艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 見事に机の中身が散乱し、現場保存は諦めた(ぇ
しかし、後片付けはしておかなければと2人はいそいそと作業をする。
そこであるモノを見つけたビスマルクが、驚愕の顔を浮かべたのだった……。


※余談ではありますが、現在ツイッターの方でとある艦これ二次小説をまったり連載中です。
現在プロローグを公開しましたが、近く1話目も更新予定なので宜しくお願い致します。(まとめもありますので是非フォロー&感想などお願いします)
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その8「メッセージカード」

 

「しかし……、見事に撒き散らしちゃったよな……」

 

 愚痴を言わねばやってられない程ではないものの、黙りっぱなしだと空気が重くなってしまうので、軽めに呟きながら床に散らばった引き出しの中身を集めていく。

 

「ま、まぁ……、こういう日もあるわよね……」

 

 さすがのビスマルクも少しは悪いと思っているのか、申し訳なさそうな顔で俺と同じように拾い集める作業をしていた。

 

 床やベッドの上に散乱したのは大体が筆記用具の類であり、ボールペンやシャープペンシル、消しゴムや筆ペン、メモ帳にバインダーなど、明石の行方に関する物はなさそうに見える。

 

 メモ帳辺りに何か書かれていないかと真っ先に確認してみたが、残念ながら白紙ばかりであり、どうやら徒労に終わった……と、思われたときだった。

 

「……あら、これって何かしら?」

 

 ビスマルクが床から1枚のカードを拾い上げ、気になった俺は視線を移す。

 

 長方形の四角い紙。普通に見れば名刺のようだが……

 

「……っ!?」

 

 何も書かれていなかった面からひっくり返した途端、ビスマルクの顔が驚愕へと変わり、大きく息を飲んだ。

 

「お、おい、どうしたんだビスマルク……?」

 

「な……、なんて……こと……」

 

 明らかに動揺していたビスマルクは大きく身体を震わせ、独り言のように呟き続ける。

 

「まさか……、アイツが佐世保に来たなんて……」

 

「あ、アイツ……?」

 

「え、ええ……」

 

 言って、ビスマルクは名刺のような紙を俺に突き出した。

 

 その顔は余りにも憔悴し、今にも倒れてしまうのではないかと思ってしまうくらいである。

 

 このビスマルクがここまで恐れる相手とは……と、俺は大きく唾を飲みこんでから、紙を受け取った。

 

 そこに書かれていた文字。

 

 それは――

 

『明石の身柄、暫く借り受けます。

 独立型艦娘機構 大鯨』

 

 たった2行。それだけであった。

 

 

 

 

 

「……で、大鯨って誰?」

 

「なっ!?」

 

 俺の言葉に驚きを隠せないといったビスマルクは、あろうことか関西ではお馴染であるお笑舞台の役者のように、見事なズッコケを披露してくれた。

 

「ほ、ほほほ、本気で言っているのっ!?」

 

「え、えっと……本気だけど……」

 

 ビスマルクの慌てかたを見る限り、大鯨という人物は相当ヤバいのだろうか?

 

「ま、まさか鎮守府に属するあなたが大鯨の名を知らないなんて……」

 

 そう言われても知らない仕方がないだろう――と、言いたいのだが、それをも言わさぬビスマルクのリアクションに思わず口をつぐんでしまった。

 

「分かったわ……。私が大鯨について、教えてあげるわ……」

 

 そう言ったビスマルクはベッドに腰を下ろしてため息を吐いてから、一度目を閉じて重たい口を開く。

 

「大鯨はね……、この国で唯一の独立した艦娘であり、自ら独立型艦娘機構という組織に所属していると知られているわ。

 しかしその組織には他に誰も属しておらず、実質大鯨1人で運営しているそうよ」

 

「えっと、つまり……自営業って感じなのか?」

 

「か、簡単に言えばそうだけれど、問題は仕事の内容なの。

 大鯨が行うのは悪事を働いた者を捕まえること……。分かりやすく言えば、憲兵と同じ感じね」

 

「ふむ……。

 でもそれって、別にそこまで驚くようなことなのか?」

 

「それが普通の方法で終わるなら……ね」

 

「……え?」

 

 ビスマルクは含みを持たせた声色を使い、俺の目をジッと見つめてきた。まるで俺の考えを見透かすかのような瞳が、キラリと光っている。

 

