深海感染―ZERO―のその後の話となりますが、宜しければお願い致します。
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伊勢とビスマルクの険悪な雰囲気が解かれた後。
安西提督は主人公にメッセージカードについて問う。
更には主人公が明石の行方を安西提督に問おうとするのだが……
「ところで先生……、その紙を見せてもらっても宜しいですか?」
「え、ええ。これですけど……」
安西提督に机の引き出しにあった紙を渡した。
「ふむ……。どうやら私が受け取った名刺とは違うみたいですね」
「形などはほとんど同じですが、おそらくはメッセージカードではないかと……」
「……なるほど」
文字が書かれている面を見た安西提督の表情が若干険しくなり、小さく息を吐いてから目尻を押さえた。
「これが明石の部屋にあった以上、大鯨が連れ去ったと見て間違いないでしょうね」
「ど、どうしてそんなことが分かるんですかっ!?」
「私が言ったことが本当であると、ここに書かれているのですよ」
安西提督はそう言って、疑問の声を上げた伊勢に文字が書かれている面を向ける。
「……っ!?」
「私が大鯨から聞いた話と、ここに書かれている内容が一致している以上、先生が無実であるという証拠になります」
「だ、だけど、この紙を書いたのが大鯨であるという証拠は……っ!」
「それなら、どうやって大鯨が明石の身を預かるということを、先生が知り得られるのですか?」
「そ、それは……」
「それともう一つ。
伊勢は先生に対して公平に見ていないと思われますが、何か問題でもあったのですか?」
「べ、別に……なにも……」
「ふむ……」
安西提督の眼鏡がキラリと光り、伊勢は圧力からか黙り込んでしまった。
うむむ……、安西提督半端ねぇ……。
これは日向の眼力をも超える強さがあるんじゃないだろうか。
そうでなくては提督なんぞ勤まらない……と、言われているようで、なんだかちょっぴりへこんでしまう俺が居る。
まぁ、今の俺には幼稚園の先生としての立場があるので、提督の地位にあまり魅力は感じられないけどね。
「そういうことで、先生の無実は証明されました。
もっと早くに私が帰っていれば牢屋に入ることもなかったのですが……申し訳ありません」
「い、いえいえっ!
俺は大丈夫ですから、頭を上げて下さいっ!」
「ですが、先生を牢屋に閉じ込めたのは事実ですし、部下がそれを強制させた以上、私に非があるのは明白です。
ここで頭を下げなければ……いえ、ここはやはり五体投地を……っ!」
「頭を下げるので結構ですからっ!
お願いしますから机の上に登るのは勘弁して下さいっ!」
慌てて安西提督に駆け寄る俺、伊勢、日向。ビスマルクはソファーに座ったままだったのだが、どうやら無視をしていた訳ではなく、未だに膝が震えていて動きにくかったのだろう。
……とまぁ、安西提督の謝罪騒動も何とか収まりを見せ、これで一件落着かに思えたんだけれど、俺がそれとなく言ってしまったことによって、話はガラリと変わってしまったのである。
「安西提督。一つだけ聞いても宜しいですか?」
「ええ、なんでしょう?」
確認を取った俺は、ふとあることが気になって質問を投げかける。
頭の隅に残っていた、あの艦娘のことを――
「みんなが恐れている大鯨なんですけど、どんな感じの風貌をしているんですか?」
「ふむ、そうですね……」
安西提督は呟きながら天井を見上げ、少し考える仕種をした後に俺の顔を見た。
「見た目は普通の女性……ですね。特徴と言えば、エプロン姿に手提げ鞄を持っていることが多い……と、言われていますし、私が出会ったときもそんな感じでした」
「なるほど……」
やっぱり、舞鶴の食堂で会った艦娘に似ているんじゃないだろうか?
いや、しかし、他人の空似……というのはどうかとしても、もう一つの特徴を当て嵌めてみればハッキリするだろう。
「ちなみに、長い髪の毛を両側で結んでいませんでしたか?」
「え、ええ。確かに先生の言う通りですが……」
「そうですか……。やっぱり、あの艦娘だったんですね……」
俺は納得するように息を大きく吸い込んでから吐く。
頭の中に引っ掛かっていたモヤモヤが霧となって消え、少しだけスッキリした……と、思っていたんだけれど、
「「「………………」」」
「……あ、あれ?」
ここ最近で一番大きいんじゃないかというような目の開きっぷりに驚く俺。
それもその筈で、ビスマルクや伊勢はおろか、日向や安西提督まで驚愕した表情で俺を見つめていたのである。
「ど、どうしたんですか……?」
「ど、ど、ど、どうしたもなにも、先生は大鯨と会ったことがあると言うのっ!?」
「い、いやまぁ、そうじゃないかなぁ……と、思うだけなんだけれど……」
「で、でも明石の部屋で話していたときは、大鯨を知らなかったじゃないっ!」
「舞鶴で会ったのが大鯨だと分からなかったんだけどね……」
おそらくはそうだとしか言えないだけに確証は持てないが、舞鶴にある鳳翔さんの食堂でヲ級や金剛に対して怪しい目を向けていた艦娘が、大鯨だったと思うんだよね。
確かあのときは、小さい子に悪さをする大人を探しているとか言っていたけれど、今思えばそういった奴を処刑するために捜索していたと考えられなくもない。
それ以外には、ちょっとしたアニメのネタとかで盛り上がりかけたけど、少しばかり恐怖も感じたんだよなぁ……。
「ま、まさか……信じられないわ……。
あの大鯨に出会って、生きているなんて……」
「い、いやいや、安西提督もつい先日会ってるんだけどっ!?」
「処刑対象でない人物ならば大丈夫だろうが、キミの場合は……」
「ええ。先生ならば確実に対象になるわよね」
「ちょっ、さすがにみんな酷過ぎないっ!?」
ビスマルクはおろか、付き合いも長くない日向や伊勢からも言われるとは何たる心外……ッ!
