艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 自室にてマックスとの会話。
それは僕にとっても、マックスにとっても大切なことだった。

 そして僕たちは、行動にでる……。


その2「誓いの挨拶」(完)

 

「それは奇遇だね」

 

「ええ、そうね」

 

 コクリと頷くマックスを見た僕は、どちらから相談をするか決めかねていた。

 

 するとマックスは僕に右手のひらを向け、先にどうぞとジェスチャーをする。

 

「う、うん。それじゃあ、お先に……」

 

 ゴホンと咳払いをしてから小さく息を吸い込み、まぶたを閉じ心を落ち着かせてからマックスに向かって口を開く。

 

「ねぇ、マックス。先生のこと……どう思うかな?」

 

 僕の問いかけにマックスは少しだけ目を見開いた後、いつものように澄ました顔に戻してから「ふうん……」と呟いた。

 

「………………」

 

 なぜか言葉が出てこなくなり、僕たちは無言のまま見つめ合う。

 

 時計の針の音だけが室内に響き、暫くの時間が経った後、僕は推測でモノを言う。

 

「もしかして……、マックスも先生のことを僕に相談しようと思っていたのかな……?」

 

「………………」

 

 無言を貫くマックスだけれど、頬の辺りはほんのりと赤色に染まり、それが間違いないということが分かる。

 

 そして、僕はマックスが同じ思いを持っているとすぐに判断した。

 

 パッと見た感じでは分からないかもしれないけれど、僕とマックスは近い存在であるから分かることがある。

 

 僕も、マックスも、現在進行形で恋をしている。

 

 今日初めて出会った1人の男性に、一目惚れという形で恋心を持ったのだ。

 

 もしこれがマックス以外なら、ビスマルクが先生に迫っていた時のように嫌な気持ちになってしまったのかもしれない。

 

 だけど僕は、マックスが同じ思いを持っていることが嬉しく、心が晴れ晴れとした感じになったんだ。

 

「そっか……。マックスも僕と同じなんだね……」

 

 普通に考えればライバルが増えてしまったはずなのに、僕はニッコリと笑みを浮かべてそう言った。

 

 その瞬間、マックスは緊張が切れたみたいに、澄ました顔をほんの少しだけ崩して小さく息を吐く。

 

「レーベも同じだったとは思わなかったわ」

 

「僕もビックリしたよ。だけど、何だか嬉しいんだよね」

 

「私も同じ……かしら」

 

 僕たちは心が満たされていくような感じを噛みしめるように、互いに頷き合った。

 

 それから、先生の第一印象からどこが好きなのか、どういうところがダメっぽいなのかなど、たがいに質問をぶつけあって色んなことを話し合った。

 

 あまりに会話が白熱し過ぎて、お腹がぐうぐうと音を鳴らすまで夕食を取るのを忘れていたくらいにね……。

 

 

 

 

 

 それから幼稚園で先生と話す度に、どういう人なのかが少しずつ分かってきた。

 

 話をするときはちゃんと目を見ていてくれるけれど、先生自身が追い詰められてくると思わず目を逸らしてしまうことがあるんだよね。

 

 しかも、それは決まって右側の方に。

 

 つまりこれは先生が嫌がっていると分かる訳で、僕たちにとっては非常に有益な情報なんだ。

 

 もちろん喜んでいるときの反応も、注意深く観察した。

 

 恥ずかしくなると頬を掻く癖があるし、鼻の穴が少し大きくなるときもある。

 

 簡単に言えば、先生は非常に分かり易い人間だということが分かった。

 

 だからこそなのか、先生はみんなから好かれ易いみたいで、いつの間にか鎮守府にいる何人かのお姉さんたちからも好意を向けられているみたいなんだよね。

 

 それは僕たちにとって非常に宜しくないことなんだけれど、なにより問題はビスマルクの行動だった。

 

