艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

187 / 382
※現在BOOTHにて『艦娘幼稚園シリーズ』の書き下ろし同人誌を通信販売&ダウンロード販売中であります! 是非、宜しくお願い致しますっ!
https://ryurontei.booth.pm/

※今後の更新について、活動報告にて告知致しました。
 申し訳ありませんがご理解の程よろしくお願い致します。


 結局全然変わっていない状況に冷や汗気味な主人公も、用意しておいたモノを出した途端変わりまくるみんなの姿に笑みを浮かべていた。

 ただ、良く考えていれば、こうなることは予想済みだったはずなのに……。


その6「ハーレムルートと思いきや?」

「ぴゃあぁぁぁっ!」

 

 待て。

 

 完全に未登場の艦娘が出てきてなかったか?

 

 ちなみにそんな声をあげたのは、やはりというかなんというか。

 

 ――そう、ビスマルクである。

 

「ウマいっ! ウマいわっ!!」

 

 そして手掴みでガツガツと食べる様は、情操教育上止めて欲しい。

 

 しかし、そんなビスマルクと同じように笑顔を浮かべながら黙々と食べている子供たちを見てしまえば、正直どうでも良くなってしまうのだが。

 

「……これは、本当に美味しいよ」

 

「……そうね。懐かしい味ね」

 

「ユー……、いっぱい食べる……です」

 

 レーベとユーはニコニコしながら一つずつ指で摘んで口に入れ、マックスも満面の笑顔とはいえないまでも、チマチマと食べていた。

 

「……くっ! こ、こんなことでお姉さまの仲を認める訳には……っ!」

 

 そしてその隣で、ハンカチを噛みしめながらも器用に口の中に放り込むプリンツが居る。

 

 お前は姑か何かか。

 

 しまいには「この泥棒猫……」とか言い出すんじゃなかろうか。

 

 その場合「お母様っ!?」と、叫ばなければならないんだろうけれど。

 

 いや、何のコントだよ……。

 

「そんなにがっつかなくてもまだ沢山あるから……」

 

 俺はそう言いながら、ビスマルクには無糖のドリップコーヒー、子供たちには牛乳たっぷりのカフェラテの入ったコップを手渡した。

 

 これはスタッフルームにあるビスマルクの私物を借りたんだが、先に許可を取ってあるので問題ない。

 

 ついでにこっそり例の粉は処分しておいた。危ないったらありゃしない。

 

「Danke。ありがとね、先生」

 

「いやいや。これくらいのことは……な」

 

 言って、俺はレーベの頭を優しく撫でる。

 

 上目づかいで見上げてくるレーベが嬉しそうに微笑むと、胸の奥がキュンとしてしまう。

 

 むぅ……。お持ち帰りしてぇ……。

 

 そんな考えを実行に移しては危ないと、俺はみんなが食べているモノに手をつける。

 

 ……って、なんだか言い回しがヤバい気もするが、決してそんなことはしないので安心するように。

 

 俺が手に取ったのは、今朝早くに食堂の厨房の片隅を借りて作った『焼きアーモンド(Gebrannte Mandeln)』である。

 

 昨日、摩耶からありかを聞いて借りてきた、ドイツに関する書籍にあったお菓子の項目。

 

 それには、子供たちに大人気! ――という触れ込みと一緒に、作り方が書かれてあったのだ。

 

 それとなしに眺めていた俺だったのだが、作るのがそれほど難しくなさそうな感じがしたのでやってみたところ、思った以上に良くできてしまったのである。

 

 厨房を借りたお礼に職員の人にもお裾分けしたんだが、非常に好評だった。

 

 これならいけると確信した俺は、昼食の後に振舞った訳である。

 

 目的はもちろん、ホームシック気味の子供たちへの日頃の感謝とご褒美だ。

 

 ついでにプリンツの敵対心が和らいでくれたら一石二鳥と思っていたのだが……

 

「悔しい……っ! でも、手が止まらない……っ!」

 

 号泣しながらバリボリと食すプリンツ。

 

「ヒャッハーーーッ! 新鮮なお菓子だぜーーーッ!」

 

 お前はいったい誰だ――と、言いたくなるくらいテンションが上がりまくっているビスマルク。

 

「アーモンドも良いけど、カシューナッツも美味しいよね」

 

「……そうね。私はくるみも結構好きよ」

 

「ユーは、ヘーゼルナッツが美味しいです……」

 

 マイペースに食べ続ける3人。

 

 みんなは一様に嬉しそうに。いや、プリンツはなんだか微妙な感じだけれど、嫌がっている感じはしないだろうから大丈夫だろう。

 

 作って本当に良かったなぁ……と、俺は心から嬉しくなり、焼きアーモンドのお皿に手を伸ばそうとしたのだが、

 

 

 

 ガシッ!

