艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 自業自得による龍驤の爆撃で怪我を負った主人公。
暫くはゆっくりできるのかも……と、考え方を変えようとしたのだが、変な夢にうなされてしまう。

 そして、寝汗で不快な主人公に龍驤が……?


その14「まな板タイム2」

 

「被告……、先生は前へ」

 

 伊勢の声に従って、俺は言われた通り一歩前に出る。

 

「主文。被告人は有罪。後日、鎮守府内を引き回しの上、銃殺とする」

 

「……え?」

 

 信じられない内容を淡々と読みあげる日向に驚き、俺は愕然としながら声をあげた。

 

「被告人は幼稚園において教育者の立場でありながら、園児に対して過度の接触を行い、身体的、精神的傷害を負わせただけでなく、佐世保鎮守府に所属する工作艦明石を誘拐。治療のミスによって不能になったとはいえ明石に過度の拷問を加え、生きたままドラム缶に詰めて地中に埋めて殺害し、遺体を遺棄したことは誠にもって遺憾である」

 

「い、いや、だからそれは違うって……」

 

「全ては憲兵が調べた調査書による証拠によって明白である。

 これ以上の審議は不必要とし、即刻処刑手続きを取る」

 

「……ふむ、仕方ありませんね」

 

 反論する俺の言葉は誰にも伝わることなく、日向の言葉に安西提督は何の表情も浮かべないまま小さく頷いた。

 

「そ、そんな……っ! ち、違う! これは誰かの陰謀だ……っ!」

 

「往生際が悪いですよ、先生。

 あなたはロリコンで、残虐非道なクズということが証明されたのです」

 

「更に、おっぱい星人であることも付け加えておこう」

 

「なんでソレを足しちゃうのかなぁっ!?」

 

 素早く日向に突っ込みを入れるも、周りの視線は更に冷たいモノとなった。

 

「……本当に残念ね。

 もっと早くに、私があなたを調教していればこんなことには……」

 

「び、ビスマルクッ!?」

 

 後ろから聞こえてくる声に振り返ると、椅子に座って俺を見つめている数人の姿があった。

 

「信じられないよ……。

 僕たちをそんな風に扱っていたなんて……」

 

「そうね……。

 もう少しで騙されるところだったわ……」

 

「れ、レーベ、マックスッ!

 ち、違うんだ……。これは……これは……っ!」

 

「だから私は何度も言ってたんです。

 先生は油断ならない人だから、気をつけるべきだって!」

 

 そう言いながらビスマルクに抱きついたプリンツは、不敵な笑みを浮かべながら俺を見つめていた。

 

「ユー……、先生のことは、すぐに忘れるですって……」

 

 虫を見るような冷たい視線を俺に向けた後、プイッと顔を逸らしたユーが椅子から立ち上がった。

 

 そして、ぞろぞろと歩きだした一同はそのまま遠くへと歩いて行き、暗闇の中へと消えてしまった。

 

「違う……、違うんだ……」

 

 ガックリと肩を落とし、その場で膝をつく。

 

 気づけば俺に手足には手錠がかけられ、首には鋭い棘がついた首輪が巻かれている。

 

「ですけど、処刑の前に自らの罪を認めてもらわないといけませんよね~」

 

「……え?」

 

 いつの間にか目の前に立っていた1人の艦娘が手を動かすと、首に激しい痛みが走り、そのままズルズルと引っぱられた。

 

「ぐ……えっ!?」

 

「未だ認めないお馬鹿さんには、た~っぷりとオシオキしてあげなくちゃいけません~」

 

「ちょっ、ちょっと待っ……ぐうぅぅぅっ!」

 

 手錠がかけられた両手をなんとか動かして首輪を掴むが、艦娘の力は強く、全く抵抗をすることができない。

 

「今度こそは逃がしませんからね~。うふふふふ~、あはははははは~♪」

 

「や、止めろっ! 頼む……っ、助けてくれえぇぇぇっ!」

 

 背筋が凍りついてしまう笑い声を聞いた俺は必死に叫び続けるも、周りに居た者は忽然と姿を消し、俺はそのまま暗闇の中へと引きずりこまれてしまう。

 

