プリンツ・オイゲン大ピンチ!
先生にビスマルク姉さまが盗られちゃう!
だから私は先生に対立していたはずなのに……。
その1「今までの経緯」
Guten Morgen!
私は佐世保鎮守府にある幼稚園に通っている、プリンツ・オイゲン。元気が取り柄のビスマルク姉さまをお慕いする、ちょっぴりちっちゃな重巡ですっ。
今日も一日頑張ろう……って思うんですけど、最近はちょっと憂鬱気味。
同じ幼稚園に通う友達のレーベやマックスに相談する訳にもいかず、本当に困っちゃっているんです。
まぁ、ユーにはちょっとだけ話しちゃったけど、あれはノーカンってことにしておきたいし……。
はっ! べ、別に嬉しかったとかそういうのじゃなくて……。
い、良い訳なんかじゃないですっ! い、今のは聞かなかったことにして下さいっ!
………………。
……え、えっと、その……ですね。
色々……あったりするんですけど……、
ま、まぁ……、結果的には……その……、
嬉しかった……のかな……?
◆ ◆ ◆
数日前、私はビスマルク姉さまと口喧嘩をして幼稚園を飛び出した。
喧嘩の切っ掛けは先生と交遊を深めるのをやめて下さいと私が言ったからだ。
ビスマルク姉さまの行動は目に余るモノがあったし、これに関しては幼稚園のみんなもそう思っている。
先生が不能になったという噂を聞いてホッとしたのもつかの間だっただけに、私としては本当に我慢がならなかった。
だからこそ私はビスマルク姉さまに面と向かってやめて下さいと言ったのに、断固として頷いてくれず完全に拒否をされてしまった。
そのときにビスマルク姉さまの顔がもの凄く冷たく見えた私は、次第に目に涙が湧き上がり、いてもたってもいられずに幼稚園を飛び出してしまった。
気まずい気持ちと同時に、やっぱりダメなんだという思いが心の中を埋め尽くしてしまったからなんだよね……。
そして私は海の方へ走り出そうとした。
遠い祖国の方を眺めながら、思い出にふけろうと思ったからだ。
だけどそんな私の気持ちを阻害するように、先生がもの凄い顔で追いかけてきた。
先生は私がどれだけ嫌がっても、捕まえようと走ってくる。
元々は先生が幼稚園にこなかったらビスマルク姉さまはこんなことにならなかったのに……という怒りが沸々と湧きあがり、私はいつものようにタックルをお見舞いしようとした。
半分はやつあたり。もう半分は顔を見るのが怖かったから。
だから私はタックルをする為に反転したとき、先生の顔を見なかった。
目を瞑って声のする方向へと駆け出していく。だけど、そんな攻撃が当たるはずもない。
先生に背後を取られた私は、離して欲しいという一心で叫び続けた。
「は、離して下さいっ! この変態ーーーっ!」
「人聞きが悪いことを言うんじゃないっ!」
「変態に変態と言って何が悪いんですかっ!」
「俺のどこが変態だっ!」
「だ、だって、先生は不能なんでしょうっ!」
「………………は?」
言った瞬間、しまったと思った。
正直に言って、先生はビスマルク姉さまを狙う敵。
だけどここ数カ月の間、私は先生の授業を受けているうちに悪い人ではないと気づいていた。
ただ、少しだけ勘違いをさせやすい行動を取ってしまうだけ。
それが問題だということを先生本人は気づいていないようだけど、私にとってプラスになると指摘はしなかった。
結果的にレーベやマックス、それに鎮守府にいる何人かのお姉さんたちの視線が、少しずつ変わってきているみたいだし。
そこからビスマルク姉さまの機嫌が悪くなって、後々先生を見切ってくれればと思っていた。
だから、私はちょくちょく牽制というタックルを放ちつつ、様子を見守っていただけなのに。
言葉にしてはいけないことを、私は言ってしまったのだ。
「この間のスタッフルームでビスマルク姉さまと話していたこと……しっかりと聞きましたからっ!」
「ちょっ、あ、アレを聞いていたのかっ!?」
一度言ってしまったら最後、私の口は止まらなかった。
いや、止まってくれなかったのだと思う。
おそらくこれもやつあたり。
ビスマルク姉さまへの思いが空回りし、原因である先生への直接攻撃。
肉体的ではなく精神的に。
私も同じ思いをしたのだから少しでも味わって下さいと言いたげに、私は叫んでしまったのだ。
「先生が不能だったらビスマルク姉さまも離れていく……。そう思っていたのに、どうしてなんですかっ!」
「ど、どうしてって言われてもだな……」
本音をぶちまけた。
先生はうろたえるように、そして困り果てるように頬を掻いていた。
私の頭の中は沸々と湧きあがる怒りと悲しみに染まり、目から沢山の涙がこぼれ出す。
恩人であり、思い人であり、信頼する人であるビスマルク姉さまを私から奪わないで下さい。
その一心で、叫び続けた。
冷静になって考えてみれば、今の私は駄々をこねる子供。
