それでも頑張る主人公は、日向に連れられた先である部屋の中に入る。
そこにいた伊勢から、様々な話をするのだが……
「そこの扉を開けて、中に入ってくれるか」
「わ、分かりました……」
日向に胸を押しつけられたまま通路を歩くという、ある意味セクハラと取れてしまう状況にも何とか耐え、俺は言われた通りドアノブを回す。
ちなみに手錠をかけられてはいるが、これくらいのことであればできなくはない。
小さな金属音が鳴り、俺はゆっくりと扉を開ける。
視界に映った部屋は牢屋とは違い、白を基調とした明るい感じだった。
部屋の中央にはいかにもという感じのスチールテーブル。そして3つの椅子が置かれていて、そのうちの1つに何やら意味ありげな顔をした艦娘が座っていた。
「伊勢、待たせたな」
俺の後ろに居た日向が扉を閉め、俺の背中を押しながら伊勢の向かい側にある椅子へと座らせる。
「……それで、どうだった?」
「ふふ、聞きたいか?」
意味ありげな口調で日向が言うと、伊勢は何やら不満げな表情を浮かべた。
……な、なんだかよく分からないんだけど、嫌な予感がしなくもない。
だが、俺の心配をよそに日向が椅子に座ると、バシバシと肩を叩いてきた。
……むぐぐ。地味に痛いが我慢しなければ。
しかし、どうして日向はこんなに嬉しそうな顔をしているんだろう?
「ちなみに答えだが、伊勢の予想は大外れだったぞ」
「ちぇー。意気地がないなぁ……」
「……え?」
残念というよりかは呆れた感じの表情を俺に向けた伊勢は、大きなため息を吐いていた。
「噂通りだったら、日向を無理矢理押倒そうとかすると思ったのにー」
「………………はい?」」
何を言っているんだこの艦娘は。
俺が日向を襲うだって……?
それってつまり……
「……日向が胸を押しつけてきたのって、伊勢の仕業?」
「ぴんぽーん。大正解ー」
ニコッと笑みを浮かべた伊勢は、右手の指で丸サインをしていた。
それはもう、子供が悪戯をしたようなあどけなさで。
全く悪びれていないし。
………………。
「お前の仕業かよ……って、いったい何を考えてんだよっ!」
「先生の噂が本当かどうか確かめたんだよねー」
「それならなんで、伊勢自身じゃなくて日向にやらせちゃうのっ!?」
「んふふー。ちょっぴり日向を困らせようかなぁと思って……」
「私は全く困っていないがな」
「あれ、そうなの?」
「むしろ、楽しんだふしさえある」
「えー、何それ……」
誇ったかのような日向に残念そうな伊勢。
しかし、何より驚いているのは俺なんですが。
「それじゃあ、日向は先生に襲われても良いって思ってたの?」
いぶかしげに伊勢が問うと、日向は肩をすくめる。
「先生が不能になったという噂も聞き及んでいたから、そんなことはあり得ないと思っていた」
「え、何それ? 初耳なんだけど……」
言って、伊勢はビックリした顔で俺の方を見る。
頷きたくはないが、黙っていても仕方ない。
俺は無言でコクリと頭を下げ、小さくため息を吐いた。
「もしかして、最初っから私の独りよがりって訳……?」
「……まぁ、そうなるな」
「何よ日向っ! それならそうと、初めっから言ってよね!」
「それだと面白くないからな」
不敵な笑みを浮かべる日向に食ってかかろうとする伊勢だが、このままでは全く話が進まないと判断した俺は、わざとらしく「ゴホンッ!」と、咳き込んだ。
「おっと……、すまない。どうやら待たせ過ぎたみたいだな」
「いえ。こんな状態なんで、どうこう言える立場ではないんでしょうが」
俺はそう言いながら日向と伊勢に見えるように両腕を机の上に置くと、手錠の鎖がガチャリと音をたてた。
「伊勢。先生の手錠を外してくれ」
「……どうして?」
「どうして……って、さすがにこのままでは可哀想だろう?」
「犯人をわざわざ解放するなんて、日向らしくないじゃん」
「先生はまだ、犯人だと決まった訳ではない」
「それは……そうだけど……」
伊勢は不満げな顔で俺と日向を交互に見る。
どうやら日向と違い、伊勢は俺のことを相当怪しがっているようだ。