 そして暫く引きずられた後、ピタリと止まった艦娘が振り向きざまに問いかけてきた。

 

「それじゃあ……、心の準備はよろしいでしょうか~?」

 

「全然できてないので勘弁して下さいっ!」

 

 艦娘を見上げながら叫び返すが、暗闇のせいで顔がハッキリと見えない。

 

「うふふ~。それじゃあ待ってあげる……なんてこと、有り得ないですよね~」

 

 そう言った艦娘が頭突きをかましてくるように顔を近づけると、俺の眼にしっかりと映り込む。

 

 

 

 舞鶴の食堂で出会った、あの――艦娘の顔が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 咄嗟に開けた目に映ったのは、真っ白な天井だった。

 

 続けて辺りを見回してから寝起きの頭をフル稼働し、ここがどこだかを思い出す。

 

「あぁ……そうか。

 昨日、龍驤の爆撃を受けて、病室送りになったんだな……」

 

 佐世保鎮守府内にある医療施設に運び込まれた俺は、個室という待遇を受けて休んでいた……と、いう訳なのだが。

 

「しかし、とんでもない夢だったな……」

 

 腕で額を拭うと、びっしょりと汗が滲んでいた。

 

 以前にも幾度となく経験したことのある悪夢の感触に、俺は大きく息を吐きながら肩を落とす。

 

 身体を覆う患者衣はびっしょりと汗に濡れ、正直に言って不快極まりない。

 

 しかし身体は思うように動かせず、ベッドから起き上がろうとするのも一苦労。こんな状態では着替えをすることも大変であるのだが……

 

「その前に着替えがない……か」

 

 患者衣の予備や自分の服は辺りに見当たらない。しかし、着替えをしなければ身体が冷えてしまうだけではなく、風邪をひく恐れがある。

 

「仕方ない。ナースコールでお願いするか」

 

 ベッドの頭側にある壁に取りつけられたナースコールのスイッチに手を伸ばそうとするが、ぐるぐる巻きにされた腕が思うように動かせない。

 

「う……くっ……」

 

 指の先端がスイッチに触れるものの、手に収めることができずに歯痒い思いをし、それでも何とかしようと身体を起こそうとした瞬間、背筋に強烈な痛みが走る。

 

「ぐあ……っ!」

 

 息が詰まり、もんどり打ちそうになる身体をベッドに落とす。ナースコールのスイッチがゆらりと動くのを見ながら大きなため息を吐くと、部屋の扉がガラガラと音を立てた。

 

「あれ、何しとるん?」

 

「あぁ、龍驤か……、ちょうど良かった。

 悪いんだけど、ちょっとだけ頼まれてくれないか?」

 

「それはかまへんけど……、いったいどうしたん?」

 

 首を傾げながらも俺の方へと近づいてきてくれた龍驤に訳を話し、着替えを手伝って貰うことにした。

 

 

 

 

 

「そ、それじゃあ……その、脱いでくれるかな……?」

 

「ああ、よっと……んっ、い、いてて……」

 

「だ、大丈夫っ!?」

 

「ちょっと痛むだけだから大丈夫だよ」

 

「そ、そっか……」

 

 背中側に立つ龍驤が心配そうに声をあげるのを気にしながら、痛む身体を動かして紐を解きつつ患者衣を脱ぐ。

 

「うわぁ……。こりゃまた、べっとべとやね……」

 

 背中越しに患者衣を受け取った龍驤はそう言いながら、俺の背中に濡れタオルを当てて拭き始めてくれた。

 

「ど、どない……かな?」

 

「ああ、気持ち良いよ」

 

 ゴシゴシと背中を拭いてくれる龍驤の力加減が心地よく、さっきまで寝ていたというのに眠気が漂ってくるように感じられる。

 

「け、結構……鍛えてるんやね……」

 

「んー、今はそうでもないんだけど、昔はそれなりに筋トレをしてたかな」

 

「そ、そうなんや……」

 

 言って、引き続き背中を拭いてくれる龍驤なのだが、会話が続かずに微妙な間が流れていた。

 

「………………」

 

 うむむ、何だか居心地が悪いなぁ……。

 

 あまりにも重く感じられる空気に、俺はたまらず話題を振る。

 

「そ、そういえば龍驤って、大鯨って艦娘を……知ってるかな?」

 

「……なっ!?」

 

 俺の言葉を聞いた途端、龍驤を手が急に止まった。

 

「な、なんでその名前が急に出てくるんっ!?」

 

「え、えっと……その、明石に関係があるというか……」

 

「な、なんなんそれっ!?

