主人公は約束通り、子どもたちと見回りの事を話す。
そして話しているうちに音の正体に気づいた主人公は……
艦娘幼稚園 ~幽霊の噂と視線の謎~ その6
ちゃっかり保存する主人公ですっ。
「つまり、夜でも視線とラップ音を感じたってことだね」
次の日の朝。
昨日とは違い、天龍と潮を除いた俺たち五人は輪のように集まって、夜中の見回りのことを話し合っていた。
ちなみに、天龍は先ほど幼稚園に着いたらしい。見事なまでに予想された遅刻っぷりに、呆れてモノが言えなかったりするのだが、かく言う俺もギリギリだったので、さすがに注意することが出来なかった。
「そうね~、視線は先生が感じてたみたいだけど、ラップ音については私だけが聞いたみたい~」
「あ……それについてなんだが、聞き間違いじゃなければ、俺も聞いたかもしれないんだ」
「あら~、そうなの~? 昨日の話では、そんなことは言ってなかったと思うけど~」
「戸締まりをした後なんだけど、カシャッ……って音が聞こえた気がするんだよ。ただ、その時はちょうど風が吹いてたから、聞き間違いという可能性もあるんだけどさ」
「ふむ……それって、幼稚園の外ってことだよね、先生?」
「ああ、鍵を閉めて、戸締まりを確認した直後だったけど、外と言えば外だよな」
「それって、そんなに重要っぽい?」
「普通に聞けば、気にならないけどね……。でも、先生が視線を感じるのは幼稚園の中だけじゃないんだよね?」
「ああ、そんなに覚えるほどの数があるわけじゃないけどな」
「ならやっぱり、噂の幽霊とは関係がない可能性が高いかもしれないね」
「でも、ラップ音も聞こえたんデスよねー?」
「そうかもしれない……って感じだけどな」
「ふムー、よく分からないデスねー」
「そうかな? ボクはそうは思わないけどね」
「ワォ! 時雨はもう分かったってことデスかー!?」
「ううん、そうじゃないんだけどね。ただやっぱり、この仕業は幽霊じゃない気がするんだよね」
「ウーン、やっぱりよく分からないデース……」
両手を組んで考え込む金剛と一緒に、夕立もさっぱりといった表情を浮かべた。
「それでね、先生。今は視線を感じてるのかな?」
「えっ、今……か?」
俺は辺りを見回しながら意識をしてみるが、自身に向けられる視線は、全くと言っていいほど感じられない。部屋には愛宕と子どもたちがいて、お遊戯をしているようだ。にっこり微笑みながら、子どもたちと一緒にぴょんぴょんと跳ねる仕草をすると、大きな胸がゆっさゆっさと揺さぶられている。
「先生、何を見ているのかしら~?」
「うお!? べ、別に何も……だな」
オーラを纏ったような龍田の問いに焦った俺は、すぐに愛宕から目を離して輪の方へと向ける。
「どうなのかな、先生」
「うむ、今は何も感じられないな」
「うん、やっぱり変だよね」
「どうしてデスか?」
「先生は昨日この場所で、視線を感じたんだよね」
「確かにそう言ってたっぽい」
「それって、どう考えてもおかしくないかな?」
みんなに問いかける時雨だが、俺を含めた四人は「うーん……」と頭をひねる。
「つまり、幽霊がもし先生に視線を送っていたら、今この場所でも感じるはずじゃないかなってことなんだ。昨日は感じて今日は感じない……これって、どう考えてもおかしいよね」
「幽霊さんにも用事があるっぽいとか?」
「それはどんな幽霊なんだ……?」
「うん、先生の質問はごもっともだよね。ただでさえ不明瞭な幽霊なんだけど、そもそも色々なことをする幽霊なら、もっと噂になってもおかしくない。あくまで、幼稚園にいると噂されてるのはラップ音を出す幽霊なんだから、視線を送る段階でそれは別のモノなんだ。それじゃあ、視線を送っているモノは何者なのかなんだけど、それは時間や場所を変えると先生に視線を向けていられない事情がある人物……それも、何かしらの予定があったり、理由があるってことが考えられるよね」
「つまり、それって……」
