艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 恐ろしき女性医師が退出した後、
主人公はとあることを思い出す。
もしそれがあったのなら、不能も治るんじゃないのだろうか。

 そんな期待をよそに、急展開が主人公を襲う……?


その16「早過ぎる帰還?」

「あっ……」

 

 唐突にあることを思い出した俺は、自分以外には誰も居ない病室で声をあげた。

 

「よくよく考えたら、明石って新しい書籍を手に入れたから俺にツボを試したいって言ってたよな……?」

 

 俺の記憶が正しければ間違いない筈だ。

 

 そしてそれを見つけ出すことができれば、ツボについての詳細なども書かれているだろうし、治療に役立つのではないだろうか。

 

「ということは、その本を見つけ出して女性医師に渡せば……」

 

 そう思いながら身体に力を込めてみる。

 

 しかし、未だ痛みは激しく身体を起こすのが精いっぱいであり、立ち上がることすらままならない。

 

「くそ……っ。

 これじゃあ、明石の部屋に向かうのは難しいか……」

 

 ガックリと肩を落としながらベッドに身体を倒す俺。

 

 次なる手は、誰かに頼むしかないのだが……。

 

「しかし、ビスマルクと部屋に入ったときに、本ってあったっけ……?」

 

 明石の部屋を調査するために忍び込んだのだから、それらしきモノがあれば気づいていただろう。

 

 しかし、実際には机の引き出しの中以外に大したモノはなかったから、先に調査をした伊勢や日向が手に入れている可能性が高い。

 

「だとすれば、伊勢か日向に聞いてみる……ってのが一番なんだけど……」

 

 俺は呟きながら2人の顔を思い出すが、どちらも苦手なんだよなぁ。

 

 伊勢は俺を目の敵にしているのか、ことあるごとに文句を言われまくったし、何が何でも犯人扱いしたい雰囲気を感じまくっていた。

 

 日向はセクハラじみた行動に加えて俺を陥れる感じが見て取れたけど、伊勢よりは幾分かマシな気がする。

 

 それに、あわよくば胸部装甲を……。

 

「……いやいや、この思考が悪い方向へといざなうんだよ」

 

 俺は頭を左右に振って煩悩を吹き飛ばしてから、もう一度今までのことを思い出しながら時系列を含めて整理することにした。

 

 

 

 まず、大鯨は明石をなんらかの理由で拉致する為、安西提督に会って告知した。

安西提督は明石の身を案じるがゆえ、命までは取らないという約束の元に許可を出した。

 

 大鯨が佐世保にやってきて、明石の部屋に向かった。

大鯨と明石が部屋の中で争ったのか、大きく荒らされてしまったのだろう。

壁や床には大きな傷や大量の血痕らしきものが付着し、机や椅子がひしゃげていた。

 

 そして、なんらかの方法で明石を拉致した大鯨は、どこか分からぬ場所に連れ去った。

未だ行方は分からぬままだが、安西提督の約束が反故にされなければ命までは取らないのだろう。

 

 しかし、明石がいつ帰ってくるかは分からない。

それが数日後のことなのか、数年後のことなのか。

それを知るすべは、大鯨以外は不可能なのだろう。

 

 ならば、俺が取れる手段はやはり、明石が手に入れた書籍しかないだろう。

あれを見つけ出すことができれば、ツボについての情報が得られるはずなのだが……

 

 

 

「……情報……?」

 

 ふと、あることに気づいた俺は思考を止めた。

 

 明石を連れ去る前に、大鯨は安西提督に告知した。

 

 安西提督が出張していた為に、その情報が佐世保に到着するのが遅れ、俺が犯人扱いされてしまった。

 

 その差がどれ程の時間だったのかは分からない。

しかし、大鯨も艦娘である以上、安西提督の出張先から佐世保までの移動時間は必要になる。

 

 その間に安西提督が佐世保に居る誰かに電話などで情報を伝えていればこんなことにはならなかったのだが、誰かが明石を守ろうとして大鯨の怒りを買えば本末転倒になるのを恐れたのかもしれない。

 

 これについては仕方がなかったのだと考えられるが、妙な違和感を覚えるのはなぜだろうか……?