「大鯨が恐れられる理由は捕まえた後のことなの。

 悪事を働き過ぎて手がつけられなくなった者は、大鯨によって秘密裏に処分される……。

 これは、私たちが属する鎮守府では有名な話なのよ」

 

「……いやいや、全くの初耳なんだけど」

 

「まぁ、あなたの場合は幼稚園の先生という、ある意味特殊な役職だからかもしれないわね。

 けれど、もし手に余るようなことをしでかしたら……大鯨に捕まるかもしれないわよ?」

 

「……そ、そうか。き、気をつけるよ」

 

 言って、俺はゴクリと口に溜まった唾を飲み込んだ。

 

 余りにもビスマルクが真剣な顔でそう言うので思わず緊張してしまったが、どうにも想像しがたい部分が多い。

 

 いくら独立している艦娘だと言っても、戦艦であるビスマルクがそこまで恐れる理由が分からない。そりゃあ、相手が大和型だと言うのなら分からなくもないが、そうだったとしても同じ艦娘である以上、そこまで性能の差が出るとも思えないんだよね。

 

 もちろん、練度の差が大きすぎる場合はこの限りじゃなかったとしても、相手が1人ならば艦隊を組めば負けるはずがないだろうし。

 

 そんなことを考えていると、俺の思考を読み取ったかのようにビスマルクは呆れた表情で大きなため息を吐き、俺に鋭い言葉を向けた。

 

「全く分かっていないようだから言うのだけれど、仮に私が大鯨と対峙した場合……、1分も立っていられないわよ?」

 

「……は?」

 

「それ程危険な相手……と、言うことなの」

 

 いやいやいや、いくらなんでもそれは有り得ないだろう……と、笑いそうになったけれど、ビスマルクが嘘をついているようには見えず、俺はもう一度唾を飲み込んだ。

 

「そして、何より大鯨が恐れられる理由……。

 それは、処刑方法なの」

 

「しょ、処刑……っ!?」

 

「そう――、処刑。

 悪事を働き邪魔になった者は見せしめとして拷問され、生きていることを後悔してしまう程と言われているわ」

 

「ま、マジ……か……」

 

「その拷問に関する情報の殆どは表に出ず、あくまで噂としか聞かないわ。

 だけど――いえ、そうだからこそ、恐ろしさに輪をかけていると言えるわね」

 

「な、なるほど……」

 

 一通り話を聞いたが、とりあえず分かったことは悪事を働かずに大鯨のお世話にならないようにすれば良いってことだろう。

 

 ……なら、今の俺には何も問題はない……と、思いきや、この紙に書かれていることを考えた場合、俺の余裕は完全に消え去ってしまう。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。

 じゃあ、この紙は……」

 

「ええ。それが本物であるとするのなら……、明石の行方は大鯨が知っているということになるわね」

 

「つ、つまりそれって……」

 

「明石は……処刑される運命かもしれないわね……」

 

 ビスマルクは俺から目を逸らし、大きく深いため息を吐く。

 

 その顔は既に諦めの表情であり、自分自身ではもう手が終えないと言いきっているようだった。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれっ!

 どうして明石が処刑されてしまうんだっ!?」

 

「それは私にも分からないわ。

 裏で何か悪いことをしていたのか、それとも……」

 

 ビスマルクはそう言いながら、俯くように視線を下ろす。

 

「そ、そんなっ!

 ビスマルクは明石を見捨てるっていうのかっ!?」

 

「……できれば私だってそんなことをしたくはないわよ。

 けれど相手が大鯨である以上、どうしようもないことなのよ……」

 

「そ、それじゃあ俺の身体は……」

 

 自らの下腹部に視線を向けると同時に、背筋に嫌な寒気を覚えた。

 

 明石が帰ってこない以上、俺の不能が治る見込は薄い。

 

 この紙を見せれば伊勢と日向は納得するかもしれないが、身の安全が確保されたとしても、一生このままだというのは余りに酷過ぎる。

 

「で、でも、あなたの……それが完全に治らないと決まった訳じゃないわ。

 私も色々と探してみるから、諦めないで……」

 

 俺を慰めようとビスマルクが声をかけてくれるのだが、俺は既に諦めの思考でまみれ、ガックリと肩を落としてしまっていた。

 

「それに、最悪の場合……」

 

「………………」

 

 なぜか先程の寒気以上にヤバさを感じた俺は、ビスマルクの方へと顔を向ける。

 

 ……どうしていやらしそうな目をしているんですかね?