しかし、よくよく考えてみれば、佐世保に流れている俺の噂を考えるとそれも仕方のないことかもしれない。
正直に言って、俺としては勘弁願いたいんだけど。
……もしかして、今からでも遅くないとか言いながら、大鯨が処刑に来たりしないよね?
「日頃の行いは……大切ですよ……」
そんな俺の気持ちを完全に粉砕する安西提督の呟きが聞こえ、ガックリと肩を落としながら床に跪つきかけたのは、どうしようもないことであったのである。
日頃の行いと言うか、運が悪いだけなんですけどねっ!
「さて、時間もかなり遅いですしお疲れでしょう。
後始末は私の方でやっておきますので、先生はお休みになって大丈夫ですよ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
あらかた話は終わり、安西提督に促されるように部屋から出ようとしたが、もう一つだけ聞かなければならないことがあるのを思い出して、足を止めた。
「えっと……すみませんが、もう一つだけお聞かせ頂きたいことが……」
「ふむ、なんでしょうか?」
「明石が処刑されないということですけど、今どこに居るのかは分かっているんですか?」
「そ、それは……」
俺の問いかけに戸惑うような仕草をした安西提督は、不安げな表情を浮かべてから口を開いた。
「先程も言いましたが、どこに居るのかは分かりません。おそらくはここからそう遠くない場所だと予想はできますが、仮に分かったとしても先生に伝えることはできません」
「それは……どうしてですか?」
「あ、あたりまえじゃないっ!
さっき私たちが言っていたことを理解していないのかしらっ!?」
横から口を挟んできたビスマルクだが、何も理解せず安西提督に聞いた訳ではない。確かに俺が今の状況で大鯨に会うのは危険かもしれないが、不能の治療法が分からないのも不安なのだ。
それに、明石が無事に帰ってくるという保証もない以上、できることくらいはやっておきたいという心境も分かって欲しいんだけどね。
それに……、ハッキリとは言えないんだけれど、大鯨と会ってもなんとなく大丈夫な気がするんだよなぁ。
話題が合うと言うか、好きなアニメが一緒だったし。
意外に酒なんかを飲み交わしながら語れるかもしれない。まぁ、少量程度で済ませるけどね。
「どうして先生は大鯨に会おうとするのですか……?」
俺の顔を見た安西提督が恐る恐る問う。
いや、なんで不安そうな表情なんかが分からないんだけれど、もしかして俺、かなり可哀想な人って感じで見られてない?
どうしてそんな風になるのかは分からない……って、ああ、そうか。
安西提督は数日前から出張に出かけていたのだから、俺についての噂を詳しく知らないんじゃないだろうか。
……と、いうことは、俺の下腹部について……説明しなければいけないのかなぁ。
………………。
なんか、すんごい恥ずかしくてへこむんですけど。
「提督。先生は……その、明石によって……アレが使い物にならなくなったらしい」
「………………あ、アレ……が、ですか?」
なんだかんだと悩んでいる間に、日向が安西提督にそれとなく説明していた……って、余計に恥ずかしくなっちゃったじゃないですかー。
「はぁ……なるほど。またもや明石が問題を……」
今日一番の大きなため息を吐いた安西提督は、俺の顔を見ながら本当に可哀想な目で見つめた後、ホロリと一筋の涙を流していた。
「重ね重ね、先生には様々な苦労を背負わせてしまい……申し訳ありません」
「い、いえ……。もう済んだことですし、明石に治療法をお願いしていますから……」
「なるほど……。それで明石の行方を捜したい……と、いうことですね……」
理解が早くて助かります。
……が、それでも安西提督は首を左右に振って、俺に答えた。
「ですがそれでも、大鯨の居場所について話すことができません。
これは先生や明石を見捨てるのではなく、安全を取った上での行動と思って頂けますようお願いします」
「……そうですか。分かりました」
これ以上言っても無理だと思った俺は、安西提督に小さく頭を下げてから部屋を出る。
鎮守府に属する者を守ろうとする安西提督の考え方を否定するつもりはないし、大鯨が明石を連れ去ることを許可したのも、そういったところからなんだろう。
だからこそ、メッセージカードにも処刑でなく身柄を借り受けると書かれていた。
つまり、安西提督と大鯨の間で何らかの契約が交わされ、明石の命までは取らないという約束があるんじゃないだろうか。
多分それは安西提督に取って苦肉の策であっただろうが、そうするしかなかったのだろう。
そう考えれば、みんなが言うように大鯨の居場所を探すのは止めて、自分で不能の治し方を見つけ出すことに専念した方が良い……と、思うのだけれど。
「それでも……、やっぱり心配なんだよなぁ……」
一抹の不安を感じてしまった俺は、どうにかして情報を得られないかと考える。
それとなく水面下で動くならば、大した問題も起きないだろう。
ヤバいと思ったら引けば良いし、深入りするつもりもない。
それに、いくつかおかしな点もあることだからね……。
俺は考えをまとめながら通路を歩き、牢屋の固い床で痛みを感じる身体を擦りながら、まずは自室に戻って柔らかいベッドに寝転がろうと思うのであった。
※余談ではありますが、現在ツイッターの方で艦これ二次小説『深海感染―ONE―』をまったり連載中です。
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次回予告
これでとりあえずは一件落着……?
しかしそこは不運な主人公。通常業務に戻るや否や、いきなりトラブルに巻き込まれるっ!?
そして遂にあの子が……壊れたっ!?
艦娘幼稚園 第二部 第四章
~明石誘拐事件発生!?~ その11「お久しぶりの幼稚園」
乞うご期待!
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