 

 安西提督は大鯨の行動を知っていた。

 

 大鯨の行動は時間差があるとはいえ、既に告知済みなのである。

 

 ならば、あれはいったい何の目的があって……

 

 

 

 ガラガラガラ……ッ、バンッ!

 

 

 

「……っ!?」

 

 急に扉が開けられる音が鳴り、俺は驚いて顔を向ける。

 

 そこには待ち望んでいた、あの艦娘の姿が――あったのだ。

 

 

 

 

 

「失礼するぞ」

 

「そ、それは良いんですけど、もうちょっと静かに扉を開けてもらえるとありがたいんですが……」

 

 俺はため息を吐きながら扉の前に腕を組んで立っている日向に声をかけた。

 

「まぁ、そう言うな。

 何ごとも雰囲気というのが大切なのだ」

 

「は、はぁ……」

 

 何を言っても上手く話を逸らされてしまうのを経験済みな俺は、これ以上何も言わずにジト目を向けておく。

 

「残念だが、私にその目は通用しないぞ?

 やるなら伊勢にでもしておいてくれ」

 

「……伊勢には効くんですか?」

 

「ああ。おそらく鉄拳が飛んでくるだろうな」

 

「……絶対にしないでおきます」

 

 肩を落とした俺を見た日向はクスリと笑ってから、ツカツカと足音をたてて部屋の中に入ってきた。

 

「まぁ、そう気を落とすな。

 キミにとって大事な者を連れてきたんだからな」

 

「大事な者……ですか?」

 

 俺は日向に首を傾げながら問い掛ける。

 

 すると日向は扉の方へ振り返って手招きをすると、喉から手が出るくらい待ち望んでいた者がひょっこりと扉の傍に現れた。

 

「お、お……、お待たせー……」

 

「あ、明石っ!?」

 

「げ、元気に……してましたかねー……?」

 

「元気も何も、明石は大丈夫なのかっ!?」

 

 驚く俺に対して明石は気まずそうな表情を浮かべながら、おずおずと部屋に入ってきた。

 

「ま、まぁ……、なんとかって感じではありますけど……」

 

 明石の返事は曖昧であるが、怪我をしているようには見えないし、本人がそう言っている以上変に問い詰める訳にもいかない。

 

 むしろ今は、明石が無事であったということを喜ぶべきなのだが……。

 

「痛っ……」

 

「あっ、だ、大丈夫っ!?」

 

「あ、あぁ……。まだちょっと身体が痛むだけで……痛つつ……」

 

 体のあちこちから悲鳴を上げるように痛みが走り、思わず苦悶の表情を浮かべてしまう俺。そんな姿を心配そうにしている明石と、少しばかり不機嫌な顔をしている日向が見つめていた。

 

 念願の再会なのだから暗い雰囲気は避けておきたいと、俺は笑顔を取り繕って2人を安心させようとする。

 

 しかしどうやらこの行動が裏目に出てしまったようで、明石の顔は更に気まずくなってしまう。

 

「む、無理をしちゃダメですよっ!」

 

「だ、大丈夫。大丈夫だから……」

 

 明石が俺の背中を支えようと近づいてくると、急に日向が「ごほんっ!」と、大きな咳払いをした。

 

「……っ!」

 

「……ん? ど、どうしたんだ……?」

 

「い、いえっ、何でもないですっ!」

 

 驚いた明石はビクリと身体を震わせてから振り返り、日向の顔を確認してからもう一度俺の顔を見る。

 

 ……な、なんだか変な感じだな。

 

 まるで、明石が日向に脅されている気がするんだけれど、今までのいきさつを考えれば仕方ないのかもしれない……が。

 

 でもそれって、何だかおかしいような……。

 

「あっ、それでですね、先生の不能を治す方法が分かったんですよっ!」

 

「……えっ、そ、それは本当なのかっ!?」

 