 

 

 

「……は?」

 

 掴まれた。

 

 それはもう、ガッチリと手首を。

 

 ついでに、肘の辺りと二の腕も。

 

 合計4つの手が俺を掴んでいる。

 

「あ、あの……、これは……いったい……?」

 

 冷や汗を浮かべながら俺は問う。

 

 もちろん、掴んでいる子供たち&ビスマルクに……だ。

 

「これは……あなたが作ったのよね?」

 

 ガチな視線を俺に向けるビスマルク。

 

 ……あ、あれ?

 

 何やら危険な香りが漂っているんですが……?

 

「そ、そうだけ……ど、もしかして……何か問題でも……?」

 

 嫌な予感しかしないが、ここで嘘をついても意味がない。

 

 いや、どこかで買ってきたと言った方が良かったかもしれないが。

 

「……決めたわ」

 

「……は、はい?」

 

 コクリと頷くビスマルク。

 

 そして、同じように俺の手を掴んでいる子供たちも目を閉じて頷いていた。

 

 ちなみにプリンツだけは、俺から視線を逸らして不機嫌そうにしているんだけれど、タックルが飛んでこないだけマシなのだろうか。

 

 ……ただし、これから起こる惨劇を思えば、そっちの方が良かったと思えるのだろうが。

 

 つまり、どういうことかというと、

 

 事態は、より、悪化した。

 

 それだけである。

 

「先生っ! あなたを私の専属メイドに任命するわっ!」

 

「執事じゃなくてメイドだとっ!?」

 

「これから毎日、私のために美味しい料理とお菓子を作りなさいっ!」

 

「教育者の仕事はどうすんだよっ!?」

 

「そんなものはどうだって良いわっ!」

 

「全然良くねぇよっっっ!」

 

 教育者の端くれですらないビスマルクの発言に、本気で回し蹴りをぶちかまそうと思った矢先、

 

「先生……。それじゃあ僕のお嫁さんになってくれれば良いと思うんだ」

 

「ちょっ、レーベまで何を言い出すんだっ!?」

 

「……そうね。私は2号で構わないわ」

 

「マックスの発言の方がヤバ過ぎるっ! ちなみになんで俺が嫁なのっ!? そしてその場合2号はどういう関係になるのか分かんないっ!」

 

 もはや正常な判断などできようもなく、俺は突っ込みを入れることしかできないのだが……

 

「え、えっと……、先生をお嫁さんにしたら……毎日美味しいお菓子が食べられるのかな……?」

 

「い、いや、そんなことをしなくても、ちょくちょく作らなくもないけど……」

 

 ユーが口元に人差し指を当てながら首を傾げる仕草が可愛らしくて、またもや胸が締め付けられる感じに戸惑いを隠せない俺。

 

「ほんと……っ!?」

 

 滅茶苦茶嬉しそうに純粋無垢な笑顔を浮かべるユー……って、可愛過ぎるでしょうがっ!

 

「くっ……、ここに来て新たなライバルが登場だというの……っ!?」

 

「そこでたじろぐビスマルクの心境が分からないっ!」

 

「こうなったら、やっぱり腕にモノを言わせるしか……っ!」

 

 ジリジリと俺の方へと歩み寄るビスマルクは、両手を構えながら鼻息を荒くしている。

 

 いやいやいや、待て待て待てっ!

 

 何度も時間と場所をわきまえろって言っただろうがっ!

 

「なんでそう、力で何でも解決しようとするんだよっ!」

 

「力こそが正義。良い時代になったモノね……」

 

「それどこの世紀末っ!? ついでに最後はビルの上から飛び降りなきゃなんないよねっ!?」

 

 どうせなら俺の精巧な人形を作った上で、どっかに籠っていてくれれば被害は受けないのに。

 

 いや……、それでも背筋に嫌な気配くらいは感じるかもしれないけれど。

 

「仮面の男がたぶらかそうとするから……」

 

「まだそのネタ引っ張るつもりかよっ!」

 

 そいつ絶対ショットガン持っちゃっているよねっ!? 兄より優れた弟などいないとか言いだしそうだよねっ!?

