艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 とんでもない艦娘が抜錨してしまった……。
いやまぁ、おそらくは予想できていたことなんですが。

 ということで、佐世保へ向かったヤン鯨ちゃん……と思いきや、まずは根回しを行います?
まさかの対面があんな所とは……恐るべしっ!?


その2「個室での交渉」

 

 佐世保に到着……の前に、1つやっておかなければならないことがありますねー。

 

 そうです。根回しです。世の中汚いですよー……と言うつもりはありませんが、こういったことも時には必要なのですよー。

 

 明石は佐世保の古株。ならば、それなりの認知度もあるはずです。

 

 そんな明石がいきなりオシオキ……じゃなくて懲らしめられちゃったら、他の方々がどういった反応をしてくるか……分かりますよね?

 

 ましてや今回は憲兵=サン絡みじゃないですし、強引に丸めこむ方法も使えません。佐世保の偉いさんが若い女性なら問題ないんだけどなぁー。

 

 残念ながら明石の上官が誰であるかは既に知っていますし、その名を聞けば根回しは必須と判断しました。

 

 さすがにホワイトヘアーデビルと敵対するつもりはありませんし、あくまで懲らしめるってことなのでちゃんと説明すれば良いでしょう。それに、どうやら明石もやり過ぎていることが多々あるようで、提督もちょっとばかり頭を悩ませているという情報も得ていますからね。

 

 そんなこんなで現状報告は終わりー。

 

 早速提督さんに会いに来たんですよねー。

 

 

 

 

 

「ドーモ、安西提督=サン。大鯨デス」

 

「………………」

 

「あれ、このネタ通じませんでしたかー?」

 

「い、いえ。そうではないのですが……」

 

 安西提督は冷や汗をタラタラと流しながら私の顔をマジマジと見ています。

 

 さすがにそんな風に見つめられたら困っちゃいますよー?

 

「こ、ここは男子トイレなのですが……間違ったんでしょうか……?」

 

「いえいえー。

 仮に間違ったとしても、個室の天井から顔だけ出すような行動はしないですよねー」

 

「た、確かにそうですが……」

 

 まぁ、焦るのは当たり前でしょうか。

 

 今私が説明した通り、安西提督は現在個室の便器に座って用足し中。

 

 そんなところに天井の点検口からひょっこり艦娘が顔を出して話しかけてきたら驚くのも無理はありませんよねー。

 

 それでも大声を出して攻撃をしてこないだけマシってもんですけど、逆に言えば大物ってことでしょうか。

 

「そ、それで……こんなところにまでやってくるとは、私にいったいどんな用があるのでしょうか……?」

 

「話が早くて助かりますー。

 実は安西提督に折入って頼みごとがありましてー」

 

「頼みごと……ですか。

 ところでその前に1つ聞きたいのですが、あなたはもしや……」

 

「独立型艦娘機構の大鯨でーす。宜しくお願いしまーす」

 

「………………」

 

 ニッコリ笑って再度挨拶をするも、安西提督の汗は止まることを知りません。

 

 ――というか、更に汗の量が増えちゃっていますよねー?

 

「ま、ま、ま……、まさか私の所に……や、ヤン……鯨が……」

 

「ああ、別に怖がらないで大丈夫ですよー。

 安西提督をオシオキしに来た訳じゃないんですからー」

 

「そ、そうですか……」

 

 私の言葉を聞いた瞬間、安西提督は大きなため息を吐いてから肩の力を抜きました。

 

 そんなに安心するなんて、何やら疾しいことでもあったのでしょうか?

 

 一応色々と調べましたけど、何も出てこなかったんですよねー。

 

 まぁ、何も出ないってところが逆に怪しかったりもするんですけど、嫌な匂いも鼻につきませんからねぇ。

 

 ………………。

 

 べ、別に場所的な意味合いは全くないからあしからずですよ?

 

「話が逸れましたけれど、安西提督にお願い事があるんですよー。

 実は、佐世保に居る明石のことなんですが……ちょっとばかり懲らしめなければいけなくなりましてー」

 

「あ、明石をですかっ!?」

 

 その名前を聞いた安西提督は驚いた表情を浮かべましたが、すぐに難しそうな顔へと変化させました。

 

「ふ、ふむぅ……。それはいったい何故……?」

 

「詳しくは依頼者に関わりますのでお話しできませんけれど、ちょーっとばかりやり過ぎちゃっている感じがしておりましてー」

 

「そ、そう……ですか……」

 

 安西提督は小さく息を吐いてから肩を落とします。

 

 その仕草と表情から察するに、思い当たる点はあるようですねー。

 

「つまりそれは……明石を始末する……。そういうことですか?」

 

「いえ、そうではないんですよー。

 あくまで今回は懲らしめるという依頼なので、後遺症が残らない程度って感じですねー」

 

「明石を許していただけると……?」

 

「許すも何も、私は明石に恨みなんか持っていませんから仕事をこなすだけですよー」

 

「そ、そうですか……」

 

 再び悩むような仕草を始めた安西提督ですが、すぐに私の顔を見ながら頭を下げました。

 

「できる限り明石に痛い思いをさせないで頂きたいのですが……」

 

「それは仕事の内容に関わってしまうので難しいですけど、やり過ぎないようには気をつけるつもりですー」

 

「わ、分かりました……。くれぐれもよろしくお願い致します……」

 

 そう言って私の眼を見た安西提督の顔は真剣そのものでした。

 

 もし明石をやり過ぎた場合、何が何でも仕返しをする……。

 

 そんな風に見えた私は、茶化すような雰囲気でもないので真面目に頷き返しておきました。

 

 これにて根回しは完了ってことで、ここからさっさと立ち去りましょうかねー。

 

