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摩耶との会話を済ませた主人公は、情報を得て目的の物をゲットする。
そして後日、その効果が現れたようなのだが……?
食事を終えた俺は摩耶からあることを聞き出し、食堂を出てからそこへと向かった。
別れる際に少しばかり残念そうな顔をしていた摩耶だったが、教えてくれたお礼をいつかは……と、伝えると、嬉しそうに手を振りながら送り出してくれたので、大丈夫なのだろう。
ちなみに何を探しているのかというと、ドイツに関する本である。
レーベやマックス、ユーたちが廊下で話していたことについて、俺は思うことがあったのだ。
それ以外にも目的があるが、それはまぁ後々で良いだろう。
ついでに不能に関する本も探そうとしたが、貸し出しを申請する際に話しかけなければならない受付が、女性という点に問題あり。
そんな状況で借りようものなら、自白しているのと変わらない。
さすがに俺はそんな趣味を持ち得ていないので――と、そっちに関する本は探すことすらしなかった。
プリンツに顔面を踏まれた際に世話になった女性医師に診察してもらうことも考えたが、やはり相手が相手なだけに、足を踏み出すことができていないのだ。
恥ずかしいのもあるけれど、なんだか嫌な予感がしてしまう。
個人情報だから、周りに吹聴する……なんてことはないと思うが。
なんだか気が抜けない相手なんだよねぇ……。
とりあえず今は、素直に明石が治療法を探してくれることを祈ろう。
そうして俺はドイツに関する本を借り、自室のベッドに転がりながら読んで、次の計画の準備を行ったのである。
そして次の日。
昨日と同じようにレーベとマックスの授業を行っていた俺は、会話の中にドイツ語を混ぜてみることにした。
「次の問題だけど……レーベ、分かるかな?」
「ええっと……、2たす3は……5だよね?」
「gut。良くできたな、レーベ」
「う、うん、ありがと……って、あれ?」
レーベがゆっくりと首を傾げてから、俺とマックスの顔を交互に見る。するとマックスは小さく頷いてから、俺を見て口を開いた。
「先生、今のは……」
「ん、ああ。ちょっとばかりドイツ語を混ぜてみたんだけど……」
「ふうん……」
「あ、あれ。もしかして、発音が悪かったか?」
「ううん。少しばかり発音が拙い感じがしたけど、僕にはちゃんと聞きとれたかな」
「そ、そうか……。それなら良かったよ」
レーベの言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
昨日借りてきた本だけで完璧な発音は難しいと思ったが、伝えることができたのは何よりだ。
これからちょくちょくドイツ語を混ぜていきたいし、他にもやりたいことがある。
インターネット回線が繋がったパソコンがあれば便利なので、近いうちに安西提督に申請してみようかと思う。
あるとないとでは大きな違いがあるし、調べ物以外にも役に立つからね。
……不能についても、誰にもばれないで調べられるし。
もちろん履歴は、毎回きちんと消去するけどさ。
「……どうして先生は、ドイツ語を取り入れようと思ったのかしら?」
そんなことを考えていると、マックスが俺の顔をジッと見つめながら問い掛けてきた。
ふむ……、どう答えるべきだろうか。
レーベたち3人が通路で話していたのを盗み聞きしていたとは、さすがに言わない方が良いだろう。かといって、他に理由があるのかと問われればないのであるが。
こうなることは分かっていたんだから、先に考えておけよって話だけどね。
「そうそう。僕もいきなりでビックリしたんだけど……」
「これは何かを企んでいると考える方が……妥当よね」
「べ、別に悪いことを考えたりしている訳ではないんだが……」
「もちろん、先生のことは信用しているわ」
「そ、そうか……」
何気に恥ずかしいことを言ってくれるマックスなんだけれど、なんでそこまで信用してくれるのか分からない。
悪いことではないので問題はないのだが、いかんせん理由が分からないと逆に怪しく思ってしまう。
とはいえ、子供たちを怪しむなんてことは……教育者としてやりたくはないんだけれどね。
「ま、まぁ……なんだ。折角みんなが居るんだし、俺も少しは勉強してみようかなと思ってだな……」
辺り触りのない理由をつけるのが一番だと、俺はそう答えたのだが……。
「「………………」」
レーベとマックスが、なぜか俺の顔を見ながらキラキラと輝いていた。
……あれ、なんで?
山盛りの料理とボーキを前にしたブラックホールコンビじゃあるまいし、全くもって理由が分からないんだけれど……。
「ねぇ、先生」
「ど、どうした、マックス……?」
変わらぬ表情……と、思いきや、マックスの顔が大きく崩れていた。
ついでに頬は真っ赤です。
どうしてこうなった。
「つ、つまりそれって……、先生は私たちの生みの親に挨拶を……」
「…………は?」
「そ、そういうことで良いんだよね……?」
「え、えっと……」
両手を背中にまわしてモジモジとする2人。
もう一度言おう。
どうしてこうなった。
「先生がそこまで私たちのことを真剣に考えてくれるなんて……う、嬉しいわ」
「うん。僕もとっても嬉しいよ……」
そしてキラキラが一段と増す2人。
あかん。これは完全に勘違いってヤツだ。
早く修正しないと、大変なことになってしまう。
いや、すでに取り返しがつかないかもしれないが。
「い、いやいや、話が突拍子もないくらい飛びまくってるんだけど……」
「「……え?」」
俺の言葉を聞いた瞬間、2人のキラキラが一瞬にして消失する。
「そ、その……だな。俺はそこまで深く考えてるんじゃなくて……」
「「………………」」
更には2人の頭の辺りに、赤いムンクの叫びのようなモノが……。
「せ、先生……に、弄ばれたと言うの……」
「が、がっかり……だよ……」
「ちょっ、人聞きの悪いことを言わないでっ!」
いくらなんでも落ち込み過ぎじゃないかと思うんだけど、勘違いしたのはそっちだかんねっ!