 

 つーか、日本に染まり過ぎなんだよビスマルクはっっっ!

 

「仮面の男って……誰……?」

 

「ユー、ビスマルクの言葉にいちいち反応していたら、身が持たないわ……」

 

「そ、そうなの……? 分かった……」

 

 そこで納得してしまう段階でどうしようもないんだけれど。

 

「フフ……、さすがマックスね。私のことを充分知りつくしているわ」

 

「そこは自慢げにするところじゃないよっ!?」

 

 馬鹿にされているのとほとんど変わらないんだけれど、そっちの方をもっと良く知るべきだと思うのだが。

 

 まぁ、ビスマルクだから無理なんだろうなぁ……。

 

「あら、あなたのその目……。ゾクゾクしちゃうんだけど……?」

 

「いつの間にドSからドMに変貌したのっ!?」

 

「私は日々進化するのよっ!」

 

「頼むからもっと別な方向に進化しろよっ!」

 

「それは無理ね。私の身体の半分は優しさでできているの」

 

 頭痛薬かよっ!

 

「ちなみに残りの半分はいやらしさよ」

 

「全くダメじゃねぇかっ!」

 

 だんだんビスマルクの喋り方が元陸上部のエースで秀才なのに毒舌まみれで体重が軽くなってしまう怪異にかかった女子高生みたいになっているんですけどっ!

 

「あんまりグダグダ言ってると、口の中をホッチキスの針まみれにするわよ?」

 

「やっぱりドSだーーーっ!」

 

 両手で頭を抱えて床に膝まづく俺。

 

 もはや何を言ってもダメな気がする。

 

「むむむっ、ビスマルク姉さまと先生が夫婦漫才を……。許せませんっ!」

 

 そんな中、プリンツだけは俺に敵意をむき出しにした視線を送っていたが、夫婦漫才と言っちゃっている段階でアウトなのでもう少し言葉を選んで欲しい。

 

「プリンツッ!」

 

「は、はいっ!?」

 

 するとビスマルクが真剣な表情で大きな声をあげると、プリンツが咄嗟に姿勢を正してビクリと身体を震わせた。

 

 確かにこのままプリンツを放っておけば、俺にタックルをかましてくる可能性があったけれど……

 

「今の言葉……最高よっ!」

 

 ビシッ! ――と、ビスマルクは親指をたてた拳をプリンツに向け、大きな効果音が鳴ってしまうようなポーズを取った。

 

 ですよねー。

 

 ビスマルクのことだから、プリンツの心境も俺の身の安全も考えないよねー。

 

「はうぅ……」

 

 そして涙目で肩をガックリと落としてうなだれるプリンツ。

 

 可哀想で仕方がないし、肩に手を置いて慰めてやりたいけれど、それをやったらどの方向からも攻撃がきそうで怖過ぎる。

 

 まずはプリンツのアッパーカット。その後は空中コンボでビスマルクの左ストレートが入り、続けてレーベとマックスのエリアルレイヴ。最後は地面に叩きつけられたところにユーの魚雷が襲来する。

 

 まぁ、そんなことはありえないだろうけれど、ビスマルクまでは実際に起こりそうだからマジ怖い。

 

 君子危うきには近寄らず。ここはプリンツに涙を飲んでもらうことにしよう。

 

 薄情だとは……思わないように。

 

 俺だって、自分の身が危ういのだから……。

 

 

 

 結局その後、お菓子の大半はビスマルクが腹の中に収めたが、子供たちにもなかなかの好評だったので、また作ろうとは思う。

 

 ただし、もう少し準備をしてから……だけどね。

 

 もう、踏んだり蹴ったりは勘弁である。

 

 

 

 まぁ、いつものことだけどさ……。

 




※現在BOOTHにて『艦娘幼稚園シリーズ』の書き下ろし同人誌を通信販売&ダウンロード販売中であります! 是非、宜しくお願い致しますっ!
https://ryurontei.booth.pm/

※今後の更新について、活動報告にて告知致しました。
 申し訳ありませんがご理解の程よろしくお願い致します。



次回予告

 毎回ノリが同じなのでどうにかしたい主人公。
しかし、暴走したビスマルクは止まらない。
更には大問題発言をぶちかまし、強硬手段に出ようとするが……

 遂に……アレがばれちゃったっ!?


 艦娘幼稚園 第二部 第三章
 ~佐世保鎮守府幼稚園の子供たち 教育編~ その7「イケ……メン?」

 乞うご期待!

 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。