 思いっきり初耳なんやけどっ!」

 

 後ろから聞こえてくる龍驤の声は明らかに動揺していて、タオル越しに感じる手もガタガタと震えていた。

 

「と、とにかくどういうことか説明してっ!」

 

「あ、あぁ……」

 

 失言だったかもしれないという不安があるが、ここまできて実は嘘でしたと言って誤魔化すこともできず、俺は仕方なくぽつりぽつりと明石の事件の真相を龍驤に説明することにした。

 

 

 

 

 

「そ、そっか……。

 仕置人がこの佐世保にもきたんかいな……」

 

 背中越しに感じる龍驤の大きなため息を感じ、やはり失言だったのではないかと不安になる。

 

「まぁ、明石も色々とやり過ぎたってことやな……。

 安西提督が許可を出したんも被害を最小限にするためやろうし、仕方ないっちゅーやつやね」

 

 龍驤はそう言いながら俺の右肩を軽く叩き、「ほら、腕をあげてーな」と言ってから、俺の脇をゴシゴシと拭いてくれた。

 

「しかし、大鯨って本当に有名なんだな……」

 

「そりゃそうやで。

 なんつーても、泣く子……じゃなくて、提督や艦娘も驚き震える仕置人やからね」

 

「そ、それって悪いことをした奴限定……で、良いんだよな?」

 

「基本的には依頼を受けてから判断して、実行に移すらしいで。

 その際に悪い奴と見なされへんかったら、何もせずに立ち去るらしいわ」

 

「そ、そうなのか……。

 じゃあやっぱり、あのときのは……」

 

「んっ、どないしたん?

 そんなけったいな声なんか出して……」

 

「いや、実はさ……。

 舞鶴に居るときに、一度だけ大鯨らしき艦娘に会ったことがあるんだよ」

 

「そ、それって……ホンマなん?」

 

「か、確実に大鯨かどうかって言われるとアレだけど、外見的特徴とかは酷似してたと思うんだよな……」

 

「そ、そうなんや……」

 

 左の脇をゴシゴシと拭かれながら、龍驤の言葉に首を傾げる俺。

 

「何だか反応が微妙に怖いんだけど、何か問題でもあるのか?」

 

「えっと、そう……やね。

 実際に助かった人物ってのを初めて見たさかい、ちょっとビックリしてるんや……」

 

「ん? どういうことなんだ……?」

 

 首を傾げた俺に龍驤は前を向くように指示してきたので、痛む身体を庇いながらベッドの上で反転した。

 

「実際な話、ウチらの中では大鯨に出会った時点でもうおしまい……って、言われてるねん」

 

「……それって、さっきの話と矛盾してないか?」

 

「そうやね。つまりは、出会って助かった奴がおらへんくらい、数少ないってことが本当なんやろね」

 

「……マジ?」

 

「まぁ、全く助かった奴がおらへんのやったら、そもそも何もせずに立ち去るなんて言う噂は多々へんと思うし……、ゼロではないんやろね」

 

「た、確かにそれだと噂が広がり難いだろうな……」

 

「結果的にキミは助かったんやから、もの凄い幸運なんやろね。

 もしくは……凄い不幸かもしれんけど」

 

「お、おいおい……。

 褒めるのか貶すのか、ハッキリしてくれよ……」

 

「あんまり気にせんほうがええんとちゃうかな。

 そやないと、若いうちから禿げてしまうで?」

 

「そ、それは……困るな……」

 

「そやろ? そやさかい……って、ホンマに鍛えてるんやねぇ……」

 

