艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 それからみんなで食堂に行き、お話をすることになりました。
イクさんやゴーヤさんは色んなことを教えてくれるんですけど、ところどころで口を濁しちゃうんですよね……。



その2「潜水艦のお仕事……?」

 

「「「ぷはーーーっ!」」」

 

 ユーの目の前では、2人のお姉さんと2人の潜水艦が一斉にジョッキの中身を飲み干して、テーブルの上に置きました。

 

「やっぱり仕事の後の一杯は格別なのねー」

 

「まだ遠征は終わってないし、そもそもこれはビールではないでち……」

 

「まぁまぁ、ここはノンアルコールビールってことで我慢してやね」

 

「さすがにここまできて失敗する訳にはいかないのね……」

 

「そうでちね……」

 

 落ち込み気味になってきた潜水艦を、2人のお姉さんが慌てて慰めます。

 

 ユーもお話が聞きたいので、なにか楽しくなることを言おうと思ったんですけど……。

 

「えっと……、えっと……」

 

「……ん、どうしたでちか?」

 

 なにを言って良いのか分からなかったユーを見た片方の潜水艦が、不思議そうに顔を傾げました。

 

「あっ、そう言えば自己紹介をしていなかったのね」

 

「ああ、なるほど。それなら納得でち」

 

 2人して頷いた潜水艦は、ニッコリと笑って口を開き始めました。

 

 本当はそうじゃなかったんですけど、確かに名前が分からないので話し難いのは確かです。

 

「イクは舞鶴鎮守府に所属する潜水艦、伊19なのね。気軽にイクって呼んでくれて良いのねー」

 

「ゴーヤも同じく舞鶴鎮守府所属の潜水艦、伊58でち。みんなからはゴーヤって呼ばれているでち」

 

 潜水艦の2人の自己紹介が終わった後、今度は2人のお姉さんが自己紹介を始めました。

 

「うちは佐世保鎮守府に所属している龍驤ってもんや。軽空母やけど、制空権の確保には定評があるんやでー」

 

「それを自分で言う辺りが龍驤っぽいけど……まぁ良いか。あたしの名は摩耶。同じく佐世保鎮守府所属の防空巡洋艦で、対空には自身があるぜ」

 

「なるほどなのねー」

 

「よろしくでち」

 

 互い互いに挨拶を済ませた後、4人のお姉さんたちが揃ってユーの方を見てきました。

 

「それで、この小さな子が……ほら、自己紹介をせんと」

 

「あっ、は、はいです……」

 

 小さいお姉さん……じゃなくて、龍驤さんがユーに声をかけてくれたので、みんなの顔を見てからペコリと頭を下げて自己紹介を始めます。

 

「えっと……、ドイツ海軍所属で、今は佐世保の……幼稚園に通っている、潜水艦U-511です。お友達からはユーって呼ばれていますので、そ、その、宜しくお願いします……」

 

 ユーはそう言い終えてから、もう一度頭を下げました。すると龍驤さんが「ようできたな。えらいえらい」と言いながらユーの頭を撫で、またまた飴玉をくれました。

 

 既にポケットの中は貰った飴玉で一杯なので、お口の中に放り込んじゃいます。

 

 甘くておいしいです。Danke。

 

「それじゃあユーは、遠いところからきたのでちか?」

 

「は、はいです。こっちでお世話になるようにって言われて、やってきました」

 

 ゴーヤさんの問いかけにちゃんと答えながら、コクコクと頷きます。

 

 なぜかイクさんがげんなりした表情を浮かべていますけど、どうしてなんでしょうか……?

 

「ハチが言ってた、遠征のところなのね……」

 

「あの距離を小さな子が1人で……なんてことは、さすがにないと思うでち」

 

「……?」

 

 イクさんとゴーヤさんがボソボソと内緒話をしているみたいなんですけど、ユーは何か変なことを言っちゃったのでしょうか?

 

「キミら、いきなり怪しい話なんかをしてると、ユーが困ってしまうで?」

 

「あっ、いや。なんでもないでちよ?」

 

「そ、そうなのね。ちょっと、ユーの国に行ったことがある知り合いが居ただけで……」

 

「えっ、ほ、本当……ですかっ!?」

 

 ユーはビックリして、バンッ! と机を叩きながら立ち上がってしまいました。

 

 大きな音に驚いた周りの人たちが視線を向けてくるのに気づき、しまった……と、焦っちゃいます。

 

「あー、ゴメンゴメン。ちょっと驚いただけやから気にせんといてやー」

 

 するとすぐさま龍驤さんが立ち上がりながら周りに声をかけてフォローしてくれたので、ざわつきもすぐに落ち着きます。

 

 見た目と違って、頼りになるお姉さん……です。

 

 色々と……、小さいですけどね。

 

「しかし、ユーの国に遠征に行ったって、凄い話だよなぁ」

 

「んふふー。イクたちの潜水艦隊を舐めてもらったら困るのねー」

 

 大きい方の……摩耶お姉さんが両腕を組みながら感心するように頷くと、イクさんが自慢げに胸を叩きながら答えました。

 

「ほんま凄いことやで。ユーの国まで遠征するなんて、確かに並みの艦隊やと上手くはいかんやろうね」

 

「本当に……、凄いです……」

 

 龍驤さんの言う通りなので、ユーも素直に頷きます。

 

 ここにくるまでの間に途中で攻撃を受けたりもしましたから、危険な旅だったんだと思います。

 

 ユーは片道だけでしたけど、色んな人たちが助けてくれたので大丈夫でした。

 

 そんな距離を潜水艦だけで往復するなんて……、本当に、本当に凄いことだと思います。

 

「ど、どうしたの……でちか?」

 

「目が、目がキラキラしてるのね……」

 

 気づけばユーは両手を握りながら、イクさんとゴーヤさんを見つめていました。

 

 ユーもいつかは、ここから祖国までを往復することができるようになるのでしょうか?