 幼稚園内だということを躊躇することなく、ビスマルクは先生に猛烈なアタックをしている。

 

 どうやら先生は押しに弱いようだし、嫌がっていても相手のことを思いやる性格もある。

 

 つまりは、ビスマルクが本気で実力行使に出てしまえば非常に危ういと思えるんだ。

 

 だから、僕とマックスに残されている時間は少ないかもしれないと判断し、強硬手段に出ることにしたんだよね。

 

 

 

「……いや、それ以前にちょっと質問。2人は俺のことをどう思っているんだ?」

 

 ビスマルクのことをどう思っているかと先生に問いかけたところ、ここしかないという言葉が返ってきた。

 

 これはチャンスだと僕は、マックスにアイコンタクトをして先生にたたみかける。

 

「え、えっと……その……、僕は……せ、先生のこと、嫌いじゃ……ないけど……」

 

 僕はそう言いながら先生に上目づかいをし、ジッと見つめてみる。

 

「ふ、ふうん……。そ、そう……。レーベも、そう……なの……」

 

 マックスもいつもの無表情を頑張って崩し、わざとらしく視線を逸らしていた。

 

「そうか……、そうだよね……。先生がビスマルクに抵抗していたのって、そういう意味だったんだ……」

 

「ふうん……。レーベの言うこと……、分かった気がするわ」

 

「……え、えっと……、それって……ど、どういう……こと……かな……?」

 

 僕とマックスは咄嗟の判断で言葉を紡ぎ、行き着く先へと誘導する。

 

 先生が押しに弱いのなら、この方法で追い詰めれば良いのだから――と。

 

「つまり先生は……」

 

「小さい私たちが……好きなのよね……?」

 

 ――そう。

 

 先生をロリコンという風にしてしまえば、好意を向けているお姉さんやビスマルクから嫌われるかもしれない。

 

 これを切っ掛けにして上手い具合に鎮守府内で噂になれば、後はもうこっちのモノだと思うんだ。

 

 これが成功すれば、後に残る問題は少ないはず。

 

 この時点でプリンツは相変わらず先生を嫌っているみたいだし、ユーは大人しい性格のおかげで上手く思いを伝えられないだろう。

 

「だ、大丈夫だよ、先生。僕たちは別に、口が軽い訳じゃないから……」

 

「そう……よ。それに私もレーベも、心が広いから……」

 

「だから違ーーーうっ!」

 

 叫び声をあげる先生を見て、僕たちは心の中でガッツポーズを取った。

 

 これで準備は万端だ。

 

 後は噂を流すだけ。

 

 そして僕たちはこのチャンスのうちに、半ば強引に胸の内を伝えることに成功したんだよね。

 

 まぁ、それが先生にきちんと伝わったかどうかは分からないけれど。

 

 ……やっぱり、面と向かって言うのは恥ずかしいからさ。

 

 

 

 

 

 だけど、それからも先生は色々と大変だった。

 

 先生がロリコンであるという噂が流れ、大半のお姉さんたちは先生に向かって冷ややかな目で見たり、敵意を持って睨みつけていた。

 

 しかしそれにもかかわらず、一部のお姉さんたちは以前と変わらずに先生と楽しそうに話している。

 

 特に龍驤というお姉さんが良い感じであると聞きつけた僕たちは、先生の後をつけて確認したことがある。

 

 そのときは本当に愕然とした。

 

 だって、お姉さんだというのに僕たちと同じくらいなんだよ?