 

 もの凄く嫌な予感しかしないんですが。

 

「前に言ったことを実行に移せば良いだけなのよ?」

 

「……ま、前に言ったこと……だと?」

 

 聞きたくないけれど、聞かなければいけないような気がする。

 

 いや、聞いた上で思いっきり否定をしなければ危険過ぎると、察知したのであるが。

 

「ええ、そうよ。

 昼食の後にあなたがお菓子を作って出してくれたときに、ハッキリと言ったでしょう?」

 

「……メイドになる気はないぞ?」

 

 確かあのときはビスマルクだけではなく、子供たちからもそう言われていたんだっけ。

 

 専属メイドとかお嫁さんとか2号さんとか。

 

 カオスまみれで頭痛が半端じゃなかったんだけど。

 

 つーか、どうして執事じゃなくてメイドなのだろう。コックとかでも良い気がするのに。

 

「どうせ使い物にならないソレを叩ききって、性別を変えてしまえば何も問題は……」

 

「ちょっと待てよコラーーーッ!」

 

 さすがにこの発言は有り得なさ過ぎる。狂気の沙汰で済ませられるレベルじゃないし、完全にアウトラインをオーバーランだ。

 

「あなたなら女性物の服も似合いそう……。いえ、むしろ今のままでも……」

 

 言って、頭の中で想像しまくっているビスマルクがニヘラと笑う。

 

「変なことを想像すんじゃねぇよっ!」

 

「なによ。頭の中で考えることくらいしたって良いじゃない!」

 

「ビスマルクの場合、それを実行に移そうとするからマジで怖いんだよっ!

 頼むからもうちょっと普通の艦娘として振舞ってくれないかなぁっ!?」

 

「私は欲望に忠実なのよっ!」

 

「それはただの子供なだけなんだよっ!」

 

 既に何回目か分からない思考であるが、単純に言えば大きな暁である。

 

 ……いや、むしろ暁が可哀想に思えてきちゃうけど。

 

「それじゃあぶった切るのは止めにするから、TSで……」

 

「……そ、それはボイスチャット(Team Speak)という意味で良いんだよな?」

 

「何を言っているの。性転換(transsexual)のことに決まっているじゃない」

 

「結局同じじゃねぇかっ!」

 

「大丈夫よ。薬か魔術を使えば痛みはないから、恐れることはないわ」

 

「そういう問題じゃないですって!」

 

 フフフ……と、不敵な笑みを浮かべながらベッドから立ち上がったビスマルクは、両手を広げて俺の方へジリジリと近づいてくる。

 

「や、やめろ……、来るんじゃねぇッ!」

 

「私に任せておけば万事解決よ。優しくしてあげるから、身を委ねなさい……」

 

「母性が溢れているような言葉だけれど、顔は完全に煩悩まみれだからねっ!」

 

「別に良いじゃない。欲望にまみれた日々も悪くはないわよ?」

 

「完全に悪魔の誘いにしか聞こえないよっ!?」

 

「フフフ……怖いか?」

 

「それ天龍の台詞ーーーっ!」

 

 天龍を悪魔にしてしまうビスマルクも半端ないが、このままでは俺の性別が変わってしまうかもしれない。

 

 ただでさえ明石をどうにかした犯人と思われているのに、味方であると思っていたビスマルクにまで狙われてしまったとなれば、既に俺の逃げる場所は舞鶴しかなくなってしまうのだが……

 

「……その辺にしておきなさい、ビスマルク」

 

「「……へ?」」

 

 唐突にかけられた声に驚いた俺とビスマルクは部屋中を見渡し、

 

 そして、声の主がいつの前にか扉を開けて立っていたことに気づいた。

 

「あ、あなたは……っ!」

 

 驚愕の表情を浮かべたビスマルクは思わずたたらを踏む。

 

 この状況で思いもしなかった人物の登場に、驚くのも無理はない。

 

 しかし、俺にとってこれが吉と出るか凶と出るかは知る由もなく、

 

 

 

 ただ、ことの成行きを見守るしかなかったのだった。

 




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次回予告

 いきなり現れた人物に驚く主人公とビスマルク。
なぜ今更姿を現したのか。そしてその人の言葉に更に驚く2人。

 明石の行方が、明らかに……なる?


 艦娘幼稚園 第二部 第四章
 ~明石誘拐事件発生!?~ その9「信仰とは死ぬことと見つけたり」

 乞うご期待!

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