「こ、こっちに戻ってきてから色んな方に情報をいただきまして……。

 すぐにでも治療ができるように器具も揃っちゃってますっ!」

 

「おぉ……って、器具……?」

 

 不能になったのは明石の指によるツボ押しであり、器具なんかは使わなかったと思うんだけど……と、俺は首を傾げる。

 

「そうです。

 ツボ押しでゆっくりと治療することも可能なんですが、それだと結構時間がかかるみたいで……」

 

「そ、それってどれくらい……?」

 

「……お、おおよそ……1年くらいでしょうか?」

 

「長っ!?」

 

 その間不能のままだというのはあまりに酷なので、ツボ押しによる治療は後回しの方が良さそうだ。

 

 だが、器具というのはいささか心配なんだけど……。

 

「ち、ちなみにその器具って……何を使うのかな?」

 

「それはこれですっ!」

 

 言って、明石はごそごそと取り出した小さな薄っぺらいプラスチック製の小箱を取り出して俺に見せてきた。

 

「……な、何これ?」

 

「これは鍼灸用のディスポ鍼と、円皮鍼のセットなんですよ」

 

「……そ、それって……刺すん……だよね?」

 

「その通りですっ!」

 

 フンス……と、鼻息を荒くしながら自慢げに胸を張る明石だが、俺の心中は穏やかではない。

 

 ツボ押しで不能になったのに、更にレベルが上がってしまうだろう鍼灸を受けた場合、下半身不随にまでなってしまうのではないのだろうか?

 

 そんなことになれば幼稚園の業務を行うことすらも困難になるかもしれないので、避けておきたいのだが……。

 

「さぁ、今すぐ治療をしましょう!

 これで先生も不能からおさらばですっ!」

 

「ちょっ、ちょっと待って!

 なんでそんなに明石は焦ってるのさっ!」

 

「べ、べべべっ、別に焦ってなんか……っ!」

 

 俺の突っ込みにうろたえた明石は目をキョロキョロとあらぬ方向へと動かし、額にはビッショリと大粒の汗が吹き出している。

 

 明らかに不審過ぎる。

 

 これは何か、裏があるのではないだろうか……?

 

「何を……隠しているんだ?」

 

「な、何も隠してなんか……っ!」

 

「思いっきり目が泳いでるんだけど?」

 

「き、気のせいですっ!

 それは先生の気のせいですってばっ!」

 

「じゃあなんで視線を合わせてくれないのかな?」

 

「そ、そそ、それは……その……っ!」

 

 返事をする度にボロが出るかのように、明石の顔色は赤くなりつつ焦りの色が濃くなってくる。

 

 もうひと押しで白状するだろうと思ったところで、思わぬところから横やりが入った。

 

「明石の鍼灸治療に関しては安心して欲しい。

 怪しい書籍によるツボ押しなどではなく、正しい使い方で治そうとしているんだ」

 

 妙にドスの効いた日向の声が聞こえた瞬間、明石の焦りが一気に冷めるかのように表情が変わり、背筋がピンと立った。

 

「そ、そうなんですっ!

 これはある方から教えてもらった……」

 

「……明石」

 

「ひいっ!

 あっ、ご、ごめんなさいっ!」

 

 振り返った明石は何度も頭を下げて謝り、日向は目を閉じながら呆れた顔でため息を吐いている。

 

 どう考えても怪しさ満点な行動に、俺の心は焦りにまみれたまま。

 

 そして、なぜ明石がここまで日向に恐れているのかと気にしながら、鍼灸治療についての話をしっかりと聞くことにした。

 




次回予告

 明石が帰ってきて、早速主人公の不能を治そうとする。
しかし問題はその治療法。明石って鍼灸出来たんだろうか?
更には日向の行動も何かがおかしくて、主人公は焦るばかりなのだが……

 艦娘幼稚園 第二部 第四章
 ~明石誘拐事件発生!?~ その17「残鉄剣(誤字じゃないよ?)」


 乞うご期待!

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