明石が帰ってきて、早速主人公の不能を治そうとする。
しかし問題はその治療法。明石って鍼灸出来たんだろうか?
更には日向の行動も何かがおかしくて、主人公は焦るばかりなのだが……
「つまり先生が不能になったのは、その……下腹部への血流が一部分だけ遮断されたことによるモノなんだよね」
「なるほど……」
人差し指を立てつつうんちくを言うように明石が説明をするが、表情はこわばったままなので恰好がついていない。
「そこで今から先生にやろうと思っている鍼灸治療は、血流の改善と精力増大のツボを刺激しするために行うんだけれど……」
そして更には気まずそうに曇った表情へと変わる明石……って、不安になりまくりなんですが。
「な、なんでそんな顔をするのか……30文字以内で答えて下さい」
「……黙秘権を行使します」
「そこは答えてよっ!」
俺の突っ込みに対して顔を背けまくる明石。
だが、それはさせまいと日向が口を開く。
「明石。何度も手を煩わせるなと言っておいたはずだが?」
「わ、分かりました……っ!」
蛇に睨まれた――と、いうよりかは、愛宕=サンに睨まれた青葉のような感じに見える状況に、俺はどう対処して良いか迷ってしまう。
このまま流れに乗っちゃうと、後悔してしまいそうな気がするんだよなぁ。
「じ、実は……そのツボというのが、いくつか……その……」
今度は頬を赤らめて話す明石。
コロコロ変わる表情に、妖怪七変化か……と、思う一方で、嫌な予感は増大していく。
「ちょっとばかり、刺し難いというか……触り難いというか……」
言って、明石は俺の下腹部へと視線を向けた。
あー、うん。まぁ、そこの治療だからねぇ……。
………………。
いやいやいやっ、冷静に判断している場合じゃないよっ!?
いったいどこにブッ刺すのっ!? マジで嫌な予感しかしないんだけどっ!
「変な勘違いをしてもらっては困るのだが、鍼を刺すところは関元(かんげん)と大赫(だいかく)だ。
へそから少し下にあるツボで、特に問題がある訳でもあるまい?」
「い、いや、だけど……ほら、先生の……その、ヘアー……が……」
「そんなに恥ずかしいなら、剃れば問題ないだろう?」
「ちょっ、それはそれで恥ずかしいんですけどっ!」
日向の無茶振りに声をあげる俺。
誰が好き好んで剃毛プレ……じゃなくて、そんなことをしなければならないのか。
そりゃあまぁ、手術前なんかにはやるべきことなんだけどさ……。
「治療の為と思えば問題はあるまい?」
「で、ですけど……」
「なんなら私が剃ってやろうか?」
「お、お断りしますっ!」
完全にプレイじゃねぇか。
あと、2人してこっそりと頬を染めるんじゃねぇっ!
「まぁ、そういうことだから、別に恥ずかしがることではない。
安心してブッ刺されるが良い」
「言い方はどうにもならないんですかね……?」
「キミをからかうのが楽しいから、それは無理な相談だな」
「ですよね……」
ニッコリと笑う日向を見ながら、心の中で涙を流しつつ肩を落とす俺。
日向には何を言っても無駄だと悟ってしまった方が良い。
「そ、それじゃあ……、治療に入っても良いですかね……?」
「その前に一つだけ」
「な、なんでしょう?」
俺は右手の平を明石に向けてストップをかけてから、一番大切なことを問う。
「この治療によって、更に悪化する……なんてことは、ないですよね?」
「そ、それは大丈夫です。
だって、この治療法は正しい鍼灸のやり方だし……」
おい。
それってつまり、この前のは正しくないってことだよな?
