艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 龍驤お姉さんの大暴走によって、ユーたちはある場所へ連れて行かれました。
それは、舞鶴鎮守府で一番偉い人の部屋なんですけれど……。



その6「元帥さんと、秘書艦さん」

 

「………………」

 

「「「………………」」」

 

 ユーたちは今、とある部屋にいます。

 

 横一列に、龍驤お姉さん、摩耶お姉さん、そしてユーが立っています。

 

 その正面には真っ白い服を着ている男の人が、大きな机に肘を置いて椅子に座っています。

 

 そしてその横には、なんだか怖い顔をした青い服のお姉さんが立っていますけど……。

 

 その、なんて言うか……、突き刺さるような視線なんですよね……。

 

 蛇に睨まれた蛙って言葉を聞いたことがあるんですけど、まさにそんな感じに思えちゃうくらい、同じような感じなんです。

 

 龍驤お姉さんの顔はもの凄く気まずそうですし、摩耶お姉さんは額に汗をいっぱい浮かばせています。

 

「それで……、弁解はありますでしょうか?」

 

 青い服のお姉さんが喋り出すと、龍驤お姉さんと摩耶お姉さんがビクリと身体を震わせました。

 

 だけどそれからなにも起こらず、青い服のお姉さんは大きなため息を吐いてから、続けて口を開きます。

 

「黙っていれば済むなんてことは……、思っていませんよね?」

 

「い、いや……、ほんま、すんません……」

 

 龍驤お姉さんは堪らずといった風に、後頭部を右手で掻きながら謝りましたけど、青い服のお姉さんの強烈な視線を向けられた瞬間に、肩を竦めました。

 

「まぁまぁ、高雄。彼女らも反省しているみたいだから、それくらいにしてあげなよ」

 

「ですが元帥。鎮守府内で艦載機を発艦させただけでなく、あろうことか爆撃を行ったなんて……」

 

「日常茶飯事とは言えないけれど、過去にも何度かそういうことはあったよね?」

 

「……確かにありましたけど、その殆どはあなたのせいだということをお忘れなく」

 

 高雄――と呼ばれたお姉さんはそう言いながら、真っ白い服の男性――元帥に向かってジト目を向けました。

 

「たっはー。これは手厳しい返しだなー」

 

「……はぁ。懲りない馬鹿につける薬はありませんわね」

 

「……いや、さすがに酷くない?」

 

「馬鹿に馬鹿と言って、なにがおかしいのでしょうか?」

 

「しくしくしく……」

 

 高雄さんの言葉にへこんでいる元帥さんですけど、その顔はそんなに悲しそうには見えません。

 

 むしろ喜んでいるような感じに見えるんですけど、なんだか先生を思い出しちゃうのはどうしてなんでしょうか……。

 

 もしかして、似た者同士って……やつなのかな?

 

「まぁ、うちの作業員が原因を作ったみたいですから、全ての責を負わせるのはさすがにありえませんが……」

 

「そ、そうだぜ、姉貴。作業服を着た無精髭の男性が、龍驤の悪口をいきなり言うから……」

 

「……摩耶」

 

「は、はひっ!」

 

 再び鋭い視線を向けられた摩耶お姉さんは、大きな返事と共に素早く姿勢を正しました。

 

 完璧な直立不動って感じですけど、身体はブルブルと震えちゃっています。

 

「そういうときは、あなたが止めないといけませんわよね?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「口答えをする気かしら?」

 

「ぜ、全然、全く、これっぽっちもそんな気は……っ!」

 

「ならば黙って聞きなさいっ!」

 

「はひぃっ!」

 

 半泣きになった摩耶お姉さんはそのまま口を閉ざし、高雄さんからの説教を暫く聞くことになっちゃいました。

 

 後で聞いたところによると、どうやら摩耶お姉さんは高雄さんに頭が上がらないようです。

 

 なんでも高雄さんの方がお姉さんとかみたいですけど、それにしたって上下関係が厳し過ぎる気がするんですよね……。

 

 もしかして、過去になにかがあったんでしょうか……?