 さすがに乙女が入って良い場所でもありませんし……って、それなら最初からって突っ込みはなしですよー。

 

「ではでは、リラックスしているところをお邪魔しましたですよー」

 

「は、はぁ……」

 

 ニッコリ笑って手をパタパタ振ってから安西提督に別れを済ませ、天井裏を通って外へと脱出します。

 

 後は佐世保へレッツラゴー。

 

 オシオキタイムの始まりでーす。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――と、そうは問屋が卸してくれないんですよねー。

 

 まず佐世保鎮守府の中にすんなりと入れません。憲兵=サンが絡んでいないので、許可証とか持っていないんですよー。

 

 安西提督に用意してもらえば良かったんですけど、「部下を懲らしめるのに中に入る許可を下さいなー」とまで言っちゃうのもどうかと思いますからねー。

 

 まぁ、手がない訳じゃないので問題はありません。

 

 今はその相手を待っているところなんですが……きたみたいですねー。

 

「え、えっと……、お待たせしてすみません」

 

 鎮守府の外にある植え込み影に隠れている私に向かってきたのは、以前に出会ったことのある艦娘――青葉です。

 

 子供化した艦娘を治す方法を探しに会いにきてくれたんですけど、あのときは色々と面白かったですねー。

 

 ちなみに今回は依頼者である愛宕の命令で佐世保鎮守府に潜伏しており、中に入る手はずを整えてもらっていたんです。もちろん今回先生が被害を受けた事件を調べたのも青葉ですから、ある意味功績は大きいんじゃないでしょうか。

 

 まぁ私にとってはどうでも良いんですけど、オシオキできる機会が増えたのは嬉しいですよねー。

 

 残念なのは軽めって点ですけど……その辺りは上手くやっちゃいましょうかー。

 

「あ、あの……、怒ってらっしゃいます……?」

 

 色々と考えていたせいで返事をしていなかったので、青葉が焦った表情でおずおずと問いかけてきました。

 

「いえいえー。急に呼び出してごめんないさいねー。

 お願いしていた件は大丈夫そうですかー?」

 

「ええ。それはもう、青葉の情報があれば大丈夫ですっ。

 それに青葉もそこをつかって中に潜入しているので、信頼度は抜群なんですよー」

 

 私の返事を聞いて安心した青葉はそう言ってから自分の胸を拳でドスンと叩いたのですが、その後ゲホゴホとむせていた辺りちょっと心配になっちゃうんですが。

 

 まぁ、青葉だから仕方ないですねー。

 

「そ、それでは青葉についてきて下さいっ」

 

「ラジャーでーす」

 

 先導する青葉に続いた私は植え込みの影を素早く進み、鎮守府の塀沿いをひたすら歩いて行きました。

 

 

 

 

 

「到着致しましたっ!」

 

 そう言った青葉が私の方に振り向いてからある点を指差しましたが、そこには塀につけられた鋼鉄製の扉がありました。

 

 どこからどう見ても裏口です。そして明らかに鍵がかかっていそうな雰囲気です。

 

 艦娘である私や青葉にとっては普通の鍵なんか大した障害にはなりませんけど、あくまでそれは力づくで開けるということになりますから後が大変なんですよねー。

 

 ばれた後が大変ですし、証拠は隠滅しなければなりません。あくまで潜入という形なんですから、厄介事は避けておかないと色々と面倒なんですが……。

 

「それじゃあ早速、鍵を開けちゃいますねっ!」

 

 青葉はビシッ……と敬礼をしてから扉へに向かおうとしますが、私は素早く手を伸ばして肩をガッチリと掴みました。

 

「ひょわっ!?」

 

「ちょっと待ってもらえますでしょうかー。

 さすがに鍵を壊すのは感心しないのですよー?」

 

「い、いえいえっ! そんなことはしなくても、この針金を使えば……」

 

 青葉はそう言いながらポケットから2本の針金を取り出しました。

 

「はぁ……。仮にも鎮守府に出入りできる扉の鍵がそんなモノで……」

 

 

 

 ガチャリ……

 

 

 

「開きましたよー」

 

「……はい?」

 

 青葉がドヤ顔をしながら私に向かって親指を立てていますけど、どういうことなんでしょう……。

 

 パッと見ただけでも重厚そうな鋼鉄の扉。そして鍵も安物のような感じには見えません。

 

 仮に針金でどうにかなるような鍵だったとしても、作業に取り掛かってから2~3秒しか経っていなかったですよ?

 

 これはさすがに半端なレベルじゃありません。青葉はすぐにでも艦娘を辞めて、怪盗になれば良いと思います。

 

 いや、むしろ私の助手として手伝わせるのもアリですね。

 

 主にかわいい女の子の部屋に忍び込むときとかに……。

 

 …………………。

 

「あ、あの……、大鯨……さん……?」

 

「うふふ……。そうそう、そうやって……」

 

「な、何やら不吉なオーラと一緒にヤバそうな発言が聞こえるんですけどっ!?」

 

「えっ、あ、はい。なんでしょうかー?」

 

 青葉の声で我に返った私は顔を左右に振ってから微笑みます。

 

 危ない危ない。危うく妄想タイムに入っちゃうところでしたねー。

 

「な、なんでも……ないです……」

 

 冷や汗タラタラといった感じで私から後ずさる青葉ですけど、別に無言の圧力なんかかけたりしていませんからねー。

 




次回予告

 佐世保鎮守府に潜入することができた大鯨と青葉。
まずは下見をしなければ……と、2人は幼稚園に向かう。
ターゲットである先生を見た大鯨は、舞鶴で出会った男性だと確認したのだが……


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ヤン鯨編~ その3「要注意人物は誰?」


 乞うご期待!

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