まぁ、ア●バ流北斗なんちゃらと言っていた時点でおかしいんだけど。
「それに、これを教えてくれたのは大……」
「明石」
「ひゃいっ!?」
「無駄口を叩くと……分かっているだろう?」
「ご、ごごごっ、ごめんなさいっ!」
背筋が凍りつくような視線を浮かべた日向の声に、明石は慌てて振り返って何度も頭を下げまくる。
……やっぱり変だ。明らかにおかしい。
だが、明石と同じように日向の視線にやられてしまった俺は違和感について問い詰めることもできず、流れに身を任せることになったのであった。
「もう、お婿に行けない……」
両手で顔を覆いながらしくしくと泣く野郎の姿。
そう。今の俺の状況である。
「は、鍼を刺すのに邪魔になっちゃいますから……ね。あは、あははは……」
乾いた笑い声をあげる明石の頬は赤く染まっており、日向は不敵な笑みを浮かべている。
何だかんだで毛を剃り落とさなければならなくなったのだが、俺の身体は未だ動かし難く、自分で処理をすることができなかったのだ。
そうなれば、明石か日向のどちらかに任せるしかない。
できれば舞鶴の愛宕に……、なんてことも考えたが、さすがにこれだけの為に呼びよせる訳にもいかないし、恥ずかし過ぎるのにも程がある。
それに、ひょんなことからヲ級あたりの耳に入ったら、余計厄介なことになりそうだ。
舞鶴近くの島に住んでいるル級なら、飛んででもやってきそうな感じはするけどね。
………………。
噂をすれば何とやら……は、絶対にいらないからね?
そんなこんなで明石が処理をしようとしてくれたのだが、2人揃って恥ずかしまくりで固まってしまい、その状況に見兼ねた日向が……
「ふむ。まどろっこしいな……」
「し、仕方ないでしょう……っ。こんなの慣れたりする方が……って、何やってんですかっ!?」
「何って……、居合だが?」
日向はどこから持ち出してきたのか、日本刀を構えて腰を下ろし……
「明石。そこをどけ」
「は、はいっ!」
「ちょっ、嫌な予感しかしないんですけどっ!?」
「気にするな。今動くと、別のモノも斬れるぞ?」
「なら、そんな危ない物は下げ……」
ヒュンッ!
「「………………っ!?」」
風を切り裂く鋭い音が聞こえた瞬間、日向の刀は宙を舞っていた。
そしてそのままカチン……と、刀を鞘に納める。
ガタガタと震えながら下腹部を見る俺。
そこには、サッパリと綺麗になった……肌が……見える。
「また……、つまらぬモノを斬ってしまった……」
本当にそうだよねっ!
刀で剃毛とか、何の罰ゲームだよっ!
つーか、マジで生きた心地がしねぇっ!
「これで治療に専念できるな。
では、任せたぞ明石」
「は、はい……」
日向を見ながら青ざめた顔でコクコクと頭を縦に振った明石は、震える手で鍼の入った小箱を持ちながら暫く固まっていたのだった。
……とまぁ、そんなこんなで明石による鍼灸治療が開始された。
「それじゃあ先生、うつ伏せになってもらえます?」
「……えっと、背中を向けるの?」
「ええ、そうです。
まずは背中の方から鍼とお灸をしていくんですよ」
「わ、分かりました……」
初の鍼灸治療なので若干緊張気味なのだが、理由はそれだけではない。
不能になったときも同じ体勢だっただけに、どうにも嫌な予感がしてならないのだ。
しかし、俺の身体はベッドから自由に動かすことは難しく、すでにまな板の上の鯉状態。素直に従うしかないのだ。
ちなみに、それじゃあなんで先に剃ったのかと突っ込みたくなるが、順を追っていくのだろうと勝手に納得しておくことにする。
「そ、それでは、よろしくお願いします……」
「はい。任されました」
少しは調子が戻ってきたのか、明石の声色がマシに聞こえる。
今から鍼を刺すのだから、正常な精神状態でやってもらえる方がありがたい。
「ではまず、命門(めいもん)から……」
明石の声が聞こえると同時に、へその裏側辺りに小さな痛みが走った。
「む……」
「痛いです?」
「い、いや。そこまでは……」
なんだか腰に重たさを感じて思わず腰を動かしたくなるが、鍼が刺さっている状態でそれは止めておいた方が良い。
「それじゃあもう少し深めにいきますね」
「りょ、了解……」
返事をすると、腰にトントンと小さな衝撃と共にチクチクとした痛みと重みが身体中に伝わっていくが、我慢できない程ではない。
「続けて腎兪(じんゆ)です。
腰の障害から生理痛に不妊症。疲労やだるさにも効きますね」
「痛……って、前半全く意味なくない?」
「生殖器系疾患にも効くから大丈夫ですよー」
「そ、そうなんだ……」
俺の突っ込みを見事に返す明石の声がルンルンとしている。
この感じ……、やはりSだな。
「それにしても、腰の張りが気になりますねぇ……」
「えっ? そ、そうかな……」
「多分これは坐骨神経からきてるんじゃないのかなぁ……。
ちょっとばかり押してみますねー」
「ちょっ、嫌な予感しかしないから止め……」
ごりゅっ
「ひぎぃっ!?」
お尻の辺りに激痛が走った途端、俺の身体が無意識のうちに跳ね上がろうとする。
しかし、いつのまにか傍に立っていた日向が俺の身体を押さえつけ、ベッドに貼りつけられたように身動き一つできないでいた。
「鍼が刺さっている間は危ないから、私がしっかりと支えておこう」
「おおっ、これは助かりますー」
「ちょっ、ちょっと待って2人ともっ!