確かに明石の部屋の状況を見た状態で俺が1人立って居れば、そう考えるのもおかしくはないのかもしれない。
しかし、俺は神に誓って何もやっていないと言い切れるし、偶然あの場に出くわしただけなのだ。
それに、明石が居なくなってしまったら俺の不能も治らなくなる可能性が高いので、危害を与える気は全くないのだけれど……。
それを説明するしか……ないんだよなぁ……。
ぶっちゃけて恥ずかし過ぎる……が、日向には既に知られているみたいなので、諦めが肝心だと思いながら話すしかないだろう。
「ふぅ……、分かったわよ。外せば良いんでしょ、外せば」
日向の視線に折れたのか、伊勢はポケットから取り出した鍵を使って手錠を外してくれた。
両手が解放されたことによる喜びから、拳を握ったり開いたりを繰り返してみる。
どうやら何の問題もなさそうだ。
まぁ、手錠をかけられてそんなに時間が経った訳でもないので、大丈夫だろうけどね。
「それじゃあ……、明石の部屋に居たことについて話してくれるかな?」
「ええ、分かりました」
日向の言葉に頷いた俺は、隠しだてを一切せずに語ることにした。
「……と、言う訳です」
「ふむ……、なるほど……」
俺は2人に明石のツボ押しによって不能になった経緯から、治療方法が見つかっていないかと思って部屋に行ったことを全て話した。
「にわかには信じがたいが……、明石ならやりかねないとも言えるな」
「確かに明石なら……ね。でも、その場合別の問題も出てくるよね?」
「ふむ……、確かに伊勢の言う通りだが……」
伊勢の言葉に日向が考え込むような仕草をする。
「別の問題……ですか?」
だが、俺にはその問題がさっぱり分からず、首を傾げながら2人に問う。
「先生は明石によって不能にされちゃったんでしょ?」
「え、ええ。そうですけど……」
「それじゃあ、先生は明石を恨んじゃってるよね?」
「え……?」
伊勢の言葉に固まる俺。
確かに明石に対して怒っているところはあるけれど、恨みがあるとは言う気がない。
しかし、傍から俺の状況を見てみれば、そう思われてもおかしくはないのかもしれないが……。
「い、いやいや。確かに明石のせいで不能になっちゃいましたけど、危害を加えようなんて気は……」
「本当にそうだと言い切れる?」
「は、はい……」
「ふうん……。そうなんだ……」
伊勢は俺の顔をジッと見て、怪しむように呟いている。
しかし、俺は何も悪いことをしていないので、疾しいことはないと伊勢の顔を睨み返した。
「………………」
「………………」
俺と伊勢の視線が絡まり合う。
もちろん、色気なんてモノはないんだけれど。
それでも俺は一歩も引かずに伊勢の顔を見つめ続けていると、横に座っていた日向が大きくため息を吐いた。
「そんなに見つめ合っていると、何かが起こりそうだな」
「……は?」
「んなっ、な、なんてことを言うのよ日向はっ!」
「おや、違うのか?」
「そ、そんな訳ないでしょっ! どうして私が先生のことを好きになんて……」
「ふむ。私は何か……としか、言ってないのだが?」
「むぐぅっ!?」
日向の突っ込みに言葉を詰まらせた伊勢は、慌てて明後日の方向へと顔を向ける。
「おや、耳たぶが真っ赤に見えるのだが……、どうかしたのか?」
「な、ななっ、何でもないわよっ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべた日向が、伊勢の顔を覗きこもうとする。
さっきから見ているんだけれど、2人は仲が良いのか悪いのか分かんないよなぁ……。
「もしかすると、伊勢は先生のことが好きになったのではないのだろうか?」
「ぶふーーーっ!?」
日向の言葉に盛大に吹く伊勢。
いやまぁ、今の発言は俺も驚いたんだけど。
「ど、どうして私がそんなことになるのよっ!」
「それは……なんだ。雰囲気的な何かだな」
「か、勝手に決め付けないでよっ!
それに、どうして私が不能の先生なんかを好きにならなきゃいけないのっ!?」
ちょっ、それは何気に酷くないっ!?
