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まな板えもん……ではなく、龍驤と別れた主人公。
目的をすっかり忘れていたことを思い出し、ひとまず夕食を取りに食堂へと向かう。
するとそこで、新たな艦娘と話をすることになったのだ。
「……忘れてた」
あの後、龍驤は用事があると言い、手を振りながら俺から離れて行った。
その姿を見送ってから本について聞き忘れていたことに気づいても、時すでに遅しである。
「……はぁ。相変わらず運がないよなぁ」
悔んでいてもしょうがないが、精神的に疲労してしまったのは事実である。
他の人や艦娘を探し出して尋ねても良いが、休憩がてらに夕食を取りたい気分になってきたので、一度食堂に寄ろうと足を向ける。
ついでに言えば、悪い流れを変えたいという目的もあるんだけど。
食堂でビスマルクに会う可能性もあるが、それならそれでアリだろう。酒飲みに誘われるだろうが、上手に言葉で転がしながら本について聞けば良いのだから。
すでに出来上がって話ができない状態ならば具合が悪いが、そのときはそのときだ。
それに、食堂ならば話を聞くことができる相手くらい、1人や2人、居るだろうからね。
龍驤が言っていたように、調教をしようとする人や艦娘が多い訳でもあるまいし。
………………。
……大丈夫だよね?
少々心配はしたものの、良く考えてみれば何度も食堂に行って食事を取っていることに気づいた俺は、頭を振って不安を拭ってから扉を開けた。
「結構混んでるなぁ」
内部の様子はごった返し……とまではいかないが、作業服の人達や艦娘等が席に座って食事を取っている姿が見受けられた。
ちなみにここの食堂は券売機で欲しいモノのチケットを購入してからのスタイルであり、席を先に確保しないと痛い目を見る場合がある。
俺はキョロキョロと辺りを見回し、空いている席を確保してから券売機に向かう。
本日のおすすめ定食を選択してカウンターのおばさんに渡すと、1分も経たないうちに料理が乗ったプレートを渡された。
近くに置いてコップにお茶を注いで席へと戻る。入口の扉は幾度となく開かれ、どんどんと客がなだれ込んでいた。
少し遅かったら席が取れなかったかもしれない。どうやらタイミングが良かったようだ。
そんなことを考えながら席に座り、お箸を持って合掌する。
今日のおすすめ定食は鯖の味噌煮ときんぴらごぼう、豆腐の味噌汁にもやしの胡麻和えだ。
うむ。見事な和食である。
「いただきます」
感謝を込めながら目を閉じて頭を下げると、前の方からガタンと音が鳴る。
ゆっくりと開けた俺の目に映ったのは、1人の艦娘が前の席に料理が乗ったプレートを置いているところだった。
「ここ、座っても良いか?」
「あ、ええ。大丈夫ですよ」
俺の視線に気づいた艦娘が会釈をするように聞いてきたので、俺はコクリと頷きながら返事をし、それとなく眺めてみた。
紺色をベースにしたセーラー服に、赤色のスカーフリボン。対照的な真っ白のスカートが見る者の目を惹きつけ、むっちりとした太ももがチラリと覗かせる。
……って、いやいや。別に疾しい気持ちはないんだけど。
合わせて側頭部にアンテナのようなモノが見えた俺は、目の前の艦娘が摩耶であると判断する。
「……んだよ、ジロジロと見て」
「あっ、い、いや、すみませんっ」
俺は慌てて謝ると、摩耶は驚いた顔をしてから手を横に振った。
「あ、悪い。別に怒っている訳じゃないんだけど……な」
「いえいえ、俺も見つめ過ぎたのが悪いですから」
しっかりと頭を摩耶に下げ、もう一度謝る。
すると摩耶は俺の胸についているネームプレートを見てから、なぜか恥ずかしそうにしながら頬を掻き、視線を逸らしながら口を開いた。
「お前は……アレだよな。ビスマルクの彼氏だっていう……」
「根も葉もない噂なんで、忘れて頂けると嬉しいんですけど……」
まだまだ噂は消えていないらしい。
まぁ、人の噂もなんとやら。暫くすれば気にならなくなるだろう。
……多分だけれど。
「ああ、やっぱりそうなんだな。見た目と想像があまりに合わないんで、ビックリしていたんだよ」
摩耶はそう言って、今度はちゃんと俺の顔に視線を合わせながら苦笑を浮かべていた。
ふむ……。噂と摩耶の反応って、何か関係があるんだろうか?