 

 

 

 

 

「高雄。小言はそのくらいにして、そろそろ本題に入らないかな?」

 

「……あら。気づけば小1時間程話していましたでしょうか?」

 

「チラチラと時計を見ていたのを、僕は見逃してはなかったと思うんだけどね」

 

「それは気のせいですわ」

 

 ニッコリと笑った高雄さんですけど、目が『それ以上聞かない方が良いですよ?』みたいに見えたのは、気のせいじゃないと思います。

 

 元帥さんは冷や汗を浮かべて、焦ったような顔をしていますし……。

 

 触らぬ神に、なんとやら……ですよね?

 

「とりあえず、今後一切、鎮守府内で危険な行動は慎んでもらえますように、お願い致しますわ」

 

「りょ、了解やで……」

 

 龍驤お姉さんはそう言って、何度も高雄さんに頭を下げて謝りました。

 

 悪いことをしたら謝るのは当然ですし、これで大丈夫だと思うんですけど……、

 

「そ、そういや……、その……、ちょっと聞いてええかな?」

 

「なにか?」

 

「う、ウチが……、爆撃してしまった男性なんやけど……、大丈夫やったんかなぁ……と」

 

「ああ、あの作業員に関しては何も気にしなくて大丈夫ですわ」

 

「せ、せやけど、どう考えても……」

 

 言って、龍驤お姉さんは俯きながら辛そうな顔を浮かべました。

 

 確かにあの男性に艦載機が放った爆弾が直撃して、見事なまでに吹っ飛んでいたのをユーは見ていました。

 

 だけど、キリモミしながらもすっごい笑顔を浮かべていたのは、ユーには理解できませんでしたけど……。

 

「何度も言いますが、あの男性は全くもって問題ありませんわ」

 

「……え?」

 

 大きく息を吐いた高雄さんの顔を見た龍驤お姉さんは、理解しがたいといった感じの表情を浮かべました。

 

「あの男性は、少々……問題がありまして。むしろ今回の騒動で、一番喜んでいるのはあの馬鹿……いえ、男性ですわね」

 

「え、い、いや、あの……」

 

 首を傾げまくった龍驤お姉さんを無視するかの如く、高雄お姉さんは続けて口を開きます。

 

「元から少し問題があったのですが、とある仕置……いえ、艦娘によって教育……というか、手ほどき……いや、これも違いますわね……」

 

「まぁ、その辺りはどうでも良いんじゃないかな?」

 

 どの言葉を選んで良いかといった感じに悩んでいた高雄さんでしたが、横から元帥さんが口を挟みます。

 

 その顔は先程と全く変わらずですけど、高雄さんの方はげんなりと疲れた風に見えました。

 

「とりあえず……だ。龍驤ちゃんが放った艦載機の爆撃によって、大した被害は出なかったってことだよ」

 

「………………」

 

 元帥さんの言葉に龍驤お姉さんはどう答えて良いのか分からず、微妙な顔を浮かべています。

 

 だけど数秒後に沈黙に耐えられなくなったのか、ゆっくりと口を開けました。

 

「そ、それは……、佐世保と舞鶴の関係があるから……ってことやんね?」

 

「あー、いや。そういうのは全くないんだけどね」

 

「そ、それはさすがにありえへんやろ?

 だって、仮にもウチは所属していない鎮守府内で爆撃を行ったんやで?」

 

「普通なら、軍法会議モノですわね」

 

 横から口を挟んだ高雄さんに、龍驤お姉さんと摩耶お姉さんは少しだけ顔を引きつらせました。

 

「まぁ、普通なら……だけどねー」

 

「い、いやいや。その普通ってのがおかしいねん。これじゃあどう聞いても、ここが普通じゃないって言っているようなもんで……」

 

「うん。だから、この舞鶴は普通じゃないってことだよ?」

 

「……へ?」

 

 目を見開いた龍驤お姉さんが言葉を詰まらせると、元帥さんはニッコリと笑いました。

 

