに軽く重ねてから笑みを浮かべます。

 

 

 

 これから楽しい時間が、始まり……ます?

 




次回予告

 食堂の二階でお食事会が始まりました。
みんなで自己紹介をしつつ色んなお話をして、楽しい時間が過ぎていきます。

 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その9「わいわい騒ぎ……です」


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