しかし、切っ掛けを作ったのは俺の方だし、子供たちに文句を言う訳にもいかない。
つーか、やることなすこと裏目に出過ぎじゃないのかなぁ……。
「と、とにかく、他にもまだ用意してあるのもあるから……」
「……え、えっと、それってどういうことかな?」
「まぁ……その、なんだ。もう少し後のお楽しみってことにしてくれないか」
「……ふうん。まだ何か考えている……って、感じね」
2人はそう言って、疲労にまみれた顔を元に戻してくれた。
ふぅ……、何とかなったな……。
できればギリギリまで隠しておきたかったのだが、こうなった以上仕方がない。
目的の物はすでに準備をしてあるので、2人には上手く言って焦らしつつ、驚いてもらうことにしよう。
それから普通に授業を進め、昼食の時間になった。
食堂から運ばれてきたお弁当箱を子供たちの席に置き、両手を合わせて合掌をする。
この辺りは舞鶴を参考にしたというビスマルクの言葉通りなんだけど、ドイツ式だったとしてもおかしくはないと思っていたんだよなぁ。
まぁ、ドイツ式がどんなのかは全く知らないけれど。
昨日読んだ本にマナー的な部分は書かれていなかったので、想像もつかないんだよね。
やっぱり、食事前にお祈りとかがあるんだろうか?
「それじゃあ、いただくわ」
「「「いただきます」」」
ビスマルクの声に合わせて俺や子供達も頭を下げる。
うむ。やっぱり舞鶴と同じである。
なんだかちょっとだけホッとする感じだが、こういうときこそ気を抜いてはいけない。
さすがに食事どきにプリンツからタックルを食らう訳はないと思うのだが……
「もぐもぐ……」
普通に食べていた。
ご飯を口に放り込み、ほっぺがプックリと膨らみながら食事を進めるプリンツ。
何これ。普通に可愛いんですけど。
他の子供たちを見てみるが、何ら問題があるようには思えない。
ふむ……、変だな。
こういうときって、大概何かしら突っ込まなければならない状況が生まれるモノなのだが。
さすがに毎日問題を起こすのも飽きたということだろうか。
……って、それだったら意図的にやり過ぎなんだけど。
ううむ。不幸慣れし過ぎて怖い……ぞ。
「ぷはーーーっ!」
――と、子供たちを見ていた俺の耳に、何やら違和感のある声が。
俺はそちらの方へと振り返ってみると、ビスマルクが嬉しそうな顔で口を拭っていた。
……開いた方の手に、泡の出る飲み物があるんですけどね。
「おいこらちょっと待て」
「あら、珍しく喧嘩腰ね。私と一戦やろうって言うの?」
「勝てる気がしないから戦うつもりはないが、これだけは言わせてもらう。
昼間っから酒を飲むんじゃねぇっ!」
「フフフ……。悪いけどこれ、泡の出るジュースよ?」
「なっ、なん……だと……っ!?」
「あなたを騙すために用意しておいた甲斐があったわ!」
そう言って、大きく胸を張るビスマルク。
……いやいや、いったいお前は何がしたいんだ。
「さぁ、あなたのさっきの言葉を取り消すには、それ相応の態度が必要よっ!」
「騙そうとしている時点で謝る必要はねぇよっ!」
「何よっ! 騙された方が悪いんじゃないっ!」
「情操教育に悪い発言をしてるんじゃねぇっ!」
戦場ならまだしも、ここは幼稚園。
子供たちの教育に悪いことはできるだけ避けなければならないというのに……、ビスマルクェ……。
「むうぅぅぅっ! ああ言えばこういう……っ!」
「そっくりそのままお返しするっ!」
俺とビスマルクはいがみ合うように視線を絡ませると、子供たちの方から大きなため息がいくつも重なりあって聞こえてきた。
「……これって、夫婦喧嘩……なのかな?」
「ビ、ビスマルク姉様と先生はそんな関係じゃないですっ!」
「……けど、あの状況はちょっとだけ羨ましいよね」
「……見ていて腹が立つわ」
口元に人差し指を当て、考えるような仕草をしているユー。
ユーの言葉に顔を真っ赤にさせて反論するプリンツ。
少し呆れた表情をしながら、指で頬を掻くレーベ。
小さな虫ならコロリと逝ってしまいそうな視線を向けるマックス。
そして……
「ふ、ふ、ふ……夫婦……ですってっ!?」
肩を大きく震わせたビスマルクが耳まで真っ赤にして、表情を崩しまくっていた。
あかん。やっぱりこれ、いつも通りや。
――そう、心の中で呟いた俺は、大きくため息を吐いたのである。
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次回予告
結局全然変わっていない状況に冷や汗気味な主人公も、用意しておいたモノを出した途端変わりまくるみんなの姿に笑みを浮かべていた。
ただ、良く考えていれば、こうなることは予想済みだったはずなのに……。
艦娘幼稚園 第二部 第三章
~佐世保鎮守府幼稚園の子供たち 教育編~ その6「ハーレムルートと思いきや?」
乞うご期待!
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