細かく視線を動かたり、なんだか落ち着かないって感じに見えるんだけど……。
摩耶の反応と先程の言葉が気になった俺は、ずばり聞いてみることにする。
「ちなみに……、どういった想像を?」
「ビスマルクの彼氏になれる男って段階で、相当身体に自信があるヤツか、はたまたドがつくMかと思ってたんだけどな」
「あー……」
ビスマルクの現状を見てきた俺としては、摩耶の想像も分からなくもない。
提督になるために身体はしっかりと鍛えてきたつもりだし、幼稚園の業務でも運動量は多い。だが、俺の外見が筋肉モリモリのマッチョマンという訳ではなく、摩耶の言うそれとはかけ離れているのだろうし、後者に至ってはハッキリと否定しておくのだが、
「まぁ、お前が相当のMならあたしも納得するけどさ」
「いやいや、頼むから納得しないで下さいよ……」
「あははっ、冗談だよ冗談。喋った感じで大体分かるからさ」
笑いながら席に座った摩耶は割り箸をパキリと割り、行儀よく両手を合わせて「いただきます」と、頭を下げた。
「そ、それなら良いんですけど……」
俺は小さくため息を吐いてから味噌汁を飲む。ここの飯はそれなりに美味いが、鳳翔さんのとは遠く及ばない。
いやまぁ、作ってくれた人には悪いんだけど、食べ慣れた飯が食えないというのは辛いモノなのだ。
連休とか取って、舞鶴に一時帰宅しようかなぁ……。
「何を思い耽ってるんだ?」
そんな俺を見た摩耶は、急に不敵な感じの笑みを浮かべて聞いてきた。
「あー、いや。ちょっと舞鶴のことを思い出しまして」
「それって……コレか?」
摩耶はそう言って、お箸を持った手の小指をピンと立てていたが、微妙に不機嫌そうな顔については触れないようにしておく。
確かにそれもない訳じゃないんだけれど、不能になってしまった俺にとっては苦痛の種にもなりえるのだ。
しかし、そんなことを話せる訳もなく、摩耶に向かって首を左右に振った。
「いやいや、違いますよ。舞鶴の食事を思い出したんです」
「ああ、なるほどね。故郷の飯は旨い……って、やつかな」
言って、摩耶はガブリと骨付き肉にかぶりつく。
口を動かしてもにゅもにゅと噛んでいるんだが、口の周りに付いた肉汁がハンパない。
というか、めちゃくちゃでかい肉だけど、そんなのメニューにあったかな……?
「……ん、どうしたんだ?」
「あっ、えーっと……、摩耶さんが食べている肉が凄いなぁと思いまして……」
「ああ、これか。これは裏メニューだから、舞鶴から来たばかりのお前が知らないのも無理はないかもな」
そう言いながら、摩耶はこの食堂について色々と教えてくれた。
「佐世保にはいくつかの食堂があるけど、基本的にメニューは同じなんだ。だから、どこに行っても味はそれほど変わんないんだよな」
「へぇ……。それってどうしてなんですか?」
「そりゃあ、管理がしやすいとか……そういうことじゃないのかな」
摩耶は首を傾げながら俺に言う。
……って、摩耶もハッキリと分かっていないみたいだが。
「裏メニューについても基本的には同じなんだけど、食べるには必要なモノがあるんだよ」
「必要なモノ?」
「ああ。裏メニューの引換券が必要なんだ」
そう言って、摩耶はポケットから紙切れを取り出して俺に見せた。
「今食べているヤツの半券なんだけどよ、これがないと注文はできないんだ」
「ふむ……。つまり、間宮さんの羊羹みたいなもの……ですね」
「おおっ。お前、良い線いっているじゃねぇか」
摩耶はニッコリと笑みを浮かべながら、肉をかぶりつく。
うむむ。凄く旨そうだ。
こう……、ワインと一緒にもにゅもにゅ食べたい。
刑務所内で優雅に暮らしている男が、ショットガンで撃たれた後みたいに。
「この券は、前日の功績が良かったヤツに渡されるんだ。あたし等のように艦娘だったら出撃した際のMVPを多く取ったり、鎮守府で働いているヤツなら作業をより良く進めたり……だな」
「なるほど……。艦娘だけって訳じゃないんですね」
俺は呟きながら、裏メニューについて考える。
間宮さんの羊羹は、舞鶴でかなり重宝されていた。艦娘の意欲を上げるために元帥がここぞという場面で振る舞ったり、ご褒美として交換券を配っていたりすることもある。
つまり、佐世保において裏メニューの引換券とはそういうモノなのだろう。
「ただ、手に入れられる条件などはハッキリしてなくてな。夜中のうちに自室のポストに投函されていることが多いんだが、誰が入れているのかは全く分かっていないんだ」
「一種の謎……って、やつですか」
「まぁ、深くは考えなくても良いんだけどな……」
言って、摩耶は俺から視線を逸らす。
あれ、もしかして摩耶って……、怖い話がダメなのか?