「うん、先生に視線を送っているのは、この鎮守府にいる生きている人物だってことじゃないかな」
ごくり……と、時雨を除いた俺たちは、大きく唾を飲み込んだ。予想もしていなかった時雨の答えだが、その説明に非の打ち所はなく、反論することどころか声を出すことすらできなかった。
「じゃあ、誰が先生に視線を送ってるっぽい?」
「それはまだ分からないんだけれど、ヒントは音じゃないかなと思ってるんだ」
「音っていうと、カシャッ……っていうやつデスねー?」
「そうね~、あの音はいったい何だったのかしら~」
夜中に聞いた音を思い出しながら、俺はあのときの状況を整理した。扉の鍵を閉めて、扉を引き、ガタガタと動くが鍵が閉まっていることを確認した時に風が吹いた。ビュウゥゥ……と、頬に当たる風を感じ、その音に紛れるように、カシャッ……という音が鳴った気がする。
「ラップ音じゃないってことは、人工的か自然的な音であることは間違いないはずなんだ。しかも、龍田ちゃんが聞いた場所は通路で、先生が聞いたのは入り口の前。つまり、自然で鳴った音の可能性はかなり低いんじゃないかな」
「となると、人工的な音……ってことになるか。でも、カシャッ……って音は聞いたことがあるかどうかなんだけど……」
ふと、頭の隅に何かが引っかかった俺は、ズボンのポケットに入れている携帯電話を取り出した。スマートフォンではなく、ガラケーと呼ばれる折りたたみの機種で、素早く画面を開いてボタンを押す。
「何をしてるんデスか、先生?」
「ちょっと、待ってくれ金剛。もしかすると、これかもしれないんだ……っ!」
「携帯電話……デスか? 電話の音って、電子音とかそういうのが多いデスけど、カシャッ……って音は思いつかないデース」
メニュー画面を出した俺は、続けて数字のボタンを押してアプリを起動する。起動画面が表示された後、辺りの風景が画面に映し出され、子どもたちに携帯電話の外側を向けて、声をかけた。
「よし、写すぞー」
「ワオッ! ちょっ、ちょっと待ってくだサーイ!」
「ピースっぽいっ!」
「にぱ~」
「こう……かな?」
「はい、チーズ」
カシャッ……
「「「「あっ!」」」」
子どもたちが驚く顔を浮かべ、すぐに俺の元へと駆け寄ってきた。
「あら~、この音だったのね~」
「確かに、それっぽい!」
「間違いないデスか!?」
「なるほど、カメラのシャッター音だったんだね」
「ああ、たぶんこの音で間違いないはずだ」
決定ボタンを押して画像を保存した後、電源ボタンを押して初期画面に戻し、携帯電話を折り畳んでポケットに入れる。
「だけど、結局誰が犯人かは分からないっぽい?」
「そう――かな、ボクは思い当たる人がいるんだけど」
「そうなのデスか? 私は全然わかりませんデスよ?」
「ああ~、確かにあの人だったら、分からなくもないわね~」
「ん、時雨と龍田は分かってるのか?」
「うん、確実にあの人だとは言えないけどね」
「そうよね~。でも、前例があるからね~」
「前例?」
納得する二人を目の前に腑に落ちない俺は、金剛と夕立の顔を見た。だが、二人とも両手を広げて手のひらを上にして、お手上げのポーズを取っている。
「時雨と龍田が分かって、金剛と夕立が分からない前例っていったい何なんだ……?」
ガララッ!
独りでに呟いた俺の声に合わせるように、部屋の扉が開かれ、女性の姿が見えた。
「そのことについては、私と妹が答えますわ」
そう言って部屋に入ってきたのは、舞鶴鎮守府の元帥の秘書艦である、高雄だった。
次回予告
部屋に入ってきた高雄。そして話しかける愛宕。
更にもう一人の艦娘がすべての謎を暴露する。
だがしかし、そんな事で終わる幼稚園じゃない!?
彼女の処遇はどうなるのか。そして、本当の謎は……(ぉ
次回でラスト!
最後まで宜しくですっ!
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