どう考えても不能とは別の治療になって……」
「まぁ、治療だからな」
「そうそう。治療ですからー」
「どうして2人とも嬉々した声なんですかーーーっ!?」
「気のせいだ」
「気のせいだねー」
「絶対違うでしょーーーっ!?」
明石に加えて日向もドが付くSだったせいで、治療と称した拷問が暫く続いてしまったことは完全に俺の失態である。
嫌な予感がする前に逃げておけばよかったのだが、ベッドから身動きするのも難しい俺にとってそれは無理な話であり、結局変えようのない出来事だったのだ。
こうして鍼灸以外に指圧による痛みで大声をあげ続け、10分程経った後には精根尽き果てた俺の姿があった。
「はぁ……はぁ……」
ベッドにうつ伏せになって息を荒くする俺を見た明石と日向が、何やらボソボソと呟いている。
「そそりますね……」
「うむ。これはヤバいな……」
「身の危険を感じまくる台詞は禁止っ!」
なんとか顔をあげて突っ込みを入れると、2人は満面の笑みを浮かべて「それほどでもー」と、照れていた。
ちくしょう……。似た者同士め……っ!
「というか、不能に関する治療はまだやってませんよねっ!?」
「……あ、そう言えば忘れてましたねー」
「ついつい遊んでしまっていたな」
「遊びでここまでやられると洒落になんないよっ!」
「まぁそう言うな。おかげで腰の方はマシになっただろう?」
「い、いや、痛いだけ……って、あれ?」
日向の言葉に否定しようと思ったのだが、気づけば腰の痛みは随分楽になって身体が動かし易かった。
「ほ、本当だ……。確かに痛みが和らいでいる……」
「そうでしょー。
ちゃんとやれば、私のツボ押しはかなり有効なんですよー」
それじゃあ最初からちゃんとやってくれよ……と、突っ込みたくなるが、今更言っても始まらない。
ならば早いところ不能を治してもらおうと明石に催促をして、治療を再開してもらうことにする。
「そ、それじゃあ、仰向けになって欲しいんですけど……」
腰の辺りに刺さっていた鍼を抜いた明石は、恥ずかしそうに言った。
「あー、う、うん……。
宜しくお願いします……」
「ふ、ふつつか者ですが……」
そう言いながら俺の下着を少しだけ下にずらし、頬を染める明石。
……って、なんでその台詞を吐いたんだ?
「はっはっはっ。
なんだその結婚初日の夜みたいな会話は」
明るい声で笑っていた日向は、いきなり腰だめになって刀に手をかける。
「……いやいやいや、何をしようとしてるんですかっ!?」
「なんだかムカつくので、2人まとめてぶった斬ろうかと思ってだな」
「洒落になってねぇっ!」
叫ぶ俺に対し、ガタガタと震えながらその場で座り込む明石。
「まぁ、冗談だがな」
そんな俺たちを見て、日向はお茶目に下をペロンと出して笑っていた。
いや、マジで洒落になってないからね……。
次回予告
なんかもう踏んだり蹴ったりです。
だけどこれはいつものこと。
さっさと治療を終えて、不能が解消するのかしないのか。それとも新たな問題が?
しかしそこはやっぱり主人公。
謎には立ち向かわないとダメだよね……?
艦娘幼稚園 第二部 第四章
~明石誘拐事件発生!?~ その18「謎はすべて解け……」(完)
乞うご期待!
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