誰も好き好んで不能になった訳じゃないし、そもそも話が大きくそれちゃっているよねっ!?
「伊勢は恋愛に関してあまり得意ではないからな。不能である先生がちょうど良いと踏んだのだろう」
それも普通に酷いんですけどっ!
「そ、それを言うなら日向だってそうじゃないっ!
浮ついた話なんか聞かないし、いつも冷静を気取っているし……」
「まぁ確かに……、そういったことはないが……」
言って、日向が椅子から立ち上がり、なぜか俺の後ろに回り込んだ。
……えっと、何やら嫌な予感がしているんですが。
「既に先生には、思いっきり抱きしめられたからな」
後ろからそんな日向の言葉が聞こえた瞬間、
ふよん……っ。
もの凄く柔らかい感触と程良い重みが、頭のてっぺんにのしかかってきた。
「な、な、な……っ、何やってんのよ日向ーーーっ!?」
「おや、どうしてそんなに怒るのだ?
伊勢は先生のことが好きではないのだろう?」
「そ、そう、言ったけど……っ!」
「なら、私が先生を頂いても問題はないな」
「お、大アリよ大アリッ!
噂ではビスマルクの彼氏だって言ってるじゃないっ!」
「その噂は嘘だったと、摩耶から聞いたんだがな」
「そうなのっ!?」
「そうじゃなかったら、牢屋で私に抱きつくようなことはするまい」
「い、いや……、あれは……その……」
扉の外に居た男がマジで怖かったからなんだけど。
でも実際に抱きついちゃったのは事実だからなぁ……って、色々おかしいですよっ!?
まず何ですかこの状況!
頭の上がパラダイス状態で、ずっとこのままが良いんですけどっ!
柔らかくてふんわりで、最高なんですよーーーっ!
「せ、先生もニヤニヤしてるんじゃないっ!」
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
憤怒する伊勢の顔が恐ろし過ぎた俺は謝りながら、名残惜しいけれど仕方ない……と、日向から離れようとしたのだが、
「伊勢のことなぞ気にしなくても、キミは私に身体を預けていれば良いんだ」
そう言って、俺の身体をしっかりと両手で抱きこむ日向。
その結果、頭の上にかかる圧がとんでもないことになっております。
もうね、素晴らしいとしか言えないんですよ。
どうやらラピ●タは、日向の胸下にあったらしい。
だけど、伊勢の睨みつけが更にきつくなってきたので、さすがにこのままではマズイと口を開いた。
「い、いやいや、さすがにこの状況はまずいような……」
「なあに、心配することはない。
それともキミは、この状況が不満だと言うのか?」
いえいえ、全力で嬉しいと言い切れますけどねっ!
「むっきーっ! いい加減にしないさいよ日向っ!」
「だが断る。
こんなに面白いおもちゃ……ではなく、先生を離す訳はいかない」
……おい。
今、おもちゃって言わかなったですかね?
つまり何だ。俺は今、完璧に遊ばれているということでしょうか……?
………………。
まぁ、普通に考えればそうなっちゃいますよねー。
第一印象が犯人で、牢屋でいきなり抱きついて、更に不能な俺なんかが日向に惚れられる訳がない。
「むぐぐぐ……っ!」
一方伊勢は俺を射殺そうとするレベルの眼力で睨んでいるし、状況は完全に詰んでいるんですが。
もうこうなったら、ギリギリまで頭の上の感触と重みを堪能するのが良いんじゃないかな?
現実逃避のような気もするが、何気に日向の抱き締めが強くて動けないんですよ。
だからこれは不可抗力なんです。
間違っても、浮気じゃないですから。
……と、舞鶴の方に向いて目を閉じながら祈っておいたのはここだけの話である。
まさかとは思うけど、バレたりしないよね……?
次回予告
伊勢と日向、そして主人公が言葉のバトルで戦うが、分が悪くなるのは予想通り。
しかし、話を聞くうちにとんでもない状態になってきて……?
遂に先生、年貢の納め時なのかっ!?
艦娘幼稚園 第二部 第四章
~明石誘拐事件発生!?~ その4「遂に危うし!?」
乞うご期待!
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