いや、実際に私は子供なんだけれど、ここまで聞きわけがない場合は怒られたって仕方がない。
ましてや先生の不能を大きな声で叫んでしまったのだ。
それも鎮守府内とはいえ、公衆の面前で。
それなのに先生は怒るどころか、真剣な表情で私を諭すように語りだした。
「なあ、プリンツ……」
「……なん……ですか」
私の視線は先生に向けたまま。
本当は先生が怒るべきはずなのに、私の顔はしかめっ面をしていただろう。
「プリンツの気持ちは、ビスマルクに伝えたのか……?」
「そ、それ……は……」
その言葉に私の顔と、心が一変する。
私はビスマルク姉さまにお願いをした。
先生の不能を治す方法を探さないで下さいと。
先生と交遊を深めるようなことをしないという意味で。
面と向かって言った筈なのに、私は本質を一切話していない。
そしてもっと言えば、
私の本当の気持ちを、ハッキリと口に出して言っていなかった。
「ハッキリと、面を向かって言ったことがあるのか?」
「………………」
それを、先生は私に突きつけるように言い放った。
いや、実際はそうではなかったのだろうけれど、先生の言葉が鋭い矢のように私の心に突き刺さる。
あまりにも的確過ぎたその言葉に、私はその場に崩れ落ちそうになる。
「……っ!?」
抱き締められた。
先生は優しく、私の身体を受け止めるように抱き締めてきたのだ。
驚きと、そして得もいえぬ不安から、私は先生の顔を見た。
ニッコリと笑みを浮かべた先生は、私の頭を優しく撫でてくれる。
全く怒っていない。
あんなことを言われても、怒りというモノを微塵も見せないような笑顔に、私の目から更に涙がこぼれ出る。
それを見られたくない私は、不機嫌な顔を取り繕って俯いた。
この場にいるのが辛くて。
なのに、先生から離れたくなくて。
私の心はバラバラになったパズルのピースを無理矢理くっつけるように、不可解な行動を取っていたのだ。
「プリンツが1人でできないのなら、俺がサポートをしてやるから……」
「どうして……なんですか……?」
これは本音。
だけど、先生の言う意味は分かっている。
先生自身がビスマルク姉さまと交遊を深める気はないということを、私は分かっている。
交遊ではなく交友は深めようとしているとは思うけれど、押しているのはビスマルク姉さまの方だけなのだ。
一方的な愛情は、誰よりも知っているつもり。
私だって、同じなのだから。
そしてその辛さを知っているからこそ、私は何度もビスマルク姉さまに言ったのだ。
だけど、私とビスマルク姉さまでは根本的に違う点がある。
それは力。
ビスマルク姉さまがその気になれば、先生を無理矢理モノにするのは訳がないだろう。
しかしそれでは意味がない。結局のところ一方方向でしかないのだ。
つまり行き着いた先にあるのは幸せなんかじゃない。それが分かっているからこそ、ビスマルク姉さまも最後の一歩を踏み出さないのだと思う。
ならば、力は必要なのだろうか。
その答えを私は既に知っている。
腕っ節の力なんかじゃなく、心の強さが必要なのだと。
つまりそれは――
今の私に足りないモノだと、先生が諭してくれたのだ。
知っている。
知っていた。
いや――知っていたつもりだった。
だけど面と向かって言われて、私は悟ることができた。
ビスマルク姉さまが好きなのに、いつまでたってもそのことを言えない理由。
それは、私の心の強さが足りないからなんだ……と。
それから先生は、正直にビスマルク姉さまに対しての気持ちを教えてくれた。それどころか先生は私とビスマルク姉さまの関係を改善し、より深いモノにしてくれるとさえ言う。
それが本当なのかは分からないけれど、先生の目が嘘をついているようには見えなかった。
だからこそ私は信じてみようと思い、しっかりと視線を合わせてみる。
まるで恋人同士が見つめ合うような状況に、なぜか私の胸が高鳴りを上げているような気がした。
……まぁ、この時点で周りから注目を集めまくってしまったみたいで、色々と大変だったんだけどね。
それからすぐに新しい先生の噂が鎮守府内を駆け廻ったんだけれど、仕方ない犠牲だったのかもしれない。
ともあれ私は一度寮に戻って頭を冷やし、明日にでもビスマルク姉さまにきちんと話をしようと心に決めた。
ただ、そのときに起こったことによって、思いもしなかった展開になっちゃったんだけど……仕方ないよね?
次回予告
先生のことを少しずつ見直すことができたかもしれないのに、ちょっとした発言が大変な事態を巻き起こしてしまう。
言葉って、本当に難しいですよね……。
艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
~プリンツ編~ その2「今までの経緯 その2」
乞うご期待!
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