「そ、それで話は戻るんだが……」
摩耶は気まずそうな顔を浮かべていたが、肉にかぶりついた途端に笑みへと変わる。
どれだけ旨いんだよ……、その肉。
「裏メニューにハズレはない。半端じゃないほど旨いんだぜ」
うん。それは見ていて簡単に分かります。
摩耶の食べている顔が、幸せ過ぎて面白いからね。
「だからあたしたちは出撃や演習を頑張ってこなし、裏メニューの引換券をゲットしようとするんだ」
「つまり、ご褒美みたいな感じ……ですね」
俺の言葉にコクリと頷いた摩耶は、骨の周りに付いた肉を歯で削り取るように舐め回している。
……ちょっとだけエロい感じに見えちゃうのは気のせいだ。
だって、下腹部に反応は全くないし。
……あ、そもそも俺、不能になってたんだった。
悲しいけどこれ、現実なのよね。
「そういうことで、お前も頑張れば裏メニューにありつけるかもしれないってことだな」
「なるほど。色々教えてくれて、ありがとうございます」
「あっ、いや……。別に良いんだけど……よ」
言って、肉にかぶりつこうとした摩耶が、またもや俺から目を逸らす。
……なにやら変な反応なんだけど、さっきからちょくちょく見ているので、気にしなくても良いだろう。
案外、摩耶の癖だったりするかもしれないだろうし。
摩耶自身が癖を知りながらも直せずに嫌がっていたら、あんまり良い顔はしないだろうからね。
そんなことを考えていた俺は何度も頷いてから、頭の中で整理をする。
多分、裏メニューは安西提督や他の上官が鎮守府のみんなを活気づけるためにやっているイベントのようなモノじゃないだろうか。
端から見れば、目の前に人参をぶら下げられた馬みたいに思えてしまうけれど、効果的なのは間違いない。
鎮守府にとっても必要経費で落ちるだろうし、意識の高揚を目的とした手段としてよく考えられているのではないだろうか。
つまり、俺も幼稚園で頑張れば食べられるかもしれない。餌に釣られてしまう簡単な人間ではあるけれど、俄然やる気が沸いてくる。
本当に、目の前で裏メニューを食べている摩耶が幸せそうなんだよなぁ。
「んぐんぐ……、ぷはー」
満足そうな顔を浮かべた摩耶は、ポケットからハンカチを取り出して口を拭う。お皿の上の肉は骨だけになっており、周りに座っている人や艦娘たちの視線が少しばかり残念そうに見えた。
その気持ち……、分からなくはない。
そしてこの状況が、裏メニューの宣伝効果もかねているんじゃないだろうか。
口コミに加えて他の物が食べているところを見る。あまりにも美味しそうなそれに、自分もいつかは……と、奮起しようとするだろう。
うむむ、この計画は普通に侮れない。
しかしそうであっても、俺のやることは一つだ。
その結果、裏メニューの引換券を手に入れることになったのなら、それはそれでありがたい。
俺は淡い期待を持ちながら、龍驤から聞きそびれてしまったことについて摩耶に尋ねることにする。
その際、摩耶は何度も俺の顔を見たり顔を逸らしたりと大変そうだった。
ほんのりと頬の辺りが赤かったんだけど、熱でもあったのだろうか……?
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次回予告
摩耶との会話を済ませた主人公は、情報を得て目的の物をゲットする。
そして後日、その効果が現れたようなのだが……?
艦娘幼稚園 第二部 第三章
~佐世保鎮守府幼稚園の子供たち 教育編~ その5「結局いつも通り」
乞うご期待!
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