 

 大きくなって、いっぱい潜水の練習をして、強くなりたいです。

 

「どうやらユーは、2人に憧れたんとちゃうかな?」

 

「そ、そうなのね?」

 

「凄いですっ。ユーも大きくなったら、イクさんやゴーヤさんみたいに……なりたいです」

 

「………………」

 

 ユーは宣言するように2人に向かって口を開くと、なぜかゴーヤさんが肩を落としながら視線を逸らしました。

 

 あれ、ユーは変なことを言ったつもりはないんですけど……。

 

「できれば……、ゴーヤたちみたいにはならない方が良いと思うでち……」

 

「……えっ、どうして……、ですか……?」

 

「くる日もくる日もオリョクルかバシクル。もしくは長距離遠征を繰り返したいでちか……?」

 

「オリョ……クル? バシ……クル……?」

 

 ユーは聞き慣れない言葉を呟き返すと、イクさんの顔がみるみるうちに青ざめていきます。

 

 あ、あれ……、どうしてそんな顔を……するのかな……?

 

「くる日もくる日も燃料と弾薬を拾って、余裕ができたら今度は任務消化だと言って輸送船を倒しに行くのね……」

 

「永遠ループのオリョクルよりはマシでちけどね……」

 

 2人の顔は青ざめているのに、なぜか頭の上の方にやつれたような真っ赤な丸い感じのモノが見える気がします。

 

 龍驤お姉さんも摩耶お姉さんも、そんな2人を見て、凄く可哀想な目を浮かべていました。

 

「う、噂には聞いてたけど、そんな顔になっちまうほどキツイんだな……」

 

「さ、さすがに可哀想に思えてくるわ……」

 

 みんなは口々に大変そうなことを言っている気がしますけど、ユーには良く分かりません。

 

 オリョクルとか、バジクルとか、いったいどういう意味なのかと聞こうと思ったんですけど、

 

 

 

「「聞かない方がいいでち(なの)」」

 

 

 

 ゴーヤさんとイクさんは、ブンブンと激しく顔を左右に振って答えてくれませんでした。

 

 なんだかユーだけ仲間外れにされている気がしますけど、目上の人の話はちゃんと聞く方が良いのかな……?

 

 

 

 

 

「ま、まぁ、暗い話はこの辺にしといてやね……」

 

 重い空気を吹き飛ばすように、龍驤お姉さんがパンパンと手を叩きながら話し始めました。

 

「実はウチと摩耶も、ちょっと2人に聞きたいことがあるねんけど……かまへんかな?」

 

「それはいったいなんでちか?」

 

 グラスの飲み物をゴクリと一口飲んだゴーヤさんは、首を傾げながら聞き返します。

 

「ちょうど今、こっちの幼稚園に舞鶴からきた先生が居てるんやけど……、知ってるかなーと、思ってなぁ」

 

「先生……って、しおいと一緒に働いている男性のことなのね?」

 

「そう言えばそんな人が居たでちね」

 

 龍驤さんの言葉を聞いたゴーヤさんとイクさんは、互いに顔を合わせながら確認するように話をしていました。

 

「その話様だと、あんまり詳しく知らないって感じに聞こえるけど……、また新しい名前が出てきたな」

 

「しおい……って名前は、聞いたことがあるような気がするねんけどね」

 

 今度は龍驤お姉さんと摩耶お姉さんが向かい合って話します。

 

 ユーは黙って聞いているだけですけど、それでも面白いですよ?

 

「しおいは元々イクたちと一緒の艦隊に居た潜水艦なのねー」

 

「事情があって艦隊から離れた後、幼稚園の先生として働いているでち」

 

「ということは、退役したってことになるんかな?」

 

「そうじゃないでちけど、基本的には幼稚園で働いているでち」

 

「……なんだかややこしいけど、しおいの方が先生について詳しく知っているって感じがするな」

 

 そう言った摩耶お姉さんは、少し残念そうに肩をすくめました。

 

 でもどうして、龍驤さんと摩耶さんは先生にことを尋ねたんでしょう……?

 

 先生なら幼稚園に居るんだから、直接会って話をすれば良いだけだと思うんだけど……。

 

 それよりユーは元々潜水艦で、今は舞鶴の幼稚園で働いているしおいという人がちょっとだけ気になります。

 

「イクもゴーヤも、直接先生に会ったことはないのね」

 

「そうでち。だから、しおいから聞いた話と噂くらいしか分からないでち」

 

「それじゃあ、その話ってのを聞かせてもらうのはかまへんかな?」

 

「それは別に良いでちけど……」

 

 ゴーヤさんはそう言いながら、なぜかユーの顔をチラチラと見てきました。

 

「……えっと、ユーはなにも悪いことはしてないですよ?」

 

「あっ、いや……、そうじゃないでちけど……」

 

「あんまり小さい子には聞かせない方が良いかもしれないのねー」

 

 

 

「「あぁ、なるほどな(ね)」」

 

 

 

 今度は息ぴったりに龍驤お姉さんと摩耶お姉さんが声を合わせ、大きく肩を落としました。

 

 ユー、全然分からないんですけど……。

 

 先生って、なにか悪いことでもしたのか……な……?

 




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次回予告

 なにやら4人で先生の話をしているみたいですけど、ユーは1人さみしくお留守番……?

 なので、ちょっとだけ楽しもうと思ったんです……。


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その3「おいしいです」


 乞うご期待!

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