 

 特に胸部装甲の辺りなんて、下手をすれば僕やマックスよりも小さいかもしれない。

 

 あれで本当にお姉さんなのかと何度も見直していたけれど、残念ながら現実は変えられそうになかった。

 

 それよりもショックだったのは、先生が龍驤と楽しげに話している場面だった。

 

 龍驤の言葉に追い詰められつつも先生は意外にも嫌がっているように見えなかったし、むしろ喜んでいるときもあった。

 

 そしてこれらを見た僕たちは確信する。

 

 先生は真性のMであると。

 

 だから僕たちも、先生に気に入られる為にドSにならなければいけないのかな……と思ったんだよね。

 

 なんだか非常に性質が悪い人に惚れてしまったと後悔しそうになったけれど、今更後には引けそうにない。なにより、惚れた弱みってやつには勝てそうになかったんだ。

 

 先生がどれだけヘタレでだらしがない人であっても、その顔を見る度に僕の胸がドキドキと高鳴りをあげてしまう。

 

 それはつまり、僕には先生しか居ないんだって……無意識に決めつけちゃっているんだよね。

 

 もちろん考えなおせばこの病から抜け出せるかもしれないんだけれど、僕はそれをやろうとは思わない。

 

 こんな考え方をするなんて、僕ってもしかすると先生と同じMかもしれないよね。

 

 

 

 ……笑えない冗談だけどさ。

 

 

 

 

 

 それから僕は何度もマックスと話し合って方向性を決めた。

 

 まず、どんな結果になっても先生を諦めるつもりはない。

 

 これは僕もマックスも同じ気持ちだし、諦めるなんて考えられないんだ。

 

 それよりも、今後どうやって先生を攻めていくかが問題だった。

 

 いつの間にかプリンツと良い感じになっているような噂を聞いたし、実際に幼稚園で2人の雰囲気が変わっていたんだよね。

 

 このままだと幼稚園内だけでもビスマルクだけじゃなく、プリンツまでがライバルになってしまう。

 

 それに、なんだかユーも少しずつ変わってきているみたいだし……。

 

 本当に、厄介な相手に惚れちゃったよね……と、本気で後悔しそうになる。

 

 それでも僕たちは諦めない。

 

 例えどれだけライバルが増えたとしても、僕たちは僕たちの手段を用いて先生を手に入れるんだと心に決めた。

 

 ビスマルクやプリンツとは違う方向から、ちょっとずつ僕たちが気になるように……。そういった感じで攻めようと思う。

 

 それはまるで、弱い毒をジワジワと効かせているみたいな感じに思えてくるけれど、なんだか嫌な気分じゃない。むしろ、これが快感に思えてきそうでちょっと怖かったりもするけどね。

 

 あれ、僕ってMじゃなかったっけ……?

 

 今の台詞じゃ、完全にSっぽいんだけれど。

 

 こんなにコロコロと性格を変えてしまうなんて、情緒不安定なのかな……?

 

 それとも、先生が僕たちを変えてしまっているのだろうか?

 

 それはまるで、魔性という言葉がしっくりくるような……、なんだか少しだけ怖い気がするんだけれど。

 

 それでも、僕たちは前を向いて……。いや、先生を見ながら1歩ずつ進むんだ。

 

 

 

 さて、それじゃあ今日はどんな感じで先生を攻めてみようかな。

 

 僕はマックスと相談しながら幼稚園へと向かう。

 

 ニッコリ笑う僕たちには、ほんの少しだけ歳相応じゃない思いを秘めながら、今日も先生に挨拶をするんだ。

 

 

 

「おはようございます(今日こそ先生を手に入れるから)」

 

 

 

 ――ってね。

 

終わり

 




 レーベ編もこれにて終了ー。
さて次はユー編なんですが……。

 困りました。思いのほか長くなっており、まだ完成していません……orz
更新していく分は問題ないのですが、話の流れが変わらないように気をつけないと……。

 ですが引き続き予定通り進めていきますので、お付き合いの程、宜しくでありますっ。


次回予告

 こ、こんにちわ……。
ドイツ海軍所属、潜水艦U-511です。
今回はユーのお話だそうですけど……、ちょっとどころか、大冒険が待っていたんです。

 は、恥ずかしいですけど……、聞いてくれますよね……?


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その1「お姉さんたちが……、いっぱい……居ます」


 乞うご期待!

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