「高雄。僕が元帥になってから、鎮守府内の騒動について答えてくれるかな?」

 

「……それは、業務以外について……で、宜しいのでしょうか?」

 

「そっちまで足したら、日が暮れちゃうんじゃない?」

 

「確かに……、そうですわね」

 

 高雄さんはそう言って小さく息を吐いてから、元帥の後ろにある棚から分厚いファイルを取り出して、目を通しながら答え始めます。

 

「えっと……、平常時では艦娘同士のいざこざで砲撃を行ったのが15回。主に整備室が多いですが、他にも……」

 

「あれ? それは整備中の暴発じゃなかったっけ……?」

 

「そういうことになっている……ですわ」

 

「あー、なるほど。それで続きは?」

 

 頷いた元帥さんが高雄さんを急かしますけど、色々と問題がありまくりな気がします……。

 

「空母寮での喧嘩騒動で爆撃により、建物に損害が出たのが28回。艦娘同士の損傷が61回。あと、飛行甲板の殴り合いもありましたわ」

 

「ま、まぁ、それは別に良いんじゃないかな?」

 

「……誰のせいでそうなったのかは分かっているみたいですわね?」

 

「次に行こう。次に」

 

 ジト目を向ける高雄さんから目を逸らすように、元帥さんは明後日の方向を見ながら更に急かしました。

 

「その他には演習場での実弾使用等がありますが……、まぁこれは大して問題はないかと」

 

「……別名、しごきと呼べちゃったりするけどねー」

 

「おや、なんだか部屋の中に大きな虫が……?」

 

「ちょっ、こっちに砲口を向けないでっ!」

 

 慌てて叫びながら席から転げ落ちる元帥さんを見て、高雄さんはクスリと笑ってから龍驤お姉さんの方へ顔を向けました。

 

「……と、いうことなのですよ?」

 

「た、確かに普通やとは思えへんよね……」

 

 納得するどころか、更に疲れたような表情になった龍驤お姉さんは、肩を大きく落としながら頷きました。

 

「そう言えば……、一度だけ先生も爆撃に巻き込まれたよねー」

 

「……確かにありましたわね。あれは飛龍が爆撃を行い、巻雲に損傷がありましたが……、それほど気になることはありませんでしたわ」

 

 元帥さんが思いだしたように言うと、高雄さんは目を閉じながら呆れたような感じで答えます。

 

「いやいや姉貴。さすがに先生は普通の人間だから問題はあるだろ?」

 

「「……普通?」」

 

「な、なんでそこで首を傾げるんだ……?」

 

 摩耶お姉さんの問いかけに『なにを言っているのかね、キミは?』とでも言いたそうな元帥さんと高雄さんですが、なぜか龍驤お姉さんの顔色が気まずいようになっていました。

 

「あの先生が普通の人間だというのなら、横にいる元帥はド変態になりますわね」

 

「滅茶苦茶酷いことを言われてるんですけどっ!?」

 

「そろそろ自覚なさった方が宜しいのでは?」

 

「傷口に塩を塗りたくる発言は止めてっ!」

 

 号泣しながら高雄さんに懇願する元帥さんですけど、ここで一番偉い人なんですよね……?

 

 なんだか威厳とか、そういうモノが全く感じられないんですけど……、どうしてなんでしょうか。

 

「そ、そりゃあ……、先生もちょっとばかり普通じゃないかもしれないけど……よ……」

 

 そして一人で納得しそうになっている摩耶お姉さんと、顔が汗でびっしょりになった龍驤お姉さんが、互いに見合いながら小さく頷きました。

 

 ユーも摩耶お姉さんの言葉には納得できる所があるんですけど……、

 

 

 

 なんだかユーだけ、おいてけぼりみたいな感じですよね……?

 




次回予告

 なんだか1人を除いて皆さんが疲れている中、ユーに声が掛けられます。
そして、さらなる悲劇が……起こることになろうとは……。


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その7「策士ですらなかったみたいです」


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