 タオルをゴシゴシと動かしていた龍驤は、俺の腹筋辺りに差し掛かった途端に感心する声をあげた。

 

「い、いやまぁ、今はあんまり鍛えてないけどさ……」

 

 そうやって異性からジロジロと見られると恥ずかしいモノがあるのだが。

 

 例えそれがスレンダー過ぎる龍驤であっても……だ。

 

「……なんや、すんごい嫌な気配を感じたんやけど?」

 

「き、気のせいじゃないかな?」

 

 俺は咄嗟に龍驤から視線を逸らし、キョロキョロと辺りを見回してみたのだが……

 

「……っ!?」

 

 扉の方に妙な違和感を覚えた俺は、ジッとそちらの方を注視する。

 

 小さく開いた扉の向こうに、縦に並んだ赤く光る眼のようなモノが2つ……見えるんですが。

 

 ……えっと、どうやって覗いているんですかね……それ……?

 

 どう考えても、首を90度曲げてないと無理な気が……。

 

 そして、今にも扉の方から『ゴゴゴゴゴ……』と、効果音が鳴りそうな感じがマジで怖いんですけど……。

 

「ん……、どないしたん? そんなけったいな顔なんか浮かべて……」

 

「い、いや……。扉の方に……ヤバいモノが見えるんだけど……」

 

「扉の……方……?」

 

 言って、ぐるりと振り返った龍驤は、赤く光る眼のようなモノを見てビクリと身体を震わせた。

 

「な、なななっ、何やアレッ!?」

 

「わ、わわわわわ、分かる訳……ないだろっ!」

 

「ど、どう考えてもヤバ過ぎへんっ!?」

 

「だだけどここから逃げようにも扉以外には窓しか……」

 

「そ、そうやっ! 窓があったわっ!」

 

「えっ、ちょっ、ちょっと龍驤っ!?」

 

 ベッドから転げ落ちるように移動した龍驤は、窓を勢い良く開けてから飛行甲板の巻物を取り出して大きく広げ……って、何やってんだっ!?

 

「そ、そしたら帰らせてもらうわっ!」

 

「は、薄情にも程があるし、それは漫才師の終わり方だぞっ!?」

 

「ほなさいならーーーっ!」

 

「嘘ーーーっ!?」

 

 そのまま窓から身を乗り出した龍驤は、ハンググライダーのような要領で巻物の両側を持って、ふわりと空を舞って行った。

 

 ……いやいやいや、さすがにそれは無理じゃね?

 

 というか、素早過ぎるってレベルじゃないでしょっ!

 

 それに、俺を完全に置き去りにしたってことは、あの赤い光が……って、あれ?

 

「き、消えた……?」

 

 恐る恐る扉の方を見た俺の眼にあの光は見えず、まるで元からそこに居なかったかのように忽然と姿を消していた。

 

 い、いや、しかし、確かに2つの光は見たはずなんだが……。

 

 俺は何度か視線を扉と別の所へ交互に動かしてみたが、二度と光が現れることがなかった。

 

「気のせいだった……と、いう感じでもなかったよなぁ……」

 

 もしそうだったのなら、龍驤も同じように気づいた時点でおかしいのだ。

 

 つまり、誰かがあそこに居たというのは間違いないはずなんだけれど……。

 

「き、気にしても無駄……なのかもしれないな……」

 

 俺は大きくため息を吐いてから気持ちを切り替え、ゆっくりと窓の方へと視線をやる。

 

 すると、遠くの方から小さな悲鳴が聞こえたような気がしたのだが……聞かなかったことにしておいた。

 

 

 

 俺は何も聞かなかったし、見もしなかった。それで良い……よね?

 





次回予告

 龍驤が去ってからのこと。
診察にやってきたのは例の女性医師。相変わらずつかめない性格に翻弄される主人公。
そして恐るべき能力を発揮し、恐怖のどん底に陥れる……?


 艦娘幼稚園 第二部 第四章
 ~明石誘拐事件発生!?~ その15「威厳や初事」

 乞うご期待!

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